
1. 楽曲の概要
「Better Distractions」は、Faye Websterが2020年9月に発表したシングルで、翌2021年の4作目『I Know I’m Funny haha』ではオープニング曲として収録された。作詞・作曲はWebster。プロデュースはWebsterとDrew Vandenbergが担当し、Matt “Pistol” Stoesselのペダル・スティール、Bryan Howardのベース、Nick Rosenのキーボード、Harold Brownらによるドラムを含むバンド・サウンドで録音されている。
2019年の『Atlanta Millionaires Club』で確立した、カントリー、R&B、インディー・ポップ、ソフトロックの境界を曖昧にする音楽性を引き継ぎながら、さらにテンポと感情の起伏を抑えた曲である。Webster自身はこの曲について、意識的に構築したというより、頭に浮かぶ考えをほぼそのまま紙へ移した「自由連想」に近い書き方だったと説明している。
歌詞の中心にあるのは、何かで時間を潰そうとしても結局特定の相手を思い出してしまう状態だ。タイトルの「Better Distractions」は「もっとましな気晴らし」を意味するが、語り手はそれを見つけられない。退屈、孤独、恋愛感情がほとんど同じ温度で並べられることで、強烈な失恋ではなく、日常に染み込んだ不在感を描いている。
2. 歌詞の概要
語り手はまず、自分の時間を使うための「何か」を探している。しかし、やってみたいことが特に見つからず、何を始めても長続きしない。暇を埋めようとする行為が途切れるたび、自分が一人であり、会いたい相手がそばにいないことへ戻ってしまう。
友人に会うことも選択肢として浮かぶが、その友人たちには仕事や家庭がある。ここで孤独は、人間関係が完全に失われた状態として描かれていない。友達は存在するし、社会から隔絶されているわけでもない。ただし、自分が必要としている人物の代わりにはならない。
この具体性がWebsterの作詞の特徴である。「寂しい」と感情を要約する代わりに、友人は忙しい、自分にはすることがない、相手は何か別のことで頭がいっぱいらしい、といった生活上の小さな事実を並べる。その結果として孤独が浮かび上がる。
タイトルにも少し自嘲的な響きがある。本当に求めているのは気晴らしではなく相手なのに、それを直接解決できないから別の刺激を探している。語り手自身も、その代用品が機能しないことをすでに理解しているのである。
3. 制作背景・時代背景
「Better Distractions」は2020年に発表されたため、当時のパンデミック下にあった生活感と結びつけて受け止められた。Secretly Canadianも後に、『I Know I’m Funny haha』の歌詞には2020年の生活の不確実さが入り込み、「Better Distractions」は愛する人を恋しがりながら「次に何をすればいいのか」を考える曲だと説明している。
ただし、歌詞をすべてパンデミックの直接的な記録として扱う必要はない。Webster自身が説明した通り、曲は頭に浮かぶ断片を自由連想的に並べる方法から生まれた。社会状況を説明する固有名詞もなく、孤独と退屈はより一般的な人間関係の問題として機能する。
『I Know I’m Funny haha』は、前作よりもWebsterの固定バンドとの演奏を重視した作品でもある。レコーディングにはアトランタ/アセンズ周辺で活動するミュージシャンが参加し、Drew Vandenbergが制作とミックスに関与した。Webster自身は「Better Distractions」について、その時点で自分のバンドがレコード上で最もよく鳴っている曲だとも語っている。
2020年末にはBarack Obamaが年間のお気に入り曲の一つに「Better Distractions」を選んだことでも注目された。ただし曲そのものは、大きな社会的出来事を声高に語るタイプではない。世界が不安定な時期に、何もしたくない、誰かに会いたい、しかし相手はここにいない、という極端に小さな生活感覚を描いたことが、むしろ時代との接点になった。
4. 歌詞の抜粋と和訳
“I’m still alone”
和訳:
「私はまだ一人のまま」
この短い一節には、「Better Distractions」の構造が凝縮されている。語り手は最初から孤独だけを考えているのではなく、別のことをして気を逸らそうとする。しかし、それらが長続きしないため、最終的に同じ事実へ戻ってくる。
