発売日: 1978年5月16日
ジャンル: ソフトロック、ウェストコースト・ロック、ハードロック
ユーモアの皮をかぶった本音の吐露——Joe Walshが“笑いながら泣いた”一枚
『But Seriously, Folks…』は、Joe Walshがイーグルス加入後に発表したソロ4作目のアルバムであり、
彼のキャリアの中でも最も洗練され、穏やかで、そして皮肉に満ちた傑作である。
本作は、ロック・スターとしての“虚飾と倦怠”をユーモラスに描きつつも、どこかで哀しみや諦観が漂っている、
言わば“成功者の裏側”をさらけ出すようなコンセプトが貫かれている。
そしてそれは、陽光のウェストコースト・ロックの肌触りの中に潜む、Joe Walshらしい知的なシニシズムとも言える。
タイトルの「でもまあ、真面目な話をすればさ……」という語りかけのような一言に、
ジョー・ウォルシュの二面性——滑稽さと真実——が凝縮されている。
全曲レビュー
1. Over and Over
開幕を飾る軽快なポップ・ロック。
「同じことの繰り返しさ」と自嘲しつつ、それを楽しんでしまう達観がにじむ。
コーラスにはイーグルスの面々も参加しており、音の安定感が抜群。
2. Second Hand Store
アコースティックとエレキが交錯する、味わい深いミッドテンポの一曲。
古びた店で見つけるのは“過去の自分”か、それとも…？という余韻あるテーマが胸に残る。
3. Indian Summer
陽射しの中の孤独。
タイトル通りの“残暑”のような、メロウで切ないサウンドスケープが心地よい。
ウォルシュの優しげなヴォーカルが光る。
4. At the Station
中盤に向けての加速トラック。
アメリカン・ロックらしいドライブ感の中に、どこか落ち着かない精神の揺らぎが滲む。
サビの高揚感とギターのリフレインが耳に残る。
5. Tomorrow
軽妙なビートと明るいメロディで綴られる、“明日なんてこないさ”というネガティブなメッセージ。
その裏返しのポジティブさが、ウォルシュらしい皮肉として機能している。
6. Inner Tube（インストゥルメンタル）
短いながらも、浮遊感のあるキーボードとギターの絡みが美しい間奏曲。
アルバム全体の“脱力感”と“深層意識”をつなぐ役割。
7. Theme from Boat Weirdos（インストゥルメンタル）
ややシンフォニックな香りの漂う構成。
“奇人たちのボート”というタイトルが示すように、遊び心に満ちた音のカーニバル。
短編映画のサントラのようでもあり、聴く者の想像力を刺激する。
8. Life’s Been Good
本作最大のヒット曲にして、ロックスターとしての“虚栄と空虚”を徹底的に自嘲した代表作。
「俺はフェラーリを持ってるけど運転できない」「金はあるけど使い道がない」などのリリックが痛快。
この曲こそ、ウォルシュの真骨頂——笑いながら泣いているロックスターの肖像である。
タイトなリズムと飄々としたボーカル、印象的なギターリフ、すべてが絶妙に組み合わさっている。
総評
『But Seriously, Folks…』は、Joe Walshがロックスターとしての頂点にいた時期に、あえて“素の自分”に戻ろうとした作品である。
そのサウンドは陽気で耳なじみがよく、
だがその奥には、笑いと共に、空虚さや孤独が静かに息づいている。
このアルバムを聴くことは、
“ロックの栄光”の舞台裏を、ユーモアと詩心で覗き見ることに等しい。
そして、Joe Walshというアーティストがいかに繊細で、誠実で、遊び心に満ちた表現者であるかを再確認させてくれる。
おすすめアルバム
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The Eagles – The Long Run
イーグルス後期の円熟サウンド。ウォルシュのプレイが色濃く響く。 -
Randy Newman – Good Old Boys
皮肉と社会風刺、メロディの美学。共通する“笑いの向こう側”がある。 -
Steely Dan – Aja
洗練されたサウンドと冷静なシニシズム。構築美の快楽。 -
Warren Zevon – Excitable Boy
ブラックユーモアと情熱の融合。ウォルシュと精神的に通じる部分が多い。 -
Joe Walsh – Ordinary Average Guy
1991年作。歳を重ねても変わらない“普通の男”の自画像。
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