発売日: 2010年1月10日
ジャンル: ドリームポップ、エクスペリメンタル、シンセポップ
カナダ出身のアーティスト、Grimes（本名：クレア・バウチャー）が送り出したデビューアルバムGeidi Primesは、彼女の音楽キャリアの原点ともいえる作品だ。このアルバムは、フランク・ハーバートのSF小説『デューン』シリーズにインスパイアされており、リリース当初は自主制作という形でひっそりと世に送り出された。インディーズシーンの中でも特にDIY精神に満ちた作品で、彼女独特のアプローチと音楽的な可能性を垣間見ることができる。
このアルバムは、神秘的で夢のような雰囲気を持ちながら、SF的なテーマと個人的な感情を巧みに織り交ぜている。グリッチの効いた電子音、エーテルのようなボーカル、そして実験的なアレンジが融合し、現実世界とは切り離された「異世界」へとリスナーを誘う。その一方で、未完成な部分や粗削りなサウンドが、彼女の初期衝動的なエネルギーを感じさせる。どこか手作り感が漂うこのアルバムは、後の作品の洗練されたサウンドとは異なる、彼女の初期の「原石」としての魅力を放つ。
各曲ごとの解説
1. Caladan
アルバムの幕開けを飾るこの曲は、柔らかなシンセサウンドと夢幻的なボーカルが特徴的だ。「カラダン」とは『デューン』シリーズの中で主要な惑星の名前であり、その静けさと水の豊かさが反映されたような音響設計となっている。まるで海の中に浮かんでいるような感覚に陥る。
2. Sardaukar Levenbrech
不穏さを感じさせるドラムループと低音のリズムが印象的な一曲。『デューン』の冷酷な軍隊「サルダカー」を連想させる暗いトーンで進行するが、Grimesの囁くようなボーカルが微妙な対比を生み出している。
3. Zoal, Face Dancer
タイトルからして実験的なこのトラックは、変幻自在のボーカルとゆらめくシンセサウンドが際立つ。奇妙で中毒性のあるメロディが絡み合い、リスナーに異次元への入り口を感じさせる。
4. Rosa
この曲ではミニマリズムが前面に出ており、静寂の中に漂うような音空間が広がる。歌詞の具体性が薄いため、解釈の幅が広く、聴くたびに異なる感情を呼び起こす。
5. Avi
最も感情的なトラックのひとつであり、彼女のボーカルが特に力強く響く。繊細なシンセラインと心に残るメロディが、内省的な気分を引き立てている。
6. Feyd Rautha Dark Heart
鋭いビートと神秘的なボーカルが絡み合うこの曲は、アルバムの中でも特に実験的な一曲だ。リズムの反復が緊張感を生み出し、タイトルキャラクターの複雑な内面を音で表現しているようだ。
7. Gambang
「ガムラン音楽」に影響を受けたようなエスニックな音色が取り入れられたユニークなトラック。全体的に穏やかだが、リズムが不規則で予測不能な展開が続く。
8. Venus in Fleurs
アルバムの締めくくりにふさわしい、幻想的で美しい曲。この曲では、シンプルなピアノラインと彼女の幽玄的なボーカルが静かに響き渡り、アルバム全体の旅に穏やかな終わりを告げる。
アルバムの独自性：DIY精神の賜物
Geidi Primesのもう一つの魅力は、そのDIY感だ。Grimesは当時、録音からミックスまでほぼ全てを一人で行い、独特な音楽的世界観を構築した。自主制作という制約が逆に彼女の創造性を引き出し、リスナーにとって予測不可能なサウンドが生まれている。
アルバム総評
Geidi Primesは、Grimesのアーティスティックなポテンシャルを垣間見せるデビュー作だ。そのサウンドはどこか未完成でありながらも、挑戦的で新鮮。後の作品で見られる洗練されたポップセンスとは異なり、このアルバムは純粋な創作意欲の塊といえる。リスナーは、彼女がどのように進化してきたのかを感じ取ることができるだろう。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Visions by Grimes
同じアーティストによる後の作品。洗練されたシンセポップと独自の世界観が堪能できる。
Have One on Me by Joanna Newsom
幻想的で独特なボーカルを持つこのアルバムは、物語性と実験性が共通している。
Merriweather Post Pavilion by Animal Collective
サイケデリックで夢のようなサウンドが好きな人にはぴったりの一枚。
Lonerism by Tame Impala
シンセの多用と内省的なテーマが共通するこのアルバムは、Grimesファンにとって心地よい聴き心地を提供するだろう。
The Idler Wheel… by Fiona Apple
感情的な表現とユニークなアレンジが光るこの作品も、Grimesの実験的な一面に共感するリスナーにおすすめだ。
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