
- 発売日: 1980年
- ジャンル: パワー・ポップ、パンク・ロック、ニューウェイヴ、ポストパンク、ガレージ・ロック、ロックンロール
概要
The Only Onesの3作目にして、初期活動期における最後のスタジオ・アルバム『Baby’s Got a Gun』は、バンドの持っていたパンク、パワー・ポップ、ロックンロール、ポストパンク的な不安定さ、そしてPeter Perrettの退廃的なソングライティングが、より暗く、より内省的な形で現れた作品である。1978年のデビュー作『The Only Ones』では、「Another Girl, Another Planet」という不朽の名曲によって、彼らはパンク世代の中でも独自の位置を確立した。続く『Even Serpents Shine』では、鋭いギター・ポップと倦怠感のあるメロディをさらに発展させた。そして1980年の『Baby’s Got a Gun』では、バンドの魅力であるロマンティックな危うさ、麻薬的な浮遊感、都市の孤独が、より疲弊したムードとして表面化している。
The Only Onesは、しばしばパンク・バンドとして語られるが、その実態は単純なパンクの枠に収まらない。1970年代末のイギリスで登場した彼らは、Sex PistolsやThe Clashのような政治的・社会的な怒りを前面に出すバンドではなかった。むしろ、The Velvet Underground、Lou Reed、New York Dolls、Television、The Rolling Stones、ガレージ・ロック、そして1960年代ポップのメロディ感覚を背景に、鋭いギターと甘く崩れた歌を結びつけたバンドである。彼らの音楽には、パンクの速度や反抗心はあるが、それ以上にロックンロールの退廃、恋愛の不安、薬物的な倦怠、そして都市の片隅で生きる人間の孤独がある。
『Baby’s Got a Gun』というタイトルは、非常にThe Only Onesらしい。直訳すれば「ベイビーは銃を持っている」。恋愛対象としての「baby」と、暴力の象徴である「gun」が結びつくことで、愛と危険、欲望と破壊、親密さと脅威が同時に示される。The Only Onesの世界では、恋愛は安全な避難所ではない。むしろ、相手に近づくほど傷つき、欲望は暴力性を帯び、愛は自己破壊と隣り合わせになる。このアルバム・タイトルは、その危険なロマンティシズムを象徴している。
Peter Perrettの存在は、本作の核心である。彼の声は、決して力強く健康的なロック・ヴォーカルではない。細く、鼻にかかり、疲れていて、どこか壊れそうである。しかし、その声には独特の磁力がある。彼は感情を大きく歌い上げるのではなく、すでに傷ついた後の人間として歌う。恋愛、依存、自己嫌悪、諦め、皮肉。そうした感情が、声の質感そのものに染み込んでいる。The Only Onesの曲が単なるパワー・ポップにならないのは、Perrettの声が常に甘さの中へ毒を混ぜるからである。
音楽的には、本作は前2作に比べてやや暗く、まとまりに欠ける部分もある。デビュー作のような鮮烈さや、『Even Serpents Shine』のようなギター・ポップとしての鋭さは、ところどころ後退している。しかしその代わりに、『Baby’s Got a Gun』にはバンドが終末へ向かっていくような独特の空気がある。曲は明るく鳴っていても、どこか疲れている。ギターは鳴っているが、勝利の音ではない。メロディは甘いが、幸福には向かわない。この崩れかけた美しさが、本作の大きな魅力である。
The Only Onesのギター・サウンドも重要である。John Perryのギターは、パンクの単純なコード・ストロークだけではなく、ブルース、ロックンロール、Television的な鋭いライン、時にサイケデリックなニュアンスを持つ。彼のギターは、Perrettの気だるい歌を支えるだけでなく、曲に緊張感と美しい傷を与える。『Baby’s Got a Gun』でも、ギターは単なる伴奏ではなく、曲の情緒を大きく左右している。
本作の歌詞には、恋愛、暴力、逃避、薬物的な感覚、孤独、敗北感が繰り返し現れる。The Only Onesの歌詞は、パンクの直接的なスローガンではない。Perrettは、自分自身の弱さや依存を隠さず、しかし過度に説明もしない。彼の言葉は、しばしば皮肉で、投げやりで、甘い。恋人への呼びかけは、救いを求める声であると同時に、自分をさらに破滅へ導く誘惑でもある。『Baby’s Got a Gun』は、そのような危険な関係のアルバムとして聴くことができる。
