発売日: 1980年9月1日
ジャンル: ポストパンク、ニューウェーブ、アートロック
Simple Mindsの3作目となる『Empires and Dance』は、ポストパンクとニューウェーブの枠を超え、バンドの音楽的進化を明確に示した革新的なアルバムである。この作品では、シンセサイザーやリズムセクションを中心としたミニマルでダンサブルなサウンドが展開され、彼らの後の成功を予感させる要素が随所に見られる。
アルバムはヨーロッパを巡る旅をテーマにしており、冷戦時代の緊張感や文化の多様性を背景にした歌詞が特徴的だ。ジム・カーの詩的で抽象的な歌詞は、時に社会的、時に個人的な視点を交差させながら聴き手を引き込む。チャーリー・バーチルのギターとミック・マッキーのシンセサイザーが織りなす緻密なサウンドスケープは、冷たさとエネルギーを同時に感じさせる。
『Empires and Dance』は、後の『New Gold Dream (81–82–83–84)』や『Sons and Fascination/Sister Feelings Call』に続くサウンドの基盤を築き、Simple Mindsの革新的な音楽性を確立した重要なアルバムだ。
1. I Travel
アルバムの幕開けを飾るダンサブルなトラックで、エレクトロニックなリズムとリフが耳に残る名曲。ヨーロッパを巡る旅行の中で感じた興奮と不安が描かれており、バンドのエネルギッシュな一面が表現されている。
2. Today I Died Again
ダークでメランコリックな雰囲気を持つ楽曲で、ミック・マッキーのシンセサイザーが楽曲全体を包み込む。ジム・カーの冷静で抽象的な歌詞が、アルバムの緊張感を高めている。
3. Celebrate
ポストパンクらしいタイトなリズムと繰り返されるリフが特徴的な一曲。祝祭的なタイトルとは裏腹に、どこか冷たさが感じられる歌詞とサウンドが印象的だ。
4. This Fear of Gods
アルバムの中でも特に実験的な楽曲で、ミニマルなアプローチが際立つ。暗く反復的なリズムが、不安感と緊張感を演出している。
5. Capital City
エレクトロポップ的な要素が感じられる楽曲で、タイトル通り都市生活をテーマにした歌詞が印象的。シンセサイザーとギターが絡み合い、アルバムの中でも比較的軽快なトーンを持つ。
6. Constantinople Line
列車の旅をテーマにした楽曲で、繰り返されるベースラインとリズムが旅の情景を思い起こさせる。歌詞には都市の風景と個人的な内省が交差する描写が込められている。
7. Twist/Run/Repulsion
実験的なリズムとシンセサイザーが目立つ楽曲で、冷たさと緊張感がアルバム全体のテーマを体現している。
8. Thirty Frames a Second
アップテンポなトラックで、映画的な視点から都市生活を描いている。タイトルが示す通り、歌詞やサウンドに映画のカット割りのようなスピード感がある。
9. Kant-Kino
インストゥルメンタルに近い楽曲で、反復的なリズムとミステリアスなシンセサイザーが印象的。アルバムの中で一種の幕間劇のような役割を果たしている。
10. Room
アルバムを締めくくる楽曲で、内省的で静かなトーンが特徴的。反復するサウンドスケープが、不安定な終末感を演出し、アルバム全体をまとめ上げている。
アルバム総評
『Empires and Dance』は、Simple Mindsがポストパンクからニューウェーブへと進化する過程を捉えた重要なアルバムである。ダンサブルでありながらも冷たく知的なサウンドが特徴で、リスナーに新しい音楽体験を提供する。ヨーロッパの文化や社会を背景にした歌詞とサウンドスケープは、アルバム全体に統一感を与えている。Simple Mindsのファンだけでなく、ポストパンクやニューウェーブの愛好家にとっても必聴の一枚だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
New Gold Dream (81–82–83–84) by Simple Minds
『Empires and Dance』の進化形ともいえる作品で、より洗練されたサウンドとメロディが特徴。
Systems of Romance by Ultravox
ポストパンクとシンセポップを融合させた作品で、『Empires and Dance』のファンに響く一枚。
Closer by Joy Division
ダークでミニマルなアプローチが特徴的なポストパンクの名盤。『Empires and Dance』の冷たさに共通点がある。
Low by David Bowie
エレクトロニカとロックの融合が感じられる作品で、Simple Mindsの音楽的背景を知るうえで重要。
Travelogue by The Human League
シンセサイザーを駆使したミニマルなサウンドと知的な歌詞が、『Empires and Dance』と通じる。
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