
発売日:1988年
ジャンル:シンセパンク、エレクトロニック・ロック、ポストパンク、ミニマル・シンセ、インダストリアル、ノーウェイヴ以後
- 概要
- 全曲レビュー
- 1. Wild in Blue
- 2. Surrender
- 3. Jukebox Baby 96
- 4. Rain of Ruin
- 5. Sufferin’ in Vain
- 6. Dominic Christ
- 7. Love So Lovely
- 8. Devastation
- 総評
- おすすめアルバム
- 1. Suicide – Suicide(1977)
- 2. Suicide – Suicide: Alan Vega and Martin Rev(1980)
- 3. Alan Vega – Alan Vega(1980)
- 4. Cabaret Voltaire – The Crackdown(1983)
- 5. Nine Inch Nails – Pretty Hate Machine(1989)
概要
Suicideの『A Way of Life』は、1988年に発表されたスタジオ・アルバムであり、1977年の衝撃的なデビュー作『Suicide』、1980年のセカンド・アルバム『Suicide: Alan Vega and Martin Rev』を経た後、1980年代後半の電子音楽、インダストリアル、ダンス・ミュージック、オルタナティブ・ロックの空気の中で、彼らの美学が再び姿を現した作品である。Alan Vegaの声とMartin Revの電子音という最小限の編成はそのままに、初期のむき出しの恐怖や暴力性は、より冷たく、より機械的で、より1980年代的な音像へ変化している。
Suicideは、ニューヨークのアンダーグラウンドから現れたデュオであり、ロック・バンドの伝統的な編成を根本から拒否した存在だった。ギター、ベース、ドラムによるパンクではなく、リズムマシン、シンセサイザー、反復する電子音、そしてAlan Vegaの叫び、囁き、ロカビリー的な節回しによって、都市の恐怖と孤独を鳴らした。1977年の『Suicide』は、パンクと同時代にありながら、すでにポストパンク、インダストリアル、ミニマル・シンセ、エレクトロニック・ボディ・ミュージックの未来を先取りしていた。
『A Way of Life』は、その初期の極端なミニマリズムとは異なる感触を持つ。1977年作のような、ほとんど裸のリズムマシンと神経に直接触れるような電子音の暴力に比べると、本作の音は厚みを増し、シンセサイザーのレイヤーもより豊かになっている。80年代後半らしい硬質なドラム・マシン、重いシンセ・ベース、暗いエコー、インダストリアルに近い金属的な質感が、アルバム全体を覆っている。初期Suicideの恐怖が「裸の電球の下で見る悪夢」だとすれば、『A Way of Life』の恐怖は「ネオン、コンクリート、ビデオ、機械化された夜の中で続く悪夢」である。
タイトルの『A Way of Life』は、「ひとつの生き方」と訳せる。Suicideにとって、これは単なるアルバム名ではなく、彼らの存在そのものを表す言葉のように響く。Suicideの音楽は、流行やジャンルに合わせて作られたものではない。彼らにとって、電子音とロックンロールの亡霊、都市の孤独、暴力、欲望、絶望を鳴らすことは、音楽スタイルというより生き方そのものだった。1970年代のニューヨークで始まった彼らの方法論は、1980年代末になってもなお、異物として強い存在感を放っている。
本作の重要な点は、Suicideが1980年代の電子音楽の発展に対して、単に影響を与えた先駆者として留まるのではなく、その時代の音の中に自らを再投入していることである。1980年代には、シンセポップ、ニューウェーブ、インダストリアル、EBM、ダンス・ミュージックが急速に発展した。Depeche Mode、Soft Cell、Cabaret Voltaire、Front 242、Throbbing Gristle以後のインダストリアル勢、さらにはハウスやテクノの初期的な動きが広がる中で、Suicideの先駆性は現実の音楽シーンに追いつかれつつあった。しかし『A Way of Life』は、そうした時代の音を受け止めながらも、Suicide特有の不安定さと狂気を失っていない。
