1. 歌詞の概要
「Getting Even(ゲッティング・イーヴン)」は、White Lies(ホワイト・ライズ)が2013年にリリースした3rdアルバム『Big TV』に収録された楽曲であり、失われた愛や裏切りに対して“報復する”というテーマを内に秘めた、静かな怒りと覚醒の歌である。
タイトルの「getting even」は、「仕返しをする」「復讐する」という意味を持つ英語表現。だがこの曲においては、単なる“怒りの爆発”ではなく、**自己回復と関係の再構築、もしくは冷静な離別の決意としての“報復”**が描かれている。
語り手は傷ついた状態から這い上がろうとしている。その過程で、かつて愛した誰かに対して、「もうあの頃の僕とは違う」と告げるような、内面の変化と力強さが滲み出る内容となっている。
そして興味深いのは、White Liesらしく、この“報復”が爆発的な怒号としてではなく、抑制されたサウンドと詩的な語り口で語られているという点。
だからこそ、この曲には**復讐という衝動に対する“美学”と“理性”**が共存しており、聴き手の心を静かに揺さぶる。
2. 歌詞のバックグラウンド
White Liesの3rdアルバム『Big TV』は、コンセプチュアルかつより“都会的で洗練されたメランコリア”を志向した作品であり、愛、孤独、機械性、逃避、記憶といったテーマがアルバム全体を貫いている。
「Getting Even」は、そうした作品世界の中でも、個人的な裏切りとその後の自己変革を扱った楽曲であり、サウンド面でもバンドの“進化”を示す仕掛けが多い。
前作までのポストパンク的なギター中心の構成から一歩進み、シンセとドラムパターンを軸にしたミニマルな構造が導入され、感情の起伏をより内面的に演出する。
このスタイルは、表面的にはクールで感情が抑えられているように聴こえるが、その奥には押し込められた怒り、喪失感、そして密やかな闘志がうごめいている。

3. 歌詞の抜粋と和訳
“Every time I see you around / I see the struggle written on your face”
「君を見かけるたびに思うんだ / その顔に浮かぶ“葛藤”がすべてを物語っている」
“You said that love was never lost / But it was never truly found”
「“愛は失われてない”って君は言ったけど / そもそも本当の意味では“見つかって”もいなかったんだよ」
“Now I’m getting even / I’m getting even now”
「さあ、仕返しのときだ / 僕はもう対等なところに戻る」
“I won’t let you bring me down”
「もう君に、僕を打ちのめさせたりしない」
このフレーズ群には、かつて自分を裏切った相手を前にしてもなお、冷静さを保ちつつ、内心で確かな決意を固めていく語り手の姿が浮かび上がる。
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White Lies – Getting Even Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
「Getting Even」は、失恋や裏切りというありふれた経験を、怒りではなく“冷静な優位性”として昇華していく楽曲である。
語り手は傷ついていた。しかし、それを大声で叫んだり、泣き叫んだりはしない。
その代わりに、相手の弱さや偽りを見抜く目を手に入れ、自分を取り戻すことで対等な立場へと回帰する。
つまりこの「getting even」とは、“報復”というよりも“自己の回復”を意味しているのだ。
また、「君が言った“愛は失われてない”という言葉が、そもそも空虚だった」と語るラインは、過去の関係をようやく冷静に振り返れるようになった心理状態を象徴している。
それは、White Liesが過去に描いた“喪失に飲まれる語り手”から一歩踏み出し、“傷を抱えながらも前を向く語り手”への進化でもある。
そして、リフレインされる「I’m getting even」というフレーズは、ある意味で自己暗示のようなものでもあり、歌うことで語り手自身がその決意を再確認しているようでもある。
このあたりの抑制された情熱の表現こそ、White Liesの作詞の妙味である。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Somebody Else by The 1975
他人と幸せになる元恋人への複雑な感情をクールに描いた失恋ソング。 - My Number by Foals
人との距離と存在の軽さを鋭く描いた、都市生活者の断絶と再出発の物語。 - No You Girls by Franz Ferdinand
恋愛とジェンダーの駆け引きをユーモラスに描いたクールなポストロック。 - Post Break-Up Sex by The Vaccines
別れた後の空虚な関係性に焦点を当てた、若者の皮肉なアンセム。 -
Bloodbuzz Ohio by The National
過去と現在、経済と感情が交差する中で、自分を見失いそうになる大人のためのエレジー。
6. “復讐ではなく、回復としてのイーヴン”
「Getting Even」は、White Liesがそれまで得意としていた“死”や“悲劇”といったテーマを脱構築し、もっと個人的で、現代的で、リアルな“喪失との付き合い方”を提示した重要な楽曲である。
ここには、“泣いてすがる”でも、“怒りを爆発させる”でもない、第三の選択肢――「ただ、前に進む」ことの誇りと静かな痛みが描かれている。
「僕はもう、君の痛みにならない」――その言葉が、最も強い報復であり、
最も美しい再生のはじまりなのかもしれない。
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