発売日: 2005年8月22日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、インダストリアル・フォーク、ポストパンク
概要
『Carnival』は、New Model Armyが2005年に発表した9作目のスタジオ・アルバムであり、長いキャリアの中でも特に“燃えるような怒り”と“再起の意志”が結晶した作品である。
タイトルが示す通り、「カーニヴァル(祝祭/混乱)」という言葉には、快楽と暴力、陶酔と崩壊が同時に内包されており、その曖昧な境界をバンドは鋭く、詩的に描き出す。
本作では、より現代的でヘヴィなサウンドが導入され、インダストリアルな質感、ビート主導のアレンジ、そしてダークで研ぎ澄まされたリリックが印象的に展開されている。
バンドはここで、2000年代という戦争と情報の時代に対し、かつてのパンク的衝動を再燃させながら、より構築的で意識的な怒りを提示しているのだ。
ジャスティン・サリヴァンのヴォーカルは、荒々しさと語りの深みを併せ持ち、リリックの一語一語に血が通っている。
同時に、このアルバムは彼らのライブバンドとしての強さをも再確認させる作品であり、サウンドと思想の両面から“闘うバンド”としての本質を改めて示している。
全曲レビュー
1. Water
爆発的な怒りで幕を開けるオープニング・トラック。
戦争、環境、資源問題といった2000年代的アジェンダを背景に、「水」という根源的モチーフで人間の欲望と暴力を描く。
ビートの切れ味とギターの鋭さが圧巻。
2. BD3
バンドの地元・ブラッドフォードの郵便番号“BD3”を冠したトラック。
多文化社会における階級、宗教、暴力の現実を、極めてパーソナルな視点から描いている。
ヒップホップにも通じるリズムの詰め方が特徴的で、新たなNMAの可能性を感じさせる一曲。
3. Rumour and Rapture (1650)
“噂と狂信”をテーマに、現代と過去を接続する歴史的視座を持つ一曲。
1650年は清教徒革命の余韻が残るイングランドの混乱期であり、その記憶を現代のメディア環境と重ね合わせている。
フォーク的メロディにインダストリアルなアレンジが重なる野心作。
4. Red Earth
地に根ざした怒りと、そこに眠る記憶を描いたメランコリックなナンバー。
“赤い大地”とは、戦争の血か、自然の傷か。
ゆっくりとしたテンポの中に、確かな激情が内包されている。
5. Too Close to the Sun
再録ではなく、新たな“飛びすぎた翼”の物語。
栄光と崩壊の狭間をテーマにした一曲で、イカロス神話を思わせるメタファーが印象的。
ギターの緊張感とヴォーカルの危うさが絶妙に絡み合う。
6. Bluebeat
皮肉と祝祭が混じり合うアップビートなナンバー。
“Bluebeat”というスカ系のビートに、警察国家や都市の監視社会というテーマを乗せるユニークな試み。
軽快さの裏に、不穏な空気が漂っているのがNMAらしい。
7. Another Imperial Day
帝国主義と国家主義の再燃を鋭く風刺した政治的ロック・アンセム。
“またしても帝国の日が始まる”という冷ややかなラインが、グローバルな支配構造を暗に批判する。
サウンドは重く、緊張感に満ちている。
8. LS43
ナンバープレート風のタイトルが示すのは、特定の地域、あるいは記憶の断片。
都市と暴動、若者と破壊衝動といったテーマが盛り込まれ、リリックはあくまで断片的に構成される。
ダークウェイヴ的な音像が印象的。
9. Island
静けさと孤立のテーマを描いた、アルバムの中でも最も内省的なナンバー。
“島”という言葉が、イングランドそのもの、あるいは孤立した個人の比喩として多義的に響く。
美しくも絶望的なメロディラインが心を打つ。
10. Fireworks Night
“祝祭”の裏側にある虚無と暴力を描いたトラック。
花火の爆発音が、戦場の爆発にも似ているという比喩を通して、快楽と恐怖の境界を暴く。
リズムとギターの交錯が生み出す不穏さが、曲のテーマと見事に一致する。
11. One Bullet
アルバム終盤を締めるにふさわしい、強烈なアンチ・ヴァイオレンス・ソング。
「たった一発の銃弾」がもたらす死と、その周囲にある沈黙を詩的に描いている。
余計な装飾を排したサウンドが、逆に言葉の重みを際立たせている。
総評
『Carnival』は、New Model Armyの中でも最も“燃えている”作品のひとつであり、政治と個人、怒りと美しさ、暴力と詩が見事に融合した強烈なアルバムである。
タイトルが象徴するように、本作は“祝祭”の皮をかぶった“反乱”であり、リスナーはその中で踊りながら、同時に考えさせられる。
音楽的には、よりモダンなプロダクションとアレンジが導入され、バンドの新たなフェーズを切り拓いた。
その中でもジャスティン・サリヴァンの詩的かつ鋭利な言葉は一切のブレを見せず、むしろ時代の混乱をまっすぐに捉えている。
“パンク以降の叙事詩”として、あるいは“思想するロック”の一つの完成形として、『Carnival』はNew Model Armyのカタログの中でも極めて重要な位置を占める。
それは単なる音楽ではなく、世界と向き合うための“もうひとつの生き方”を提示する、極めてラディカルで詩的な声明なのだ。
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情報化社会への怒りと不安を抽象的かつ詩的に表現した名盤。
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