
発売日:1979年5月18日 / ジャンル:ニューウェイヴ、パブ・ロック、ファンク、ディスコ、ロック、ポストパンク
- 概要
- 全曲レビュー
- 1. Inbetweenies
- 2. Quiet
- 3. Don’t Ask Me
- 4. Sink My Boats
- 5. Waiting for Your Taxi
- 6. This Is What We Find
- 7. Uneasy Sunny Day Hotsy Totsy
- 8. Mischief
- 9. Dance of the Screamers
- 10. Lullaby for Franci/es
- 11. If I Was with a Woman
- 12. What a Waste
- 総評
- おすすめアルバム
- 1. Ian Dury – New Boots and Panties!!
- 2. Ian Dury & The Blockheads – Laughter
- 3. The Blockheads – Staring Down the Barrel
- 4. Talking Heads – Fear of Music
- 5. The Clash – London Calling
- 関連レビュー
概要
Ian Dury & The Blockheadsの『Do It Yourself』は、1979年の英国音楽シーンにおいて、パンク以後の自由な混成感覚を非常にユニークな形で示したアルバムである。Ian Duryは、パブ・ロックからパンク/ニューウェイヴへと続く英国ロックの流れの中で、特異な存在だった。彼は典型的なロック・スターの声や佇まいを持っていたわけではない。むしろ、ミュージックホール、ロンドンの下町言葉、猥雑なユーモア、身体的な不自由さ、鋭い観察眼、労働者階級的な言葉遣いを武器に、ロック、ファンク、ジャズ、レゲエ、ディスコを横断するバンド・サウンドの上で、半ば語り、半ば歌うような独自の表現を作り上げた。
前作『New Boots and Panties!!』は、Ian Duryの個性を決定づけた作品であり、「Sex & Drugs & Rock & Roll」「Sweet Gene Vincent」「Wake Up and Make Love with Me」などを通じて、彼の毒気、ユーモア、身体性、言語感覚を強烈に提示した。『Do It Yourself』は、その成功を受けて制作された2作目であり、The Blockheadsというバンドの演奏力とグルーヴがさらに前面へ出た作品である。前作がIan Duryという人物のキャラクターを強く押し出したアルバムだとすれば、本作はよりバンド・アルバムとしての性格が濃い。
The Blockheadsは、単なる伴奏バンドではない。Chaz Jankelの作曲/鍵盤/ギター、Norman Watt-Royの驚異的なベース、Mickey Gallagherの鍵盤、John Turnbullのギター、Charley Charlesのドラム、Davey Payneのサックスが絡み合い、非常に柔軟で高い演奏力を持つファンク/ロック・バンドとして機能している。彼らの音楽はパンク以後の短絡的な単純化とは対照的に、細かいグルーヴ、ジャズ的なコード感、ディスコ的な持続力、レゲエやラテンのリズム感を含んでいる。それでも過剰に技巧的に聞こえないのは、Ian Duryの生々しい語り口と下世話な言葉が、音楽を常にストリートの感覚へ引き戻すからである。
アルバム・タイトル『Do It Yourself』は、DIY精神を示す言葉である。1970年代後半の英国パンクにおいて、DIYは非常に重要なキーワードだった。大手レコード会社や音楽産業に頼らず、自分たちで演奏し、録音し、リリースし、表現する姿勢が、パンク以後の文化を形作った。しかしIan Dury & The Blockheadsの『Do It Yourself』は、粗削りな3コード・パンクの宣言ではない。むしろ、音楽的には非常に洗練されている。ここでのDIYは、単に技術を否定することではなく、自分たちのやり方で混ぜ合わせること、自分たちの言葉で語ること、他人の型にはまらないことを意味している。