キャリア上の位置づけとして、本作はThe Only Onesの終わりの予兆を含んでいる。彼らはこのアルバムの後、初期の活動を終えることになる。バンドの内部には薬物問題や商業的な停滞、時代の変化が重なっていた。『Baby’s Got a Gun』には、そうした疲弊が音として残っている。だが、その疲弊は単なる弱点ではない。The Only Onesの音楽は、もともと壊れそうな美しさを持っていた。本作では、その壊れそうな状態がよりはっきり表に出ている。
全曲レビュー
1. The Happy Pilgrim
オープニング曲「The Happy Pilgrim」は、タイトルからは明るい旅人のイメージが浮かぶが、The Only Onesらしく、その明るさには皮肉が含まれている。「幸福な巡礼者」という言葉は、何かを求めて進む人物を思わせるが、Peter Perrettの歌声を通すと、その幸福はすぐに疑わしいものになる。旅をしているのか、逃げているのか、救いを求めているのか、たださまよっているのか。その曖昧さが曲の魅力である。
音楽的には、比較的軽快なロックンロールの感触があり、アルバムの冒頭として勢いを作る。ギターは明るく鳴り、リズムも前に進む。しかし、Perrettの声はどこか疲れていて、曲全体にわずかな影を落としている。The Only Onesの特徴である、明るい曲調と暗い感情のずれがここにある。
歌詞では、巡礼者というイメージを通じて、目的地を探す人間の姿が描かれる。だが、その目的地が本当に存在するのかは分からない。幸福という言葉も、確信ではなく、ほとんど自己暗示のように響く。The Only Onesにおいて、幸福は常に危うく、長続きしないものとして現れる。
「The Happy Pilgrim」は、本作の始まりとして、アルバム全体の疲れたロマンティシズムをよく示している。ロックンロールの形式は保たれているが、その中身はすでに崩れかけている。
2. Why Don’t You Kill Yourself
「Why Don’t You Kill Yourself」は、非常に挑発的で危険なタイトルを持つ楽曲である。このタイトルは、現代の感覚では特に強い衝撃を与える。The Only Onesの退廃的なユーモア、自己破壊的な視線、パンク以降の冷笑的な言葉遣いが表れているが、単なる軽い挑発として片づけることはできない。ここには、自己嫌悪と他者への攻撃が混ざった、非常に暗い心理がある。
音楽的には、比較的ストレートなロックの推進力を持つ。ギターは鋭く、バンドは軽快に進むが、歌詞の内容は不穏である。この明るさと危険な言葉のずれが、The Only Ones特有の不快な魅力を生んでいる。Perrettの歌い方も、怒鳴るのではなく、どこか投げやりで乾いている。
歌詞では、相手への苛立ち、自己破壊の匂い、関係の中の毒が示される。タイトルの言葉は、実際の死への単純な呼びかけというより、相手を突き放す極端な表現、あるいは自分自身の破滅願望の反射として読むべきである。The Only Onesの世界では、人間関係はしばしば優しさではなく、攻撃性と依存の絡み合いとして描かれる。
この曲は、バンドの危険な言語感覚を示す一方で、その時代のパンク/ニューウェイヴ的な過激さも反映している。ただし、聴き手はその言葉の暴力性を意識しながら、単なるショック効果ではなく、曲の背後にある精神的な荒廃を読み取る必要がある。
3. Me and My Shadow
「Me and My Shadow」は、タイトルが示す通り、自分自身と影の関係を描く楽曲である。影とは、自己の暗い部分、逃れられない過去、孤独、あるいは常に付きまとうもう一人の自分を意味する。Peter Perrettの世界観に非常によく合うテーマであり、本作の中でも内省的な響きを持つ曲である。
音楽的には、比較的落ち着いたテンポで、メロディには哀愁がある。ギターは過剰に攻撃的ではなく、曲の陰影を作る役割を担っている。Perrettの声は、影と会話しているように近く、孤独な響きを持つ。The Only Onesの強みである、弱さを美しいメロディへ変換する力が表れている。
歌詞では、語り手が自分の影と共にいることが示される。これは孤独の表現であると同時に、自己から逃れられない感覚でもある。人は他者から離れることはできても、自分自身の影からは逃げられない。恋愛や薬物、夜の街によって一時的に忘れられても、影は必ず戻ってくる。
「Me and My Shadow」は、『Baby’s Got a Gun』の中で、Perrettの自己認識の暗さがよく表れた曲である。外に向かう反抗ではなく、内側に沈む孤独が中心にある。
