
発売日: 2024年4月19日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、ハードロック、グランジ、アートロック
『Dark Matter』は、Pearl Jam が2024年に発表した12作目のスタジオアルバムである。
『Gigaton』(2020)で実験性と社会意識を大きく打ち出した彼らは、ここで
“シンプルで力強いロックへ回帰しつつ、成熟と深みを融合させた”
という新たな姿を提示した。
プロデューサーは Andrew Watt。
現代ロック・ポップの最重要人物の一人で、
Ozzy Osbourne、Eddie Vedder『Earthling』、The Rolling Stones など
幅広いプロジェクトを成功させてきた才人である。
彼の“勢いと即興性を重視する”制作スタイルが、
Pearl Jam に “生きたロックバンドとしての衝動” を再注入した。
結果、本作は
- 90年代初期の荒々しいエネルギー
- 中期の深い精神性
- 後期のメロディアスな成熟
これらが高次元で結実した、
「今のPearl Jamが最もしなやかに鳴るロックアルバム」
として仕上がっている。
全曲レビュー
1曲目:Scared of Fear
鋭いギターと重いリズムがのしかかる、緊張感あふれる開幕。
“恐れに立ち向かう”という本作のテーマを宣言するような曲。
2曲目:React, Respond
パンキッシュなスピードと研ぎ澄まされたアンサンブル。
Matt Cameron のドラムが攻撃的で、バンドの気迫が迸る。
3曲目:Wreckage
メロディアスで切ないミドルテンポ。
Pearl Jam の叙情性と成熟が最もよく表れた、後期代表曲の一つ。
4曲目:Dark Matter
アルバムのタイトル曲。
激しいリフとドラマティックな展開が特徴。
“見えない力”に抗うような重圧の中、
エディの声が光る強力なロックアンセム。
5曲目:Won’t Tell
シンプルなコード進行で突き進む清涼感のあるロック。
バンド全体が軽やかに呼吸している。
6曲目:Upper Hand
静と動が綺麗に交錯するドラマティックな曲。
終盤の展開はライブでの名場面を予感させる。
7曲目:Waiting for Stevie
軽快で陽性のロック。
遊び心と温かさが滲む。
8曲目:Running
疾走感の塊のようなパンク曲。
90年代の衝動を現代のタイトな演奏でアップデートした印象。
9曲目:Something Special
親密で暖かいバラッド。
エディの“生きることへの優しい眼差し”が光る。
10曲目:Got to Give
ブルース基調の重厚なギターロック。
力強いストロークが響く、ライブ映え必至の曲。
11曲目:Setting Sun
夕陽のような温かいラスト。
静かな希望と深い余韻をたたえた、美しい締めくくり。
総評
『Dark Matter』は、Pearl Jam が2024年の今なお
“現役最高レベルのロックバンド” であることを証明した作品である。
特徴を整理すると、
- Andrew Watt プロデュースによる“生々しい勢い”
- バンドアンサンブルの強度が近年で最も高い
- 90年代の衝動 × 2000年代以降の深み × 2010年代のメロディが融合
- サウンドがタイトで聴きやすく、同時に力強い
- テーマは社会性と内面性がバランスよく両立
『Gigaton』が社会的・実験的な作品だったのに対し、
『Dark Matter』は
“ロックバンドとしてのPearl Jam”
をシンプルに、しかし深く打ち出している。
バンド30年以上の歴史のどの時期とも違う、
“今のPearl Jamだからこそ生まれた成熟と衝動のアルバム”
と言えるだろう。
同時代の文脈で聴くなら、
・The Killers のエネルギー
・Foo Fighters の正統派ロック
・The National のシリアスさ
などと比較すると面白いが、
Pearl Jam には依然として“Pearl Jam だけの鼓動”がある。
おすすめアルバム(5枚)
- Lightning Bolt / Pearl Jam (2013)
“成熟したロック”という文脈で最も近い前作。 - Gigaton / Pearl Jam (2020)
社会性・実験性の流れから本作へ続く道筋。 - Pearl Jam(Avocado) / Pearl Jam (2006)
ストレートで骨太なロックの系譜で関連が強い。 - Foo Fighters / Wasting Light
現代ロックの勢いと情熱の対比が興味深い。 - Soundgarden / King Animal
ベテランロックバンドが“再誕”した作品として共鳴する。
制作の裏側(任意セクション)
『Dark Matter』の制作は、これまでの Pearl Jam とは大きく異なる手法で進められた。
Andrew Watt は、
「曲を練りすぎず、まず演奏して、その“瞬間”を録る」
というライブ感を重視し、
メンバー全員が一発録りに近いスタイルで演奏するケースも多かった。
これにより、
- バンドの息遣い
- 曲のテンションの自然な揺れ
- メンバー間の反応の速さ
といった“生の美しさ”が音に焼き付けられた。
Pearl Jam が30年以上続くバンドであるにもかかわらず、
ここまでフレッシュで力強い作品を作り上げた背景には、
メンバーそれぞれが
“もう一度ロックバンドとして燃え上がることへの純粋な意欲”
を共有していたことがある。
その熱量こそが、『Dark Matter』最大の魅力である。



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