
発売日:2019年11月29日
ジャンル:オルタナティブ・ポップ/ソウル/R&B/シンガーソングライター
概要
Lola Youngの『Intro』は、彼女が10代の終盤に発表した初期EPであり、後にオルタナティブ・ポップ、ソウル、インディー・ロックを横断するシンガーソングライターへ発展していく原点を記録した作品である。
ロンドン出身のLola Youngは、BRIT Schoolで音楽を学び、若い時期からピアノを軸とした作曲を行ってきた。後年の作品では、荒々しいギター、打ち込み、ヒップホップ的なフロウ、オルタナティブ・ロックまで大胆に取り込むようになるが、『Intro』ではそれらの要素はまだ前面には出ていない。
中心にあるのは声と歌詞である。
低音域に少しざらつきを持つ声、語尾を崩すようなフレージング、ソウル由来の強弱、そして感情を整えすぎずに残す歌い方。この時点ですでに、後のLola Youngを特徴づけるヴォーカルの個性がかなり明確になっている。
特に重要なのが、恋愛を理想化しないことである。
『Intro』に登場する関係は安定していない。
愛されたい。
しかし相手を完全には信用できない。
一人になりたくない。
しかし誰かと一緒にいることで傷つく。
自分を選んでほしい。
その一方で、他人の評価によって自分を決められたくない。
こうした矛盾が初期作品からすでに存在している。
タイトルの『Intro』は、そのまま「導入」を意味する。
大げさなコンセプトを掲げるのではなく、「これがLola Youngというソングライターの入口である」と提示する題名として非常に適切である。
後の作品と比較すると、プロダクションは比較的簡潔で、ピアノ、鍵盤、控えめなビート、ソウル/R&B的なコード進行が中心となる。そのため彼女の歌詞と声が隠れない。
この「楽曲を大きな音響で覆わない」という判断によって、若いソングライターの未整理な感情が直接伝わる作品になっている。
同時代の英国女性シンガーソングライターという文脈では、Amy Winehouse以降のソウル志向、Adeleのピアノ/バラード的な表現、Lianne La Havasの繊細なコード感、そしてよりオルタナティブなKing Krule周辺のロンドン的な陰影など、複数の系譜と接続できる。
しかしLola Youngの場合、完成された大人のソウルを模倣するのではなく、若さゆえの感情の不安定さをそのまま残している。
そこが『Intro』最大の特徴である。
全曲レビュー
1. 6 Feet Under
「6 Feet Under」は、Lola Young初期を代表する楽曲のひとつであり、『Intro』の世界観を象徴する。
“six feet under”は英語圏で「墓の中」「死んで埋葬されている状態」を意味する表現である。
この強い言葉を使いながら、曲の中心にあるのは必ずしも文字通りの死ではない。
精神的に沈み込むこと。
感情から抜け出せなくなること。
外部との接触を避け、自分の内面へ深く潜ってしまうこと。
そうした状態が「地下六フィート」というイメージへ変換されている。
Lola Youngの歌詞の特徴は、重い感情を美しく抽象化しすぎないことにある。
苦しい。
動けない。
誰かに理解してほしい。
しかし説明すること自体が疲れる。
その感覚が直接的な言葉として現れる。
音楽的には、ピアノや鍵盤を中心とした比較的抑制されたアレンジが、ヴォーカルの不安定さを強調する。
声を張り上げる瞬間だけでなく、小さく歌う部分にも大きな感情がある。
この「静かな声のなかに苛立ちを残す」という技法は、後のLola Young作品でも重要な特徴となる。
2. Blind Love
「Blind Love」は、恋愛によって判断力を失う状態を扱った楽曲である。
タイトルの“blind love”は「盲目的な愛」。
相手を理想化する。
問題があることは分かっている。
しかし、それでも離れることができない。
そのような関係が中心にある。
恋愛を扱ったポップ・ソングでは、「愛は人を救う」という物語がしばしば使われる。
