アルバムレビュー:II & III by Camper Van Beethoven

発売日: 1986年
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、サイケデリック・ポップ、フォーク・ロック、ポストパンク


アイロニーを通して拡張される音の地図——CVBの終わりなき旅路

Camper Van Beethovenの2作目にして、タイトルからして一筋縄ではいかない本作 II & III
1986年に自主レーベルから発表されたこのアルバムは、バンドの実験精神と音楽的博識がさらに濃密に展開されている。

前作のスカ/フォークの陽気なユーモアを受け継ぎつつも、より奇妙で内省的な曲調が増え、アルバム全体としての一体感よりも断片的なコラージュ感が際立っている。

この時点ですでにCVBは、オルタナティヴ・ロックというジャンルの限界をあざ笑うかのように、あらゆる音楽を取り込み始めていた。
まるで世界のどこにも属さない「仮想の民俗音楽集」のようでもある。


全曲レビュー

1. Abundance

エキゾチックな旋律が印象的なインストで幕を開ける。
複数の文化圏をサンプリングしたような音が入り乱れ、「豊穣(Abundance)」というタイトルにふさわしい音の重層性をもつ。

2. Cowboys from Hollywood

パンク風のビートに、ナンセンスな語り。
タイトル通り、夢と欺瞞に満ちたハリウッド西部劇のパロディのよう。

3. Sad Lovers Waltz

タイトル通りワルツのリズムが美しい。
哀しみをまとったメロディが、ユーモアとは異なるCVBのもう一つの側面を見せる。

4. Kam Ah Khazeh

中東・中央アジア風の旋律を持つインスト。
ロックバンドが「他者の音」をどう扱うか、その問いを投げかけてくるようでもある。

5. Circles

サイケなギターと反復するフレーズが特徴。
タイトル通り、思考や関係が堂々巡りする感覚を描写しているのかもしれない。

6. Dustpan

短く、ほこりっぽい日常の風景を切り取るようなインスト。
不穏なムードが漂う。

7. We’re A Bad Trip

自己言及的なタイトルと、脱力系のサウンドが冴える。
サイケデリックの裏返しとしての「悪い旅」がテーマか。

8. Club Med Sucks (live)

前作でも登場した楽曲のライブ版。
観光資本主義への風刺はそのままに、ラフな演奏が逆に説得力を持つ。

9. (We’re a) Bad Trip

再び登場する同タイトル曲。
今度はアレンジが変わり、ダブのような深みとノイズが加えられている。

10. No Krugerrands for David

政治的な言葉遊びが冴える一曲。
南アフリカの通貨「クルーガーランド金貨」や、冷戦下の象徴が含まれる。

11. Processional

タイトルが示す通り、儀式の行進曲のような荘厳なインスト。
短いながらも印象的で、アルバムに静かな区切りをもたらす。

12. Skinhead Stomp (Live)

スカ・パンクのライブバージョン。
荒々しく、バンドのエネルギーが生々しく記録されている。

13. Joe Stalin’s Cadillac

最もポップで印象的なナンバーのひとつ。
“スターリンのキャデラック”というタイトル自体が強烈なアイロニー。
アメリカとソ連のイメージを融合させた痛烈な風刺だ。

14. Five Sticks

奇妙な構成のインスト。
実験的で、リズムと音の“ずれ”を楽しむような作風。

15. Lulu Land

哀愁あるカントリー風のバラード。
とぼけた語り口と、どこか寂しさの残る余韻が絶妙。


総評

II & IIIは、Camper Van Beethovenがただの“面白バンド”ではないことを証明した作品である。

アイロニカルでありながら、音楽への真摯なリスペクトに満ちている。
ジャンルの境界を笑いながら突き抜け、その中に文化的/政治的な問いを巧みに忍ばせているのだ。

このアルバムには、形式に縛られない表現の可能性と、それをやりきるためのユーモアと技術が詰まっている。
あらゆる音楽好きに、「何を聴くか」ではなく「どう聴くか」を問い直させる、稀有な一枚である。


おすすめアルバム

  • The Mekons / Fear and Whiskey
    カントリーとパンクを融合させた政治的でラジカルな名盤。CVB同様、風刺と叙情を併せ持つ。
  • The Minutemen / Double Nickels on the Dime
    幅広いジャンルを軽やかに横断するDIY精神の結晶。構成の自由さも共通点。
  • Yo La Tengo / Ride the Tiger
    80年代中盤のインディー美学を体現した初期作。柔らかな実験性と雑多さが魅力。
  • Pere Ubu / The Modern Dance
    アート・パンクの先駆者。サウンドの奇妙さと社会批評的視点が通じる。
  • Sebadoh / Sebadoh III
    ローファイで感情的、断片的な構成がCVB的カオスと響き合う作品。

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