
発売日: 2012年5月
ジャンル: サイケデリック・ロック、ネオサイケ、アンビエント、クラウトロック、フォークロック
概要
『Aufheben』は、The Brian Jonestown Massacre(以下BJM)が2012年に発表したアルバムであり、
“混沌からの回復”
“破壊からの再構築”
“精神と音楽のリハビリテーション”
を象徴する作品として評価されている。
タイトルの “Aufheben(アウフヘーベン)” はドイツ語で、
“否定と保存と昇華を同時に行う”
という哲学用語——まさに本作を象徴する言葉だ。
前2作、
- 『My Bloody Underground』(2008):破壊・崩壊
- 『Who Killed Sgt. Pepper?』(2010):混乱・実験・多文化コラージュ
と続いた“極端なフェーズ”から一転し、
本作では Anton Newcombe が
美しさ・秩序・メロディ・音響設計
といった要素すべてを“ひとつの音楽作品”としてまとめあげている。
レコーディングはベルリン。
ここで Anton は精神状態を安定させ、創作姿勢を大きく立て直した。
そのため本作では、
“崩壊でもなく、実験でもなく、穏やかな美しさと深い気配”
がアルバム全体に満ちている。
60年代サイケ、フォークロック、バロックポップ、クラウトロック、アンビエント。
これらの影響を溶かし込みながらも、
どれにも回収されない“特別な静けさ”
を持つ作品。
BJMのディスコグラフィーにおける
“後期の金字塔” と言えるアルバムである。
全曲レビュー
1曲目:Panic in Babylon
アラビックな旋律、反復するリズム、浮遊する女性ボーカル。
クラウトロック × ミドルイースタン × サイケ が自然に融合し、
アルバムの世界を一瞬で確立する傑作オープニング。
2曲目:Viholliseni Maalla
フィンランド語の詩を歌う女性ボーカルをフィーチャー。
異国的で美しく、薄明かりの中を歩くような感覚がある。
“音の儀式”のような荘厳さを持つ。
3曲目:Gaz Hilarant
軽快なギターリフとミッドテンポのサイケポップ。
のびやかなメロディが心地よく、前曲からの緊張をふと解く。
4曲目:Illuminomi
深いリバーブに浸るドリームポップ/アンビエント。
心が静かに沈んでいくような美しさがある。
5曲目:I Want to Hold Your Other Hand
タイトルからして皮肉めいたユーモアを感じさせるが、
音は軽快なフォークロック寄り。
BJMの“古き良き60年代愛”がやわらかく表れる。
6曲目: Unknown
メランコリックなメロディに、クラウト的な反復が重なる。
アルバムの中でも特に“奥行きの深い曲”。
7曲目:Face Down on the Moon
ゆったりとしたフォーク・サイケ。
淡いコード進行と、温かい歌声が夜の静寂を描き出す。
本作の“癒し”の部分を最もよく示す曲。
8曲目:Clouds Are Lies
レトロな質感と軽いメロディが特徴。
BJMの“ポップで可愛らしい側面”が久々に顔を出す。
9曲目:Stairway to the Best Party
クラウトロック × ダンスロックの要素を軽く取り込み、
ループの快楽を喚起するトラック。
BJM流の“チルアウト”と言える。
10曲目:Seven Kinds of Wonderful
60年代バロックポップを思わせる甘いメロディ。
Anton の繊細なソングライティングが光る美曲。
11曲目:Waking Up to Hand Grenades
タイトルとは裏腹に、音は穏やかで透明感がある。
ゆらぎと反復が心を静めていく。
12曲目:Blue Order / New Monday
夜明けのような柔らかさと、クラウトロック的反復が混ざる。
アルバムを“ゆっくりと着地させるラスト”として完璧。
総評
『Aufheben』は、
The Brian Jonestown Massacre が崩壊から立ち直り、“新しい美”を掴み取った作品
である。
このアルバムが特別なのは、
- ノイズの暴力
- ダンスビートの冷たさ
- 実験的ドローン
といった“前期の混沌”を 否定せずに保存 しつつ、
それを一段上の次元で 静けさ・美しさ・秩序へと昇華(Aufheben) させている点にある。
音はどこまでも穏やかだが、
その内側には、
“狂気の時代をくぐり抜けた者にしか出せない陰影”
が宿っている。
この感覚は、
Nick Drake の静けさとも、
Spiritualized の壮大さとも、
Velvet Underground の退廃とも違う。
“BJMにしか作れない、癒しと不安の等価なバランス”
がここにある。
後期BJMを語るうえで欠かせない、
静かなる傑作 である。
おすすめアルバム(5枚)
- Who Killed Sgt. Pepper? (2010)
本作の“直前の混沌”。対比することで進化が際立つ。 - My Bloody Underground (2008)
破壊期の極点。『Aufheben』への道筋が理解できる。 - Musique de Film Imaginé (2015)
静けさと映像性の美がさらに洗練された作品。 - Strung Out in Heaven (1998)
美しいサイケ期の前身。メロディアスな側面の基盤。 - Neu! / Neu! (1972)
クラウトロックの反復美学の源流として必読レベル。



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