アルバムレビュー:Down in Albion by Babyshambles

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発売日: 2005年11月14日
ジャンル: ガレージロック、インディーロック、ポストパンク・リバイバル


壊れゆくユートピアの断片——反逆と陶酔のドキュメント

Down in Albionは、元The Libertinesのフロントマン、Pete Doherty率いるBabyshamblesによるデビューアルバムである。
解散寸前のリバティーンズから飛び出した彼が、混沌と破滅の渦中で作り上げたこの作品には、英国ロックの伝統と反抗、そして退廃の美学が詰まっている。

The ClashのMick Jonesをプロデューサーに迎え、ノイジーで荒削りなサウンドと生々しい歌詞が交錯する本作は、スタジオアルバムというよりも、一人の青年の痛ましい青春日記のようだ。
ロックの理想郷“アルビオン”を夢見つつ、そこから堕ちていく過程が赤裸々に綴られている。


全曲レビュー

1. La Belle et la Bête

フランス語のタイトルは「美女と野獣」。
ウィスパーとラップのような語りが交差し、カオティックなビートが始まりを告げる。
Kate Mossがゲスト参加したことでも話題となった。幻想と現実が入り混じる一曲。

2. Fuck Forever

本作の代表曲にして、Babyshamblesのアンセム。
「永遠なんてクソくらえ」と歌うこの曲は、若者の刹那的な怒りと希望のなさを象徴している。
ラフで攻撃的なギターリフと、ピートの酩酊したヴォーカルが印象的だ。

3. A’Rebours

フランス文学の『さかしま』を想起させるタイトル。
幻覚的なギターと、くぐもったメロディにより、聴き手を不安定な精神世界へ誘う。

4. The 32nd of December

時系列すらも破壊されたような架空の日付。
軽やかなテンポの裏で、壊れかけた関係性や自己破壊の兆候が描かれている。

5. Pipedown

怒りと皮肉に満ちたショートナンバー。
クラッシュを思わせるアジテーションと、パンクの初期衝動がそのまま息づいている。

6. Sticks and Stones

「言葉なんか怖くない」という童謡的フレーズを反復しつつ、むしろ言葉に傷つき続ける自分を皮肉るような一曲。
破れたメロディラインが哀しみを際立たせる。

7. Killamangiro

スラングや造語を交えたタイトルはピートらしいセンス。
中毒的なリフと不協和音が生み出す混乱が、逆に快楽的に作用している。

8. 8 Dead Boys

「8人の死んだ少年たち」という禍々しいイメージを投げかける曲。
死と幻想が交錯する退廃のバラッドで、聴き手を深い闇へと導いていく。

9. In Love with a Feeling

陶酔と愛の区別がつかないまま、感情に溺れていく男の独白。
シンプルなコード進行が、逆に内省の深さを引き立てている。

10. Pentonville

刑務所名にちなんだタイトルで、実際にピートが収監されていた経験を反映している。
レゲエ調のリズムが皮肉に響く、自由への希求とその反転。

11. What Katy Did Next

The Libertinesの同名曲「What Katie Did」の続編的トラック。
過去との対話と、進めない現在地に対する苛立ちが滲み出る。

12. Albion

本作の核心とも言える名曲。
英国のユートピア“アルビオン”を旅するような幻想的な歌詞が展開される。
ピートの詩的資質が最も発揮された瞬間であり、彼の心の地図そのものだ。

13. Back from the Dead

死からの復活をテーマにしながらも、その語り口は曖昧で不確か。
夢の中で生き延びるような、うつろな感覚が続く。

14. Loyalty Song

忠誠心をテーマにしつつも、裏切りや孤独と隣り合わせの感情が綴られる。
親密でいて不安定、愛を信じられない心情が露わになる。

15. Up the Morning

酔い覚めの朝に差し込む不確かな光のような楽曲。
サイケデリックな余韻が、夜の終わりと新たな迷いを示している。

16. Merry Go Round

子供の遊具のようなタイトルとは裏腹に、同じ過ちを繰り返す大人たちのメタファー。
堂々巡りする人生への皮肉が漂っている。


総評

Down in Albionは、ピート・ドハーティの文学的センスと破滅願望がせめぎ合う、危うさの塊のような作品である。
その雑多な構成、録音の粗さ、精神的な脆さすらも、すべてがこのアルバムの魅力なのだ。

ガレージロック・リバイバルという流れの中でも異彩を放つこの一作は、「完成されたロックアルバム」ではない。
むしろ、壊れかけの美しさをそのまま封じ込めた“ロックンロールの残響”なのかもしれない。

退廃、皮肉、幻想、そして詩情。
それらが複雑に絡み合った本作は、リスナーにとって一筋縄ではいかないが、確実に記憶に残る体験となるだろう。


おすすめアルバム

  • The LibertinesThe Libertines
    ピート・ドハーティとカール・バラーの共同体制最後のアルバム。混沌と美学の原点。
  • The ClashSandinista!
    Mick Jonesが関わったもう一つの実験的3枚組作品。政治性と音楽性の混交。
  • The Pogues – Rum Sodomy & the Lash
    アルコールと歴史、アイリッシュフォークが交差する退廃美の傑作。
  • Julian Cope – Fried
    精神世界を旅するような奇妙なソロ作品。ピートと通じる狂気と美意識がある。
  • The Brian Jonestown Massacre – Give It Back!
    DIY精神と退廃美を共に抱えるカルト的バンドの重要作。

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