
1. 楽曲の概要
「Concrete Over Water」は、ロンドンを拠点とするデュオ、Jockstrapが2022年に発表した楽曲である。2022年4月11日にシングルとして公開され、同年9月9日リリースのデビュー・アルバム『I Love You Jennifer B』に収録された。JockstrapはGeorgia ElleryとTaylor Skyeによるユニットで、Elleryはボーカル、ヴァイオリン、ソングライティングを担い、Skyeは電子音楽的なプロダクションや編集感覚で楽曲を構築する。
「Concrete Over Water」は、アルバムの中でも特に重要な位置を占める曲である。6分を超える長さを持ち、ポップ・ソング、室内楽、エレクトロニカ、クラブ・ミュージック、実験音楽が段階的に変化しながら接続される。Jockstrapの音楽性を一曲で示す代表曲といえる。
曲名の「Concrete Over Water」は、直訳すれば「水の上のコンクリート」である。都市、建築、水辺、夜、身体感覚、遠くの相手への思いが重なり、歌詞は明確な物語というより、断片的な都市の視覚と感情の動きをつないでいく。硬い人工物であるコンクリートと、流動的な水の対比は、この曲のサウンドにも対応している。前半は繊細なメロディが中心だが、後半では電子音とリズムが激しく変化し、曲の輪郭が何度も作り替えられる。
JockstrapはロンドンのGuildhall School of Music and Dramaで出会った二人によるプロジェクトである。クラシックや現代音楽的な素養と、クラブ・ミュージック以後の編集感覚が同居している点が特徴で、「Concrete Over Water」はその長所が特に明確に出た楽曲である。
2. 歌詞の概要
「Concrete Over Water」の歌詞は、都市で暮らす語り手の視点から始まる。青く見える塔、黒い空、夜の感覚、背中にのしかかるものといった言葉が並び、舞台は現代の都市空間として示される。語り手は街の中にいながら、そこに完全には馴染めていない。都市の景色は美しくもあるが、同時に圧迫感を持っている。
歌詞には、誰かとの電話、距離のある関係、夜を歩く感覚が出てくる。語り手は相手に直接会っているというより、都市の中で相手の存在を思い浮かべている。恋愛の歌として読むこともできるが、典型的なラブソングのように感情が一直線に進むわけではない。相手への思い、孤独、都市生活の違和感、自分自身への不確かさが混ざっている。
歌詞の特徴は、感情を説明しすぎないことである。語り手は「悲しい」「寂しい」と直接言い続けるのではなく、夜の空気や建物の色、背中に乗る感覚として表現する。そのため、歌詞は物語というより、意識の流れに近い。都市を歩きながら断片的に浮かぶ思考や記憶が、音楽の変化とともに連なっていく。
また、曲の後半では歌詞の言葉がサウンドに飲み込まれていくように感じられる。これは単に歌詞が聞き取りにくくなるということではない。言葉で整理されていた感情が、次第に音響そのものへ移される構造である。Jockstrapの音楽では、歌詞とプロダクションが分かれて存在するのではなく、互いに変形し合う。
3. 制作背景・時代背景
「Concrete Over Water」は、JockstrapがRough Tradeと契約した後の重要なシングルである。彼らは2020年のEP『Wicked City』で、弦楽的な美しさと電子音の歪みを組み合わせた作風を提示していた。その後、2021年の「50/50」でよりクラブ・ミュージック寄りのアプローチを見せ、2022年の「Concrete Over Water」では、ポップ・ソングとしての旋律と、複雑なプロダクションを大きなスケールで結びつけた。
Georgia Elleryは、Black Country, New Roadのメンバーとしても知られている。彼女のヴァイオリンや声には、インディー・ロックや室内楽的な文脈がある。一方、Taylor Skyeのプロダクションは、ダンス・ミュージック、グリッチ、ベース・ミュージック、サンプリング的な切断を取り込む。この二つの感覚がぶつかることで、Jockstrapの曲は単なるエレクトロ・ポップではなく、常に予測しにくい展開を持つ。
2022年の『I Love You Jennifer B』は、Jockstrapのデビュー・アルバムでありながら、すでに成熟した作品として受け止められた。多くの批評では、アルバムのジャンル横断性、演劇的な構成、クラシックとクラブの接続が評価された。「Concrete Over Water」はその中心的な楽曲として扱われることが多い。
