アルバムレビュー：Banshee by NewDad

アルバムレビュー

2025.04.25

発売日: 2022年2月9日
ジャンル: ドリームポップ、インディー・ロック、ノイズポップ、ポスト・グランジ

概要

『Banshee』は、アイルランド・ゴールウェイ出身のインディー・ロックバンドNewDadが2022年に発表したEPであり、静謐なドリームポップの系譜にありながら、より激しく、より鋭く、よりパーソナルな感情が渦巻く“深化の記録”となっている。

“Banshee”とは、アイルランド神話に登場する“死を告げる精霊”。
タイトルに込められたのは、押し殺した叫び、内なる怒り、傷ついた過去──そうした“聴こえない悲鳴”を、サウンドとして可視化する試みである。

本作では、従来のドリーミーな音像を保ちつつも、ギターの歪みは増し、歌詞はより内省的でシリアスに。
ときにポスト・グランジを思わせるラフさと重みも加わり、NewDadは“夢から目覚めた後の現実”を音にしている。

感情を言葉にできないもどかしさと、その沈黙の暴力性を描いたオープニング。
歪んだギターが不穏に鳴り響き、ヴォーカルはあくまで冷静に語る──その対比がこのEP全体のトーンを象徴している。

タイトル曲にして、もっともダークでノイジーなトラック。
バンシー＝内なる悲鳴を、轟音ギターとタメのあるドラムで増幅。
“死”そのものではなく、“死に至る感情”を表現しているような構造で、抑えた怒りが印象的。

季節の名を冠しながら、テーマは再生ではなく“心の枯渇”。
“Everything’s blooming, but I’m still dead inside”というリリックが刺さる。
ゆったりとしたテンポと逆説的な歌詞が、空虚と美しさを同時に描いている。

前作『Blue』に続いて収録された曲だが、ミックスはよりタイトに、ギターの鳴りも強化されている。
思考のループから抜け出せない感覚を、歌と音の両方で見事に描ききっている。

EPの中で最もメロディアスかつポップ寄りのナンバー。
“Ladybird”は小さな存在でありながら、儚く強い──その象徴として自己像を投影している。
リリックは優しさに満ちているが、サウンドはあくまで陰を帯びているのが印象的。

『Banshee』は、NewDadというバンドが“静かな怒り”をどう表現するかに挑んだ意欲作である。
もはや単なるドリームポップとは呼べない、内省と衝動、透明と歪みが複雑に絡み合った作品であり、“自分の奥底にある何か”と静かに向き合う時間をくれる。

EP全体に通底するのは、痛みの表現としての美しさ。
悲鳴を上げるかわりにギターを歪ませ、涙を流すかわりにメロディを繰り返す──それがNewDad流の“バンシーの歌”なのだ。