ハードロックというジャンルが黄金期を迎えていた1970年代、イギリスからまた一つ新たな大物バンドが登場した。
それが、ポール・ロジャース(ボーカル)を中心とするBad Companyである。
彼らはシンプルながら力強いロックサウンドと、ソウルフルかつセクシーなヴォーカルで、多くのロックファンを魅了し続けてきた。
このバンドは、英ロック界の名だたる経歴をもつメンバーが集まって結成されたことからも注目を浴び、まるで完成された“英国ハードロックの最終形態”のような輝きを放っていた。
1970年代における代表格の一つとして数えられるBad Companyの歴史や音楽性を改めて振り返ると、そこにはまばゆいヒット曲だけでは語り切れないロックの本質が宿っているように思える。
アーティストの背景と歴史
Bad Companyは1973年、フリー(Free)の元ボーカリストであるポール・ロジャースとドラマーのサイモン・カーク、モット・ザ・フープル(Mott the Hoople)出身のギタリスト、ミック・ラルフス、そして一時期キング・クリムゾン(King Crimson)でベースを務めたボズ・バレルが集結して結成された。
すでにメンバー全員が華々しいキャリアを持っていたことから、バンド誕生の報せは瞬く間に注目を集める。
当初はレッド・ツェッペリンのマネージャーとして名をはせたピーター・グラントが強く後押しし、バンドはツェッペリンのプライベート・レーベルである「スワン・ソング・レコード(Swan Song Records)」と契約を結ぶことになる。
1974年にリリースされたデビュー・アルバム『Bad Company』は、たちまち全英・全米のチャートを駆け上がり、ハードロック・シーンにおける“超新星”という立ち位置を確かなものにした。
その後、『Straight Shooter』(1975年)、『Run With the Pack』(1976年)といったアルバムでも好調を維持し、世界中のスタジアムやアリーナを熱狂の渦に巻き込んでいく。
しかし1970年代後半に入ると、メンバーの音楽的嗜好や活動の方向性が徐々にずれ始め、1980年を迎える頃にはポール・ロジャースが離脱してしまう。
一時期は他のボーカリストを迎えて活動を続けるも、バンドとしての一体感は揺らぎ、多くのファンにとって“黄金期はやはりポール・ロジャース在籍時”という印象が強いまま現代に至る。
とはいえ、後年には再結成も何度か行われ、ライブツアーなどで往年の楽曲を披露する姿が見られるようになった。
音楽スタイルと影響
Bad Companyの最大の特徴は、そのシンプルかつソリッドなロックサウンドにある。
フリー時代から知られるポール・ロジャースの伸びやかでブルージーなボーカルは、ハードロックの荒々しさに加え、どこかソウルミュージックの温かみや泥臭さをも感じさせる。
そこにミック・ラルフスの太いギタリフが重なり、時にヘヴィネスとメロディアスさを絶妙に両立させている点が、Bad Companyの大きな魅力である。
全体的に曲の構成はわかりやすく、ギターリフとボーカルメロディを中心に据えたストレートなハードロックが基盤となっている。
しかし、その“わかりやすさ”が反転して強力な個性となり、ロジャースの声とギターリフの絡み合いによってエモーショナルな世界観が生み出されるのだ。
さらにリズムセクションのサイモン・カークとボズ・バレルが生み出す骨太なグルーヴが加わり、聴き手は一気に引き込まれる。
こうしたストレートなハードロックは70年代を代表するサウンドの一つであり、後のアメリカン・ハードロックやアリーナ・ロックにも多大な影響を与えたとされる。
ハスキーでソウルフルなロジャースの声質は、ブルーズベースのハードロック・ボーカリストの“お手本”的存在とも言え、多くの後進にとって憧れの的であった。
代表曲の解説
「Can’t Get Enough」
1974年のデビュー・アルバム『Bad Company』に収録され、バンド初期の重要なヒット曲として知られる。
シンプルでキャッチーなギターリフとロジャースの力強いボーカルが印象的で、一聴すれば一気に引き込まれるような勢いを持つ。
当時のハードロック・ファンはもちろん、ポップスリスナーからも支持を集め、Bad Companyの名を大きく広めた曲といえる。
「Bad Company」
同じくデビュー作に収録されている、セルフタイトルの一曲。
静かな導入から次第に盛り上がり、ドラマチックな展開で聴き手を圧倒する。
ロジャースのボーカルが持つ哀愁と、ギターの空間を切り裂くようなサウンドが相まって、バンドのイメージを象徴する名曲となっている。
曲中の緊張感と重量感は、彼らの音楽性を如実に物語るものだ。
「Feel Like Makin’ Love」
1975年のアルバム『Straight Shooter』に収録された、Bad Companyを代表するラブソングの一つ。
冒頭のアコースティックな雰囲気から一転、サビではヘヴィなギターリフとともに感情が高まっていく構成が魅力である。
ロジャースのボーカルが絶妙に甘く、同時に力強さを失わないところが、この曲の大きな聴きどころと言えるだろう。
「Shooting Star」
同じく『Straight Shooter』に収録されており、ロックンロールの夢と悲劇を歌ったナンバー。
淡々とした語り口で始まりつつ、サビで一気に盛り上がるドラマティックな展開が心に刺さる。
