1. 歌詞の概要
「I’ll Do It Anyway(それでも僕はやるよ)」は、The Lemonheads(レモンヘッズ)が1996年に発表したアルバム『Car Button Cloth』に収録された楽曲であり、エヴァン・ダンドー(Evan Dando)のナイーブで誠実なソングライティングが光る、密やかな意志表明のような作品である。
そのタイトルの通り、「わかっている、きっと良くないってことは。でも、それでも僕はやる」と繰り返されるこの曲は、迷いと自己認識に満ちた人間が、それでもなお進もうとする静かな頑固さと、少しの投げやりさを内包している。
歌詞に描かれるのは、「自分には向いていない」とか「みんなに反対される」といった否定の声を知りつつも、それを振り切って“やる”という選択。
そこにあるのはロックンロール的な反抗ではなく、もっと繊細で内省的な、しかし揺るがない小さな決意である。
だからこの曲は、“生きづらさ”を抱える誰かにとって、ひそやかに力をくれるような存在でもある。
2. 歌詞のバックグラウンド
「I’ll Do It Anyway」は、Evan Dandoが作詞作曲を担当しており、アルバム『Car Button Cloth』における最もパーソナルな瞬間のひとつとされている。
1990年代半ば、The Lemonheadsの活動は一時的に不安定になっていた。
グランジブームの中でポップな立ち位置をキープするのは難しく、加えてエヴァン自身も薬物依存や精神的な不調を抱えていた時期である。
そんな時期に生まれたこの曲は、自己肯定と自己破壊のギリギリの境界線を行き来する、まるで“独り言”のような誠実さを持っている。
それは誰かに見せるための強がりではなく、自分自身に語りかけるような小さな呪文――「どうせやるなら、やるしかない」という言葉の繰り返しである。

3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「I’ll Do It Anyway」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を併記する。
“They said I’d never get it off the ground / They said I’d never make it out of town”
「そんなのうまくいくはずがないって / 街を出ることすら無理だって言われたよ」
“That was just someone else’s opinion / I’ll do it anyway”
「でもそれは、他人の意見にすぎない / 僕はやるよ、それでもね」
“I know it’s wrong / I know it’s dumb / I know it’s not the kind of thing you’d ever want to do”
「間違ってるってわかってる / 馬鹿げてるって思ってる / 君なら絶対やらないようなことだよね」
“But I’ll do it anyway”
「でも、僕はやるんだよ」
歌詞全文はこちらで確認可能:
The Lemonheads – I’ll Do It Anyway Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
この曲の最大の魅力は、自己矛盾に満ちた語り手の“それでも進もうとする意志”にある。
「やるべきじゃない」「失敗するよ」と言われながらも、それを聞いてなおやる――この反骨は、パンク的な怒りというより、もっと静かで日常的な“生きるしかない”という人間の本質に近い。
それは自暴自棄とも違い、“自分の選択で、たとえ失敗しても構わない”という覚悟のようなものである。
また、この「やるよ」というフレーズの繰り返しは、何かを証明したいわけではなく、むしろ“誰にも見せなくていい意地”として響く。
社会に適応できない自分、誰かの期待に応えられない自分、それでも“やる”という選択をする主人公の姿には、静かな美しさがある。
サウンド面でも、この曲はきわめてシンプルで、ヴォーカルの存在感が際立つ。
ギターのトーンも乾いており、どこか“諦めの優しさ”のような空気をまとう。
それがまた、歌詞の無防備さを引き立てている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- It’s All Over Now, Baby Blue by Bob Dylan
何もかもが終わった後で、それでも前に進むしかないという決意が静かに宿る。 - Between the Bars by Elliott Smith
自分の中の弱さと向き合いながら、それでも明日を選ぶ心のささやき。 - Untitled (Love Song) by Counting Crows
誰にも語られないような感情を、自分だけのやり方で歌う誠実なラブソング。 -
No Surprises by Radiohead
何も起きないことを望みながら、それでも人生を受け入れようとする諦念と希望。 -
Let It Ride by Ryan Adams
失っても、傷ついても、“それでも進め”という声を背中に感じる曲。
6. “誰に届かなくても、自分にだけは届く歌”
「I’ll Do It Anyway」は、誰かに認められたくてやることではない。
評価されなくても、理解されなくても、それでも「やらずにはいられない」という人間の深い衝動を描いている。
その選択は不器用で、危うくて、でも嘘がない。
エヴァン・ダンドーがこの曲で語るのは、“他人の声に支配されない”という静かな反抗である。
彼は叫ばず、ただ淡々と語る。
その小さな声は、大きな世界の中で消えそうになりながらも、確かに響いてくる。
「I’ll Do It Anyway」は、正しさよりも“本当”を選ぶ人のための、密やかなアンセムである。
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