Dream Baby Dream by Suicide(1979)楽曲解説

 

1. 歌詞の概要

「Dream Baby Dream」は、Suicideが1979年にリリースした楽曲で、彼らの過激でノイジーな音楽性とは一線を画す“希望”と“祈り”のような穏やかさをたたえた名作である。繰り返されるのはたった数行──「Dream baby dream」「Keep those dreams burning」といった、短くて単純なフレーズだ。それにもかかわらず、そこに込められた情熱と継続する力のメッセージは極めて強烈であり、多くのリスナーにとって、Suicideの最も“救済的”な作品として語り継がれている。

音楽的には、マーティン・レヴのリズミカルで催眠的なシンセパターンと、アラン・ヴェガの静かなボーカルが絡み合い、ループと反復の中で時間感覚が溶けていくような感覚を与える。夢を見続けること、諦めないこと──それを淡々と、しかし確信を持って訴えかけるこの曲は、Suicideのキャリアにおいて異色ながら最も多くのアーティストにカバーされ、Bruce Springsteenのライブでも重要な位置を占めるなど、時代やジャンルを越えて支持されている。

2. 歌詞のバックグラウンド

1970年代後半、Suicideはニューヨークのアンダーグラウンドでその独自性を築き上げていた。「Dream Baby Dream」は1979年のシングルとしてリリースされ、翌年にかけてライブセットでも頻繁に演奏された。Suicideの音楽の中で珍しく“ポジティブ”に聞こえるこの曲は、実際には“愛”や“幸福”といったものが存在することすら難しい社会の中で、ひとすじの希望をどうにか捻り出すような、ぎりぎりのメッセージである。

アラン・ヴェガはこの曲を“人に向けて歌う祈り”と呼んでいた。彼にとって“Dream(夢)”とは、現実逃避でも楽観でもなく、困難な社会や個人の状況の中で「生き続ける理由」そのものであった。繰り返しの中にわずかに変化を差し込む彼のボーカルは、まるでマントラのように聴き手の心を徐々に侵食していく。

3. 歌詞の抜粋と和訳

引用元:Genius Lyrics – Dream Baby Dream

Dream, baby, dream
夢を見るんだ、ベイビー、夢を見るんだ

Keep those dreams burning, forever
その夢を燃やし続けろ、ずっとずっと

Dream, baby, dream
夢を見ろ、ベイビー、夢を見ろ

‘Cause when you’re down, you’re really down
落ち込んだときこそ、本当に夢が必要なんだ

ミニマルながらも、言葉の一つ一つに“やめるな、諦めるな”という圧倒的な熱量がこもっている。

4. 歌詞の考察

この曲は、反復されるたった一言の中に、あらゆる感情が詰め込まれている。言葉が変わらないのに、感情が変わっていく。それが「Dream Baby Dream」の魔法だ。最初は静かに始まるヴェガの声が、次第に熱を帯び、やがて“祈り”に変わっていく様子は、Suicideのもう一つの顔──破壊ではなく“希望の粘着”──を見せつける瞬間である。

この曲は単なるエレクトロニック・バラードではない。それは、“夢を見る”という行為が、現実に抗う最も人間的な姿勢だとする信念の音楽である。多くのSuicide作品に通底する都市的疎外や絶望の感覚の中で、「Dream Baby Dream」はまるでその隙間に射す一筋の光のようだ。


Rocket U.S.A. by Suicide(1977)楽曲解説

1. 歌詞の概要

「Rocket U.S.A.」は、Suicideのデビューアルバム『Suicide』(1977年)に収録された最終トラックであり、冷戦下のアメリカ社会に対する諷刺と破滅のヴィジョンを叩きつけるような内容を持つ、ミニマルかつ破壊的なエレクトロパンクの象徴とも言える作品である。

タイトルの“Rocket U.S.A.”は、“ミサイル国家アメリカ”を意味すると同時に、テクノロジーと死、近代化と破壊が表裏一体となったアメリカン・アイデンティティを暗示している。歌詞では、ロケット、セックス、ドラッグ、孤独といったキーワードが無機質に並べられ、アメリカ社会の狂気と冷酷さが、アラン・ヴェガの低く抑えたボーカルによって突きつけられる。

2. 歌詞のバックグラウンド

1970年代末、冷戦と核兵器の脅威が日常の一部となりつつあったアメリカにおいて、Suicideはその恐怖を“都市の音”として可視化した存在であった。「Rocket U.S.A.」はその思想の結晶であり、ポップカルチャーや政府の二枚舌への憤りを、無感情な反復の中に込めて表現している。

この曲のインパクトは、音楽的な重さではなく“無感情であること”の恐ろしさにある。マーティン・レヴの機械的なシンセとリズムボックスが淡々とリフを刻み、アラン・ヴェガはまるで感情を失った案内人のように、黙々と終末世界を語っていく。

3. 歌詞の抜粋と和訳

引用元:Genius Lyrics – Rocket U.S.A.

It’s doomsday, doomsday
終末だ、終末が来る

Rocket U.S.A.
ロケット国家、アメリカ

Junkie sex dream U.S.A.
ジャンキーとセックスの夢の国、U.S.A.

Nobody cares
誰も気にしちゃいない

No more time
もう時間はない

断片的で抽象的な言葉が、崩壊寸前の社会の風景を断定的に切り取っていく。

4. 歌詞の考察

「Rocket U.S.A.」の詞は、意味というより“空気”を伝えるものだ。そこにあるのは、怒りというより諦め、絶望というより“熱の失われた暴力”である。核、ドラッグ、無関心、セクシャルな幻覚──それらは都市の断片として連なり、やがて全体像を浮かび上がらせる。

Suicideはこの曲で、国家や社会への直接的な批判を避け、むしろ無関心の中に生きる“消費者としての人間”の姿を冷ややかに描いている。「誰も気にしない(Nobody cares)」というフレーズが示す通り、Suicideが最も恐れたのは“怒りの欠如”であり、“破滅に向かっても誰も止めない社会”だったのかもしれない。

「Rocket U.S.A.」はその不気味な静けさによって、終末感を最も鮮烈に伝える楽曲のひとつであり、Suicideのディスコグラフィの中でも、特に冷たい刃のように鋭く光る作品である。


両曲は、Suicideというユニットの極端な二面性──“祈り”と“破滅”、“希望”と“放棄”──を象徴する名作であり、現代に生きる私たちにとっても、どこか身に覚えのある都市的感情の原型を突きつけてくる。夢と絶望は、常に背中合わせなのだ。

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