本作のもう一つの特徴は、アルバム・ジャケットの仕様である。初回盤では壁紙メーカーCrown Wallpaperの実際の壁紙デザインを使った多数のバリエーションが存在したことで知られる。この発想は、タイトルの「Do It Yourself」とも密接に結びついている。家の壁紙を自分で貼るような日常的なDIY感覚と、ロック・アルバムのパッケージが重ねられているのである。これはIan Duryらしい、洒落と庶民的な感覚の融合でもある。
音楽的には、『Do It Yourself』はファンク色が非常に強い。特にNorman Watt-Royのベースは、本作の主役の一つである。太く、跳ね、細かく動きながら、曲全体を引っ張る。その上に、ギター、キーボード、サックスが絡み、Ian Duryのヴォーカルが独特の語感で乗る。パンクの時代に登場しながら、彼らはパンクの単純な攻撃性には収まらなかった。むしろ、黒人音楽からの影響を消化し、英国のパブ文化やニューウェイヴの皮肉と結びつけた、非常に身体的なバンドだった。
歌詞面では、Ian Duryらしい言葉遊び、猥雑なユーモア、人間観察、恋愛と性、日常の滑稽さが中心になる。彼の歌詞は、一般的なロックの抽象的な反抗やロマンティックな愛の表現とは異なり、非常に具体的で、口語的で、しばしば下品である。しかし、その下品さは単なる悪ふざけではなく、英国の労働者階級的な会話文化、ミュージックホールの伝統、コメディ、街角の言葉と結びついている。Ian Duryは、文学的な詩人というより、非常に優れた話芸の人である。
『Do It Yourself』は、前作ほどの即効性や有名曲の集中度はないと評価されることもある。実際、本作には「Hit Me with Your Rhythm Stick」のような決定的なシングルは収録されていない。しかし、アルバム全体としてはThe Blockheadsのグルーヴの完成度が非常に高く、Ian Duryの言語感覚とバンドの演奏が、より自然に結びついている。パンク後の英国で、ロック・バンドがファンクやディスコの身体性をどう取り込んだかを知るうえで、本作は重要な作品である。
全曲レビュー
1. Inbetweenies
オープニング曲「Inbetweenies」は、アルバムの始まりにふさわしく、Ian Dury & The Blockheadsの軽妙でファンキーな魅力を提示する楽曲である。タイトルの“Inbetweenies”は、「中間にいる人たち」「どっちつかずの人々」といった意味合いを持つ。Ian Duryの世界では、社会の中心にいる完全な勝者よりも、曖昧な場所にいる人々、滑稽で不器用な人々がしばしば重要な存在として描かれる。
サウンドは、The Blockheadsらしい緻密なグルーヴを持つ。ベースは滑らかに動き、ドラムはタイトで、ギターとキーボードが軽く絡む。パンク的な荒々しさよりも、ファンクとパブ・ロックの混合による柔軟なノリが前面に出ている。冒頭から、本作が単なるニューウェイヴ・ロックではなく、非常に踊れるバンド・アルバムであることがわかる。
Ian Duryのヴォーカルは、歌うというより、言葉をリズムに乗せて話すように進む。彼の声には、ロンドンの街角の話し声のような生々しさがある。きれいに整えられたポップ・ヴォーカルではなく、癖、間、発音、言葉の引っかかりが魅力になっている。
「Inbetweenies」は、本作のテーマを象徴する曲でもある。Ian Duryの音楽は、ジャンル的にも中間的である。ロックとファンク、パンクとディスコ、歌と語り、下品さと知性、ユーモアと哀しみ。その中間性こそが、彼らの独自性である。
2. Quiet
「Quiet」は、タイトルこそ「静か」を意味するが、Ian Dury & The Blockheadsらしい皮肉とグルーヴが込められた楽曲である。静けさを求める言葉の裏には、騒がしい日常、うるさい人間関係、都市生活の雑音が感じられる。Ian Duryは、日常の小さな不快感や滑稽な状況を、独特のユーモアで歌に変えることに長けている。
