
発売日: 1974年8月
ジャンル: ファンク、ルーツロック、ニューオーリンズ・ロック
概要
『Feats Don’t Fail Me Now』は、Little Featが1974年にリリースした4作目のスタジオ・アルバムであり、バンドとしての成熟と安定感を象徴する一枚である。
前作『Dixie Chicken』で確立されたニューオーリンズ・ファンク路線をさらに推し進めつつ、アンサンブルの緊密さ、楽曲構成の巧みさが格段に洗練された。
ローウェル・ジョージの比喩に満ちたソングライティングは冴えを見せ、リズムセクションは鉄壁のグルーヴを叩き出している。
アルバムタイトルは「頼むから失敗しないでくれ、俺の“足技”たちよ」とでも訳せるフレーズで、バンドへの信頼とステージの高揚感を感じさせる。
プロデュースはバンド自身と、初期からの協力者であるテッド・テンプルマンの手によるもので、遊び心と技巧が両立する濃密なアルバムに仕上がっている。
全曲レビュー
1. Rock & Roll Doctor
本作の幕開けを飾るファンキーなロック・ナンバー。
“ロックンロール医者”というキャラクターを通して、音楽が持つ癒しと陶酔を皮肉交じりに描く。
力強いコーラスと跳ねるようなリズムが、聴き手を一気に引き込む。
2. Oh Atlanta
ビル・ペイン作の疾走感あるナンバー。
アメリカ南部の都市アトランタへの憧憬と熱狂を綴ったラブレターのような一曲で、ピアノの跳ねるリフが印象的。
のちにアリソン・クラウスもカバーしており、バンド外でも評価の高い名曲。
3. Skin It Back
サム・クレイトン作による、リズムとグルーヴの応酬が楽しめるファンキーなトラック。
タイトルは「むき出しにしろ」というスラング的表現で、快楽主義や自己解放の暗示がある。
ローウェルのスライド・ギターも冴えわたり、演奏の醍醐味が詰まった一曲。
4. Down the Road
ポール・バレールがリードを取るミドルテンポのロック・ナンバー。
旅路と人生の進行を重ね合わせた歌詞が特徴で、哀愁と軽やかさが共存している。
コーラスの広がりが、サザン・ロックの良質な部分を体現している。
5. Spanish Moon
アルバム中でも異彩を放つ、暗く妖艶なファンク・チューン。
売春宿、ドラッグ、暴力など裏社会の夜を舞台にした歌詞は、ローウェルの観察力と描写力の真骨頂。
リトル・フィートにしては珍しく黒く沈むような音像で、ブラスセクションの厚みがその妖しさを引き立てる。
6. Feats Don’t Fail Me Now
タイトル曲にして、バンドの真骨頂ともいえるグルーヴ・チューン。
ライブの定番曲でもあり、バンドとしての一体感とエネルギーが爆発している。
“俺の足技たちよ、失敗しないでくれ!”というサビの叫びが、ユーモアと共にバンドの信念を物語る。
7. The Fan
ビル・ペインとローウェルによる共作で、変拍子とジャズ的展開が複雑に絡む実験的な一曲。
熱狂的な“ファン”という言葉の裏にある暴力性や狂気を描き出しており、詞もサウンドも非常に攻めている。
ミュージシャンシップが際立つ構成で、聴く者を試すような挑戦的トラック。
8. Medley: Cold Cold Cold / Tripe Face Boogie (Live)
前作からの2曲を組み合わせたライブ・メドレー。
前半はスローブルースの「Cold Cold Cold」、後半は高速ブギー「Tripe Face Boogie」へと転調し、緩急の妙が楽しめる。
演奏の臨場感、熱気、そしてオーディエンスとの一体感がアルバムを締めくくるにふさわしい。
総評
『Feats Don’t Fail Me Now』は、Little Featが“自分たちの音”を完全に掌握した作品である。
ニューオーリンズ・ファンクの影響を核にしながらも、ブルース、ジャズ、R&B、カントリーを自在に編み込み、ロックバンドという枠を軽々と飛び越えている。
ローウェル・ジョージの詞世界は、本作でもユーモアと寓意に満ち、単なるロックンロールの枠を超えて、アメリカ南部の生活、夢、喪失、享楽といったテーマを浮かび上がらせている。
また、ビル・ペインやポール・バレールら他メンバーのソングライティングも光っており、バンド全体としての創造力の高さが際立つ。
ライブ感あふれる録音、複雑なアレンジを支える抜群の演奏力、そしてどこか“いい加減”なようでいて計算され尽くした余裕の音作り。
このアルバムは、Little Featが単なる“渋いバンド”で終わらず、アメリカ音楽の豊かさと混沌を体現する存在であることを証明した。
おすすめアルバム(5枚)
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The Meters – Look-Ka Py Py (1970)
ファンクの基礎体力を感じさせるニューオーリンズ・クラシック。リトル・フィートとのグルーヴ感の共通性がある。 -
Dr. John – In the Right Place (1973)
Allen Toussaintプロデュースによる、妖艶でグルーヴィな世界。『Spanish Moon』と響き合う。 -
Steely Dan – Pretzel Logic (1974)
都会的ファンクとジャズの融合。同年リリースで、“洗練された変態性”という共通項も。 -
Tower of Power – Back to Oakland (1974)
強力なホーンセクションとファンクネス。リトル・フィートのブラス導入と通じる部分が多い。 -
Lowell George – Thanks I’ll Eat It Here (1979)
ローウェルのソロ作。バンドを離れた後も彼の美学は変わらず、リトル・フィートの原点を振り返ることができる。
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