4. Deadly Nightshade
「Deadly Nightshade」は、タイトルからして毒性を持つ楽曲である。Deadly nightshadeとは、ベラドンナとして知られる有毒植物を指す。美しさと毒、誘惑と死、薬物的な陶酔と危険が一つの言葉に含まれている。The Only Onesの世界において、これは非常に自然な象徴である。
音楽的には、少し妖しいムードを持ち、ギターの響きも陰影が濃い。曲はストレートなパンクというより、退廃的なロックンロールとして機能している。メロディは魅力的だが、その魅力は清潔なものではなく、毒を含んだ甘さである。
歌詞では、危険な魅力を持つ相手、あるいは破滅的な欲望が暗示される。毒草は美しいが、触れれば命を危険にさらす。恋愛や依存もまた、同じように甘く危険である。Perrettはその危険を避けるのではなく、むしろ引き寄せられていく人物として歌う。
「Deadly Nightshade」は、The Only Onesの退廃的なロマンティシズムを象徴する曲である。美しさは安全ではない。魅力的なものほど毒を持つ。その感覚が、曲全体に流れている。
5. Strange Mouth
「Strange Mouth」は、タイトルから身体的でありながら不気味な印象を与える楽曲である。「奇妙な口」という言葉は、言葉、欲望、キス、沈黙、嘘、誘惑を連想させる。The Only Onesの歌詞では、身体の一部がしばしば心理的な不安や関係の歪みと結びつく。この曲もその一例である。
音楽的には、リズムは比較的軽く、ギターも小気味よく鳴る。しかし、曲の雰囲気にはどこか落ち着かないものがある。Perrettの声は、相手の口から出る言葉や欲望に対して、魅了されながらも疑っているように聞こえる。
歌詞では、相手の口、話すこと、触れることが中心的なイメージとして働く。口は愛の言葉を発する器官であり、キスの器官であり、嘘をつく器官でもある。だからこそ「strange」なのである。親密なはずの身体が、同時に理解できないものになる。
「Strange Mouth」は、The Only Onesの中でも比較的コンパクトながら、歌詞のイメージが印象的な曲である。恋愛の中で相手の身体が魅力的であると同時に不気味に感じられる、その感覚をうまく捉えている。
6. The Big Sleep
「The Big Sleep」は、Raymond Chandlerの小説タイトルとしても知られる言葉であり、死を暗示する表現でもある。眠りと死、ノワール的な都市、探偵小説的な影、疲労と終末感がこのタイトルには含まれている。The Only Onesの退廃的な雰囲気に非常に合った楽曲である。
音楽的には、暗く、どこかドラマティックな響きがある。ギターは曲に緊張感を与え、リズムは重く進む。Perrettのヴォーカルは、死を恐怖として叫ぶのではなく、すでにその近くにいる者のように歌う。ここには、諦めと美しさが同居している。
歌詞では、眠り、死、逃避、疲労のイメージが絡む。大いなる眠りとは、休息であると同時に終わりである。The Only Onesの世界では、生きること自体が消耗であり、眠りは救済にも死にも見える。この二重性が曲に深い陰影を与えている。
「The Big Sleep」は、本作の中でも特に終末的なムードを持つ曲である。バンドの終わりが近づいていた時期の作品として聴くと、このタイトルと雰囲気はさらに象徴的に響く。
7. Oh Lucinda Love Becomes a Habit
「Oh Lucinda Love Becomes a Habit」は、本作の中でも特にThe Only Onesらしいロマンティックなタイトルを持つ楽曲である。「ルシンダ、愛は習慣になる」という言葉には、恋愛の甘さと倦怠、情熱が日常化していく寂しさ、そして依存の感覚が含まれている。愛は特別な出来事として始まるが、やがて習慣になり、抜け出せないものになる。
音楽的には、メロディアスで、パワー・ポップ的な魅力がある。ギターは軽やかに鳴り、曲には親しみやすいフックがある。しかし、Perrettの歌声によって、その明るさはどこか疲れたものになる。The Only Onesは、こうした甘いメロディに退廃的な声を乗せることで、独自の感情を作り出す。
歌詞では、Lucindaという人物に対する呼びかけを通じて、愛が習慣化することの危うさが描かれる。習慣になった愛は、安定とも読めるが、依存とも読める。相手を愛しているのか、ただその関係なしではいられないのか。その境界は曖昧である。