サウンドは抑制されながらも、ベースとドラムのグルーヴがしっかりしている。The Blockheadsの演奏は、表面的には軽く聞こえても、各楽器の絡みは非常に精密である。特にベースは、曲を単調にせず、常に動きながら推進力を与えている。
歌詞では、静けさをめぐる願望が語られるが、それは単純な落ち着きではない。Ian Duryの歌詞において、静かであることはしばしば不自然であり、人間はどこか騒がしく、下世話で、落ち着きがない。だからこそ「Quiet」というタイトルには、少しの冗談と苛立ちが混ざる。
この曲は、アルバムの中で大きく目立つ代表曲ではないが、The Blockheadsの自然な演奏力とIan Duryの言葉のリズムがよく表れた一曲である。派手なサビよりも、グルーヴと語り口の味わいで聴かせるタイプの楽曲である。
3. Don’t Ask Me
「Don’t Ask Me」は、タイトル通り「俺に聞くな」という拒絶の言葉を中心にした楽曲である。Ian Duryのキャラクターには、しばしば面倒なことに巻き込まれたくない、説明を求められても答えたくない、しかし結局話し続けてしまうというような、矛盾したユーモアがある。この曲もその一例である。
サウンドは、ファンク的なベースラインと軽いギター、キーボードが絡む、The Blockheadsらしいグルーヴを持つ。曲は大きく爆発するのではなく、一定のリズムの中で言葉を運んでいく。Ian Duryのヴォーカルは、相手をかわすように、時に挑発するように響く。
歌詞では、質問や要求から逃れようとする語り手の姿が浮かぶ。Don’t ask meという言葉は、責任回避でもあり、反抗でもあり、ユーモラスな自己防衛でもある。Ian Duryの人物描写は、こうした小さな口癖や態度から立ち上がる。大きな思想を掲げるよりも、日常的な言い回しの中に人間性を見つける。
「Don’t Ask Me」は、Ian Duryの言語感覚とThe Blockheadsの柔らかいファンクがよく合った曲である。軽妙でありながら、そこには社会的な役割や責任から逃れたい人間の小さな本音がある。
4. Sink My Boats
「Sink My Boats」は、タイトルからして、自己破壊や失敗、あるいは物事を台無しにしてしまう感覚を思わせる楽曲である。「自分の船を沈める」という表現は、自らの逃げ道を断つこと、可能性を潰すこと、あるいは恋愛や人生の場面で自分から不利な状況を作ってしまうことを連想させる。
サウンドは、しなやかなリズムとベースを軸に、ややメロウな雰囲気を持つ。The Blockheadsは、単に勢いで押すバンドではなく、曲ごとにニュアンスを変えられる。ここではグルーヴの中に少しの哀愁がある。サックスやキーボードの使い方も、Ian Duryの語りを支えるように配置されている。
歌詞では、失敗や後悔の感覚が漂う。ただしIan Duryは、悲劇的に沈み込むのではなく、自分の情けなさを少し笑いながら語る。これが彼の大きな魅力である。失敗は深刻であると同時に、どこか滑稽でもある。その両方を同時に表現できる。
「Sink My Boats」は、本作の中でやや陰影のある楽曲である。ファンク的なグルーヴを保ちながらも、歌詞には自己破壊的なニュアンスがあり、Ian Duryの人間観察の鋭さが表れている。
5. Waiting for Your Taxi
「Waiting for Your Taxi」は、都市生活の一場面を切り取ったような楽曲である。タクシーを待つという行為は、非常に日常的でありながら、別れ、移動、夜の終わり、会話の途切れを連想させる。Ian Duryは、こうした何気ない場面を歌にすることで、人間関係の微妙な空気を描く。
サウンドは軽く、リズムはほどよく跳ねる。The Blockheadsの演奏は、タクシーを待つ時間の少し落ち着かない感じをうまく表現している。ベースは動き、ドラムはタイトに刻み、サックスや鍵盤が都市的な空気を加える。
歌詞では、相手を待つ、あるいは相手が去る瞬間の距離感が感じられる。タクシーは移動の手段であると同時に、関係の場面を終わらせる装置でもある。誰かがタクシーに乗って去れば、その夜の会話や関係は一旦閉じられる。この曲には、そうした小さな終わりの感覚がある。
