アルバムレビュー：Color Theory by Soccer Mommy

発売日: 2020年2月28日
ジャンル: インディーロック、ドリームポップ、ローファイ、ベッドルームポップ

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概要

『Color Theory』は、Soccer Mommy（ソッカー・マミー、本名ソフィー・アリソン）が2020年に発表したセカンド・フルアルバムであり、感情のスペクトルを“色彩”で表現するというコンセプトに基づき、自身の内面と家族のトラウマを音に落とし込んだ極めて私的な作品である。

タイトル通り、このアルバムでは「青＝悲しみ」「黄＝病」「灰＝死」といった色彩的テーマが各楽曲のトーンに割り振られ、リスナーはその色の波に包まれながら、ソフィーの記憶と感情に潜り込んでいく。

プロデュースはGabe Wax（Adrianne Lenker、The War on Drugs など）で、音響面ではより洗練され、90年代オルタナやシューゲイズ、ドリームポップの影響をたたえた音作りが特徴的。
それでもなお、ベッドルームポップの親密さとローファイの脆さは保たれており、Soccer Mommyならではの“静かで激しい告白”がそこにはある。

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全曲レビュー

1. Bloodstream

アルバムの幕開け。鬱や孤独が血流のように流れているというメタファーが、ノスタルジックなギターとともに語られる。すでに「青」の色調が全体を支配。

2. Circle the Drain

アルバムの代表曲。うつ状態の循環性を、キャッチーなメロディに乗せて描くというアイロニカルな構造。明るいコード進行とのギャップが鮮烈。

3. Royal Screw Up

「私は何をしても失敗する」——そんな自己否定を、穏やかなコード進行とウィスパーヴォイスで包み込む。冷たい風のような一曲。

4. Night Swimming

夢と現実の境界がぼやけるような楽曲。記憶と現在、時間の層が重なる音像で、深い夜の孤独を静かに描く。

5. Crawling in My Skin

自傷的な感覚と身体的な違和感を赤裸々に語る。「皮膚の中に這う」というイメージが、生理的なレベルで不安を喚起する。

6. Yellow is the Color of Her Eyes

母親の病と時間の喪失を描いた7分超の大曲。淡いコードと繰り返しのメロディが、痛みと諦念をゆっくりと浸透させていく。

7. Up the Walls

逃げ場のない感情を壁にぶつけるようなイメージ。サウンドは浮遊感がありつつも不穏で、内面の苛立ちがにじみ出る。

8. Lucy

悪魔的存在“ルーシー”への誘惑と恐れを描く。ギターの歪みとスリリングな構成が特徴で、感情の暗部に踏み込んだ一曲。

9. Stain

愛が残した“染み”としての記憶。歌詞とギターが静かに交差し、過去の関係性の亡霊を感じさせる。ドリームポップ色が強い。

10. Gray Light

「灰色の光」＝生と死の間にある不確かな境界を象徴。アルバム終盤にふさわしい、すべての色が混ざって無色になるようなサウンド。

11. Darkness Forever

死と破壊への静かな傾倒を描く曲。タイトル通りの重い世界観だが、淡々とした語り口が逆に迫力を生む。

12. Color Theory

実質的なエピローグ。色の喪失と自己の崩壊を受け入れながら、それでもそこに“見える”ものを探そうとする、希望の微光。

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総評

『Color Theory』は、Soccer Mommyが自己を解剖するような視線で音楽と向き合った、“感情の色見本帳”とも言うべき作品である。

恋愛の傷だけでなく、家族の病、うつ、死、失われた時間——そういった個人的でありながら普遍的な経験を、色彩という抽象的モチーフに落とし込むことで、リスナーとの距離を保ちながら深く入り込んでくる。

音の柔らかさと歌詞の鋭さが対照的であり、Soccer Mommyの書く歌は“癒し”ではなく“共感される痛み”として機能する。

このアルバムを聴き終えたとき、色の見え方が少しだけ変わるかもしれない。
それほどまでに、『Color Theory』は個人の感情のスペクトルを可視化する装置なのだ。

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おすすめアルバム（5枚）

• Snail Mail『Valentine』
  愛と崩壊、ロックと静寂の緊張が共通。

• Faye Webster『Atlanta Millionaires Club』
  感情を色彩のようにスロウに染めていく叙情性。

• Mazzy Star『So Tonight That I Might See』
  ドリームポップ的陰影の源流として共振。

• Japanese Breakfast『Jubilee』
  悲しみと祝祭、明と暗が音楽として溶け合う感覚。

• Big Thief『U.F.O.F.』
  自然と心象、内省と宇宙が同居する詩的フォーク。

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歌詞と文化的背景

“色彩”を軸にしたこの作品は、視覚障害のある母親との関係を暗に反映しているとも言われており、
特に「Yellow is the Color of Her Eyes」は、視覚・時間・病というテーマが交錯する深い私小説的作品である。

また、“青＝憂鬱”“黄＝病”“灰＝死”という色と感情の関係性は、アメリカ文学や映画でもたびたび登場する隠喩の再解釈としても読める。

Soccer Mommyはここで、色という“記号”を使って心象風景を描きながら、自分自身と社会の間にある不確かな境界を音楽で見つめている。

だからこそ、『Color Theory』はただの失恋アルバムではなく、
記憶と痛みの整理術としての“色彩の記録”なのである。