Earth Song by Michael Jackson(1995)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Earth Song」は、1995年にマイケル・ジャクソンがリリースしたアルバム『HIStory: Past, Present and Future, Book I』に収録された、地球規模の痛みと祈りを綴った壮大なバラードである。本作は愛や孤独、恋といった個人の感情を越えて、人類が地球に与えた傷と、自然界に対する無関心、そして戦争や動物虐待といった暴力を問い直す“魂の問いかけ”として位置づけられる。

タイトルの「Earth Song」は直訳すれば“地球の歌”。だが、ここでの“地球”とは単なる物理的な惑星ではなく、命を宿し、傷つき、叫び、そして沈黙している“存在”としての地球である。マイケルはこの楽曲を通して、自然破壊と人間の傲慢さに対して警鐘を鳴らすとともに、失われたものに対する深い悔恨と癒しへの希求を強く訴えている。

「What about sunrise?(日の出はどうなった?)」「What about rain?(雨は?)」と問いかけるリフレインは、まるで詩人のような静かな語りから始まり、次第に“叫び”へと変わっていく。この構造そのものが、地球の嘆き、そしてマイケル自身の“目覚め”の過程を象徴しているようにも思える。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Earth Song」は、マイケル・ジャクソンが作詞作曲し、長年温め続けていたテーマを形にしたものである。彼がこの曲を構想したのは1988年頃、ツアーで世界中を巡りながら、森林伐採、戦争、貧困、動物の絶滅といった現実に直面したことがきっかけだった。特にアフリカで見た飢餓の惨状や、アマゾン熱帯雨林の伐採に対する衝撃が、彼の創作欲求を強く刺激したとされている。

プロデュースはマイケル自身とデヴィッド・フォスター、ビル・ボットレルらが共同で手がけ、オーケストラとゴスペルクワイアを大胆に導入した壮大な音像を創り上げている。サウンドはR&Bやポップスの枠を超え、環境音楽、宗教音楽、叙事詩のようなスケールを持ち、ジャンルにとらわれない“人類へのメッセージ”として構成されている。

この曲はアメリカではシングルとしてリリースされなかったが、ヨーロッパを中心に大ヒットを記録し、特にイギリスでは6週連続でチャート1位を獲得。社会的メッセージを込めた曲としては異例の商業的成功を収めた。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「Earth Song」の代表的なフレーズを抜粋し、日本語訳を添える。

What about sunrise
What about rain
What about all the things
That you said we were to gain…

日の出はどうなった?
雨はどうなった?
君たちが“手に入れる”と言っていたものは
一体どこへ行ったんだ?

Did you ever stop to notice
All the blood we’ve shed before?
Did you ever stop to notice
The crying Earth, the weeping shores?

これまで流された血を
一度でも気にしたことがあるか?
泣いている地球の声を
一度でも聴こうとしたことがあるか?

What have we done to the world
Look what we’ve done

僕らは世界に何をした?
見てみろよ、この有様を…

(歌詞引用元:Genius – Michael Jackson “Earth Song”)

4. 歌詞の考察

この楽曲の核心は、“問い”にある。しかもそれは過去の行動への反省を促す問いであり、同時に未来に対する倫理的責任をも問いかける。“What about〜?”の反復は、マイケルの中にある憤りと悲しみ、そして声を上げられない存在たちへの代弁として響き渡る。それは人間中心主義への静かな反抗であり、自然との断絶がもたらした歪みに対する叫びでもある。

マイケルのヴォーカルもこの曲では“歌う”というより“叫ぶ”ように進行し、終盤にかけてはまるで預言者のように魂を吐き出している。そこには技術ではなく、まさに「痛みの表現」が宿っている。愛や平和を求めるマイケルの姿勢が、最も純粋な形で表れた瞬間と言えるだろう。

また、“Did you ever stop to notice”というフレーズには、単なる環境保護や平和の呼びかけを超えて、「無関心の罪」に対する厳しい指摘が含まれている。見ないふりをすること、それこそが最も深い暴力である――そうした倫理的覚醒が、彼の歌声と共に私たちに突きつけられてくる。

(歌詞引用元:Genius – Michael Jackson “Earth Song”)

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Imagine by John Lennon
     理想的な世界を夢見る静かな祈り。宗教や国境を超えた平和への希求という点で共鳴する。

  • Redemption Song by Bob Marley
     “魂の解放”をテーマにしたスピリチュアルなプロテストソング。声そのものがメッセージとなる。

  • Big Yellow Taxi by Joni Mitchell
     自然破壊と都市化に対する風刺的なバラード。軽やかな口調に込められた警告が「Earth Song」とリンクする。

  • Mercy Mercy Me (The Ecology) by Marvin Gaye
     環境汚染への嘆きをソウルミュージックに昇華した一曲。1970年代から続く問題提起の系譜に連なる。

6. 地球と人類の「魂の対話」としての音楽

「Earth Song」は、単なる楽曲ではない。これは“問い”であり、“嘆き”であり、“願い”である。そしてそれらを一つにして、マイケル・ジャクソンというアーティストの人生観、世界観、そして祈りの全てを凝縮した表現となっている。

この曲は聴く者に答えを強制しない。ただ問いかけ続ける。「僕らは何を失った?」「それに気づこうとしたことはあったか?」という沈黙と共に。その問いは今もなお私たちの耳に、心に、突き刺さり続けている。

マイケル・ジャクソンはこの楽曲を通して、“エンターテイナー”の枠を完全に越えた。ここにあるのは、まさに“魂の表現者”としての姿。ダンスでもショーマンシップでもなく、ひとつの叫びが世界に届いた瞬間。「Earth Song」は、世界が耳を傾けるべき“音楽という名の問い”なのである。

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