「Oh Lucinda Love Becomes a Habit」は、本作の中で最も美しく、The Only Onesのポップ・センスがよく表れた曲のひとつである。甘く、切なく、少し毒がある。バンドの魅力が凝縮されている。
8. Re-Union
「Re-Union」は、再会、再結合、関係の修復を意味するタイトルを持つ楽曲である。しかし、The Only Onesにおいて再会は必ずしも幸福なものではない。過去の関係へ戻ることは、失われたものを取り戻すことでもあり、同じ過ちを繰り返すことでもある。
音楽的には、比較的シンプルなロック・ソングとして進む。バンドの演奏はタイトで、ギターは曲に明確な輪郭を与える。メロディは親しみやすいが、歌声にはどこか冷めた感覚がある。この冷めたロマンティシズムがThe Only Onesらしい。
歌詞では、再会や関係の再接続が示唆されるが、それは祝福というより、複雑な感情を伴うものとして描かれる。人は過去の相手に戻りたくなることがある。しかし、その再会が本当に救いになるとは限らない。むしろ、終わったはずのものが再び始まることは、新しい苦しみの始まりでもある。
「Re-Union」は、本作の中で関係の循環性を描く楽曲である。終わっても戻り、離れても再び近づく。その繰り返しが、The Only Onesの恋愛観には深く刻まれている。
9. Trouble in the World
「Trouble in the World」は、本作の中でも比較的外側の世界へ視線を向けたタイトルを持つ楽曲である。「世界には問題がある」という言葉は、社会的な不安、時代の混乱、個人的な苦悩が世界全体の不穏さと結びつく感覚を示している。ただし、The Only Onesは政治的スローガンとしてこのテーマを扱うのではなく、あくまで個人の疲労や不信を通して描く。
音楽的には、ギター・ロックとしての力強さがあり、アルバム終盤に推進力を与える。リズムは明確で、バンドは比較的ストレートに鳴っている。だが、曲全体には明るい解決感はない。世界の問題は、歌ったからといって消えるものではない。
歌詞では、世界の中にあるトラブルが示されるが、それは大きな政治分析というより、日常の中で感じる不安や混乱として響く。The Only Onesの強みは、大きな問題を個人の傷と結びつけるところにある。世界が壊れているから自分が壊れているのか、自分が壊れているから世界が壊れて見えるのか。その境界は曖昧である。
「Trouble in the World」は、アルバム終盤において、個人的な退廃をより広い不安へ接続する楽曲である。パンク世代の不信感が、The Only Onesらしいロマンティックな疲労感として表れている。
10. Castle Built on Sand
「Castle Built on Sand」は、「砂の上に建てられた城」という非常に象徴的なタイトルを持つ楽曲である。砂の上の城は美しいが、非常に脆い。波や風によって簡単に崩れてしまう。このイメージは、恋愛、夢、名声、人生設計、自己イメージなど、あらゆる不安定なものを象徴する。
音楽的には、メロディに哀愁があり、アルバム終盤の重要な感情的ポイントになっている。ギターは美しく鳴るが、曲全体には崩壊の予感がある。Perrettの声は、すでにその城が崩れることを知っている人物のように響く。
歌詞では、何かを築こうとすることと、それが最初から壊れる運命にあることが描かれる。砂の上に城を建てることは無謀である。しかし、人はそれでも何かを築こうとする。恋愛も、バンドも、人生も、脆い土台の上に立っていることを知りながら、そこに意味を見出そうとする。
「Castle Built on Sand」は、『Baby’s Got a Gun』の中でも特に象徴性の強い曲である。The Only Onesのキャリアそのものもまた、砂の上に建てられた城のように見える。美しく、危うく、長くは持たない。その感覚が曲全体に刻まれている。
11. Fools
「Fools」は、愚か者たちをテーマにした楽曲であり、アルバムの終盤に苦い余韻を与える。The Only Onesの歌詞世界では、人はしばしば愚かで、同じ過ちを繰り返し、愛や欲望に振り回される。しかし、その愚かさは単なる軽蔑の対象ではなく、人間的な弱さとして描かれる。
音楽的には、ロックンロール的な骨格を持ちながら、どこか疲れたムードがある。曲は軽快に進むが、タイトルが示すように、そこには自己批評的な視線がある。Perrettの声は、愚か者たちを外側から笑っているようでもあり、自分自身もその一人だと認めているようでもある。
