
発売日: 1997年10月21日
ジャンル: パワー・ポップ、オルタナティヴ・ロック、ポップ・ロック
概要
『Go!』は、Letters to Cleoの通算3作目となるスタジオ・アルバムであり、
**前2作で築いたパワー・ポップの礎に、より明確なポップ志向と洗練されたアレンジを加えた“成熟の一枚”**である。
1997年という、グランジ以後のオルタナティヴ・ロックがメインストリームから一歩引き、
ポップ・パンクやエモ、女性ヴォーカルの台頭が注目されていた時期にあって、
本作はバンドが**“自らの立ち位置を問い直しながら、あくまで自分たちの音楽を鳴らし続けた”記録**でもある。
ギターはヘヴィでありながら丸みを帯び、ケイ・ハンリーのヴォーカルはより自由で表情豊かに。
全体としてはよりキャッチーに、しかし歌詞やコード進行には成熟した感情と微細なニュアンスが込められている。
バンドのオリジナルメンバーであるグレッグ・マッケナ(G)が脱退し、新たにマイケル・アイゼンスタインが参加。
このメンバーチェンジも、サウンドの軽快さとメロディの充実に貢献している。
全曲レビュー
1. I Got Time
イントロから軽快に突き抜ける、正統派パワー・ポップの開幕曲。
「今なら時間があるから」という歌詞が、希望と開放感をリードする。
ハンリーの伸びやかなヴォーカルが特に印象的。
2. Because of You
本作のリードシングル。
恋人との関係を回顧しながらも、「あなたのせいで私は強くなれた」と歌う、苦さと感謝が入り混じるアンセム。
サビの突き抜け方がライブ映えする王道トラック。
3. Anchor
再録曲。1993年版と比べるとアレンジがスムーズになり、
ギターとボーカルがより洗練されたバランスで鳴らされている。
“錨”=安定と拘束の象徴というテーマはそのままに、成熟した解釈が加わっている。
4. Find You Dead
歪みの効いたギターリフと、鋭いビートが特徴のロックナンバー。
タイトルは過激だが、内容は「会いたくて仕方ない自分」を皮肉るような構成。
情念とポップの絶妙な距離感が光る。
5. Veda Very Shining
異色のミドルテンポ。
「ヴェーダ」という女性名を冠し、人物描写的なリリックと夢幻的なギターサウンドが組み合わさる。
バンドの新境地を示す楽曲。
6. Sparklegirl
アルバム随一のキラーチューン。
“きらめく少女”というタイトル通り、甘く切ない青春賛歌。
90年代ポップ・ロックの系譜における**“もっと知られるべき名曲”**のひとつ。
7. Disappear
“あなたの前では自分が消えてしまう”という、恋愛における自己喪失感を歌う佳曲。
ボーカルの浮遊感とギターの歪みが、内面のもろさを増幅する。
8. Co-Pilot
タイトルの通り、“副操縦士”としての関係性を描いた楽曲。
一歩引いた視点から描かれる対等な関係性が、ジェンダーや依存の裏返しとして読めるのも面白い。
9. I’m a Fool
自嘲的でストレートなラブソング。
“I’m a fool for you”というリフレインが、ポップの王道と痛みの融合を体現している。
10. Alouette & Me
カナダ民謡“アロエット”を思わせるタイトルの通り、
どこか郷愁と童心が交差するアコースティック・チューン。
アルバムの中でも最も静かで内省的な一曲。
11. Come Around(ボーナストラック)
前作『Aurora Gory Alice』からのセルフカバーともされる佳曲。
ここではアコースティックとバンド演奏の融合が強調されており、懐かしさと再出発の感覚が共存する。
総評
『Go!』は、Letters to Cleoが90年代の変遷を自らの中に受け止め、
“変わらないこと”と“変わること”の両立を試みたポップ・ロックの優れたサンプルである。
ケイ・ハンリーのボーカルは、より表情豊かで説得力を持ち、
歌詞は10代の焦燥ではなく、20代後半の確信と揺らぎを織り交ぜた大人のパワー・ポップへと進化している。
この作品を最後に、バンドは事実上の活動休止に入るが、
後の再評価や再結成においても『Go!』は重要な節目として語られる。
それは単に「良い曲が詰まっている」だけでなく、この時代の空気を真摯に反映した作品だからに他ならない。
おすすめアルバム
- Fastball『All the Pain Money Can Buy』
同時代のポップ・ロックと成熟した歌詞。共通のムードがある。 - Aimee Mann『I’m with Stupid』
ボストン発、叙情的で洗練された女性SSW。LTCとのつながりも深い。 - Fountains of Wayne『Utopia Parkway』
メロディアスでシニカルなアメリカン・パワーポップ。 - That Dog.『Retreat from the Sun』
同時期に活動していたバンド。女性Voとギター・ポップのバランスが共鳴。 - The Muffs『Alert Today, Alive Tomorrow』
ケイ・ハンリーのポップ・パンク的側面と重なる楽曲が多い。
ファンや評論家の反応
『Go!』は、リリース当初こそ前2作ほどのセールスには結びつかなかったが、
ファンの間では**「最も完成された一枚」**として根強く支持されている。
批評家からも「LTCの円熟味とポップセンスが融合した一作」と高評価され、
特に「Sparklegirl」や「Because of You」は今なお再結成ライブで定番曲として演奏される。
90年代のガールズ・ロックの中で、派手ではないが等身大で嘘のない声を響かせたバンド——
Letters to Cleoは、このアルバムでそれを静かに証明していた。
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