
発売日: 2019年6月28日(EP『FIRE ON MARZZ』収録)
ジャンル: インディーポップ、オルタナティブR&B、ドリームポップ
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概要
「Animal」は、BENEEのデビューEP『FIRE ON MARZZ』の終盤を飾る楽曲であり、自分の“動物的衝動”と“人間としての繊細さ”が交錯する、夢幻的で内省的なミッドテンポ・トラックである。
多くのBENEEの楽曲が軽やかなビートやユーモアを含んでいるのに対し、「Animal」はその中でもひときわ静かで思索的。
リリック、サウンド、ヴォーカルのトーンすべてが、“深く沈み込んでいくような孤独”と“人と人との境界”について語っているように感じられる。
サウンドプロダクションはドリーミーでスモーキー。ゆったりとしたシンセとわずかな打ち込みに支えられたボーカルは、夜の空気のように淡く、感情に輪郭を与えずに語りかける。
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楽曲の特徴と構造
音響とアレンジ
- 空間的な余白: 無駄な装飾がなく、シンプルなコード進行とミニマルなビートが支配する構成。
- エフェクトの効いたヴォーカル: 自身の存在がぼやけていくような、リバーブとディレイによる“距離感の演出”。
- ベースの浮遊感: 明確なグルーヴではなく、リズムの“滞り”を美化するような演出。
メロディと歌唱
BENEEのボーカルはいつも通り自然体だが、本曲では特に抑制され、“語りかける”と“歌う”の中間を漂っている。
その声は、まるでリスナーの耳元で囁いているような親密さを持ちつつも、どこか届かない場所にいるようでもある。
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歌詞の深読みとテーマ
「Animal」というタイトルは、“人間の本能的な部分”と“制御された社会的存在”とのあいだに引かれた線を曖昧にするメタファーである。
“I’m just an animal / trying not to get close to you”
という一節に見られるように、自分の中にある“近づきたい衝動”と“壊してしまいそうな恐れ”が拮抗している。
この矛盾こそが、人間の深層的な不安定さであり、BENEEはそれをあえて“Animal=本能”のメタファーで語ることで、感情を静かに外在化している。
恋愛的な距離感の話であると同時に、「誰にもなりきれず、何者でもない」というZ世代的自己像の不安を映してもいる。
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総評
「Animal」は、BENEEのポップで親しみやすいイメージとは一線を画す、より内面に向けられた“音による沈黙の詩”である。
派手さは一切なく、ストリーミング向けの耳なじみ重視の作りでもない。
しかしその静けさの中には、語られなかった感情、言葉にならなかった衝動が確かに息づいている。
“動物”とは、誰かと関わることで初めて暴かれてしまう自分のこと。
BENEEはその瞬間の静かな恐怖と、それでも誰かと関わりたいという切実さを、そっと音にしてくれた。
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関連おすすめ楽曲
- Lana Del Rey「Terrence Loves You」
宇宙的距離感の中で語られる感情の浮遊。 - Billie Eilish「I love you」
囁くような声のなかに宿る、壊れやすさと静かな諦め。 - Clairo「Alewife」
シンプルな構成と自己開示的なリリックの親密さ。 - Faye Webster「A Dream with a Baseball Player」
距離感と曖昧な関係性を綴る、淡い日記のような楽曲。 - Japanese Breakfast「Triple 7」
感情の抑制とシンセ・アレンジの融合が美しい。
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