歌詞では、愚かさ、誤解、繰り返される失敗が示唆される。人は自分が賢いと思いながら、恋愛や依存や虚栄によって簡単に愚かになる。The Only Onesはその事実を、鋭く、しかしどこか優しく見ている。
「Fools」は、バンドの自己認識を示す曲としても聴ける。彼らは自分たちの退廃や失敗を完全に美化しない。そこには皮肉があり、少しの諦めがある。この苦さが、アルバムの終盤に深みを与えている。
12. My Way Out of Here
ラスト曲「My Way Out of Here」は、非常に象徴的な終曲である。タイトルは「ここから出るための私の道」という意味を持ち、逃走、脱出、解放、あるいは終わりへの願望を示している。The Only Onesの初期活動期の最後に位置するアルバムの終曲として、このタイトルは特に重く響く。
音楽的には、アルバムを締めくくるにふさわしい余韻がある。派手なフィナーレというより、疲れた視線で出口を探すような曲である。ギターは美しくも寂しく鳴り、Perrettの声には深い倦怠と切実さがある。ここには、最後の逃げ道を探す人間の感覚が刻まれている。
歌詞では、現在の場所から出ていくこと、閉じ込められた状況から抜け出すことが中心となる。ただし、その出口が本当に救済なのかは分からない。ここから出ることは、自由になることかもしれないし、すべてを失うことかもしれない。The Only Onesの世界では、脱出もまた危険を伴う。
「My Way Out of Here」は、『Baby’s Got a Gun』の終曲として非常にふさわしい。バンドはここで、明確な勝利や解決を提示しない。ただ出口を探す。その出口は見えているようで、まだ遠い。この未解決の感覚が、アルバム全体の終末感と深く結びついている。
総評
『Baby’s Got a Gun』は、The Only Onesの初期三部作の中で、最も疲弊と終末感が強く漂うアルバムである。デビュー作『The Only Ones』の鮮烈なメロディと危うさ、『Even Serpents Shine』の鋭いギター・ポップ性に比べると、本作はやや散漫に感じられる部分もある。だが、その散漫さや疲れた空気は、バンドの状態と音楽のテーマに深く結びついている。これは完全に整った作品ではなく、崩れかけた美しさを持つ作品である。
The Only Onesの魅力は、パンクの時代に現れながら、パンクの単純な怒りや速度だけでは説明できないところにある。彼らはパワー・ポップのメロディを持ち、ガレージ・ロックの荒さを持ち、The Velvet Underground的な退廃を持ち、ロックンロールの伝統に根差しながらも、ポストパンク的な不安を帯びていた。『Baby’s Got a Gun』では、その多面性がやや不安定な形で現れている。
本作の中心にあるのは、Peter Perrettの声と歌詞である。彼の声は脆く、疲れていて、どこか投げやりだが、その弱さがThe Only Onesの音楽に独自のリアリティを与えている。力強く勝ち誇るロックではなく、すでに傷つき、依存し、愛に失敗し、それでも歌っているロックである。Perrettの歌には、自己破壊への接近と、それを冷笑する知性が同時にある。
タイトル曲こそ存在しないが、『Baby’s Got a Gun』というアルバム名は、全体の世界観をよく表している。愛されるべき「baby」が銃を持っている。つまり、親密さの中に危険があり、欲望の中に暴力があり、恋愛の中に破滅がある。この感覚は、アルバムの多くの曲に流れている。「Deadly Nightshade」では美しい毒が歌われ、「Oh Lucinda Love Becomes a Habit」では愛が依存へ変わり、「Castle Built on Sand」では築いたものの脆さが示され、「My Way Out of Here」では脱出への願望が描かれる。
音楽的には、本作はThe Only Onesの持つポップ・センスが随所に表れている。「Oh Lucinda Love Becomes a Habit」「Me and My Shadow」「Castle Built on Sand」などには、Perrettのメロディメーカーとしての才能がはっきり出ている。だが、そのメロディは常に明るさだけでは終わらない。甘い旋律は、歌声と歌詞によって苦くなる。この甘さと苦さの混合こそ、The Only Onesの核心である。