「Waiting for Your Taxi」は、Ian Duryの都市的な観察眼が光る曲である。大事件ではなく、街角の短い時間を音楽にする。その視線が、彼の歌詞を非常に具体的で生きたものにしている。
6. This Is What We Find
「This Is What We Find」は、本作の中でも特にIan Duryらしい物語性と観察眼が表れた楽曲である。タイトルは「これが我々の見つけるものだ」と訳せる。人生や街の中で目にする人々、出来事、滑稽な現実を列挙するようなニュアンスがあり、Ian Duryの語り部としての力が際立つ。
サウンドは、ゆったりとしたグルーヴと豊かなバンド・アンサンブルによって構成される。Norman Watt-Royのベースはここでも重要で、曲に粘りと動きを与える。The Blockheadsの演奏は、Ian Duryの言葉を邪魔せず、しかし単なる背景にもならない。言葉と演奏が一体となって、街の風景を描く。
歌詞では、さまざまな人物や状況が登場する。Ian Duryの得意とする、やや変わった人々、うまくいかない生活、日常の可笑しみが並ぶ。彼は人間を美化しないが、冷酷に切り捨てることもしない。滑稽で情けない人々に対して、どこか温かい視線を向ける。
「This Is What We Find」は、アルバムの中核に近い曲である。Ian Duryが単なるパンク風の奇人ではなく、英国的な語りの伝統を持つ優れた観察者であることがよくわかる。The Blockheadsのグルーヴと彼の言葉が、最も自然に結びついた一曲である。
7. Uneasy Sunny Day Hotsy Totsy
「Uneasy Sunny Day Hotsy Totsy」は、タイトルからしてIan Duryらしい言葉遊びの感覚に満ちた楽曲である。「Uneasy Sunny Day」という組み合わせは、晴れた日でありながら落ち着かない、明るいのに不安がある状態を示している。「Hotsy Totsy」は古風で陽気な俗語的響きを持ち、全体として明るさと不穏さ、洒落と不安が混ざっている。
サウンドは、タイトル同様に軽快でありながら少し奇妙な感触を持つ。The Blockheadsはここでも柔軟な演奏を見せ、リズムを軽く動かしながら、曲に小さなひねりを加える。Ian Duryのヴォーカルは、言葉の響きを楽しむように進む。
歌詞の中心にあるのは、明るい表面の下にある落ち着かなさである。晴れた日だからといって、気分が晴れるとは限らない。人間の感情は、天気や外部の状況とは必ずしも一致しない。Ian Duryは、こうした日常のズレをユーモラスに表現する。
「Uneasy Sunny Day Hotsy Totsy」は、本作の中でも言語的な遊びが強い曲である。意味を厳密に追うよりも、言葉の音、リズム、ニュアンスを楽しむ楽曲であり、Ian Duryのミュージックホール的な資質が表れている。
8. Mischief
「Mischief」は、「いたずら」「悪ふざけ」「ちょっとした悪事」を意味するタイトルを持つ楽曲である。Ian Duryのキャラクターには、まさにこのmischiefの感覚が強くある。彼のユーモアは単に明るいだけではなく、少し意地悪で、猥雑で、社会の礼儀をわざと崩すようなところがある。
サウンドは、軽快でファンキーである。ベースとドラムがしっかりとグルーヴを作り、ギターやキーボードが小気味よく絡む。曲全体には、悪ふざけを楽しむような躍動感がある。The Blockheadsの演奏は巧みだが、決して堅苦しくない。音楽自体に遊びがある。
歌詞では、いたずらや問題を起こすような人物像が描かれる。Ian Duryは、品行方正な人物よりも、少し問題のある人物を好んで描く。彼らは社会的には迷惑かもしれないが、同時に生き生きとしている。そのような人物への親近感が、Duryの歌詞にはある。
「Mischief」は、本作の遊び心を象徴する曲である。Ian Dury & The Blockheadsの音楽は、まじめな社会批評や純粋なラブソングだけではなく、悪ふざけそのものを音楽の重要なエネルギーにしている。