Alan Vegaの歌唱は、本作でも非常に重要である。デビュー作の「Frankie Teardrop」における絶叫のような極限表現に比べると、本作ではより艶やかで、時に甘く、時に呪術的で、時に壊れかけたロカビリー歌手のように響く。Vegaの声には、Elvis PresleyやGene Vincentの影がありながら、それは懐古的なロックンロールではなく、電子音の中で幽霊化された声として現れる。彼は愛を歌っても、救済ではなく危険を感じさせる。欲望を歌っても、快楽ではなく空虚が浮かび上がる。
Martin Revの音作りは、初期よりも重厚で、時にダンス・ミュージックに近い構造を持つ。しかし、そのダンス性は快楽的なクラブ・ミュージックとは異なる。ビートは身体を動かすが、同時に閉じ込める。シンセの反復は高揚を生むが、同時に逃れられない強迫観念のように響く。Revの電子音は、機械的でありながら奇妙に官能的であり、冷たいのに湿度がある。この矛盾がSuicideの音楽の核心である。
『A Way of Life』の歌詞世界には、愛、服従、破壊、信仰、苦しみ、都市的な孤独が含まれる。曲名だけを見ても、「Surrender」「Rain of Ruin」「Sufferin’ in Vain」「Dominic Christ」「Devastation」といった言葉が並び、宗教的・終末的・破滅的なイメージが強い。一方で「Jukebox Baby 96」や「Love So Lovely」のように、ロックンロールやラブソングの甘美な記号も現れる。Suicideは常に、アメリカン・ポップの甘さと都市の悪夢を同時に鳴らすバンドだった。本作でも、その二面性ははっきりと残っている。
1977年の『Suicide』ほど歴史的衝撃を持つ作品ではないとしても、『A Way of Life』はSuicideの美学が80年代後半の音響環境の中でどのように変化したかを示す重要作である。初期作品の剥き出しのミニマリズムを求めると、やや厚く、時代的なプロダクションに感じられるかもしれない。しかし、その厚みは本作の魅力でもある。より深い闇、より大きな機械音、より夜の都市に沈み込むような質感がここにはある。
全曲レビュー
1. Wild in Blue
アルバム冒頭の「Wild in Blue」は、『A Way of Life』の世界へ聴き手を導く楽曲である。タイトルには「青の中で野性的に」というような感覚があり、青は憂鬱、夜、冷たい光、ブルース、都市のネオンを連想させる。Suicideにおける「blue」は、伝統的なブルースの感情を受け継ぎながら、電子音によって冷たく変質したものとして響く。
音楽的には、重いシンセサイザーとリズムマシンが作る暗いグルーヴが中心にある。初期Suicideの極端に削ぎ落とされた音よりも、サウンドには厚みがあり、80年代後半のインダストリアル/シンセロック的な質感が強い。ビートは機械的だが、完全に無機質ではない。むしろ、都市の深夜に脈打つ不穏な生命のように響く。
Alan Vegaのヴォーカルは、低く、湿り気を帯び、時に甘く、時に危険である。彼は言葉を明瞭に物語るというより、音の中に身体を投げ込むように歌う。「Wild in Blue」というタイトルが示すように、ここでの感情は整理されたものではない。憂鬱の中で暴れ、冷たい音の中で欲望が蠢く。
この曲の重要な点は、Suicideがブルースやロックンロールの感情を電子音へ置き換える方法を、80年代的な音像の中で更新していることである。ブルースはギターで鳴らされる必要はない。悲しみや欲望が反復するビートとシンセのうねりの中に宿るなら、それもまたブルースである。「Wild in Blue」は、その認識を示す楽曲である。
アルバムの冒頭に置かれることで、この曲は『A Way of Life』が単なる復帰作や過去の延長ではなく、Suicideの暗いロマンティシズムを新しい音で提示する作品であることを告げている。
2. Surrender
「Surrender」は、タイトル通り「降伏」「身を委ねること」をテーマにした楽曲である。Suicideの音楽において、降伏とは単純な敗北ではない。それは愛、欲望、暴力、信仰、機械的なリズム、都市の圧力に身を委ねることでもある。この曲では、支配と解放、服従と快楽の境界が曖昧になる。
音楽的には、重く反復するビートとシンセサイザーが曲を支配している。リズムは安定しているが、その安定は安心ではなく、逃れられない拘束のように響く。Suicideのビートは、ダンス・ミュージックに近づく瞬間があっても、完全な快楽には向かわない。身体を動かしながら、同時に不安を増幅させる。