この時代のUKインディー・シーンでは、Black Country, New Road、black midi、Squidなど、ロックの形式を拡張するバンドが注目されていた。Jockstrapはその周辺に位置しながら、よりポップ、電子音楽、室内楽に近い場所で活動している。「Concrete Over Water」は、そうした2020年代初頭のロンドン周辺の実験的な音楽状況を象徴する曲のひとつである。
4. 歌詞の抜粋と和訳
歌詞の引用は、批評・解説に必要な最小限にとどめる。
I live in the city
和訳:
私はこの街で暮らしている
この一節は、曲の舞台を明確にする。語り手は自然の中ではなく、都市の中にいる。重要なのは、街が単なる背景ではなく、感情を形作る環境として機能している点である。建物、夜、空気、距離の感覚が、語り手の心理と結びついている。
Tower’s blue and the sky is black
和訳:
塔は青く、空は黒い
この短い描写には、視覚的なコントラストがある。青い塔と黒い空は、都市の人工的な光と夜の暗さを同時に示す。歌詞は説明的ではないが、このイメージによって、語り手が見ている街の冷たさや孤立感が伝わる。
この曲では、歌詞の意味を一つに固定しにくい。都市生活の歌、恋愛の歌、孤独の歌、夜の散歩の歌として読むことができる。Jockstrapはそこを曖昧なまま残し、サウンドの変化によって感情の揺れを補っている。
5. サウンドと歌詞の考察
「Concrete Over Water」の最大の特徴は、曲の中で何度も質感が変わることである。冒頭は静かで、Georgia Elleryの声が前面に出る。ボーカルは高く、細く、感情を大きく押し出すよりも、夜の空気の中に浮かぶように置かれている。ここでは、メロディの美しさと歌詞の都市的な描写が中心になる。
やがてシンセや電子音が厚みを増し、曲は徐々に広がっていく。音数は増えるが、単純に盛り上がるだけではない。リズムや音響が少しずつ不安定になり、聴き手は曲がどこへ向かうのかを予測しにくくなる。Jockstrapの楽曲では、この予測不能さが重要である。ポップ・ソングの親しみやすさを保ちながら、その構造を途中で何度もずらす。
中盤以降では、クラブ・ミュージック的な低音や、鋭い電子音が前に出る。前半の繊細な歌唱と、後半の破裂するようなプロダクションの差が大きい。この差は、歌詞が描く都市の二面性と対応している。街は美しい光景でもあり、同時に圧迫的で騒がしい環境でもある。曲はその両方を、メロディと音響の変化で表している。
リズムの扱いも重要である。冒頭ではリズムが強く主張せず、語り手の視線に沿って曲が進む。しかし後半ではビートが曲を支配し、身体的な圧力が増す。ここで歌詞の「都市にいる」という感覚は、単なる視覚描写から、身体に響くものへ変わる。街の音、交通、建物、夜の密度が、抽象的な電子音として再構成されている。
Georgia Elleryのボーカルは、曲の変化の中でも一本の軸として残る。彼女の声は、オーケストラ的な響きにも、電子音の激しい変化にも埋もれきらない。むしろ、声が細く保たれているからこそ、周囲の音響の巨大さが強調される。語り手は都市の中で小さな存在でありながら、その視点だけは曲全体を導いている。
Taylor Skyeのプロダクションは、整ったポップ・ソングを壊すためではなく、感情の変形を音で示すために機能している。前半の旋律が後半で解体されるように聴こえる部分もあるが、それは単なる実験ではない。夜の街を歩きながら思考が飛び、記憶が混ざり、感情が言葉から離れていく過程として聴くことができる。
「Concrete Over Water」というタイトルも、サウンドの構造とよく合っている。コンクリートは固く、人工的で、都市を象徴する素材である。一方、水は流動的で、形を固定しない。曲の前半にはメロディという輪郭があり、後半には水のように変化する音響がある。硬いものと柔らかいもの、固定された街と流れる感情が重ねられている。
『I Love You Jennifer B』の中でこの曲が重要なのは、Jockstrapの複数の側面が集約されているからである。アルバムには、よりポップな曲、よりダンス・ミュージック寄りの曲、より実験的な曲がある。その中で「Concrete Over Water」は、歌、弦楽的な感覚、電子音、都市的なイメージ、長尺の構成を一つにまとめている。
6. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- Glasgow by Jockstrap
『I Love You Jennifer B』収録曲で、Jockstrapのソングライティングの親密な面がよく出ている。「Concrete Over Water」よりも物語性が前に出るが、繊細なボーカルと予想外の展開が共通している。
- 50/50 by Jockstrap
Jockstrapのクラブ・ミュージック的な側面を知るうえで重要な曲である。「Concrete Over Water」の後半にある電子音の攻撃性やリズムの変化が好きな人には、より直接的に響く。
- Chaos Space Marine by Black Country, New Road
Georgia Elleryが参加するBlack Country, New Roadの楽曲で、劇的な構成とアンサンブルの強さが特徴である。Jockstrapとは音楽性が異なるが、室内楽的な要素とインディー・ロックの拡張という点でつながりがある。
- Cellophane by FKA twigs
声の繊細さと電子音響の余白が強く印象に残る楽曲である。「Concrete Over Water」の前半にある、壊れやすいボーカル表現や親密な距離感が好きな人に向いている。
- Faceshopping by SOPHIE
電子音の加工、ポップの解体、身体性の強いプロダクションが特徴の曲である。「Concrete Over Water」の後半にある、音が物理的に迫ってくる感覚をさらに極端な形で聴くことができる。
7. まとめ
「Concrete Over Water」は、Jockstrapのデビュー・アルバム『I Love You Jennifer B』を代表する楽曲である。2022年にシングルとして発表され、アルバムの中心的な存在として、Jockstrapの音楽性を広く印象づけた。
歌詞は、都市の夜、建築、距離のある相手、孤独感を断片的に描く。明確な物語を語るのではなく、街を歩く語り手の意識の流れを追うように進む。青い塔、黒い空、背中にのしかかる夜といった言葉が、都市生活の美しさと圧迫感を同時に示している。
サウンド面では、繊細なボーカル、室内楽的な旋律、鋭い電子音、クラブ・ミュージック的な低音が段階的に変化する。曲はポップ・ソングとして始まり、途中から音響的な実験へ広がっていく。それでも中心に歌の強さが残っているため、単なる実験音楽にはならない。
「Concrete Over Water」は、Jockstrapが持つ二面性を最もよく示す曲である。クラシック的な構築性とクラブ以後の編集感覚、親密な歌と巨大な電子音、都市の硬さと感情の流動性が、一曲の中で衝突しながら共存している。2020年代の実験的ポップを語るうえで、重要な楽曲のひとつである。
参照元
- Jockstrap – Concrete Over Water – Bandcamp
- Jockstrap – Concrete Over Water – Spotify
- Pitchfork – Jockstrap Share Video for New Song “Concrete Over Water”
- Pitchfork – Jockstrap: I Love You Jennifer B Album Review
- Pitchfork – Jockstrap Announce New Album and Tour
- The Guardian – The 50 best albums of 2022: Jockstrap: I Love You Jennifer B
- The Skinny – Jockstrap: I Love You Jennifer B Review
- Loud and Quiet – Jockstrap: I Love You Jennifer B Review
- Dork – Jockstrap / Concrete Over Water
- Dork – Jockstrap / Concrete Over Water Lyrics

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