
発売日: 1994年10月10日
ジャンル: ブリットポップ、グラムロック、アートロック
壮大なる狂気と美――Suedeが辿り着いた芸術的傑作
1994年にリリースされた『Dog Man Star』は、Suedeの2作目のスタジオアルバムであり、バンドのキャリアにおいて最もドラマチックで芸術性の高い作品とされている。退廃的で耽美な世界観、オーケストレーションを取り入れた壮大なアレンジ、ブレット・アンダーソンの激情的なボーカル、バーナード・バトラーの最後の参加作品としての激情溢れるギタープレイが渾然一体となり、ブリットポップの枠を超えた芸術的な作品へと昇華している。
本作の制作中、バーナード・バトラーとブレット・アンダーソンの関係は悪化し、バトラーはアルバム完成前にバンドを脱退。しかし、その葛藤や緊張感がアルバム全体に強く反映されており、破壊と創造が同居する壮絶な作品となった。商業的には前作ほどの成功を収めなかったが、Suede史上最も評価の高いアルバムとして今なお語り継がれている。
全曲レビュー
1. Introducing the Band
アルバムの幕開けを飾るミステリアスなイントロダクション。サイケデリックなギターと不穏なムードが、これから始まる物語の異様さを予感させる。
2. We Are the Pigs
政治的なメッセージと退廃的なムードが融合した楽曲。重厚なギターと暴力的なイメージの歌詞が、社会の崩壊と混沌を描き出す。バーナード・バトラーのギターリフが炸裂し、バンドの緊張感を映し出している。
3. Heroine
シアトリカルなアレンジが光る一曲。グラムロック的な華やかさと、ドラマチックな展開が特徴的で、アンダーソンの妖艶なボーカルが際立つ。
4. The Wild Ones
本作の中でも最も美しいバラード。切なくも壮大なメロディが際立ち、バーナード・バトラーのギターが楽曲の情感を高める。Suedeのキャリアの中でも屈指の名曲とされる。
5. Daddy’s Speeding
幻想的でダークな雰囲気の楽曲。ジェームズ・ディーンの死をテーマにし、映画のワンシーンのような詩的な世界観が広がる。
6. The Power
ピアノを基調とした楽曲で、優雅な雰囲気が漂う。『Dog Man Star』の中では比較的穏やかな曲だが、歌詞には権力や抑圧への反抗心が込められている。
7. New Generation
比較的ポップな楽曲で、前作『Suede』の流れを受け継ぐナンバー。若者たちの反抗と解放の瞬間を描いたエネルギッシュな楽曲。
8. This Hollywood Life
バーナード・バトラーのギターが暴れまわる、攻撃的でカオスなロックナンバー。グラムロックの影響が色濃く、スリリングなサウンドが展開される。
9. The 2 of Us
オーケストラを導入した壮大なバラード。ドラマチックな展開とアンダーソンの繊細な歌唱が胸を打つ。アルバムの中でも最もエモーショナルな楽曲のひとつ。
10. Black or Blue
退廃的でミニマルなアレンジが特徴の楽曲。アンダーソンの叙情的なボーカルが、楽曲全体の儚さを際立たせる。
11. The Asphalt World
全長9分を超える壮大な組曲。バーナード・バトラーのギターが炸裂し、アルバムのクライマックスとして機能する。Suede史上最も壮絶な楽曲の一つであり、バーナード・バトラーのギターワークの集大成とも言える。
12. Still Life
アルバムのラストを飾る、オーケストラを大胆に導入した壮大なバラード。映画のエンディングのような感動的な雰囲気を持ち、アルバム全体のテーマを締めくくる。
総評
『Dog Man Star』は、Suedeの最も野心的で芸術的な作品であり、90年代のUKロックの中でも屈指の傑作として高く評価されている。バンド内部の葛藤や緊張感がそのまま音楽へと昇華され、破滅的でありながらも美しい世界観が確立されている。
バーナード・バトラーのギターとブレット・アンダーソンのボーカルの組み合わせは、このアルバムをもって最高潮に達し、その後バトラーは脱退。しかし、そのことが逆に『Dog Man Star』を伝説的な作品へと押し上げた。
商業的な成功よりも芸術性を追求した、Suedeにとっての最高傑作であり、90年代UKロックの中でも異彩を放つアルバム。
おすすめアルバム
- Suede – Suede (1993)
- デビュー作であり、Suedeのグラムロック的要素が強く表れたアルバム。
- David Bowie – Diamond Dogs (1974)
- 退廃的でドラマチックな作風が共通する、Suedeのルーツとも言えるアルバム。
- Pulp – His ‘n’ Hers (1994)
- Suedeと同時期に登場したブリットポップバンドの作品で、華やかで退廃的な作風が共鳴する。
- Radiohead – The Bends (1995)
- より深みのあるオルタナティブロックを求めるならこのアルバムも必聴。
- The Smiths – Strangeways, Here We Come (1987)
- Suedeの叙情的なメロディと詩的な歌詞のルーツを感じる作品。
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- Suedeの叙情的なメロディと詩的な歌詞のルーツを感じる作品。
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