Alan Vegaの歌唱は、タイトルの言葉にふさわしく、誘惑と脅迫の中間にある。彼の声は、相手に降伏を迫っているようでもあり、自分自身が何かに屈しているようでもある。この二重性が曲の魅力である。Vegaは常に、支配者と被支配者、誘惑者と犠牲者、ロックンロールのスターと路上の亡霊の間を揺れ動く。
歌詞の面では、愛や欲望に身を任せることが、救済ではなく危険な行為として響く。通常のポップソングでは、「surrender」は愛に身を任せるロマンティックな言葉として使われることが多い。しかしSuicideの場合、その言葉には自己喪失や破滅の気配がある。身を委ねることは、自由になることではなく、何かに取り込まれることでもある。
「Surrender」は、『A Way of Life』における官能性と不穏さを象徴する楽曲である。電子音の冷たさの中に、肉体的な欲望が入り込み、その欲望は甘美であると同時に危険である。Suicideのラブソングが決して安心できない理由が、この曲にはよく表れている。
3. Jukebox Baby 96
「Jukebox Baby 96」は、Suicideのロックンロールへの歪んだ愛情が強く表れた楽曲である。タイトルにある「Jukebox Baby」は、1950年代のロックンロール、ドゥーワップ、青春文化、古いダイナーやバーのジュークボックスを連想させる。しかしSuicideはその懐かしいイメージを、素朴なノスタルジーとして扱わない。ここでのジュークボックスは、過去のポップ・ミュージックの記憶が機械の中で反復され続ける装置である。
音楽的には、軽快さと不気味さが共存する。リズムは比較的キャッチーで、Vegaのヴォーカルにもロカビリー的な甘さがある。しかし、その背後で鳴るシンセサイザーと電子的な質感が、曲を古いロックンロールの再現ではなく、未来的な亡霊のような音に変えている。まるで1950年代の青春歌謡が、1980年代の冷たい機械を通じて蘇ったような感覚がある。
Alan Vegaは、ロックンロールの歌手としての自分を完全には捨てていない。むしろ、彼の声にはElvis的な艶、Gene Vincent的な危うさ、街角の不良少年の甘さが残っている。しかし、その声はSuicideの電子音の中で、常に壊れ、歪み、幽霊化される。「Jukebox Baby 96」は、その構造を非常に分かりやすく示す曲である。
歌詞の主題は、ポップ・ソングの中の恋人像や、ジュークボックスから流れる甘い音楽への執着として読める。だが、その甘さは完全には信じられない。ジュークボックスは同じ曲を何度も再生する。つまり、記憶や欲望もまた反復される。過去のロックンロールは終わったのではなく、機械の中で終わらないループになっている。
この曲は、Suicideの音楽が単なる未来志向の電子音楽ではないことを示している。彼らは過去のアメリカン・ポップを深く愛しながら、それをそのまま保存するのではなく、都市の悪夢と機械音の中で変形させる。「Jukebox Baby 96」は、ロックンロールの亡霊に捧げられた、冷たく甘いダンス曲である。
4. Rain of Ruin
「Rain of Ruin」は、タイトルからして終末的なイメージを持つ楽曲である。「破滅の雨」と訳せるこの言葉は、都市に降り注ぐ毒、戦争、崩壊、精神的な荒廃、あるいは内面に降り続ける絶望を連想させる。Suicideの世界では、雨は浄化ではなく、破壊の感触を帯びる。
音楽的には、暗く重いシンセサイザーの層と、規則的なビートが中心にある。曲全体には閉塞感があり、空から何かが降り続けるような圧力がある。リズムは進んでいるが、どこか同じ場所に閉じ込められているようにも感じられる。この感覚はSuicideの反復美学の核心である。
Alan Vegaの声は、ここでは預言者のようにも、破滅を目撃する人物のようにも響く。彼は破滅を説明するのではなく、その中から声を発している。歌唱には緊張と疲労があり、雨に打たれながら叫ぶような感覚がある。Vegaのヴォーカルは常に、具体的な物語と抽象的な感情の中間にある。
歌詞の面では、破滅は外部から来るものでもあり、内側から湧き上がるものでもある。都市の崩壊、社会の暴力、個人の精神的な破綻が重なっている。Suicideの曲では、外の世界と内面がしばしば区別できない。「Rain of Ruin」でも、破滅の雨は街に降っているのか、語り手の頭の中に降っているのか、はっきりしない。
この曲は、『A Way of Life』の中でも特にインダストリアルに近い感触を持つ。機械的な反復、暗い終末感、金属的な音色が、1980年代後半の冷戦後期的な不安や都市の荒廃を思わせる。Suicideが初期に描いたニューヨークの悪夢は、ここではより大きな破滅の風景へ広がっている。