John Perryのギターも、アルバムの重要な要素である。彼の演奏は、単純なパンク・コードではなく、ブルース、ロックンロール、ガレージ、アート・ロック的なフレーズを含み、曲に立体感を与える。The Only Onesが他のパンク世代のバンドと異なるのは、演奏にロック史への深い理解がある点でもある。彼らはパンクの勢いだけでなく、過去のロックの甘さや退廃を引き受けていた。
一方で、『Baby’s Got a Gun』には、前2作ほどの決定的な一曲は少ない。「Another Girl, Another Planet」のような圧倒的な名曲を期待すると、本作は地味に感じられるかもしれない。また、アルバム全体の焦点もやや曖昧で、曲によって完成度にばらつきがある。しかし、その不安定さは、バンドが終わりへ向かっている状態の記録として捉えると、むしろ意味を持つ。The Only Onesの美しさは、最初から完成された健康さではなく、壊れそうなものの中にあった。本作はその壊れそうな部分が最も露出したアルバムである。
日本のリスナーにとって本作は、The Only Onesを「Another Girl, Another Planet」の一発で理解したつもりになることを避けるために重要な作品である。彼らは単なるパワー・ポップ・バンドではなく、非常に退廃的で、文学的で、自己破壊的なロック・バンドだった。『Baby’s Got a Gun』を聴くことで、その暗い側面、終末感、疲れたロマンティシズムがよりはっきり見えてくる。
後の音楽シーンへの影響という点では、The Only Onesのメロディと退廃の組み合わせは、オルタナティヴ・ロック、インディー・ロック、パワー・ポップ、ブリットポップ周辺に広く影を落としている。The Replacements、The Libertines、Primal Scream、The Strokes、Pete Doherty周辺の美学にも、The Only Ones的な「壊れたロマンティックなロックンロール」の感覚は通じる。『Baby’s Got a Gun』は、その影響の中でも特に暗い側面を示す作品である。
総じて『Baby’s Got a Gun』は、The Only Onesのディスコグラフィにおいて、完璧な代表作ではないが、非常に重要な終章である。鮮烈さよりも疲労、勝利よりも脱出、愛よりも依存、ポップな輝きよりもその影が前面に出ている。だからこそ、このアルバムには独特の魅力がある。砂の上に建てられた城のように脆く、毒草のように美しく、出口を探しながらも出口にたどり着けない。『Baby’s Got a Gun』は、The Only Onesの壊れかけたロマンティシズムを刻んだ、苦く美しいラスト・ステートメントである。
おすすめアルバム
1. The Only Ones – The Only Ones
1978年発表のデビュー・アルバム。「Another Girl, Another Planet」を含む代表作であり、The Only Onesのパンク、パワー・ポップ、退廃的なロックンロールが最も鮮烈に表れた作品である。『Baby’s Got a Gun』の背景を知るうえで必聴である。
2. The Only Ones – Even Serpents Shine
1979年発表のセカンド・アルバム。デビュー作の鋭さを引き継ぎながら、よりメロディアスで陰影のある楽曲が並ぶ。『Baby’s Got a Gun』に至る前の、バンドのギター・ポップ的な完成度を確認できる重要作である。
3. Peter Perrett – How the West Was Won
2017年発表のソロ・アルバム。長い沈黙を経て発表された作品であり、Peter Perrettの退廃的な声とソングライティングが健在であることを示した。The Only Onesのその後を知るうえで重要な関連作である。
4. The Velvet Underground – Loaded
1970年発表のアルバム。ロックンロールの簡潔さ、都市的な退廃、甘いメロディと毒のある歌詞が共存しており、The Only Onesの音楽的背景を理解するうえで重要である。Peter PerrettのLou Reed的な感覚を考えるうえでも関連性が高い。
5. Television – Marquee Moon
1977年発表のニューヨーク・パンク/アート・ロックの名盤。鋭いギター・アンサンブル、都市的な緊張、ロックンロールを知的に再構築する姿勢は、The Only Onesのギター・ロック的側面と響き合う。パンク以後のギター・バンドの可能性を理解するための重要作である。

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