
発売日:1971年2月
ジャンル:Funk / Soul / Psychedelic Soul
概要
Earth, Wind & Fireは、Maurice White率いるEarth, Wind & Fireが1971年にWarner Bros.から発表したデビュー・アルバムである。WhiteはRamsey Lewis Trioでドラマーとして活動した後、シカゴでSalty Peppersを結成し、拠点をロサンゼルスへ移してEarth, Wind & Fireへ発展させた。本作の編成は後に「September」や「Shining Star」を生む時期とは大きく異なり、Maurice Whiteと弟Verdine Whiteを中心に、Wade Flemons、Don Whitehead、Michael Beal、Yackov Ben Israel、Sherry Scottらが参加している。
後年のEarth, Wind & Fireに特徴的な大編成ホーン、Philip Baileyのファルセット、精密なディスコ/ファンクのアレンジはまだ確立されていない。ここで聞けるのはSly and the Family Stone以降のファンク、サイケデリック・ソウル、ジャズ、ゴスペルなどが入り混じった、より粗く実験的なバンド・サウンドである。男女ヴォーカルの掛け合い、強く反復するベース、細かな打楽器、エレクトリック・ピアノなどを使い、曲によっては明快なポップソングより集団演奏そのものを前面に出している。
ただし、後のバンドとの連続性もすでにある。複数の声を個人のリードと集団のコーラスに使い分けること、ファンクの反復へジャズ的な楽器配置を加えること、精神性や社会への視線をダンス可能な音楽と共存させることは、その後もEarth, Wind & Fireの重要な特徴となった。完成された黄金期の様式ではなく、Maurice Whiteがさまざまな音楽的アイデアを試しながらバンドの原型を作っている作品として聞くと、その個性がよく見える。
全曲レビュー
1. 「Help Somebody」
ピアノの力強いコードと声の掛け合いから始まり、ゴスペルとファンクを直接結びつけたようなオープニング曲である。一人のリード・シンガーだけを中心に置かず、男女の声やコーラスが次々と入るため、個人の独白より共同体から発せられるメッセージのように聞こえる。タイトル通り他者へ手を差し伸べることを促す歌詞と、前へ押すリズムの組み合わせも明快だ。後年の洗練とは違うが、音楽的な高揚と肯定的なメッセージを結びつける姿勢はすでに表れている。
2. 「Moment of Truth」
ベースとドラムが重心の低い反復を作り、その上にキーボードやヴォーカルが重なる。冒頭曲よりも暗い色合いを持ち、曲名が示す「真実と向き合う瞬間」に似合う緊張が演奏にもある。ヴォーカルは滑らかなソウルだけに寄らず、声を荒らしたり複数人で応答したりすることで感情の強さを作る。コードを頻繁に変えて展開するより、一つのグルーヴを維持して内部の音を変化させる発想が強く、初期EWFのファンク的な側面がよく分かる。
3. 「Love Is Life」
タイトル通り愛と生命を結びつけた曲で、後のMaurice Whiteが繰り返し扱う肯定的、精神的な主題を早くも明確に打ち出している。演奏にはソウルらしい温かさがあり、コーラスがリード・ヴォーカルを包むことで、個人的な恋愛だけに限定されない広がりが生まれる。リズムは力任せに押さず、ベースと打楽器が細かな動きを作るため、曲には柔らかい揺れがある。後年の華麗なアレンジより素朴だが、EWFの思想的な核を理解しやすい一曲である。
4. 「Fan the Fire」
鋭いギターと太いリズムが前面に出た、アルバムでも特にファンク色の濃い曲。短いフレーズを何度も繰り返し、その上でヴォーカルや打楽器を出し入れすることで熱量を上げていく。タイトルの「火をあおる」という言葉も、感情や生命力を活性化させるイメージとして演奏の高揚と重なる。整然とした後年のEWFより荒々しく、リズムが少しざらついて聞こえるところが魅力で、1970年代初頭のサイケデリック・ファンクとの近さが特に感じられる。
5. 「C’mon Children」
集団的なコーラスを強く使い、聴き手へ直接呼びかける構成が中心となる。「children」という言葉は文字通りの子供だけではなく、より広い共同体へ向けた呼びかけとしても聞こえる。演奏ではパーカッションが細かな拍を埋め、ベースとドラムの基本的な脈の周囲に複数のリズムが生まれる。ゴスペル的な参加感とファンクの身体性を組み合わせることで、メッセージを説明するのではなく、声を重ねる行為そのものによって表現している。
6. 「This World Today」
タイトルが示す通り、視線を個人的な感情から同時代の社会へ向ける。ヴォーカルには切迫感があり、周囲の演奏も明るい祝祭へ簡単には向かわず、反復するリズムの中に緊張を残す。1960年代末から1970年代初頭のソウルでは社会問題を扱う作品が増えていたが、この曲もそうした時代の空気と重なる。EWFの場合、政治的な主張を詳細に列挙するより、人々が暮らしている「現在の世界」への問いとして提示するため、アルバムの精神的な主題とも自然につながっている。
7. 「Bad Tune」