「Rain of Ruin」は、アルバムの暗い中核をなす楽曲である。甘いロックンロールの記憶やラブソングの形がある本作の中で、この曲は世界そのものが壊れていく感覚を強く示している。
5. Sufferin’ in Vain
「Sufferin’ in Vain」は、タイトルが示す通り、無駄な苦しみ、報われない痛みを扱った楽曲である。「苦しむこと」はブルースやゴスペル、カントリー、ロックンロールの伝統において中心的な主題であるが、Suicideはそれを電子音と反復の中に置き換える。ここでは、苦しみは感情的な嘆きであると同時に、機械的に続く状態でもある。
音楽的には、暗いグルーヴと重いシンセが中心で、曲はじわじわと進む。テンポは速くないが、一定の圧力を持っている。ビートは、痛みが止まらず続いていくことを示すように反復される。Suicideにおいて、反復は快楽であると同時に苦行でもある。
Alan Vegaの歌唱には、ブルース的な呻きがある。ただし、それは伝統的なブルースの形式ではなく、電子音の中で断片化された苦しみとして現れる。彼の声は、時に甘く、時にかすれ、時に壊れかける。苦しみを大きなメロディで昇華するのではなく、むき出しの状態で音の中に残す。
歌詞では、苦しみが報われないことへの虚無が示される。宗教的な世界観では、苦しみには意味や救済が与えられることがある。しかし「in vain」という言葉は、その意味づけを拒否する。苦しんでも救われない。耐えても報われない。Suicideの世界において、痛みは必ずしも浄化へ向かわない。
この曲は、Suicideのブルース性を理解するうえで重要である。彼らはギター・ブルースを演奏しているわけではないが、苦しみ、反復、孤独、救済の不在という点で、非常に深いブルースの精神を持っている。「Sufferin’ in Vain」は、その電子化されたブルースと呼べる楽曲である。
6. Dominic Christ
「Dominic Christ」は、宗教的なイメージと個人的な名前が結びついた、非常にSuicideらしい不穏な楽曲である。タイトルには「Christ」という語が含まれており、キリスト、殉教、救済、罪、犠牲を連想させる。一方で「Dominic」という具体的な名前が加わることで、それは抽象的な宗教概念ではなく、都市の中にいる一人の人物、あるいはVegaの頭の中の聖者/亡霊のように響く。
音楽的には、重く、呪術的な雰囲気が強い。ビートは儀式のように反復され、シンセサイザーは暗い空間を作る。曲全体に宗教的な緊張感があり、教会の荘厳さではなく、地下室で行われる異端の儀式のような感触がある。
Alan Vegaの声は、祈りと叫びの間にある。彼は「Christ」という言葉の持つ宗教的な重みを、正統な信仰の言葉としてではなく、都市の狂気の中で変形されたシンボルとして扱う。Vegaにとってキリスト的なものは、救済の約束であると同時に、苦痛、血、犠牲、幻覚の象徴でもある。
歌詞の内容は断片的で、明確な物語として整理するよりも、宗教的なイメージの連鎖として聴くべき曲である。Suicideの音楽では、宗教はしばしば救いよりも強迫観念として現れる。祈りは安心ではなく、むしろ恐怖を増幅する。「Dominic Christ」もその例であり、神聖な言葉が電子音の暗闇の中で不気味に響く。
この曲は、『A Way of Life』の中でも特に精神的・宗教的な深みを持つ。Suicideの都市的な悪夢は、単なる社会的荒廃だけではなく、救済を求めても届かない魂の苦しみを含んでいる。「Dominic Christ」は、その宗教的な闇を象徴する楽曲である。
7. Love So Lovely
「Love So Lovely」は、タイトルだけを見ると非常に甘く、美しいラブソングのように思える。実際、この曲にはSuicide特有のロマンティックな側面が表れている。しかし、彼らのラブソングは常に不安定で、甘美さの中に空虚や危険が潜む。「Love So Lovely」という言葉は、美しい愛への憧れであると同時に、その美しさが現実には壊れやすいことを示している。
音楽的には、本作の中でも比較的柔らかい質感を持つ。シンセサイザーは冷たいが、メロディには甘さがあり、Alan Vegaの歌唱もどこか優しさを帯びている。初期の「Cheree」に通じる、ロックンロール/ドゥーワップ的なラブソングの影が感じられる。ただし、その音は完全に電子化され、過去の甘いポップの亡霊のように響く。