9. Dance of the Screamers
「Dance of the Screamers」は、タイトルからして騒々しく、劇場的で、少し狂騒的な楽曲である。「叫ぶ者たちの踊り」と訳せるこのタイトルには、群衆、パーティー、混乱、叫び、身体の暴走が感じられる。Ian Dury & The Blockheadsの音楽にあるダンス性と猥雑さが、ここではより強調されている。
サウンドは、リズムが前面に出ており、踊れる要素が強い。The Blockheadsはファンク・バンドとしての力を存分に発揮し、ベースとドラムが曲を牽引する。サックスやキーボードも、曲に騒がしい祝祭感を加える。だが、その祝祭は完全に健全なものではなく、少し異様で、混沌としている。
Ian Duryのヴォーカルは、群衆の中で語る司会者のようでもあり、騒ぎを煽る人物のようでもある。彼の声には、秩序を整えるよりも、混乱を楽しむ感覚がある。これはパンク以後のニューウェイヴ的なダンス・ミュージックとしても面白い点である。
「Dance of the Screamers」は、アルバム後半にエネルギーを与える楽曲である。The Blockheadsのファンク性とIan Duryの劇場的な言葉遣いが、混沌としたダンスとして結びついている。
10. Lullaby for Franci/es
「Lullaby for Franci/es」は、タイトルに「子守歌」を含む楽曲であり、本作の中でも比較的柔らかな感触を持つ曲である。ただし、Ian Duryの子守歌が純粋に甘く無垢なものになるはずはなく、そこにはどこかねじれた優しさや、現実を知った大人の視線がある。
サウンドは、他のファンキーな曲に比べると穏やかで、メロディも柔らかい。The Blockheadsはここで抑制された演奏を見せ、Ian Duryの声に寄り添う。子守歌というタイトルにふさわしく、曲には落ち着いた空気があるが、完全な安らぎではなく、少しの不安も残る。
歌詞では、誰かに向けた優しい語りかけが感じられる。Ian Duryの表現はしばしば下品で皮肉っぽいが、彼の音楽には確かな優しさもある。特に、社会の隅にいる人や不器用な人物へのまなざしは、冷笑だけでは成立しない。この曲では、その優しさが比較的素直に表れている。
「Lullaby for Franci/es」は、アルバムの中で静かな余韻を与える曲である。Ian Dury & The Blockheadsの音楽が、猥雑なユーモアやファンクのグルーヴだけでなく、親密で柔らかな表情も持っていることを示している。
11. If I Was with a Woman
「If I Was with a Woman」は、タイトルからもわかるように、男女関係、欲望、想像、Ian Duryらしい性的なユーモアを含む楽曲である。彼の歌詞において、性はしばしば重要なテーマである。ただし、それはロック的な性的自信の誇示というより、滑稽で、下世話で、人間臭いものとして描かれる。
サウンドは、ファンキーで、ほどよく軽快である。The Blockheadsのグルーヴは、性的なテーマを扱いながらも過度に重くならず、洒脱な雰囲気を保つ。ベースとドラムはしなやかで、ギターや鍵盤が曲に軽さを与える。
歌詞では、女性と一緒にいる場合の想像や振る舞いが、ユーモラスに語られる。Ian Duryは、性を美化せず、また完全に下品なだけにもせず、人間の滑稽な欲望として描く。そこには、欲望に振り回される人間への観察がある。
「If I Was with a Woman」は、Ian Duryの猥雑な魅力が表れた曲である。彼の音楽は、上品さを装わず、身体性や欲望を隠さない。しかし、それを知的な言葉遊びとバンドの洗練されたグルーヴに乗せることで、独自の味わいを生んでいる。
12. What a Waste
「What a Waste」は、『Do It Yourself』の中でも特に重要な楽曲であり、Ian Dury & The Blockheadsの代表曲の一つとして知られる。もともとシングルとして強い存在感を持った曲であり、Ian Duryのキャリア観、労働観、自己認識がユーモラスに表れた名曲である。タイトルは「なんてもったいない」「無駄だ」という意味を持つ。
