発売日: 2007年5月22日
ジャンル: インディーロック、ポストパンクリバイバル
The Nationalの4作目「Boxer」は、バンドのキャリアを決定付けたアルバムであり、彼らの内省的でシネマティックなサウンドが完成された作品である。フロントマンのマット・バーニンガーによる深く渋いバリトンボイスと、緻密にアレンジされた楽曲が相まって、バンド独自のメランコリックな世界観が表現されている。また、今作ではThe Nationalの特徴ともいえる、抑えられた感情と緊張感が一貫して漂い、都会の孤独や無力感、喪失といったテーマが詩的な歌詞で綴られている。
アルバム全体を通じて、洗練されたメロディとダークでメランコリックなサウンドが融合し、バーニンガーの声が切なくも力強く響く。特に今作では、アーロン・デスナーとブライス・デスナー兄弟のギターワークが際立ち、細部にまでこだわり抜かれたアレンジが、各楽曲に深みとドラマをもたらしている。「Boxer」はThe Nationalの代表作としてだけでなく、インディーロックの傑作のひとつとしても評価されており、ファンにとっても欠かせない一枚だ。
各曲解説
1. Fake Empire
アルバムのオープニングを飾る「Fake Empire」は、優雅なピアノと幻想的なメロディで幕を開ける。日常に潜む虚しさや理想と現実のギャップを描いた歌詞が印象的で、終盤のトランペットが美しく響き渡り、壮大な余韻を残す。
2. Mistaken for Strangers
エネルギッシュなギターリフとシンプルなドラムが引き立つ「Mistaken for Strangers」は、都会の孤独感や疎外感がテーマ。バーニンガーの歌詞に込められた苦悩や不安が、ダークで力強いサウンドに溶け込む一曲だ。
3. Brainy
内向的で控えめなビートが印象的な「Brainy」は、神経質なギターとベースが絡み合い、静かな焦燥感が漂う。恋愛や孤独に悩む複雑な心情が、バーニンガーの低く渋いボーカルに見事に表現されている。
4. Squalor Victoria
「Squalor Victoria」は、ミニマルなリフとリズミカルなビートが特徴的で、タイトルが象徴するような荒廃した雰囲気が感じられる。歌詞には社会的な疲弊や個人の無力感が綴られ、リズムの高揚とともに焦燥感が募る。
5. Green Gloves
穏やかなアコースティックギターが印象的な「Green Gloves」は、静けさの中に感情の揺れを感じさせるバラード。失ったものへの郷愁や思い出を振り返る切なさが、繊細なメロディと共に美しく表現されている。
6. Slow Show
愛と喪失をテーマにした「Slow Show」は、バーニンガーの感情的なボーカルが際立つ一曲。シンプルなリズムと静かなギターが、バンドの持つメランコリックな魅力を引き出し、後半の盛り上がりが胸を打つ。
7. Apartment Story
軽快なビートと柔らかなギターが印象的な「Apartment Story」は、日常の孤独や現実の逃避がテーマ。現実から逃れたい気持ちと諦めが同居する歌詞が、心地よいメロディと絶妙に重なり合っている。
8. Start a War
静かなギターのアルペジオが流れる「Start a War」は、対立と和解の間で揺れる人間関係を描いた一曲。バーニンガーのボーカルが語りかけるように響き、シンプルなメロディが不穏さと切なさを感じさせる。
9. Guest Room
「Guest Room」は、シンプルで力強いリズムが印象的なトラックで、寂しさと愛の葛藤が歌われている。淡々としたメロディが、どこか虚しさを感じさせ、曲全体に重厚感をもたらしている。
10. Racing Like a Pro
シンプルなピアノのメロディが心に響く「Racing Like a Pro」は、成功と挫折の間で揺れる心情が表現されている。内省的な歌詞とシンプルな構成が、The Nationalの持つ詩的な美しさを際立たせる一曲だ。
11. Ada
「Ada」は、ピアノとトランペットが中心となった美しいバラードで、愛と悔恨の念がテーマ。メロディの優雅さとバーニンガーの渋いボーカルが見事に調和し、静かに心に響く。
12. Gospel
アルバムの最後を飾る「Gospel」は、内省的で静かなトラック。人生の儚さや無力感がテーマで、バンド全体が控えめな演奏を通じて深い感情を伝える。淡々としたメロディが、アルバム全体の余韻を美しく締めくくる。
アルバム総評
「Boxer」は、The Nationalが持つメランコリックで詩的な世界観を音楽的に昇華した傑作である。バンドの持つ洗練された演奏とバーニンガーの感情豊かなボーカルが、都会の孤独や人生の虚しさを鮮やかに描き出している。特にギターやピアノ、トランペットの繊細なアレンジが際立ち、曲ごとに異なる情景や感情が感じられる。「Boxer」はThe Nationalの中でも最も完成度の高い作品として、多くのファンにとっても特別な存在であり、インディーロックの名盤と称されるにふさわしい一枚だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Turn on the Bright Lights by Interpol
メランコリックでダークなサウンドと内省的な歌詞が共通しており、The Nationalファンにとっても聴き応えのある作品。
Antics by Interpol
The Nationalと同時代のポストパンクリバイバルの名作で、ダークで都会的な雰囲気が「Boxer」と響き合う。
Hospice by The Antlers
繊細で感情的なリリックが美しく、メランコリックなサウンドが共通する。The Nationalファンにも刺さる深い作品。
The Suburbs by Arcade Fire
社会への失望や個人的な葛藤がテーマで、重厚なアレンジとシリアスな歌詞が「Boxer」に共鳴する一枚。
High Violet by The National
「Boxer」の次作で、さらに成熟したサウンドと詩的な歌詞が楽しめる。The Nationalのファンにとっても重要な一枚。
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