歌詞では、美しい愛への呼びかけが繰り返される。しかし、Suicideの世界では、愛は安定した関係や幸福を保証しない。むしろ、愛は執着、幻想、記憶、喪失と結びつく。美しい愛は、手の届かない場所にあるからこそ美しいのかもしれない。この曲には、その届かなさが漂っている。
Alan Vegaの声は、ここで非常に重要な役割を果たす。彼の歌唱には甘さがあるが、同時に壊れた感じがある。彼が愛を歌うとき、その愛は純粋な幸福ではなく、都市の夜に響く孤独な声になる。相手に届いているのか、それとも自分自身の幻想に向かって歌っているのか分からない。この曖昧さが、Suicideのラブソングの魅力である。
「Love So Lovely」は、『A Way of Life』の中で一時的に光を感じさせる曲である。しかし、その光は暖かい太陽ではなく、暗い部屋の中で光るネオンのようなものだ。美しいが、冷たく、少し不気味である。Suicideのロマンティシズムがよく表れた楽曲である。
8. Devastation
アルバムを締めくくる「Devastation」は、タイトル通り「荒廃」「壊滅」を意味する楽曲であり、『A Way of Life』全体の終末感を集約するような終曲である。Suicideにとって荒廃とは、都市の風景であり、精神状態であり、愛の結末であり、アメリカン・ドリームの崩壊でもある。この曲は、そのすべてを暗い電子音の中に沈めていく。
音楽的には、重く、暗く、終曲にふさわしい圧力を持つ。リズムは機械的に進み、シンセサイザーは広い荒地のような空間を作る。曲には大きな解放やカタルシスはない。むしろ、荒廃した世界がそのまま続いていくような感覚がある。終わりでありながら、終わらない反復の中に置かれている。
Alan Vegaの声は、疲れ、怒り、諦め、呪詛のような響きを持つ。彼は荒廃を外から観察するのではなく、その中に立って歌っている。Suicideのヴォーカルは常に、都市の廃墟の中から聞こえる生身の声として存在する。「Devastation」でも、その声は破壊された風景の最後の残響のように響く。
歌詞の面では、破壊や喪失が中心にある。だが、この曲は単に絶望を歌うだけではない。Suicideにとって、荒廃は終わりであると同時に、彼らの音楽が生まれる場所でもある。壊れた都市、壊れた愛、壊れた身体、壊れたロックンロール。その残骸の中から、Suicideの音は立ち上がる。
「Devastation」は、『A Way of Life』を締めくくるにふさわしい楽曲である。本作は、愛、降伏、苦しみ、宗教的な幻覚、ロックンロールの亡霊を通って、最後に荒廃へ至る。しかし、それは単なる破滅ではない。荒廃こそがSuicideの生きる場所であり、彼らの音楽の原風景である。
総評
『A Way of Life』は、Suicideのディスコグラフィーにおいて、1977年のデビュー作ほどの歴史的衝撃を持つ作品ではないかもしれない。しかし、それは本作の価値を下げるものではない。むしろ本作は、Suicideの美学が1980年代後半の電子音楽環境の中でどのように変化し、なおも異様な力を保ち続けたかを示す重要なアルバムである。
1977年の『Suicide』は、極端に削ぎ落とされたリズムマシンとシンセ、そしてAlan Vegaの声によって、ロックンロールを電子的な悪夢へ変えた。『A Way of Life』では、その方法論がより厚いサウンド、より重いビート、よりインダストリアルな質感の中へ置き換えられている。音は時代の影響を受けているが、中心にある不安、孤独、暴力、ロマンティシズムは変わっていない。
本作の魅力は、冷たさと官能性の同居にある。Martin Revの電子音は機械的で無機質に聴こえるが、そこには奇妙な熱がある。Alan Vegaの声は壊れていて、危険で、時に滑稽で、時に美しい。彼が「Surrender」や「Love So Lovely」を歌うとき、愛は救済ではなく、都市の闇の中で発火する危険な感情になる。Suicideの音楽では、機械と肉体、冷たさと欲望が常にぶつかり合っている。
歌詞の面では、本作は破滅的なイメージに満ちている。「Rain of Ruin」「Sufferin’ in Vain」「Dominic Christ」「Devastation」といった曲名が示すように、ここには苦しみ、宗教的な不安、崩壊、荒廃がある。一方で、「Jukebox Baby 96」や「Love So Lovely」のように、古いロックンロールやラブソングへの愛も残っている。この甘さと破滅の並存こそが、Suicideの本質である。彼らはアメリカン・ポップを嫌悪していたのではない。むしろ深く愛していたからこそ、その裏側の悪夢を暴き出した。