しかしLola Youngの視点はもっと疑い深い。
愛は人を幸福にする可能性がある一方、現実を見えなくする力にもなる。
特に若い時期の恋愛では、相手を理解しているつもりでも、実際には自分が作ったイメージへ恋をしていることがある。
「Blind Love」はその危うさを捉えている。
ヴォーカルではソウル的な表現が強く、音程を完全に直線的に歌うのではなく、少し後ろへ引いたり、言葉を崩したりする。
その揺れが、理性と感情が一致していない歌詞の内容とよく合っている。
3. Pick Me Up
「Pick Me Up」は、そのタイトルに複数の意味を持つ。
誰かに「迎えに来てほしい」。
精神的に「元気づけてほしい」。
あるいは落ち込んだ状態から「引き上げてほしい」。
Lola Youngの歌詞では、こうした誰かへの依存と、それを認めたくない気持ちがしばしば同時に存在する。
自立していたい。
しかし本当は助けが必要である。
この矛盾が「Pick Me Up」にもある。
特に重要なのは、「救ってほしい」という願いがロマンティックな理想として描かれないことだ。
他人に頼ることで、一時的には楽になる。
しかし相手がいなくなれば、再び同じ場所へ戻るかもしれない。
したがって、この曲では他者からの救済が完全な解決策にはならない。
音楽的にはR&B/ソウルの柔らかい感触が強く、Lola Youngの声の低音が効果的に使われる。
彼女の歌唱は、若いシンガーにありがちな高音域の派手さより、低い声で感情を語る瞬間に個性がある。
この曲はその特徴をよく示している。
4. None for You
「None for You」は、タイトルの言葉自体に拒絶の意志がある。
「あなたには何もない」。
恋愛における一方的な献身から距離を取るような感覚があり、作品前半にある依存的な感情とは異なる方向を示す。
Lola Youngの楽曲では、同じ人物が一貫して強いわけでも、一貫して弱いわけでもない。
ある曲では相手を必要とする。
別の曲では拒絶する。
その変化が非常に現実的である。
実際の人間関係では、「もう必要ない」と決意した翌日に再び相手を考えることもある。
だから『Intro』は一直線の成長物語にはならない。
むしろ感情が前後する。
「None for You」では、そのなかでも自己防衛が比較的強く現れる。
相手に与え続けることで、自分自身が消耗する。
ならば何も渡さない。
その判断には怒りもあるが、自己保存の感覚もある。
こうした歌詞は、後のLola Youngがより攻撃的で率直な言葉を使うようになる流れを予告している。
5. Why Do I Fall in Love?
「Why Do I Fall in Love?」は、『Intro』という作品の恋愛観を最も直接的に示すタイトルを持つ。
「なぜ私は恋をするのか」。
この問いにはすでに疲労がある。
恋愛が幸福な経験なら、わざわざ「なぜ?」と疑問を投げる必要はない。
何度も同じように傷つく。
それでもまた誰かを好きになる。
その循環に対する戸惑いが中心にある。
ここで重要なのは、恋愛そのものを否定していないことである。
Lola Youngの人物は、愛を必要としなくなったわけではない。
むしろ必要だからこそ困っている。
理性では危険性を理解している。
しかし感情は別の方向へ進む。
この構造は「Blind Love」ともつながっている。
恋愛によって判断力が曖昧になり、傷ついた後に「もう繰り返さない」と考えても、再び同じ感情が生まれる。
『Intro』では、愛は完成や救済ではなく、理解できない衝動として描かれる。
この視点は、後のLola Youngのソングライティングにおいてさらに重要になる。
彼女は恋愛を美化するより、欲望、執着、嫌悪、自己否定が混ざったものとして扱うようになるからだ。
総評
『Intro』は、Lola Youngというアーティストの完成形を示した作品ではない。
むしろ題名通り、その後のキャリアへ続く「入口」である。
しかし初期作品だからこそ、後に発展する重要な要素が非常に分かりやすい形で存在している。