サウンドは、The Blockheadsらしいファンク・ロックのグルーヴが非常に強い。ベースは太く動き、ドラムはタイトで、サックスやギターが曲に勢いを与える。曲は非常に踊れるが、同時に歌詞の面白さが前面に出る。Ian Duryの語り口が、曲の推進力と完全に噛み合っている。
歌詞では、語り手がさまざまな職業や人生の選択肢を想像しながら、自分には別の生き方もありえたかもしれないと語る。しかし、それらを列挙する中で、結局は自分が音楽をやっていること、あるいは自分らしく生きていることへの肯定が浮かび上がる。What a wasteという言葉は、自己否定のようでありながら、実際にはユーモラスな自己肯定でもある。
この曲の魅力は、人生の可能性を笑いながら振り返るところにある。人は別の仕事、別の生活、別の役割を選べたかもしれない。しかし、今の自分を完全に否定するわけではない。Ian Duryは、その曖昧な感覚を非常に楽しく、ファンキーに歌っている。
「What a Waste」は、Ian Duryの代表的な資質が凝縮された曲である。言葉遊び、労働者階級的なユーモア、自己反省、グルーヴ、下世話さと知性の同居。アルバム終盤における大きなハイライトである。
総評
『Do It Yourself』は、Ian Dury & The Blockheadsが単なるパンク周辺の個性派バンドではなく、非常に優れたファンク/ニューウェイヴ・バンドであったことを示す作品である。前作『New Boots and Panties!!』ほどの衝撃や名曲の集中度で語られることは少ないが、本作にはThe Blockheadsの演奏力、Ian Duryの言葉のリズム、パンク以後のジャンル横断的な自由がしっかりと刻まれている。
本作の最大の魅力は、グルーヴの強さである。Norman Watt-Royのベースを中心とするリズム隊は、ロック・バンドの枠を超えたしなやかさを持つ。ファンク、ディスコ、ジャズ、レゲエ、パブ・ロックが混ざり合い、それでいて過剰に技巧的には聞こえない。The Blockheadsは、Ian Duryの言葉を支えるだけでなく、曲そのものを身体的に動かしている。
Ian Duryのヴォーカルは、一般的な意味での美声ではない。しかし、彼の声には強烈な存在感がある。彼はメロディを滑らかに歌い上げるよりも、言葉を刻み、転がし、間を作り、人物を演じる。これは英国のミュージックホール、コメディ、パブでの話芸、街角の会話と深く結びついた表現である。ロック・シンガーというより、彼は語り部であり、道化であり、観察者である。
歌詞面では、本作もIan Duryらしい猥雑なユーモアと人間観察に満ちている。彼は英雄的な人物よりも、中間にいる人、失敗する人、悪ふざけをする人、タクシーを待つ人、人生の選択肢を笑いながら振り返る人を描く。こうした人物たちは、ドラマの主役になりにくい。しかしIan Duryは、彼らの言葉や身振りの中に、十分な面白さと人間味を見出す。
アルバム・タイトル『Do It Yourself』は、パンクのDIY精神と響き合いながらも、音楽的にはかなり洗練された内容を持つ。これは重要である。DIYとは、必ずしも未熟であることではない。自分たちのやり方で、既存のジャンルや権威に従わずに作ることを意味する。Ian Dury & The Blockheadsは、パンク、ファンク、ディスコ、ジャズ、パブ・ロックを自分たちの方法で混ぜ合わせた。その意味で、本作は非常にDIY的なアルバムである。
前作『New Boots and Panties!!』と比べると、『Do It Yourself』はやや散漫に感じられる部分もある。前作にはIan Duryのキャラクターを一気に決定づける鋭さがあり、本作はその強烈な初期衝動よりも、バンドとしての余裕とグルーヴを重視している。そのため、即効性では前作に譲るかもしれない。しかし、聴き込むほどに、The Blockheadsの演奏の細かさやIan Duryの言葉の味わいが浮かび上がる。
