アルバムレビュー:Do the Collapse by Guided by Voices

発売日: 1999年8月3日
ジャンル: インディーロック、パワーポップ、オルタナティブ・ロック


崩壊するのは誰?——ローファイからHi-Fiへ飛び込んだGBV最大の賭け

『Do the Collapse』は、Guided by Voicesが1999年にリリースした通算11作目のアルバムにして、
メジャー感とスタジオ・プロダクションの極致を追求した、“Hi-Fi GBV”の代表作である。

プロデューサーにはリック・オケイセック(The Carsを迎え、
過去のローファイ美学から一転、クリアで力強いミックスとアレンジが前面に押し出された。
結果としてこの作品は、
ファンの間でも賛否が大きく分かれる“問題作”として知られる一方、
ポラードのメロディメーカーとしての才能を最大限に引き出した傑作としても評価されている。

タイトル「Do the Collapse(崩壊をやってみろ)」は、
まるで自らを壊しながら、再構築を図る意思表明のようでもある。


全曲レビュー

1. Teenage FBI

冒頭から轟音ギターとポップなメロディが炸裂するシングル曲。
“10代のFBI”という謎の比喩を通して、
思春期の不安や社会の監視といったモチーフが遊び心とともに描かれる。
ライヴでも長く愛されるGBVの新時代アンセム。

2. Zoo Pie

重厚なギターとノイズが混ざり合う、ややサイケ気味のポップロック。
“動物園のパイ”という夢とも悪夢ともつかないイメージがGBVらしい。

3. Things I Will Keep

リフレインを基調にしたシンプルながら印象的な一曲。
“手放さないもの”を静かに数えるような歌詞が、内省的な余韻を残す。

4. Hold on Hope

本作を代表するバラードで、テレビドラマなどでも使われたことで知られる。
“希望にしがみつけ”というストレートなメッセージが、ポラード作品としては異例の明快さを帯びている。
シリアスな空気の中にも、GBVの本質的な優しさがにじむ。

5. In Stitches

繊細なメロディと壮麗なアレンジが融合する中盤のハイライト。
“縫い目の中で”というタイトルが暗示する通り、崩れそうなものを必死につなぎ止めるような切実さがある。

6. Dragons Awake!

疾走感あるリズムに乗って“ドラゴンが目覚める”というイメージを高らかに歌い上げる。
ファンタジックな語彙が炸裂しつつも、どこか戦意と混乱が交差するような熱量を感じさせる。

7. Surgical Focus

静かに始まり、徐々に高揚する構成が美しい名曲。
“外科的集中”という不可思議なタイトルは、
感情を精密に操作するような距離感と近さの同居を感じさせる。

8. Optical Hopscotch

タイトルからしてポラード節全開の抽象的イメージ。
ギターの跳ねるようなサウンドが、まさに“視覚的ケンケンパ”を思わせるポップな一曲。

9. Mushroom Art

短くも濃密なサイケデリック・トラック。
“キノコの芸術”という響きからは、60年代の幻覚とDIY精神が連想される。

10. Much Better Mr. Buckles

ノイジーかつグルーヴィーなロックチューン。
“ミスター・バックルズ”というキャラクターが何者かは不明だが、
その正体不明性こそがGBVらしい魅力の一端でもある。

11. Liquid Indian

不穏で湿度の高いサウンド。
水と記憶、曖昧さが絡まりあうような感触をもたらす、中毒性あるスロートラック。

12. Wrecking Now

破壊的なイメージを持ちながら、メロディは穏やか。
壊しながらも作り続ける——本作全体のテーマを体現するような一曲。

13. Picture Me Big Time

終盤のカタルシスとして機能する、壮大なサウンドスケープ。
“自分を巨大に想像してくれ”という願望と、
それに対する自嘲が混ざった、愛すべきエゴの歌。

14. An Unmarketed Product

アウトロ的な小曲。
商品化されなかったもの、つまり“売れない音楽”の美しさに捧げられたようなメッセージが込められている。


総評

『Do the Collapse』は、Guided by Voicesが自らのDIY神話をいったん壊して、ポップとロックの王道に突入したアルバムである。
その選択は、かつてのファンを戸惑わせた一方で、
ポラードのメロディと詞の才能を“ロックバンド”として最大化する手法として、極めて正しかった。

“崩壊”とは、終わりではなく、再構築の始まり
“壊れることを恐れずに前に進む”という態度こそ、まさにGBVの精神そのものなのだ。

もしあなたがこのアルバムを嫌うなら、それでもいい。
でも、もし心の奥に小さな希望があるのなら——
『Do the Collapse』は、あなたの耳元でささやくだろう。
“Hold on hope.”


おすすめアルバム

  • Isolation Drills』 by Guided by Voices
     さらに完成度を高めた“Hi-Fi GBV”の傑作。より重厚かつシリアスな一枚。

  • Keep It Like a Secret』 by Built to Spill
     構築されたギターサウンドと内省的リリックが近似。

  • Pinkerton』 by Weezer
     パワーポップとローファイの間で揺れる情動の名盤。

  • 『The Sophtware Slump』 by Grandaddy
     テクノロジーと人間性、夢と廃墟の共存。GBVの詩世界に通じる。

  • Perfect from Now On』 by Built to Spill
     緻密で情熱的なギター・ロック。『Do the Collapse』のアートロック的側面と共鳴。

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