第一に、声である。
Lola Youngのヴォーカルは、伝統的な意味で「きれい」に整えることより、言葉の感情を優先する。
低音では少しざらつく。
高音では力が入り、時には声が割れそうになる。
語尾は完全に閉じず、話し声へ戻ることもある。
この歌唱は、ソウルの影響を受けながらも、クラシックなソウル歌手を模倣するものではない。
Amy Winehouse以降、英国では若い女性シンガーがジャズやソウルのフレージングを現代的なポップへ導入する流れが強くなった。
Lola Youngもその系譜と無関係ではない。
ただし彼女の場合、ヴィンテージな音楽スタイルを再現することより、自分の言葉をどう崩して歌うかが重要である。
第二に、恋愛の描き方である。
『Intro』にはロマンティックな理想主義が少ない。
「Blind Love」では愛によって判断が曇る。
「Pick Me Up」では誰かへ依存する必要性が現れる。
「None for You」では逆に相手を拒絶する。
「Why Do I Fall in Love?」では、恋愛そのものを繰り返してしまう自分へ疑問を投げる。
つまりこの作品では、恋愛が一方向の物語として整理されない。
好き。
嫌い。
必要。
必要ではない。
離れたい。
そばにいてほしい。
これらが同時に存在する。
ここがLola Youngのソングライティングにおける非常に重要な特徴である。
彼女は感情を「正しい結論」へ導かない。
ポップ・ソングではしばしば、最終的に主人公が何かを理解する。
失恋から立ち直る。
相手を許す。
自分を愛せるようになる。
しかしLola Youngの作品では、そのような明確な結論に至らないことが多い。
分からないものは分からないまま残る。
『Intro』の段階ですでに、その姿勢が見える。
第三に、精神的な不安定さを劇的に美化しないことである。
「6 Feet Under」のような曲では、沈み込んだ精神状態が強く描かれる。
しかし、それを「苦しんでいるから特別な人物である」というロマンティックな物語へ変換しない。
むしろ、動けないことや考えすぎることの面倒さ、疲労そのものが残る。
この現実感が、後の彼女の作品でさらに強くなる。
Lola Youngは、感情を文学的に美しく整えるタイプのシンガーソングライターではない。
言葉のなかに苛立ちや矛盾を残す。
それが作品の個性となる。
音楽的には、『Intro』は後年の作品よりはるかにソウル/R&B寄りである。
ピアノとヴォーカルを軸にした構成が多く、大胆なオルタナティブ・ロックのギターや歪んだプロダクションはまだ限定的だ。
そのため、後の作品を知った上で戻ると興味深い。
後年のLola Youngは、よりロック的で荒々しい音を使うようになる。
ビートも強くなる。
ヴォーカルもさらに歪み、怒りを前面へ出す。
しかし根本のソングライティングは『Intro』から大きく変わっていない。
中心にあるのは、常に人間関係と自己認識の衝突である。
誰かを愛すると、自分自身が変化する。
その変化を受け入れられる場合もある。
受け入れられない場合もある。
相手を責めているつもりが、最終的には自分の問題へ戻ってくる。
この内向きの視線が、Lola Youngを単なるラヴ・ソングの書き手とは異なる存在にしている。
また、『Intro』は2010年代末の英国シンガーソングライター文化を考えるうえでも興味深い。
この時期には、ソウルやR&Bの伝統を持ちながら、ジャンルを固定しない若い英国アーティストが多く登場していた。
Celeste。
Joy Crookes。
それぞれ音楽性は異なるが、ソウル、インディー、R&B、ポップの境界が以前より曖昧になっていた。
Lola Youngもその流れのなかに位置する。
しかし、彼女の声と歌詞にはより攻撃的な個性があった。
完璧にコントロールされたネオ・ソウルではなく、感情によって声の質感が変わる。
その意味では、後のオルタナティブ・ポップ/インディー・ロックへの移行は突然の方向転換ではない。
すでに『Intro』の時点で、ソウルの形式に完全には収まりきらない人物だったのである。
