1. 歌詞の概要
「Blue」は、Lola Youngが2023年にリリースしたデビュー・アルバム『My Mind Wanders and Sometimes Leaves Completely』の終盤に収録された楽曲であり、タイトル通り“憂鬱”や“静かな悲しみ”を色として捉えた、極めて内省的で詩的なバラードである。
この楽曲で歌われる「青」は、悲しみの象徴でありながら、決して激しく泣き叫ぶような哀しみではない。むしろ、それは沈殿した感情の色。過去に負った傷や、取り戻せない日々の記憶が、自分という存在の深層に静かに沈んでいるような、その“重さ”がこの曲の核になっている。
恋愛の喪失とも、自分自身の揺らぎとも解釈できるその内容は、Lola Young特有の“感情の余白”を生かした歌詞構成と、簡素ながらも陰影のあるアレンジによって、聴く者の記憶や感性と重なる余地を広く残している。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Blue」は、アルバムの流れの中で“終わりに近い場所”に配置されていることもあり、“感情の落としどころ”を探すような構造を持っている。アルバム全体が自己喪失・混乱・逃避といったテーマを巡る旅路であるならば、この「Blue」は、ようやく静寂の中で“感情の色”と向き合うことができた瞬間とも言える。
Lola Youngは、過去の楽曲でも愛や自己肯定感、痛みや衝動といったテーマを掘り下げてきたが、この「Blue」では、感情を表現すること自体を控えめにしており、まるで音楽そのものが“沈黙の中の声”になっているようだ。ピアノとアナログ感のあるリズムが中心のトラックの上で、彼女の歌声は囁きのように響き、聴く者に問いかけてくる。
この曲の“青”は、ただの色彩の象徴ではなく、「感情の温度」や「精神の状態」を包み込む、一種の“感情の居場所”として機能している。
3. 歌詞の抜粋と和訳
Blue like the dress I wore
あの日着ていたワンピースみたいに、私は“青”だったBlue like the sky before the storm
嵐の前の空みたいに、静かに、でも不穏な青だったI try to smile, but I fade again
笑ってみても、やっぱりまた色褪せてしまうThis sadness feels like home
この悲しみは、もう私の“帰る場所”みたいなの
出典: Genius Lyrics – Blue by Lola Young
4. 歌詞の考察
「Blue」は、その詩的でミニマルな言葉の中に、深い孤独と自己との静かな対話が詰まっている。Lola Youngは、ここで「悲しみ」を単なる一過性の感情として描いてはいない。それはむしろ、長く共にあるもの、いつしか“自分の一部”になってしまったものとして描かれている。
特に「This sadness feels like home(この悲しみは私の帰る場所みたい)」というラインには、癒えることを諦めたわけではないが、“完全に立ち直る”という概念を信じられなくなってしまった人の視点がある。だからこそ、この曲に漂う哀しみは、どこか“穏やか”ですらある。
冒頭に出てくる「青いドレス」や「嵐の前の空」といった描写も、具体性を持たせつつ、情景よりも“感情の比喩”として機能している。ドレスは思い出を、空は予感を示し、どちらも“自分の外側にあるはずのもの”が、内面の色として体に染みついている。
また、「笑ってみても色褪せてしまう」というラインには、無理に感情を取り繕おうとする試みと、その無力さが表れている。それでもなお、その無力さを肯定的に受け止めようとする静かな意志が感じられる。
この曲は、「悲しみとともにある自分」を否定せずに、ただそこに留まるという選択の歌だ。そしてそれは、痛みを超えて“感情の居場所”を見つけることのできた者だけが辿り着ける境地でもある。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Blue by Joni Mitchell
同じく“青”という色を通して感情を描き、内面を旅する名盤のタイトル曲。 - Colorblind by Counting Crows
色の喪失を通して愛と感情の麻痺を描いた、繊細なバラード。 - Elderbrook by Phoebe Bridgers
感情の微細な動きを静かに描く現代的なオルタナティブフォークの秀作。 -
River by Leon Bridges
喪失と救済をテーマにした、感情の清流のようなソウルバラード。 -
I Know It’s Over by The Smiths
自己憐憫とそれを超えた感情をシニカルに描いた、孤独の名曲。
6. “青”という色に託された、静かな自画像
「Blue」は、Lola Youngが描く“感情の色彩詩”であり、自己と深く向き合うための鏡のような一曲である。ここで彼女が語る“青さ”は、若さでも希望でもなく、むしろ「失ったもの」「手放せなかったもの」「癒えなかった痛み」そのものだ。
だがそれは、決して絶望ではない。この曲に漂う“受容”の気配――すなわち「私はこういう人間である」という認識の静けさ――こそが、Lola Youngというアーティストの強さを象徴している。
「Blue」は、涙を流し尽くしたあとの“透明な哀しみ”を音にしたような楽曲だ。
それは、誰にも見せられなかった心の奥の色を、そっと空気に溶かすようなやさしさに満ちている。
そしてこの曲を聴いたあと、きっとあなたの中にも、“消えない青”がそっと灯っていることに気づくだろう。
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