
発売日:1979年5月18日
ジャンル:New Wave / Pub Rock / Funk Rock
概要
Do It Yourselfは、Ian Dury & The Blockheadsが1979年に発表したアルバムである。Dury名義のNew Boots and Panties!!で形になった、パブ・ロック、ファンク、ミュージックホール、ジャズ、ロックンロールを混ぜる方法を、The Blockheadsという強力な演奏集団とともにさらに押し広げた作品だ。前作後にヒットした「What a Waste」や「Hit Me with Your Rhythm Stick」はオリジナル盤には収録されず、既発ヒットへ頼らない新曲中心のアルバムとして組み立てられた。
制作は前作に続いてChaz JankelとLaurie Lathamが担い、Jankelのキーボードとギター、Norman Watt-Royのベース、Charley Charlesのドラム、Mickey Gallagherの鍵盤、Davey PayneのサックスらがDuryの言葉を支える。特に重要なのはリズム隊で、ベースが旋律のように動き回ってもドラムは拍を明確に保つため、複雑な演奏でも身体的なグルーヴが崩れない。そこへサックスやピアノが細かく出入りし、曲ごとにファンク、ジャズ、レゲエなどへ重心を変える。
Duryの歌詞は、英国の日常語、性的な冗談、人物観察、言葉遊びを大量に含む。整った歌声で旋律を美しく聞かせるタイプではなく、しゃべり、歌い、言葉をリズムへ押し込む独特のボーカルが中心だ。そのためThe Blockheadsの高度な演奏とDuryの路上の会話のような言葉が対照を作る。パンクとニュー・ウェイヴの時代に登場した作品だが、単純なギターの速さではなく、古い英国の大衆芸能と黒人音楽由来のリズムを現代的なポップへ組み直している。
全曲レビュー
1. 「Inbetweenies」
冒頭からNorman Watt-Royのベースが細かく動き、ドラムとともに弾力のあるファンクを作る。その上でDuryは歌詞を滑らかに歌うより、言葉のアクセントをビートへ合わせながら半ば語るように進む。「どちらにも完全には属さない人々」を思わせるタイトル通り、きれいな社会的分類からこぼれる人物へ目を向ける曲だ。サックスや鍵盤も隙間へ短く入り、Blockheadsの演奏能力を最初から前面に出している。
2. 「Quiet」
題名とは逆に、演奏には細かな動きが多く、静けさをそのまま音量の小ささとして表現するわけではない。Duryは日常会話の延長のような抑揚で言葉を置き、バックの演奏がその間を埋めていく。歌と伴奏が同じ旋律を追うのではなく、ボーカルが自由に話すためのリズム空間をバンドが作っているところが特徴だ。派手なサビへ一直線に向かわなくても、ベースや鍵盤の小さな変化だけで曲を持続させられるBlockheadsの強さがよく分かる。
3. 「Don’t Ask Me」
短く直接的なタイトルに対して、Duryの歌唱には突き放す態度とコミカルな軽さが同居する。相手に「自分へ聞くな」と言いながら大量の言葉を発するため、拒絶そのものが一種の会話になっているのが面白い。演奏はファンクの反復を基礎にしつつ、ピアノやサックスが短い合いの手を入れ、単調になることを避ける。Duryの歌詞だけを読むのではなく、言葉がどの拍へ落ちるかまで含めて楽しむべき曲である。
4. 「Sink My Boats」
前の曲よりロック寄りの力強さを持ちながら、ベースは単純なルート音に留まらず、ボーカルの下を忙しく動く。タイトルにある船を沈めるというイメージには、自分の計画や可能性を台無しにされる感覚があり、Duryは不満を深刻な悲劇へせず、皮肉を含んだ言葉へ変えていく。ギターを壁のように重ねるのではなく、各楽器の間に空間を残すため、リズムの細かな動きが聞き取りやすい。バンドの精密さとDuryの粗い声がよく噛み合った一曲だ。
5. 「Waiting for Your Taxi」