『Do It Yourself』は、1979年という時代の多様性をよく示している。パンクの爆発後、英国音楽は単純なギター・ロックに留まらず、ファンク、レゲエ、ダブ、ディスコ、ジャズ、電子音楽を取り込みながら急速に変化していた。The Clash、Talking Heads、Public Image Ltd、Gang of Four、The Specialsなどがそれぞれ異なる形でジャンルを横断していた時代に、Ian Dury & The Blockheadsもまた、非常に英国的でユーモラスな方法でその流れに参加していた。
本作の価値は、パンク以後の「踊れるロック」の一つの形を示した点にもある。The Blockheadsの音楽は、ディスコやファンクを取り入れながら、アメリカ的な洗練だけにはならない。そこにはロンドンの下町感覚、パブのざわめき、冗談、猥雑さ、日常のリアリティがある。これが彼らを他のファンク・ロックやニューウェイヴ・バンドとは異なる存在にしている。
日本のリスナーにとって『Do It Yourself』は、パンク/ニューウェイヴを単なる激しいギター音楽としてではなく、リズム、言葉、ユーモア、生活感の音楽として理解するうえで非常に興味深い作品である。英語の言葉遊びやロンドン的なニュアンスは翻訳しにくい部分も多いが、The Blockheadsのグルーヴは言語を超えて伝わる。特にファンク、パブ・ロック、ニューウェイヴ、Talking HeadsやThe Clashのジャンル横断的な作品に関心があるリスナーには、強く響く要素が多い。
『Do It Yourself』は、上品ではないが、非常に知的なアルバムである。整っているが、行儀が悪い。踊れるが、単純ではない。下品だが、人間味がある。Ian Dury & The Blockheadsはこの作品で、パンク以後の自由を、英国的なユーモアとファンクのグルーヴによって表現した。本作は、1970年代末のニューウェイヴが持っていた雑食性と生命力を味わえる、重要な一枚である。
おすすめアルバム
1. Ian Dury – New Boots and Panties!!
Ian Duryの代表作であり、彼のキャラクター、言葉遣い、猥雑なユーモア、パブ・ロックとパンクの接点が最も鮮烈に表れた作品。「Sex & Drugs & Rock & Roll」「Sweet Gene Vincent」などを収録し、『Do It Yourself』の前提となる重要作である。
2. Ian Dury & The Blockheads – Laughter
『Do It Yourself』後の作品で、The BlockheadsのグルーヴとIan Duryの語り口がさらに続くアルバム。前作群ほどの代表作扱いはされにくいが、バンドのファンク性と英国的ユーモアを継続して味わえる作品である。
3. The Blockheads – Staring Down the Barrel
Ian Duryの死後も活動を続けたThe Blockheadsの作品。バンドとしての演奏力、特にファンク的なリズムとジャズ的な柔軟性を確認できる。Ian Duryの個性とは別に、The Blockheadsという演奏集団の魅力を知るうえで興味深い。
4. Talking Heads – Fear of Music
同時代のニューウェイヴにおけるファンク、ロック、知的な不安の融合を示す重要作。Ian Dury & The Blockheadsとは異なるニューヨーク的な緊張感を持つが、パンク以後のロックがリズムと知性を獲得していく流れを理解するうえで関連性が高い。
5. The Clash – London Calling
パンクを出発点に、レゲエ、ロカビリー、スカ、R&B、ポップを取り込んだ英国ロックの名盤。Ian Dury & The Blockheadsと同じく、パンク以後のジャンル横断的な自由を体現している。ロンドン的な言葉と多様なリズム感を比較して聴くと、本作との時代的な共通点が見えてくる。

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