1. 歌詞の概要
「Delivery」は、Babyshamblesが2007年にリリースしたセカンドアルバム『Shotter’s Nation』の先行シングルとして登場した楽曲である。
この曲は、ピート・ドハーティの作品の中でもとりわけ親しみやすく、ポップでありながらどこか切実な雰囲気をたたえている。リズミカルなギターのリフと軽快なドラム、キャッチーなメロディーラインが特徴で、パンクの反骨精神を残しながらもより洗練されたサウンドに昇華されている。
歌詞では、恋愛や人間関係における不器用さ、自分の感情を相手にうまく「届ける」ことができないもどかしさが綴られる。「Delivery」という言葉には「届ける」だけでなく、「表現する」「伝える」という含意もあり、この曲全体を通してピート・ドハーティ自身の“伝えたくても伝わらない”という葛藤がにじみ出ている。
2. 歌詞のバックグラウンド
『Shotter’s Nation』は、前作『Down in Albion』と比べてサウンド面でのクオリティが大きく向上しており、その変化の背景にはプロデューサー、スティーヴン・ストリートの存在がある。
彼はかつてBlurやThe Smithsを手がけた名プロデューサーであり、Babyshamblesにより明確な構成力と音の輪郭を与えた。結果として「Delivery」は、これまでの混沌としたエネルギーを保ちつつも、よりポップな方向性を示す代表曲となった。
この曲がシングルとしてリリースされた際、多くのメディアで“ドハーティの再生”を印象付ける楽曲と見なされ、批評家たちからも好意的に受け止められた。前作で見せた破滅的な衝動とは対照的に、ここにはどこか「誠実さ」や「前向きさ」すら漂っていた。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に印象的な歌詞の一節を引用する。
引用元:Genius Lyrics
Did you know that it’s all right to feel left out?
「疎外感を感じるのは悪いことじゃないって、知ってた?」
Did you know it’s okay to be left behind?
「取り残されるのも、案外平気なものなんだよ」
When the lights go out and you feel like giving up
「灯りが消えて、もうやめたくなったとき」
Well, don’t give up on me
「それでも、僕のことは見捨てないでくれ」
このフレーズからは、恋人や誰か大切な人に向けた率直なメッセージが感じられる。感情の浮き沈み、不安や孤独を抱える中でも、誰かとのつながりを手放したくないという切実な想いが滲む。
4. 歌詞の考察
この曲は、ピート・ドハーティがしばしば抱えてきた「伝えることの困難さ」そのものをテーマにしている。
彼の歌詞には、自身の脆さ、混乱、そして愛への渇望が込められていることが多いが、「Delivery」ではそれがよりシンプルな形で表現されている。まるで、言葉にしにくい感情を、手紙のようにそっと差し出すような姿勢がある。
タイトルの「Delivery」は、恋愛におけるメッセージの伝達にも、アーティストとしての「作品を届ける」ことにも重なる二重の意味を持つ。
また、繰り返される「Don’t give up on me」というフレーズには、ピート自身の不安や恐れが込められており、それは彼自身が常に「諦められる」存在だったという悲哀の裏返しでもある。
言葉をうまく扱えないがゆえに、時に誤解され、孤立し、それでも必死に“届くこと”を信じる姿。それはまさにピート・ドハーティという人間そのものの投影なのだろう。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- For Lovers by Wolfman featuring Pete Doherty
ドハーティのもう一つの顔ともいえるソロ名義での美しいバラード。繊細な感情がピアノとともに浮かび上がる。 - Golden Touch by Razorlight
同じUKインディー・ロックの文脈で人気を博したバンド。メロディアスでありながら、感情をストレートに描いている点で通じるものがある。 - The Importance of Being Idle by Oasis
シンプルなコード進行と、どこか皮肉交じりな歌詞が「Delivery」に通じる。ブリットポップ以後の世代が継承した精神を感じさせる曲だ。 - Can’t Stand Me Now by The Libertines
ピートがリバティーンズ時代に書いた名曲。自己矛盾と愛の不条理が交錯する、彼の本質を映した作品。
6. 優しさと儚さの狭間で
「Delivery」は、ピート・ドハーティが見せた“再生の兆し”として記憶されることが多い。しかし、その実態は単なる更生の証明ではない。
むしろ、この曲には彼自身の不安定な心のありようと、それでもなお誰かに何かを伝えたいという純粋な願いが込められている。
そして、その願いはあまりに不器用で、誤解を生むこともしばしばだが、だからこそ聴き手の胸にまっすぐに届くのだ。
「Delivery」は、ロックンロールの中に宿る優しさと儚さを静かに提示している。
それは怒鳴り声ではなく、震える手で差し出されたメッセージ――かすかな声で「僕をあきらめないで」とささやいているような楽曲なのである。
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