待つという停滞した状況を扱いながら、演奏はじっとしていない。ベース、ドラム、鍵盤が細かな反復を続け、Duryはその上へ街角の会話を拾うように言葉を並べる。タクシーという日常的な対象を曲の中心へ置くことで、ロックにありがちな大げさな逃走や旅ではなく、もっと身近な都市生活の時間を描いている。劇的な出来事がなくても人物の態度や言葉遣いから場面を成立させる、Duryの観察者としての個性が出ている。
6. 「This Is What We Find」
レゲエやファンクの感覚を取り込んだゆったりしたリズムの上で、Duryが複数の人物や出来事を次々と描いていく。物語を一人の主人公へ集中させず、日常の奇妙な人々を短いスケッチのように並べるため、歌そのものが街を歩きながら周囲を眺めているように進む。Duryの韻と言葉遊びが特に生きており、旋律より発音の面白さがフックになる。Blockheadsはその大量の言葉を邪魔せず、低い位置で粘るグルーヴを維持している。
7. 「Uneasy Sunny Day Hotsy Totsy」
陽気そうな「sunny day」と落ち着かない「uneasy」を同じタイトルに置く時点で、単純な幸福感から距離を取っている。演奏にも軽快さと妙な居心地の悪さが同居し、リズムは踊れるのに、サックスや鍵盤が少しねじれた色を加える。Duryは音の響きを楽しむような言葉を連ね、意味を一直線に説明するより、発音と韻によって人物や空気を作る。アルバムの中でも、彼のミュージックホール的な言葉遊びが特に前へ出た曲である。
8. 「Mischief」
悪ふざけやいたずらを意味するタイトルにふさわしく、演奏にも落ち着きのない楽しさがある。ベースが低音の土台だけでなく独立した旋律として動き、その周囲を鍵盤とサックスが短いフレーズで埋めるため、各楽器が会話しているように聞こえる。Duryのボーカルも整ったメロディを守るより、バンドへ言葉でちょっかいを出すような感覚だ。演奏技術の高さを重々しく見せず、遊びへ変換できるBlockheadsの魅力がよく現れている。
9. 「Dance of the Screamers」
タイトルが示す騒々しさに反して、ただ速く激しく演奏するのではなく、ファンク的な反復から緊張を作る。リズム隊が一定のグルーヴを維持する上で、サックスや声が突発的に飛び出し、整然としたダンス音楽の内部へ混乱を持ち込む。Duryにとってダンスは洗練された社交というより、奇妙な人物たちが身体を動かす人間臭い行為として聞こえる。踊れることと不穏であることを両立させたアレンジが面白い。
10. 「Lullaby for Francies」
題名通り子守歌の性格を持ち、ここまでのファンク主体の曲から大きく速度を落とす。Duryの声は決して滑らかなバラード向きではないが、その粗さが逆に、きれいに演出されていない親密さを生む。バンドも技巧を前へ出さず、旋律と声を支えるために音数を抑えている。賑やかな人物描写や性的な冗談だけでなく、Duryの歌にある優しさを見せることで、アルバム後半に必要な静かな起伏を作っている。
11. 「Two Steep Hills」
二つの急な坂という具体的なイメージを使い、何かを乗り越えて進む感覚を描く。演奏は再びリズムを前へ出すが、単純な高速ロックへ戻らず、ベースとドラムの噛み合わせによって歩幅のあるグルーヴを作る。Duryの言葉は身体的な動きとよく結びつき、坂を上るような負荷がフレージングからも感じられる。日常的な物や場所を少し誇張し、人間の状況を表す舞台へ変える彼の作詞法が生きている。
12. 「There Ain’t Half Been Some Clever Bastards」
最後は「世の中には実に頭の切れる奴らがいたものだ」とでもいうタイトルで、歴史上の発明や創造性へDury流の敬意を示す。偉人を格調高く称賛するのではなく、「clever bastards」というくだけた言葉で呼ぶため、尊敬と悪ふざけが同時に成立する。演奏も大団円を重々しく作らず、言葉の列挙を楽しませる軽快さを保つ。高尚な文化と大衆的な冗談を区別しないDuryらしい視点で、アルバムを愉快に締めくくる。