実在の人物をモデルにしたわけではないが、ロック界に早世していった多くのアーティストたちへの追悼のようにも聴こえ、ファンの間でも特別な意味をもつ曲である。
「Rock ’n’ Roll Fantasy」
1979年のアルバム『Desolation Angels』に収録されたヒット曲。
冒頭のシンセサイザーのフレーズがややポップな印象を加えつつ、バンドならではのハードなグルーヴがしっかりと主軸を支えている。
ロックに生きる者たちの情熱や幻想をストレートに歌い上げた内容で、ライブでも盛り上がりを見せるナンバーだ。
アルバムごとの進化
『Bad Company』 (1974)
彼らの名を一躍世界に知らしめた衝撃のデビュー作。
「Can’t Get Enough」「Bad Company」など、今なおバンドの代表曲とされる名曲を多数収録している。
ポール・ロジャースの独特の声質と、ミック・ラルフスのギターリフが絶妙に噛み合い、シンプルな構成のなかに強い個性が宿っている。
『Straight Shooter』 (1975)
前作の勢いを受け継ぎつつ、さらに多彩なアプローチを展開した2作目。
「Feel Like Makin’ Love」や「Shooting Star」をはじめとしたメロディックな楽曲が揃い、ロジャースのボーカルとバンドの演奏がより円熟している印象を受ける。
デビュー作の荒々しさを保ちながらも、ミドルテンポの曲で聴かせる味わい深さが際立つ一枚。
『Run With the Pack』 (1976)
前作までに確立したBad Companyらしさを維持しつつ、ややスケールの大きいサウンドを目指した印象のあるアルバム。
タイトル曲「Run With the Pack」など、ゴージャスなコーラスやキーボードの導入もあり、よりアリーナ映えする作りになっている。
一方で骨太なロックの精神はしっかりと根付いており、ライブでも一際盛り上がる楽曲が多数収録されている。
『Desolation Angels』 (1979)
「Rock ’n’ Roll Fantasy」のヒットで話題を呼んだ作品。
時代の流れを汲んだ音作りが取り入れられ、一部ではディスコ調のリズムやシンセサイザーの活用を感じさせる場面もある。
純粋なハードロック・サウンドという枠からやや広がりを見せたことで、ファンによって評価が分かれた面はあるが、商業的には成功を収めた。
影響を与えたアーティストと音楽
Bad Companyは、シンプルで耳に残るハードロックのリフや、ポール・ロジャースのブルージーなボーカルスタイルが特徴的であった。
このアプローチは70年代後半から80年代にかけて本格化するアメリカン・ハードロックや、いわゆるアリーナ・ロック系バンドに大きな影響を与えた。
また、どこかブルースやソウルの熱量を感じさせるバンドサウンドは、後のヘヴィメタルシーンが深化していくうえで“原点回帰”的な要素としても度々注目されることがある。
特にポール・ロジャースのボーカリストとしての存在感は際立っており、ハードロックのみならず、ブルースロックやクラシックロックの範疇でも高い評価を得ている。
その後、ロジャースがクイーンとのコラボレーション(Queen + Paul Rodgers)を行ったことからもわかるように、ジャンルを横断して愛される普遍的なロック・ヴォイスと言えるだろう。
オリジナルエピソード・トリビア
バンド名となった「Bad Company」は、もともとポール・ロジャースが若い頃に観た西部劇の映画からインスピレーションを得たと言われている。
そのワイルドでアウトローな雰囲気が、まさにバンドの持つラフでストレートな音楽性と重なったのだろう。
また、レーベル契約の際にはレッド・ツェッペリンのピーター・グラントが大きく関わったため、ツェッペリンのメンバーとも親交が深く、ワールドツアーやスタジアム公演など大型プロモーションも実施しやすかったという。
なお、ボズ・バレルはキング・クリムゾン在籍時にベーシストとしての技術を磨き上げた経歴を持ち、ジャズ的なセンスを感じさせるプレイを披露することもあった。
そのバレルのベースに支えられたバンドのグルーヴが、ロジャースのヴォーカルと絶妙に調和している事実は、ファンにはたまらないポイントであろう。
まとめ
Bad Companyは、1970年代を象徴するブリティッシュ・ハードロックの頂点の一角を担うバンドである。
ポール・ロジャースの唯一無二のボーカルと、ミック・ラルフスの太くパワフルなギターリフ、そしてタイトなリズムセクションから生まれるサウンドはシンプルながら深い魅力を放ち続けてきた。
彼らが残した数々のヒット曲は、70年代のロックシーンを席巻しただけではなく、後のバンドたちに“ストレートかつエモーショナルなハードロック”の可能性を提示する大きな足跡となったと言えるだろう。
解散やメンバーチェンジを経ても、その音楽的遺産は衰えることなく、多くのファンが今なお熱い視線を注いでいる。
もし彼らの楽曲を初めて聴くならば、まずは『Bad Company』や『Straight Shooter』から入り、その直球勝負のサウンドとロジャースのブルージーな歌声に身を委ねてみてほしい。
きっと“シンプルさ”のなかに潜む奥深さに気づき、Bad Companyがなぜこれほどまでに愛されているのか、その理由を体感できるはずだ。
コメント