アルバムレビュー:Give Out But Don’t Give Up by Primal Scream

発売日: 1994年3月28日
ジャンル: サザンロック、ブルースロック、ロックンロール


マッドチェスターの夜明けを越えて——Primal Screamの“黒いアメリカ”探訪

Give Out But Don’t Give Upは、Primal Screamが1991年の金字塔Screamadelicaの熱狂とトリップ感を経て、まったく異なる方向へと舵を切った異色作である。
前作がアシッドハウスとサイケデリアの交配によって生まれた“UKレイヴの教典”であったのに対し、本作ではアメリカ南部のルーツ音楽——つまり、サザンロックやブルース、R&Bへの傾倒が強く打ち出されている。

その音楽的変化は突如として見えるが、根底にはロックンロールへの信仰心と、ブラック・ミュージックへの敬意が脈打っている。
レコーディングにはMemphis HornsGeorge Clintonらが参加し、音そのものが持つソウルフルな質感が、バンドの英国的クールネスと融合することで、どこかハイブリッドな熱量を生み出している。

当時のリスナーや批評家の間では賛否が分かれたが、それこそがPrimal Screamらしさの証とも言える。
迷走ではなく、むしろ「信じた音」に真正面から突っ込んだこの作品は、時を経てこそ真価が問われる一枚なのかもしれない。


全曲レビュー:

1. Jailbird

スライドギターとグルーヴィなリズムが炸裂する、アルバムの幕開けにふさわしいロックンロール。
「ベイビー、俺は監獄の小鳥さ」というリフレインに、自由と拘束の相克が滲む。

2. Rocks

本作随一のアンセム。
ストーンズばりの泥臭いリフとシャウトで、「ロックは死んでいない」と叫ぶかのような快作。
カート・コバーンの死(同年)を思わせるような「You’re a rock’n’roll suicide」という行句も胸に響く。

3. (I’m Gonna) Cry Myself Blind

スウィートなスローバラード。
ソウル・バラードとしての純度が非常に高く、Bobby Gillespieのヴォーカルが切なくも粘っこい表現を見せる。

4. Funky Jam

タイトル通り、ファンクとブルースが交錯するグルーヴ重視のナンバー。
インストゥルメンタルに近い構成で、バンドの演奏力が際立つ。George Clintonの影も感じられる一曲。

5. Big Jet Plane

ノスタルジックなギターと穏やかなコーラスが心地よい、ミディアム・テンポのロック。
自由への憧憬と放浪のメタファーが空を舞う。

6. Free

メロウなコード進行とアーシーなサウンドが印象的。
ブルースとゴスペルが交差するような、精神的な“自由”への願いがこもっている。

7. Call on Me

70年代R&Bを彷彿とさせるナンバー。
女性コーラスが楽曲全体を包み込み、Bobbyのボーカルとの掛け合いが温もりを生む。

8. Struttin’

軽快なファンクロック。
ホーンセクションが映える陽気なグルーヴは、James Brownの影響も感じられる。

9. Sad and Blue

ブルースの深淵に沈み込むようなスローナンバー。
“悲しくて青い”というタイトル通り、哀感と諦観が美しく同居している。

10. Give Out But Don’t Give Up

アルバムタイトル曲。
「力尽きても、諦めるな」というメッセージが、時代や国境を超えて響く。
サザン・ソウルとロックンロールの交差点に立つような、力強くも優しいバラード。


総評:

Give Out But Don’t Give Upは、Primal Screamが“何者かになろうとすること”をやめ、むしろ“何を愛しているか”を明確にしたアルバムである。

それは黒人音楽への憧憬であり、ロックンロールの根源であり、そして信じたグルーヴへの忠誠だ。
1990年代中盤のブリットポップ全盛期において、あえてアメリカ南部の音に身を委ねたこの決断は、一見逆行に見えて、実は時代を超える誠実な選択でもあった。

“Screamadelicaの続編”を期待していた者には意外性があったかもしれないが、この作品こそが、彼らの根っこをさらけ出した真骨頂とも言える。
「疲れ果てても、諦めるな」——そのスローガンは、ロックの精神そのものである。


おすすめアルバム:

  • The Rolling Stones / Exile on Main St.
     泥臭いブルースとロックの混交、Primal Screamの原点的存在。

  • The Black Crowes / Amorica
     同時代のサザンロック復興を象徴するバンド。

  • The Faces / A Nod Is As Good As a Wink…
     英国流ロックンロールのルーズな美学。

  • Al Green / Let’s Stay Together
     サザンソウルの真髄、Bobby Gillespieの表現と共鳴する感性。

  • George Clinton / Greatest Funkin’ Hits
     本作にも参加したファンクの巨匠、その精神は至る所に宿っている。


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