発売日: 2019年8月2日
ジャンル: インディー・ポップ, ベッドルーム・ポップ
ClairoのデビューアルバムImmunityは、彼女のアーティストとしての成長を示す成熟した作品である。プロデュースにはRostam Batmanglijが参加し、シンセサイザーやアコースティックギターを駆使したミニマルで洗練されたサウンドが展開されている。Diary 001で見せたベッドルーム・ポップのシンプルな音作りを踏襲しつつも、ここでは自己探求や精神的な成長といったより深いテーマが表現されている。自己との葛藤、アイデンティティ、恋愛の複雑さなどが、彼女のソフトなボーカルと巧みなアレンジによって、リスナーの心に静かに染み渡る。
また、彼女が抱えてきた関節リウマチや精神的な健康問題についても触れられており、リスナーにとって共感を呼ぶ内容となっている。Immunityは、10代の頃の悩みを乗り越えようとする若いアーティストの姿が感じられる、等身大でリアルな作品だ。
曲ごとの解説
1. Alewife
アルバム冒頭のこの曲は、Clairoが経験した過去の苦しい時期を振り返る。暗いシンセとリバーブのかかったギターが、彼女の静かなボーカルに寄り添い、絶望から救われた経験が丁寧に描かれている。「I should’ve called you earlier」という歌詞が、後悔と感謝の気持ちを交錯させている。
2. Impossible
アコースティックなサウンドが柔らかく響くこの曲は、心の葛藤をテーマにしている。サビでの切ないメロディラインが、どこか安らぎと不安が交錯する複雑な心境を表現し、控えめな編曲がその感情を際立たせる。
3. Closer to You
エレクトロポップ的な要素が加わったこの曲は、恋愛の中で相手に近づきたい気持ちと、葛藤が歌われている。「I’ll give a little, just to get a little closer」という歌詞が印象的で、相手との距離感を象徴している。ビートが効いたサウンドが、彼女の内面の葛藤を包み込むように響く。
4. North
ノスタルジックな雰囲気が漂うこの曲は、ゆったりとしたビートに乗せて愛と葛藤が歌われている。繊細なボーカルとリズムが、切なさを感じさせつつも心地よい安らぎをもたらす。シンプルながらも奥深いサウンドが魅力の一曲だ。
5. Bags
このアルバムの代表曲であり、恋愛関係における不安定さや相手に対する疑念が描かれている。ギターのリフが心地よく、彼女の切実なボーカルがリスナーに直接語りかけてくる。「Can you see me? I’m waiting for the right time」という歌詞が、相手に対する期待と迷いを表している。
6. Softly
軽快なリズムに乗せた、この曲は繊細でポップなメロディが特徴的。恋愛の初期段階の不安と期待が描かれており、心が揺れ動く瞬間を表現している。「Softly, don’t break me」という歌詞が、恋愛のもろさと期待の入り混じる感情を象徴する。
7. Sofia
LGBTQ+コミュニティにも共鳴を呼んだ、恋愛の情熱と新たな発見がテーマ。Clairoが女性への恋愛感情を歌っており、彼女の自分らしさが垣間見える一曲。キャッチーなメロディが、リスナーに希望と自由な感覚を与えてくれる。
8. White Flag
サウンドが軽快で、恋愛や人間関係における和解をテーマにした曲。穏やかなビートとリラックスしたメロディが、葛藤からの解放感と安堵感を表現している。「Raise my white flag」というフレーズが、争いの終わりと平和への願いを示唆する。
9. Feel Something
実験的なビートとシンセが絡み合う曲で、自分の内面を探るテーマが表現されている。感情の空虚さや孤独感が、Clairoの静かなボーカルに反映され、リスナーに彼女の心の一端を感じさせる。
10. Sinking
緊張感と沈んでいく感覚が、タイトル通りに表現された楽曲。ミニマルな編曲で、感情の浮き沈みが描かれており、儚さと不安が隣り合わせになっている。「I’m sinking like a stone」というフレーズが、自己喪失と孤独を強調する。
11. I Wouldn’t Ask You
ピアノが美しく響くエンディングトラックで、彼女が自身の健康問題と向き合った経験が反映されている。子供のコーラスも加わり、優しくも悲しいムードが漂う。誰かに頼ることの難しさと、それでも支えられたい気持ちが、静かに訴えかけられる。
アルバム総評
Immunityは、Clairoが音楽と人生の両面で成熟した姿を見せる作品である。彼女の内面に深く迫りながらも、リスナーにとって共感しやすい等身大の表現が詰め込まれている。シンプルで温かみのあるメロディが彼女の柔らかなボーカルに寄り添い、10代から20代にかけての成長やアイデンティティの確立が静かに描かれている。Clairoにとっての自己表現の場であるこのアルバムは、インディー・ポップシーンにおける重要な作品として、今後も多くのリスナーに聴かれ続けるだろう。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
- Lush by Snail Mail
失恋や自己発見をテーマにしたアルバムで、Clairoのような繊細さと力強さが同居する。感情的でリアルな歌詞が、青春期の揺れ動く心情を描く。
幻想的でシネマティックなサウンドが特徴の一枚。愛と存在をテーマにした歌詞が深く、Clairoファンにとっても心に残る内容だ。
恋愛や自己探求のテーマが詰まったR&B作品で、Clairoのリリックの親密さと通じるものがある。感情的でエモーショナルな作品。
- No Home Record by Kim Gordon
実験的なサウンドと自己表現が融合した作品。Clairoの成長した音楽性に共感するリスナーには、アヴァンギャルドな視点が新鮮に感じられる。
- Color Theory by Soccer Mommy
暗いテーマとポップなメロディが融合し、青春の不安や孤独を描く作品。Clairoのファンにとっても響く、内省的で感情的な一枚。
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