はじめに
Bad Company(バッド・カンパニー)は、1970年代のブリティッシュ・ロックにおいて、洗練とワイルドさを併せ持った唯一無二のバンドとしてその名を刻んだ存在である。
フリーやモット・ザ・フープル、キング・クリムゾンといった名門バンドのメンバーが結集し、豪快でいて哀愁漂うサウンドを鳴らし続けた。
彼らの音楽は、単なるハードロックではなく、ブルースの魂を抱えた詩的なロックンロールとして、多くのファンに深い余韻を残している。
バンドの背景と歴史
Bad Companyは1973年、フリーのヴォーカリストであったポール・ロジャースとドラマーのサイモン・カークを中心に結成された。
ギタリストにはモット・ザ・フープルのミック・ラルフス、ベーシストにはキング・クリムゾンのブズ・バレルという豪華な布陣が揃い、早くから“スーパーグループ”として注目を集めた。
バンド名「Bad Company」は、ポール・ロジャースが観た西部劇映画のタイトルに由来するとされており、その名の通り、無骨で反骨精神に満ちた音楽性を展開した。
彼らはレッド・ツェッペリンのジミー・ペイジやピーター・グラントによって設立されたSwan Song Recordsの第1号アーティストとしてデビュー。
商業的にも批評的にも成功を収め、アメリカ市場でも広く受け入れられた数少ない英国ハードロック・バンドである。
音楽スタイルと影響
Bad Companyのサウンドは、ブルースロックを基盤にしながらも、洗練されたアレンジと圧倒的なヴォーカル・パワーで構成されている。
ギターは過剰な装飾を避け、ソリッドかつグルーヴィーなリフが楽曲の中心を成す。
そして何より特筆すべきは、ポール・ロジャースの声だ。
その渋く艶のある歌声は、“声そのものが楽器”と称されるほどの存在感を放ち、ロバート・プラントやスティーヴ・マリオットと並び称されるブリティッシュ・ロックの声として知られている。
彼らの音楽には、アメリカ南部の影響や、シンガーソングライター的な繊細さもあり、単なるハードロックとは異なる深みを湛えている。
代表曲の解説
Can’t Get Enough
デビューアルバムのオープニングを飾るこの曲は、シンプルで中毒性の高いギターリフと、ポール・ロジャースの官能的な歌声が融合した、Bad Companyの代表曲である。
タイトル通り、「君をいくら手に入れても足りない」という情熱的なラブソングでありながら、どこか乾いたロックンロールの匂いが漂う。
ラジオでも長年愛され続けている、クラシック・ロックの名曲である。
Bad Company
バンド名を冠したこの曲は、スロウテンポで荘厳な雰囲気を持ち、バンドの美学をそのまま体現したような一曲だ。
「俺は悪い仲間の一員さ」と歌うその姿には、ヒーローでもヴィランでもない“反逆者の孤独”がにじむ。
この曲は後にFive Finger Death Punchによってカヴァーされるなど、時代を超えて再評価され続けている。
Feel Like Makin’ Love
アコースティックな導入から一転、サビでは炸裂するギターとともに感情が爆発する、バッド・カンパニーならではのバラードロックである。
「君と愛し合いたい気分なんだ」と直球の愛の告白をするこの曲は、エロティックでありながら、どこかロマンティックでもある。
ハードロックとブルースの境界線を軽やかに飛び越える、彼らの代表的なラブソングだ。
アルバムごとの進化
Bad Company(1974)
デビュー作にして彼らのスタイルを決定づけた作品。
「Can’t Get Enough」「Bad Company」「Ready for Love」など代表曲を多数収録し、アルバムチャートでも全米1位を記録。
全体的にミニマルで、余計な装飾のないソリッドな演奏が光る。
Straight Shooter(1975)
「Feel Like Makin’ Love」や「Shooting Star」といったヒット曲を収録したセカンドアルバム。
前作よりもバラード色が強まり、ポール・ロジャースのソングライターとしての才能がより鮮明に現れている。
特に「Shooting Star」は、ロックスターの栄光と悲劇を描いた名曲として、後年まで語り継がれることになる。
Run with the Pack(1976)
よりアメリカ市場を意識したアルバムで、ブルージーな楽曲とハードなロックナンバーのバランスが取れている。
タイトル曲「Run with the Pack」では、孤独な者同士が集まり群れとなる様が歌われ、彼らの哲学的な一面も垣間見える。
影響を受けたアーティストと音楽
Bad Companyは、ブルースロックの流れを汲みながらも、The BeatlesやThe Rolling Stonesのメロディセンス、さらにはアメリカの南部ロック――特にLynyrd SkynyrdやThe Allman Brothers Bandなど――の影響も感じられる。
また、ポール・ロジャースはオーティス・レディングやサム・クックといったソウルシンガーにも深く影響を受けており、それが彼のヴォーカルスタイルにも表れている。
影響を与えたアーティストと音楽
Bad Companyの音楽は、ハードロックとブルースの融合という点で、多くのアメリカン・ロックバンドに影響を与えた。
Bryan Adams、Bon Jovi、Tesla、Whitesnakeなど、80年代のメロディアス・ハードロックの土壌には、確実に彼らの血が流れている。
また、ポール・ロジャースの歌唱は、後のChris CornellやScott Weilandといったシンガーにも影響を及ぼしたと言われている。
オリジナル要素
Bad Companyの最大の魅力は、その“間”である。
過剰に詰め込まない、鳴らしすぎない、歌いすぎない。
その余白こそが、聴く者に想像の余地を与え、楽曲に永続的な魅力を与えている。
また、彼らはライブでもスタジオ作品に忠実な演奏を貫き、派手な演出に頼ることなく、音そのものの力で勝負してきた。
まさに“硬派なロック”を体現したバンドなのである。
まとめ
Bad Companyは、決して派手な存在ではなかったかもしれない。
だが、静かに、確かに、ロックンロールの真髄を体現し続けたバンドである。
彼らの音楽には、剥き出しの感情と、どこか哀しげな詩情が同居している。
それはブルースの精神であり、ブリティッシュ・ロックの矜持でもある。
今もなお、夜のドライヴに「Feel Like Makin’ Love」や「Bad Company」を流せば、その声と音が心に染み渡る。
それこそが、彼らの音楽が時代を越えて生き続ける理由なのだ。
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