Blowin’ Free by Wishbone Ash(1972)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Blowin’ Free(ブロウィン・フリー)」は、イギリスのハードロックバンド、Wishbone Ash(ウィッシュボーン・アッシュ)が1972年に発表したセカンド・アルバム『Argus(アーガス)』に収録された楽曲であり、彼らの代表曲のひとつとして長く親しまれている。ツインリード・ギターの調和が生む清涼感と躍動感、そして若さと自由を謳歌する叙情的な歌詞が特徴的な、英国産ハードロックの名作である。

タイトルの「Blowin’ Free」は、「風に吹かれて自由に生きること」を象徴する言葉として使われており、歌詞全体には束縛を超えて駆け抜けるような青春のスピリットが漲っている。かつての恋、あるいはかけがえのない出会いを回想しながらも、その思い出に執着せず、むしろ風のように去っていく軽やかさを肯定する姿勢が、美しいギターの旋律と共鳴している。

この曲は、過ぎ去った時間を悼むのではなく、記憶を追い風にして次の場所へ向かうような、前向きなノスタルジアに満ちている。重苦しさとは無縁の、風通しの良いロックンロールの醍醐味が、ここにはある。

2. 歌詞のバックグラウンド

Wishbone Ashは1969年に結成されたイングランド出身のバンドで、ハードロック、フォーク、ブルース、プログレッシブ・ロックの要素を融合させたサウンドで知られている。とりわけ**“ツインリード・ギター”を特徴とするサウンド構成のパイオニア的存在**として、多くの後続バンド――Iron MaidenやThin Lizzyなど――に影響を与えた。

「Blowin’ Free」は、彼らの代表作『Argus』の中では異色とも言える軽やかな曲調を持っており、他の神話的・中世的な雰囲気の楽曲に比べて、より個人的で現実的な体験に基づいたリリックが特徴である。実際、作詞はベーシストのマーティン・ターナーによるもので、彼が若かりし頃に出会った女性との短い関係をベースにしていると語られている。

この曲はバンドのライブでも定番の人気曲であり、オープニング・ナンバーとしてセットリストに組み込まれることも多い。ツインギターのアンサンブル、浮遊感のあるメロディ、そしてリズムの柔軟な躍動感が一体となり、Wishbone Ashというバンドの“自由”の象徴となっている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

I thought I’d seen it all before
すべてを見尽くしたと思っていた

I thought I knew it
自分は分かってるつもりだった

But now I know I’ve seen too much
だけど今なら分かる――見過ぎていたんだ

I didn’t know it
実は何も知らなかったんだってことを

You’re just a girl I knew before
君は、かつて知っていたひとりの少女

A face in my past I’ve tried to ignore
忘れようとしていた、過去の面影

I feel like blowin’ free
今、俺は風のように自由でいたいんだ

I feel like blowin’ free
自由に生きていたい、それが今の気分さ

(参照元:Lyrics.com – Blowin’ Free)

歌詞の語り手は、過去の恋を振り返りつつも、それにしがみつかず、むしろそこから解き放たれることで自分自身の自由を確認していく

4. 歌詞の考察

「Blowin’ Free」は、単なる恋愛ソングではない。過去の自分と向き合いながら、それを美しい思い出として心の棚にしまい、再び新しい風を受けて歩み始める“決意”の歌なのだ。

歌詞の構成はシンプルながらも、「知っていたと思っていたことが、実は何も分かっていなかった」という気づきが要所で繰り返される。これは単に恋愛に限らず、人生の転機における“自己再発見”のモチーフとしても読める。

また、“Blowin’ Free”というキーフレーズには、自由でいること、縛られずに生きることへの賛歌が込められているが、それは責任からの逃避ではなく、自分の中のしがらみや未練からの解放である。つまりこの曲は、逃げることではなく“風に身を任せる強さ”を歌っているのだ。

そのテーマは、音楽的な表現とも密接に連動している。ツインギターが絡み合いながらもぶつかり合わず、常に“調和”と“余白”を保っている演奏スタイルは、この曲の持つ軽やかな自由精神を見事に音に変換している。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Simple Man by Lynyrd Skynyrd
     人生に必要なものは少ないと気づく男の、静かな決意の歌。

  • Can’t You See by The Marshall Tucker Band
     自由を求めて旅に出る男の心情をブルースに乗せたサザン・ロックの名曲。
  • The Rain Song by Led Zeppelin
     過去の感情を静かに抱きしめながら、新たな時間へ向かう叙情的バラード。

  • Time Waits for No One by The Rolling Stones
     過去の恋と時間の不可逆性を描いた、ロックバンドの成熟期の傑作。

  • Into the Mystic by Van Morrison
     人生の航海と再生をスピリチュアルに描く、海風のようなラブソング。

6. “過去と現在の狭間で吹く風”

「Blowin’ Free」は、Wishbone Ashが残した楽曲の中でも特に“人間らしい”歌である。英雄譚や歴史的モチーフを多く扱う『Argus』の中にあって、この曲だけは等身大の個人の物語として聴こえてくる。それゆえに、この楽曲は特別なのだ。

そしてその個人の物語は、誰もが共感しうる普遍的な問いを内包している。
――過去に縛られるのではなく、どうすればそれを自分の糧として次の一歩を踏み出せるか?

答えは明快ではない。だがWishbone Ashは言う。「風のように自由であればいい」と。
それは未練を断ち切る言葉ではなく、自分自身を愛しながら前に進むための、穏やかな祈りなのかもしれない。

今なおこの曲がライブで愛され続けるのは、そんな**“生き方の美学”をギターと声で語るから**なのだろう。
そしてそれは、今この瞬間を生きる私たちにも、静かに響いてくるメッセージなのだ。

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