題名とは裏腹に、ジャズとファンクを混ぜた演奏そのものを楽しませる曲である。ヴォーカル中心の前半に比べて楽器同士のやり取りが前へ出ており、リズム・セクションの上を鍵盤や管楽器が動くことで、バンドのジャズ的な背景が見えやすい。決まったサビへ何度も戻るポップソングというより、短いモチーフから演奏を展開する感覚が強い。アルバム中盤まで続いたメッセージ性の高い歌から少し離れ、演奏集団としてのEWFを見せる役割を持つ。
8. 「Energy」
タイトル通り、旋律や歌詞よりも運動そのものへ重点を置いた短いインストゥルメンタルである。打楽器を含むリズムが前面に出て、複数の音が短時間に交差することで、次の曲へ向けてアルバムの流れを切り替える。独立した大曲というより、バンドが持つジャズ的、実験的な側面を凝縮した間奏として聞くのが自然だ。後年のEWFでも重要になるパーカッションへの関心が、装飾ではなく曲の中心として現れている。
9. 「Beauty」
ゆったりした速度と柔らかな音色を使い、それまでのファンク中心の流れから空間を広げる。タイトルの「美」は外見だけを指すというより、生命や人間の価値を肯定する本作の思想と結びついた概念として聞こえる。ヴォーカルも激しく押すのではなく、旋律を長く取ることで穏やかな感触を作る。リズムの強さを少し引いたことで、Maurice Whiteがファンクだけではなくジャズやスピリチュアルなソウルからもバンドの音を組み立てていたことが分かる。
10. 「I Can Feel It in My Bones」
最後は「骨の中で感じる」という身体的な言葉を使い、思想と肉体感覚を一つにする。ベース、ドラム、パーカッションが作る反復の上で声が重なり、何かを理屈で理解するより身体で確信するという感覚が演奏にも表れている。アルバムを通して扱われてきた愛、共同体、生命力といった主題を長い説明でまとめるのではなく、グルーヴへ戻す締め方が効果的だ。後年のEWFが得意とする「前向きなメッセージを踊れる音として伝える」という方法の原型が見える。
総評
デビュー作のEarth, Wind & Fireは、1970年代後半のEarth, Wind & Fireを期待して聴くとかなり異質である。「September」のように精密なホーンと明快なサビで一気に高揚させる曲はなく、Philip Baileyのファルセットもまだ存在しない。代わりに聞こえるのは、Sly and the Family Stone以降のサイケデリック・ソウル、ファンク、ゴスペル、ジャズがまだ整理され切らないまま共存している音だ。その粗さこそが本作固有の魅力になっている。
特に重要なのはリズムの考え方である。ドラムだけに拍を任せず、ベース、ギター、パーカッション、ピアノ、そして声までが短いパターンを分担することで、一つの大きなグルーヴを作る。この発想は後のEWFにも残るが、本作ではホーン・アレンジや豪華なスタジオ処理に覆われていないため、骨格がむしろ見えやすい。Maurice Whiteがドラマー出身であることも納得できる、リズムから曲を組み立てた場面が多い。
もう一つの特徴は、個人より集団を感じさせるヴォーカルである。男女の声を使った掛け合いやコーラスは、ゴスペル的な共同体の感覚を生み、愛や生命、社会についての歌詞を一人だけの告白から広げている。後の作品でより明確になる精神性もすでに存在し、「Love Is Life」のような題名からも分かるように、日常的な感情と普遍的な価値を結びつけようとしている。
一方、作曲とアレンジの完成度には曲ごとの差があり、後年のアルバムほど強いフックが連続するわけではない。だが、本作を興味深くしているのは完成形ではないからこそ聞こえる自由さである。ジャズ的な演奏、荒いファンク、ゴスペルの声、サイケデリックな質感を試しながら、その中から後のEWFを形作るリズム、集団性、肯定的な精神性が少しずつ姿を現している。巨大なポップ・ファンク・バンドになる以前の、実験的なブラック・ミュージック集団としての出発点を記録した一枚である。
おすすめアルバム
The Need of Love by Earth, Wind & Fire
同じ1971年に発表された2作目。デビュー作のサイケデリック・ソウルやジャズ的な実験性をさらに広げており、初期編成のEWFが目指していた方向を続けて確認できる。
Head to the Sky by Earth, Wind & Fire
1973年作。メンバー交代を経てPhilip Baileyらが加わり、ファンク、ジャズ、精神性がより整理された。初期の実験から黄金期のサウンドへ向かう重要な中間地点にあたる。
Stand! by Sly and the Family Stone
男女混成ヴォーカル、強いファンクのリズム、社会的な視点を一つのポップ作品へまとめた1969年作。初期EWFと共有する発想が多く、当時のサイケデリック・ソウルの流れを理解しやすい。
Spirit in the Dark by Aretha Franklin
ゴスペルの集団的な高揚とR&Bの身体的なリズムを密接に結びつけた1970年作。初期EWFが声、精神性、グルーヴを一体化させる方法を、別の角度から比較できる。
Maggot Brain by Funkadelic
1971年発表の同時代作品。ロック、ファンク、ソウル、サイケデリアを境界なく混ぜる点では本作と共通するが、Funkadelicはより歪んだギターと暗い音響へ向かっており、初期1970年代ファンクの幅広さを対照的に味わえる。

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