アルバムレビュー:Hiss Spun by Chelsea Wolfe

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発売日: 2017年9月22日
ジャンル: ドゥーム・メタル、ノイズ・ロック、エクスペリメンタル・ロック


音の中に潜む暴力と美しさ——Chelsea Wolfeが描いた、歪んだ解放の世界

『Hiss Spun』は、Chelsea Wolfeの5枚目のスタジオ・アルバムであり、彼女がこれまでに築き上げてきたダークで重厚な音の美学をさらに深化させた作品である。
本作では、ドゥーム・メタルやノイズ・ロックの要素を強く打ち出しながら、彼女の持ち味である歌詞の詩的な美しさと強烈な感情の表現を見事に融合させている。

『Hiss Spun』のサウンドは、彼女の音楽の中でも最も荒々しく、暴力的なエネルギーに満ちており、その中に時折現れる美しさが、聴く者を圧倒的に引き込む。
特に、彼女の声はこれまで以上に強烈で感情的であり、時には暴力的に響き、時には儚く、繊細に歌い上げられる。

本作では、Kurt Ballou(Converge)をプロデューサーに迎え、サウンドにおいても大胆な実験が行われており、ノイズとメタル、エクスペリメンタルな要素が強調され、その中で彼女の音楽の闇と光が交錯している。


全曲レビュー

1. Spun

アルバムのオープニングを飾るこの曲は、ドゥーム・メタルとノイズが交錯する重厚なサウンドで始まり、彼女の声がその中で不安定に響き渡る。
“Spun”というタイトル通り、音楽は次第に渦を巻くように展開し、リスナーを深い闇の中に引き込んでいく。

2. 16 Psyche

ドラムとギターが歯切れ良く交わる中、彼女の歌声が重く、時に怒りを込めて歌われる。
この曲では、ダークな感情と暴力的な音の暴発が融合し、彼女の内面的な葛藤が音楽として表現されている。
彼女の歌詞は、精神的な混乱とそれからの解放をテーマにしており、音楽の中でその感情が見事に具現化されている。

3. Vex

シンプルなドラムビートと深いベースラインが支配するトラックで、サイケデリックなシンセとギターが不安定に絡み合う。
その中で彼女の声が、まるで不安定な感情を表現するかのように揺れ動く
音楽は、リズムの中で無機的な感覚と人間的な痛みが交錯する。

4. The Culling

この曲は、まるで音が解き放たれたような激しいビートとギターが特徴で、アルバム全体の中でも特に攻撃的な印象を与える。
彼女の声は力強く、叫ぶように歌われるが、その中には深い感情が宿っている。

5. Strain

リズムの反復と共に深いドローンが響き渡り、音が次第に浮遊感を帯びていく。
その中で彼女の声が、切なくも不安定に歌われ、感情の波が徐々に広がっていく
音楽が内面的な圧力や痛みを表現するように進行し、リスナーを引き込んでいく。

6. Two Wolves

アコースティックギターのイントロが印象的で、ドゥーム・メタル的な重さを持ちながらも、フォークの要素が交じり合う
その不安定で反復的なリズムの中で、彼女の歌声がゆっくりと響き渡り、歌詞が持つ深い意味を浸透させる。
彼女が描く対立する二つの存在に対する歌は、非常に象徴的で心に残る。

7. Particle Flux

この曲では、ノイズとエレクトロニカが強く影響を与えたサウンドが前面に出ており、音楽的には非常に実験的。
リズムが変則的で、時折不安定に崩れるような感覚を与えながらも、その中で彼女の歌声が静かに、しかし強烈に響く。

8. Feral Love

アルバムの中でも特に美しいメロディとフォーク的な要素を持つトラック。
アコースティックギターと彼女の声が支える中で、内面的な葛藤と愛の力がテーマとなっており、アルバムの中で最も感情的に響く瞬間のひとつ。

9. The Warden

非常に力強いドラムと、歪んだギターが前面に出ている。
この曲では、抑圧された感情と内面的な抵抗が音楽に反映され、彼女の歌声がその中で圧倒的に強く響く。
リズムがドライブし、アルバムの最後に向けてエモーショナルな爆発感を生み出す。


総評

『Hiss Spun』は、Chelsea Wolfeがその音楽における深い暗闇と強烈な感情をさらに掘り下げた傑作である。
ドゥーム・メタル、ノイズ・ロック、エクスペリメンタル・サウンドが融合し、暴力的なまでに力強い音の中に潜む美しさと痛みを表現している。
彼女の歌声は、これまで以上に力強く、感情的であり、リスナーに強烈なインパクトを与える。

『Hiss Spun』は、内面的な葛藤と解放痛みと美しさの間で揺れる音楽として、彼女の音楽の中でも特に強烈で深い作品だ。
闇の中に生まれる光、音の中に潜む暴力と美しさが交錯するこのアルバムは、Chelsea Wolfeが目指す音楽的な深淵を見事に表現しており、聴く者に強い印象を残す。


おすすめアルバム

  • Emma Ruth Rundle / Marked for Death
    ドゥーム・フォークとダークなエレクトロニカが融合した作品。『Hiss Spun』と共通する感情的な強さがある。
  • Zola Jesus / Conatus
    ゴシック・エレクトロニカとドゥームの美しさを持つ作品。『Hiss Spun』と同様に暗く、内面的な力強さを感じさせる。
  • Marissa Nadler / July
    アメリカン・フォークとドゥームの美しさを持つ作品。『Hiss Spun』と同じく、深い感情と内省的なテーマが感じられる。
  • Nick Cave & The Bad Seeds / The Boatman’s Call
    死と愛をテーマにした作品。歌詞の深さと音楽の重厚感が共通する。
  • Chelsea Wolfe / Pain Is Beauty
    『Hiss Spun』の前作で、より広がりのあるサウンドと美しさが感じられるアルバムで、テーマ的にも近い。

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