「still」という語が重要である。一時的な暇ではなく、何をしても状況が変わっていないという認識が含まれる。その停滞感が、ほぼ一定の速度を保つ演奏とも結びついている。
5. サウンドと歌詞の考察
「Better Distractions」は、派手なコード展開や大きなダイナミクスを使わず、同じ場所に長く留まる感覚によって成立している。Pitchforkがこの曲について、柔らかなピアノと物憂げなスライド/ペダル・スティールを挙げているように、主役となるのは音数よりも各楽器の間に残された空間である。
冒頭からベースとドラムは非常に落ち着いたグルーヴを作る。テンポは急がず、ドラムも細かなフィルで展開を強調しない。一定の周期を保ち続けるため、「時間だけが過ぎていく」という歌詞の状況を身体的に感じさせる。
Bryan Howardのベースは、この曲の重要な要素である。低音をただ支えるだけでなく、短く滑らかなフレーズを使い、ヴォーカルの合間をつなぐ。ファンクやR&B由来の丸いグルーヴを持つが、前へ強く押すことはない。この抑制によって、曲には「動いているのに進んでいない」感覚が生まれる。
Nick Rosenのキーボードも同様に控えめである。コードを大きく塗りつぶすのではなく、短い音や柔らかな和音を置き、演奏全体へわずかな光を加える。PitchforkがBruce Hornsbyを連想させるピアノの感触を指摘したように、カントリーだけでなくAORやソフトロック的な滑らかさも聞き取れる。
Matt Stoesselのペダル・スティールは、Websterの音楽を特徴づける楽器である。通常はカントリーの文脈と強く結びつくが、ここでは典型的なカントリーらしさを示す装飾としてより、声の後ろを漂う持続音として使われる。
音程が滑らかに上下するため、ペダル・スティールには到着地点をぼかす効果がある。明確な音から次の音へ一瞬で移らず、その中間を通過していく。この曖昧さが、相手を諦めることも会いに行くこともできず、中間地点に留まる歌詞とよく噛み合っている。
Faye Websterのヴォーカルも、感情を爆発させない。音域を大きく上下するより、会話に近い自然な高さで言葉を置く。息を多く含みながらも、いかにも「悲しい声」を作ることは避けている。
そのため、歌詞にある孤独は深刻な告白というより日常の事実として聞こえる。「今日はすることがない」「友人には予定がある」「あなたに会いたい」といった事柄がほぼ同じ重要度で並ぶ。この平坦さこそ、Websterの歌詞が妙に具体的に響く理由である。
Webster自身がこの曲を「free association」と説明したことも重要だ。一般的なポップ・ソングなら、ヴァースで原因を説明し、プレコーラスで感情を高め、サビで結論を提示する。しかし「Better Distractions」では、思考が日常的な連想によって横へ移っていく。
友達について考え、その友達には自分とは別の生活があることへ気づき、再び会いたい相手へ思考が戻る。この動きには物語的な進展がほとんどない。頭の中で同じ考えを何度も回している状態そのものが曲構成になる。
ここでタイトルがさらに重要になる。「distraction」は本来、考えたくないことから注意を逸らすためのものだ。しかしこの曲では、気晴らしを探すこと自体が相手を思い出す経路になってしまう。暇を潰そうとするほど、自分が何を本当に欲しているのかが明確になる。
アレンジもそれを劇的に解決しない。終盤へ行っても巨大なストリングスやドラムの爆発によるカタルシスは訪れず、同じグルーヴが維持される。つまり、音楽も語り手を孤独から救わない。
この「解決しないこと」は『I Know I’m Funny haha』全体にも通じる。Websterの歌詞は、大きな人生の転換点より、何も起きていない時間に生じる小さな感情を扱うことが多い。恋愛も劇的な告白や破局ではなく、相手の家族に会うこと、野球選手を好きになること、誰かと一緒にいる時の小さな違和感などへ落とし込まれる。
一方、サウンドは完全に陰鬱ではない。ベースには心地よい揺れがあり、鍵盤は暖かく、ペダル・スティールも柔らかい。そのため歌詞の退屈とは対照的に、聴覚的には居心地のいい空間が作られている。
ここに「Better Distractions」の皮肉がある。語り手はより良い気晴らしを探しているが、楽曲自体は極めて心地よい「気晴らし」として成立してしまう。聴き手にとっては落ち着けるグルーヴなのに、その中央で歌っている人物は何をしても満たされない。