プロダクションの簡潔さも重要である。
若いアーティストのデビュー作品では、声を魅力的に聞かせるために豪華なストリングスや巨大なビートを加えることもできる。
しかし『Intro』では、歌を必要以上に大きく見せない。
その結果、声の傷や息遣い、言葉の不安定さが残る。
これは後のLola Youngにとって重要な美学となる。
彼女の魅力は、「完成された人物」に見せることではない。
むしろ、自分でも自分を完全には理解できていない状態を作品へ持ち込むことにある。
タイトルの『Intro』は、その意味でも正確である。
これは「自己紹介」ではあるが、完成したプロフィールではない。
「私はこういう人間です」と定義するのではなく、「ここから始まる」という宣言に近い。
そして実際、その後のLola Youngは本作で示した要素を大きく発展させていく。
ソウル。
ピアノ。
低くざらついた声。
自己嫌悪。
恋愛への依存。
皮肉。
怒り。
そして他人に理解されたいという欲望。
これらは後年、より巨大で荒々しいサウンドへ変化する。
しかし根本には、『Intro』で聞ける若いソングライターの声が残っている。
本作を理解する際に重要なのは、技巧的な完成度だけで評価しないことだ。
後の作品と比較すれば、アレンジは控えめで、音楽性の幅もまだ狭い。
しかしその代わり、Lola Youngが「何を書く人なのか」が非常に明確に見える。
それは恋愛を歌う人である。
ただし、恋愛を理想化する人ではない。
精神的な苦しさを歌う人である。
ただし、それを美化する人でもない。
誰かを必要とすることの恥ずかしさ、面倒さ、矛盾をそのまま歌う。
この視点こそが、その後の彼女を特徴づける最大の要素となる。
『Intro』は、壮大なデビュー宣言ではない。
むしろ静かな入口である。
しかしそこには、後にLola Youngが独自のオルタナティブ・ポップへ進むための基本的な言語が、すでにほぼ揃っている。
おすすめアルバム
1. Amy Winehouse – Frank(2003)
ジャズ、ソウル、R&Bを背景にしながら、若い女性の恋愛、苛立ち、自己嫌悪を極めて率直な言葉で描いたデビュー・アルバム。Lola Youngの低音を生かした歌唱や、ロマンティックではない恋愛表現を理解するうえで重要な先行作である。
2. Lianne La Havas – Is Your Love Big Enough?(2012)
ソウル、フォーク、ジャズ、シンガーソングライター的な感覚を融合した作品。Lola Youngより演奏は繊細で整っているが、複雑なコードと親密なヴォーカルによって恋愛の不安定さを描く点で関連性が高い。
3. Arlo Parks – Collapsed in Sunbeams(2021)
インディー・ポップ、ソウル、R&Bを柔らかく融合し、若者の精神状態、人間関係、孤独を細かな観察によって描いた作品。Lola Youngほど攻撃的ではないものの、2010年代末から2020年代の英国における内省的な若手ソングライターの流れを理解するうえで重要な比較対象である。
4. Fiona Apple – Tidal(1996)
ピアノを中心としながら、恋愛、欲望、自己認識を非常に若い視点から描いたデビュー作品。Lola Youngとは時代も音楽的背景も異なるが、感情を「きれいな結論」に整理せず、矛盾したまま歌う姿勢には大きな共通点がある。
5. Lola Young – This Wasn’t Meant for You Anyway(2024)
『Intro』で聞けるソウル/シンガーソングライター的な基盤が、より荒々しいオルタナティブ・ポップ、インディー・ロック、現代的なビートへ発展した作品。恋愛への執着、自己嫌悪、怒り、ブラック・ユーモアといった初期からのテーマが、より大胆な言葉とサウンドで表現されており、『Intro』からの成長を理解するための重要な比較対象である。

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