Black Metallic by Catherine Wheel(1991)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

Catherine Wheelの代表曲「Black Metallic」は、1991年にリリースされたデビュー・アルバム『Ferment』に収録されたシングルであり、バンドの名を一躍UKオルタナティヴ・ロックの最前線へと押し上げた名曲である。この楽曲は、恋愛や人間関係における依存、憧れ、そして支配的な感情の曖昧な境界線を描きつつ、それを深いノイズとギターの海で包み込むような構成になっている。

「Black Metallic」という象徴的なタイトルは、感情や愛の物質的・鉱物的な表現とも解釈でき、冷たく、硬質で、しかしどこか蠱惑的な存在を暗示している。歌詞は極めて抽象的で、明確な物語を語るのではなく、断片的なイメージを積み重ねることで、感情の波を視覚的に浮かび上がらせている。

2. 歌詞のバックグラウンド

Catherine Wheelは、イングランド東部のグレート・ヤーマス出身のバンドで、フロントマンであるロブ・ディッキンソン(Rob Dickinson)は、ポルシェのデザインにも関わる自動車デザイナーとしても知られる人物だ。「Black Metallic」は彼らのデビュー・シングルにして、当時勃興していた“シューゲイザー”というジャンルの象徴的な1曲として位置付けられている。

本曲が発表された1991年は、My Bloody Valentineの『Loveless』やRideの『Nowhere』など、シューゲイザーの金字塔が次々とリリースされた年でもあり、「Black Metallic」もその波の中で強烈な個性を放った。Catherine Wheelは他のバンドに比べてよりロック寄りの力強いアプローチをとっており、ディストーションと轟音の中に、明快なメロディと激しい感情を刻み込んでいる点が特徴だ。

歌詞に関しては、ロブ・ディッキンソンがインタビューで「車と女性のイメージを重ねて描いた」と語っており、「ブラック・メタリック」は比喩的に語られる“理想の女性”または“魅惑的で支配的な存在”を指しているとも解釈されている。愛情と崇拝、そして恐怖と憧れが表裏一体となった視線が、この曲全体を貫いている。

3. 歌詞の抜粋と和訳

“You’re a car / You’re a hospital”
君は車だ 君は病院だ

“I’ve been lost in the now / I’ve been tired and I’m old”
今の中で迷子になって 疲れて 老いてしまった

“You’re a car / With your hands on the wheel
君は車だ そのハンドルを握っているのは君だ

“You’re a car / You’re a star”
君は車であり 君は星でもある

“Black metallic”
ブラック・メタリック

引用元:Genius

4. 歌詞の考察

「Black Metallic」の歌詞は一見すると唐突で不可解な比喩に満ちているが、その不明瞭さこそが楽曲のテーマの核心でもある。「君は車だ」「君は病院だ」といったフレーズは、相手の存在が自分にとってどれだけ重要で、時に破壊的で、そして救済的でもあるかを物語っている。

「車」は移動手段であり、コントロールを必要とする存在。歌詞の中で主人公は、自分ではなく“君”がそのハンドルを握っていることを強調している。つまり、愛する相手に自分の人生や精神状態を委ねてしまっている様子が伺える。そして「病院」という表現は、痛みと癒し、依存と治療という二面性を内包している。

「Black Metallic」という言葉は、一貫して楽曲の中に響く呪文のようなフレーズだ。黒く、金属的で、冷たく、美しい。そのイメージは恋愛の本質、あるいは人間の内側に潜む暗さと光の交錯を象徴しているようにも思える。曲の終盤で繰り返されるこの言葉は、感情の暴走のような、抗いがたい吸引力を持ち、リスナーの意識に強く焼き付く。

この楽曲の歌詞は、理解するというよりも“感じる”ことが求められる。言葉は単なる意味伝達の手段ではなく、感覚的なイメージの断片として鳴り響き、轟音のギターに包まれることで、まるで夢の中で誰かに呼びかけられているかのような感覚を生む。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Vapour Trail by Ride
    シューゲイザーの金字塔的存在。切なくも轟音に包まれた世界観が共鳴する。

  • Soon by My Bloody Valentine
    旋回するビートと浮遊感が「Black Metallic」の持つ感覚に近い。
  • Pearl by Chapterhouse
    シューゲイザーの美しさとロックのダイナミズムが融合した名曲。

  • Cherry-coloured Funk by Cocteau Twins
    リリックの抽象性とサウンドの深遠さが、「Black Metallic」の詩世界と重なる。

  • Starla by The Smashing Pumpkins
    グランジとシューゲイザーの境界を探る壮大な音像。

6. 黒く輝く音の彫刻――“Black Metallic”の象徴性

Catherine Wheelの「Black Metallic」は、単なるラブソングではない。それは愛の対象が崇拝に近い形で描かれ、そして同時にその支配力や危険性までもがあけすけに表現された、極めて“重い”愛の物語である。

1990年代初頭、UKオルタナティヴ・ロックは「美しさと破壊性の共存」をキーワードに進化していたが、「Black Metallic」はまさにその代表例として、耽美と暴力、官能と冷淡、そして現実と夢想の狭間を見事に行き来してみせる。

轟音ギターと抽象詩の融合によって、Catherine Wheelはここに「音による彫刻」を打ち立てた。それは時間と空間を超えて、リスナーの心の深層に刺さる。30年以上経った今でも、「Black Metallic」が放つ黒光りするような魅力は、少しも色褪せていない。むしろ、聴けば聴くほど、どこまでも深く沈み込んでいくような、そんな不思議な引力を帯びているのだ。

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