『A Way of Life』は、1980年代のインダストリアルやシンセポップの文脈とも強く関係している。初期Suicideが後続の電子音楽に与えた影響が、ここでは逆に時代の音としてSuicideに戻ってきているように聴こえる。Cabaret Voltaire、Soft Cell、Depeche Mode、Front 242、Nine Inch Nailsへ向かう流れの中で、本作はSuicideがなおも独自の立場にいたことを示す。彼らはシーンに溶け込むのではなく、常にシーンの外側から不気味に響く存在だった。
また、本作はAlan Vegaのロカビリー的な歌唱とMartin Revの電子音の関係が、より成熟した形で現れている作品でもある。Vegaの声は過去のロックンロールを呼び戻すが、Revの音はその過去を冷たい未来へ押し込む。両者の間には常に緊張がある。人間の声は機械に飲み込まれそうになりながら、なおも叫び、囁き、誘惑する。この緊張がSuicideの音楽を唯一無二にしている。
日本のリスナーにとって『A Way of Life』は、まず1977年の『Suicide』を聴いた後に触れると、その変化が分かりやすい作品である。デビュー作の剥き出しの恐怖に比べると、本作はより音が厚く、時代的なプロダクションを持つため、入り口としては少し聴きやすい部分もある。しかし、歌の底にあるものは依然として危険である。これはポップ化したSuicideではなく、80年代の闇を吸収したSuicideである。
本作のタイトルが示す「A Way of Life」は、Suicideの音楽そのものをよく表している。彼らにとって、電子音でロックンロールを破壊し、都市の孤独を歌い、愛を不安へ変え、機械のビートに身体を投げ込むことは、単なる音楽スタイルではなく、生き方だった。流行が変わっても、彼らの音は常に異物であり続けた。
総じて『A Way of Life』は、Suicideの後期的な魅力を理解するうえで重要なアルバムである。『Suicide』の歴史的な衝撃、『Suicide: Alan Vega and Martin Rev』の冷たいポップ性を経て、本作では80年代後半の重い電子音と、Vega/Revの根源的な不穏さが結びついている。破滅の雨が降り、無駄な苦しみが続き、ジュークボックスの亡霊が鳴り、最後には荒廃が残る。それでも、その荒廃の中で鳴り続けることこそが、Suicideの生き方なのである。
おすすめアルバム
1. Suicide – Suicide(1977)
Suicideのデビュー作であり、シンセパンク、ポストパンク、インダストリアルの原点の一つである。リズムマシンとシンセサイザー、Alan Vegaの絶叫によって、ロックンロールを都市の悪夢へ変えた歴史的作品である。『A Way of Life』の根源にある恐怖とミニマリズムを理解するには必聴である。
2. Suicide – Suicide: Alan Vega and Martin Rev(1980)
セカンド・アルバムであり、デビュー作の荒々しいミニマリズムから、より冷たいシンセポップ的な音像へ接近した作品である。Ric Ocasekのプロダクションもあり、Suicideの中では比較的整ったサウンドを持つ。『A Way of Life』へ向かう中間地点として重要である。
3. Alan Vega – Alan Vega(1980)
Alan Vegaのソロ作品であり、彼のロカビリー、ロックンロール、電子音への関心がより明確に表れたアルバムである。SuicideにおけるVegaの声の背景、特にElvis的な甘さと都市的な狂気の結びつきを理解するうえで重要である。
4. Cabaret Voltaire – The Crackdown(1983)
インダストリアル、エレクトロニック・ファンク、ポストパンクを結びつけた重要作である。Suicideの電子的な反復と都市的な不穏さが、80年代のよりダンサブルで政治的な音へ展開された例として聴くことができる。『A Way of Life』の時代的な背景とも響き合う。
5. Nine Inch Nails – Pretty Hate Machine(1989)
インダストリアル、シンセポップ、ロックの感情表現を結びつけた作品であり、Suicide以後の電子的な苦痛の表現をメインストリームに近い形へ押し広げたアルバムである。『A Way of Life』にある機械的なビート、孤独、欲望、破壊の感覚と強く関連している。



コメント