このズレによって、曲は単なる寂しいバラードにならない。R&Bのグルーヴ、カントリーのペダル・スティール、ソフトロック的な鍵盤を低温で混ぜ、その上でWebsterが生活の断片をほとんど無加工の言葉として置く。ジャンルの融合ではなく、感情の温度を揃えることで異なる音楽語法を一つにしている。
「Better Distractions」は、何か重大なことが起こる瞬間ではなく、何も起きない時間をどう音楽にするかという曲である。ドラムは急がず、ベースは循環し、ペダル・スティールは着地点をぼかし、歌詞も結論へ到達しない。その停滞そのものを心地よいグルーヴへ変えた点に、Faye Websterの独自性が最もよく表れている。
6. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- In a Good Way by Faye Webster
同じ『I Know I’m Funny haha』収録。ペダル・スティール、柔らかなリズム、抑制された歌唱を使いながら、こちらは誰かと一緒にいることによる肯定的な感情を描く。「Better Distractions」と対照的に聴ける。
- Sometimes by Faye Webster
アルバムの2曲目で、「Better Distractions」の余韻をそのまま引き継ぐ。短い言葉の反復によって感情を説明しすぎず、ゆっくりしたバンド・グルーヴの中で迷いを維持する方法が近い。
- Kingston by Faye Webster
『Atlanta Millionaires Club』収録。カントリー由来のペダル・スティールとR&B的なリズムを結びつけた代表曲で、「Better Distractions」へつながるWebster独自のジャンル感覚を理解しやすい。
- Anything by Adrianne Lenker
日常的な細部を並べることで、相手への強い感情を間接的に浮かび上がらせる曲。サウンドはよりフォーク寄りだが、大げさな説明を避ける作詞法に共通点がある。
- Show Me How by Men I Trust
緩やかなベース、淡いヴォーカル、停滞感を心地よいグルーヴへ変える点が近い。ペダル・スティールの代わりにドリームポップ的なギターを使い、似た低温の孤独を作っている。
7. まとめ
「Better Distractions」は、Faye Websterが2020年に発表し、翌年の『I Know I’m Funny haha』の入口となった楽曲である。本人が自由連想的に書いたと説明する歌詞には、劇的な物語ではなく、暇を持て余しながら誰かを思い出す日常の思考がほぼそのまま残されている。
音楽的には、ペダル・スティールをカントリーの記号として強調せず、R&B的なベース、柔らかな鍵盤、抑制されたドラムと同じ低い温度で配置することが特徴だ。どの楽器も感情を過度に説明せず、一定のグルーヴを保つことで「何も起きない時間」を成立させている。
タイトルが示す「より良い気晴らし」は最後まで見つからない。友人にも別の生活があり、何をしても長くは続かず、そのたびに会いたい人物が不在であるという事実へ戻ってしまう。しかし曲は、その孤独を大きな悲劇へ変えない。
退屈と恋しさ、R&Bとカントリー、心地よさと停滞を同じ空間へ置き、どれか一つに整理しないことが「Better Distractions」の核心である。Faye Websterの音楽が持つ独特のリアリティは、強い感情を強い音で表すのではなく、何気ない生活の速度を変えないまま、その内部にある感情だけを浮かび上がらせるところにある。
参照元
- Secretly Canadian『I Know I’m Funny haha』公式リリース情報
- Secretly Canadian「Faye Webster Announces New Album I Know I’m Funny haha」
- Pitchfork「Faye Webster: “Better Distractions” Track Review」
- Pitchfork「Faye Webster Shares Video for New Song “Better Distractions”」
- Pitchfork『I Know I’m Funny haha』レビュー
- Faye Webster「Better Distractions」公式クレジット
- Shazam「Better Distractions」クレジット

コメント