
発売日: 2022年6月24日
ジャンル: サイケデリック・ロック、ネオサイケ、フォークロック、ガレージロック
概要
『Fire Doesn’t Grow on Trees』は、The Brian Jonestown Massacre(以下BJM)が2022年に発表したアルバムであり、
“再びバンド然とした有機的サウンドへ回帰した、後期BJMの重要作” と位置づけられている。
2010年代のBJMは、
- アンビエント化(『Musique de Film Imaginé』)
- 実験/ダンス寄りの音響(『Don’t Get Lost』)
- 浮遊型ネオサイケ(『Third World Pyramid』『Something Else』)
など、音響的・芸術的探求が中心となっていた。
しかし本作では、Anton Newcombe が改めて
“曲” “演奏” “温度”
に軸を置き、
60〜70年代フォークロック+BJM流のサイケデリアを自然体で再構築している。
制作はベルリン・スタジオで、
演奏はほぼライブ形式。
そのため音に
- 人間的なゆらぎ
- 生きたグルーヴ
- バンドの呼吸
が強く感じられる。
タイトルの “Fire Doesn’t Grow on Trees(火は木から生えるものじゃない)” は、
“創造力は自然発生しない。自分で起こすものだ”
という Anton の精神を象徴している。
長いキャリアの中で、Anton が再び
“バンドとしての音楽”
を強調した瞬間を捉えた一枚。
全曲レビュー
1曲目:The Real
フォークロック寄りの軽快なサウンド。
メロディが非常に親しみやすく、“肩の力が抜けたBJM”を象徴するスタート。
2曲目:Ineffable Mindfuck
タイトルの激しさとは裏腹に、淡いサイケポップ。
ゆったり漂うギターと、気だるいアンニュイさが美しい。
3曲目:It’s About Being Free Really
軽く跳ねるリズムとポップなメロディが魅力。
BJMの“陽”の瞬間を感じられる。
4曲目:What’s In a Name
フォーク × サイケのミッドテンポ。
メロディに深い哀愁があり、温かいけれど少し切ない。
5曲目:Silenced
静かで、影のある曲。
反復するコードと淡い歌声が、夜の静けさのような余韻を作る。
6曲目:Before And Afterland
本作の中でも特にクラウトロック的な反復が強く出た曲。
緩やかなトランス感が心地よい。
7曲目:You Think I’m Joking?
ガレージ寄りのざらついたロックチューン。
BJMの“初期衝動”がふっと蘇る瞬間。
8曲目:#1 LUCKY KITTY
遊び心のあるサイケポップ。
軽くふざけた雰囲気があるが、メロディは意外に美しく耳に残る。
9曲目:Wait a Minute (2:30 to be exact)
軽快な疾走感があり、アルバムの中でアクセントとなる。
潔い短さも良い。
10曲目:Don’t Let Me Get in Your Way
フォーク寄りの穏やかな曲。
心が少し沈んだ日に寄り添うような優しさがある。
11曲目:All The Girls In London
淡く漂うようなメロディが美しい、ドリームポップ寄りの曲。
アルバム後半のハイライト。
総評
『Fire Doesn’t Grow on Trees』は、
The Brian Jonestown Massacre が“人間味あるバンドの呼吸”へ回帰したアルバム
である。
“破壊のBJM”“実験のBJM”“映画音楽のBJM”を経て、
ここでは
“温度あるサイケロックを自然体で鳴らすBJM”
が戻ってきている。
このアルバムの魅力は、
- メロディが素直で美しい
- 反復が心地よい
- 録音が生き生きしている
- アンビエント化・ノイズ化しすぎていない
- ポップさと陰影のバランスが良い
という、成熟したバンドにしか到達できない絶妙な位置にある点だ。
Anton の声は穏やかで、
曲には独特の郷愁と優しさが漂い、
音の隙間に温かさが宿る。
“サイケの狂気”よりも
“サイケの温度”
が前に出た、美しい後期代表作。
おすすめアルバム(5枚)
- The Brian Jonestown Massacre (2019)
本作の直前。後期BJMの“統合された美”が味わえる。 - Third World Pyramid (2016)
浮遊感と叙情が近い。後期の静かな名作。 - Something Else (2018)
ガレージ寄りのロック感が強い、前作的立ち位置。 - Aufheben (2012)
後期BJMの“美意識”が生まれた作品。比較すると本作の自然体が見える。 - Love / Forever Changes (1967)
フォークロック × サイケ × 美メロの源流。
本作の柔らかさを理解するうえで相性が良い。



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