総評
Do It Yourselfで最も耳を引くのは、Ian Duryの個性的な言葉とThe Blockheadsの演奏が、互いを従属させずに成立していることである。Duryだけを追えば英国の日常語や韻、下世話な冗談を駆使するストーリーテラーだが、バンドだけを聴けばファンク、ジャズ、ロック、レゲエを自在に行き来する非常に精密な集団である。その二つを重ねることで、技巧的なのに気取らず、庶民的なのに音楽的には複雑という独特のバランスが生まれる。
特にWatt-RoyのベースとCharlesのドラムはアルバムの骨格になっている。ベースがボーカルと競うほど細かく動いても、ドラムが拍の位置を明瞭に示すため、演奏は複雑さの割に踊りやすい。JankelやGallagherの鍵盤、Payneのサックスは、その安定した土台があるから自由に出入りできる。パンク期の英国で作られた作品だが、「演奏を単純化すること」ではなく、優れた演奏家が技巧を大衆的な歌へ奉仕させることで同時代性を獲得している。
Duryの歌詞にも似た構造がある。扱うのはタクシーを待つ時間、妙な人物、仕事、性、日々の小さな苛立ちといった身近な題材だが、韻やアクセントはかなり細かく設計されている。しかも、それを文学的に見せようとはせず、パブや街角で聞こえる会話のような言葉へ落とし込む。歌詞の意味だけでなく、単語の響き自体がドラムやベースと組み合わさってリズムになるため、Duryのボーカルは楽器の一つとしても機能する。
New Boots and Panties!!に比べると、誰でもすぐ口ずさめる決定的な曲が前面に並ぶ作品ではなく、個々の曲よりバンドのグルーヴを通して楽しむ性格が強い。そのため最初は地味に感じる部分もあるが、演奏へ耳を向けるほど各曲の違いが見えてくる。ニュー・ウェイヴの時代にありながら過去のロックを否定せず、ファンクやジャズ、英国ミュージックホールまで一つの現在形へまとめたことが本作の価値である。Ian Dury「と」The Blockheadsという組み合わせが、単なる歌手と伴奏者ではなかったことを最も明瞭に示すアルバムだ。
おすすめアルバム
New Boots and Panties!!
1977年の前作。ファンク、パブ・ロック、ミュージックホールとDuryの人物観察が、より荒く直接的な形で結びついている。Do It YourselfでBlockheadsの演奏がどれほど精密になったかを比較しやすい。
Laughter by Ian Dury & The Blockheads
1980年の次作。Chaz Jankel離脱後の変化を含みつつ、ファンクを軸にした演奏と言葉遊びを継続している。本作で完成したバンドの方法が、異なる条件の中でどう変化したかを追える。
Look Sharp!
1979年作。ジャズやR&Bの素養を持つ演奏家が、パンク以後の簡潔で鋭い曲へその技術を落とし込んでいる。Duryほどファンク色は強くないが、高い演奏力をニュー・ウェイヴの即効性へ変える点で共通する。
More Songs About Buildings and Food by Talking Heads
ファンクの反復をニュー・ウェイヴへ持ち込み、知的な歌詞を身体的なグルーヴと結びつけた1978年作。英国的なDuryとは人物描写の方法が異なるものの、頭と身体の両方に働きかけるリズムの使い方を比較できる。
Entertainment! by Gang of Four
1979年作。硬く切れたギターとファンク由来のベース/ドラムを使い、社会や日常を鋭い言葉で切り取る。Blockheadsより意図的に乾いた演奏だが、パンク以後にファンクをロックの新しい文法として使った同時代の別解である。

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