
1. 歌詞の概要
「I’m a Train」は、イギリス出身のシンガーソングライター、**アルバート・ハモンド(Albert Hammond)**によって1974年に発表された楽曲である。
この曲は、一見するとシンプルなメタファーに見える「私は列車(I’m a Train)」というフレーズを通して、人生の旅路とその止まらぬ前進のリズムを詩的に描いた、希望と哀愁の入り混じるナンバーである。
列車のイメージは、予測できない人生の流れや、変化し続ける人間関係、過去から現在、未来へと走り抜けていく時間の流れそのものと重ね合わされている。そして語り手である“列車”は、休むことも立ち止まることも許されず、進み続けなければならない“運命”を背負っている。
楽曲全体には、軽快でリズミカルなアレンジが施されているが、その背後にはどこか切なさや、振り返ることのできない人生へのほろ苦さがにじむ。だからこそ「I’m a Train」は、元気づけられるだけでなく、ふと心の奥に触れてくる、そんな多層的な魅力を持った楽曲なのである。
2. 歌詞のバックグラウンド
アルバート・ハモンドは、1972年のヒット曲「It Never Rains in Southern California」で一躍有名になったシンガーソングライターであり、ソロアーティストとしてのみならず、数多くのアーティストに楽曲提供を行う職人的なソングライターとしても名を馳せている。
「I’m a Train」は、彼のセカンドアルバム『The Free Electric Band』以降のシングルとして発表された楽曲で、アメリカやヨーロッパのラジオでも広く愛されることとなった。
この曲の歌詞は、ハモンド自身が多くの国を渡り歩いた経験や、キャリアを切り拓くために音楽業界で孤独に奮闘した軌跡と重ねることができる。移動、変化、旅、そして繰り返される出会いと別れ――「列車」という象徴は、まさに彼の人生そのものだったのかもしれない。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「I’m a Train」の印象的な一節を抜粋し、対訳とともに紹介する。
I’m a train, I’m a train, I’m a chook-a-train, yeah
僕は列車だ、列車だ、チュクチュク走る列車なんだよLook at me, I’m going somewhere
見てくれよ、僕はどこかへ向かってるんだI’m a train, I’m a train, I’m a chook-a-train, yeah
僕は止まらない、ずっと走り続ける列車なんだDon’t ask me where I’m going
どこへ向かってるかなんて聞かないでくれ
出典:Genius.com – Albert Hammond – I’m a Train
この歌詞の魅力は、擬音語「chook-a-train」によって列車のリズム感が直接音として表現されている点にある。それはまるで、人生の脈動をそのまま音楽に変えたかのようであり、言葉を超えて感情に訴えかけてくる力がある。
4. 歌詞の考察
「I’m a Train」は、自己の存在を列車にたとえることで、「自分は止まらず進み続ける存在だ」というアイデンティティの確立を示している。だが、それはポジティブな意味だけでなく、**「止まりたくても止まれない」「誰にも行き先を決めてもらえない」**という宿命的な孤独も含んでいる。
列車は、レールの上をひたすらに進む存在であり、自由に道を選べるわけではない。この比喩は、社会の中で役割を果たす個人の姿とも重なって見える。誰かの期待、時間の流れ、生活のサイクル――それらに飲み込まれながらも、それでも“どこかへ向かっている”という意識を保ち続けること。その心の姿勢こそが、この歌に込められたメッセージなのだ。
また、サビで繰り返される「Look at me, I’m going somewhere」という一節は、**“自分はただ動いているだけではない。意味のある方向へ進んでいるんだ”**という希望にも似た確信を語っている。たとえそれが他人から見えなくても、自分自身にはその意味がある。それがこの曲の中核にある静かな強さである。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Take It Easy by Eagles
人生の旅路における余裕と軽快さを歌った70年代のアメリカン・クラシック。 - Running on Empty by Jackson Browne
走り続けることに意味を求める旅人たちへの哀歌。 - Drift Away by Dobie Gray
音楽に自分を委ねることで人生の混乱を癒そうとする優しさに満ちた一曲。 - Life is a Highway by Tom Cochrane
旅と人生を重ね合わせたストレートなロック・アンセム。
6. 軽やかさの奥にある人生哲学 ―「I’m a Train」の持つ普遍性
「I’m a Train」は、その軽快なメロディとユーモラスな表現によって、一見すると子供向けの楽曲にも聞こえる。しかしその実、人生という名の“止まれない列車”に乗るすべての人間の真実を、ポップに、しかし鋭く描いている。
アルバート・ハモンドの歌声には、決して焦燥や怒りはない。ただ、どこか運命を受け入れた者の優しい響きと、それでも未来を見つめていたいというささやかな希望が感じられる。
**「I’m a Train」**は、誰しもが持つ「どこかへ向かいたい」という本能的な衝動と、それにともなう孤独や不安、そして意志を見事に音楽に変換した楽曲である。
今、どこにいるのかがわからなくても。行き先が見えなくても。止まらずに進み続ける――その勇気に満ちた音が、今も世界中の心に響いている。
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