
発売日: 2015年6月2日
ジャンル: ポストパンク、ゴスペル、インダストリアル・ロック、エクスペリメンタル・ロック
怒りと霊性の融合——Algiersが放つ革新的なデビューアルバム
アメリカ・アトランタ出身のバンドAlgiers(アルジアーズ)が2015年にリリースしたデビューアルバムAlgiersは、ポストパンクの冷徹なサウンド、ゴスペルの魂の叫び、インダストリアルなノイズ、そして社会的メッセージが融合した異色の作品である。
このアルバムは、黒人音楽の伝統であるゴスペルやブルースと、ポストパンクやインダストリアルの冷たい音像を組み合わせた斬新なサウンドで、当時のロックシーンの中でも異彩を放っていた。ヴォーカリストのFranklin James Fisherは、まるで説教者のように情熱的に歌い上げ、アルバム全体を通して社会的・政治的な怒りと霊的な覚醒が交錯する。
ポストパンクの影響を受けながらも、単なるジャンルの模倣にとどまらず、ゴスペルやインダストリアルを掛け合わせることで、全く新しい音楽体験を生み出した本作は、2010年代のロックシーンにおける重要な作品のひとつとなった。
全曲レビュー
1. Remains
アルバムの幕開けを飾る、不穏で重厚なポストパンク・ゴスペル。冷たいビートとオルガンが交錯し、Franklin James Fisherのソウルフルなシャウトが、宗教的な儀式のような雰囲気を生み出す。歌詞では人種問題や社会的抑圧を暗示し、強烈なメッセージ性を持つ。
2. Claudette
リバーブの効いたギターとリズミカルなビートが特徴的な楽曲。ゴスペルのコール&レスポンスのような構成で、エネルギッシュなヴォーカルが印象的。
3. And When You Fall
インダストリアルなビートと、呪術的なコーラスが絡み合うダークなトラック。ポストパンク的な冷たいギターと、ブルースの感情表現が見事に融合している。
4. Blood
本作の代表曲のひとつ。シンプルなブルースのリフと、ゴスペル的な力強いヴォーカルが特徴。サビの「Blood! Blood! Blood!」という叫びが、楽曲の緊張感を高める。政治的な怒りとスピリチュアルな覚醒が同時に感じられる一曲。
5. Old Girl
ミニマルなビートと、シャープなギターリフが際立つ楽曲。ノイズとメロディのバランスが絶妙で、ポストパンクとインダストリアル・ロックの要素が強いトラック。
6. Irony. Utility. Pretext.
エレクトロニックなリズムと不穏なギターリフが絡み合う、実験的な楽曲。冷たいビートと怒りを帯びた歌詞が、ポストパンクの名盤『Entertainment!』(Gang of Four)を思わせる。
7. But She Was Not Flying
アンビエントな音響とゴスペル的なメロディが混ざり合う、神秘的な楽曲。過去の黒人音楽の影響を強く感じさせる一曲。
8. Black Eunuch
クラッピングのリズムとブルースの影響を受けたギターリフが特徴的な楽曲。アルバムの中では比較的明るめの曲調ながらも、歌詞には政治的なメッセージが込められている。
9. Games
静かなイントロから、徐々に高まる緊張感が特徴的なトラック。ジャズやブルースの要素が強く、サウンド的にはThe Bad SeedsやNick Caveの影響も感じられる。
10. In Parallax
アルバムのラストを飾る、壮大で神秘的なトラック。ノイズとリバーブのかかったボーカルが幻想的な雰囲気を生み出し、アルバムのテーマを締めくくる。
総評
Algiersは、ポストパンク、ゴスペル、インダストリアル・ロックを融合させた、革新的で挑戦的なデビューアルバムである。
アルバム全体を通して、黒人音楽のルーツとポストパンクの冷たい音像を掛け合わせることで、これまでにないサウンドを生み出している。特に、「Blood」や「Irony. Utility. Pretext.」といった楽曲は、政治的な怒りとスピリチュアルな覚醒が交錯する、唯一無二の音楽体験を提供する。
このアルバムの最大の魅力は、ジャンルを超えたハイブリッドなサウンドと、強烈なメッセージ性にある。Algiersは、音楽を単なるエンターテイメントではなく、社会的・政治的な表現の手段として活用し、新たなロックの可能性を提示した。
一方で、ポップなメロディを期待するリスナーにとっては、やや難解に感じるかもしれない。しかし、実験的なロックやポストパンク、ゴスペルのエネルギーを愛するリスナーにとっては、圧倒的に魅力的な作品であることは間違いない。
おすすめアルバム
- TV on the Radio – Return to Cookie Mountain (2006)
ポストパンクとゴスペル、エレクトロの融合が本作と共通する。 - Nick Cave & The Bad Seeds – Let Love In (1994)
ダークで詩的な歌詞と、ブルースの影響を感じさせるサウンドが似ている。 - Gospel – The Moon Is a Dead World (2005)
ポストハードコアとゴスペル的なヴォーカルが融合した作品。 - Public Enemy – It Takes a Nation of Millions to Hold Us Back (1988)
政治的メッセージと音楽の融合という点で、本作とリンクする。 - Gang of Four – Entertainment! (1979)
ポストパンクの鋭いギターリフと政治的メッセージが共通する。
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