アルバムレビュー：A Quick One by The Who

アルバムレビュー

2025.04.21

発売日: 1966年12月9日
ジャンル: モッズ・ロック、ロックンロール、アートロック、ガレージロック

概要
全曲レビュー
総評
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概要

『A Quick One』は、The Whoが1966年にリリースした2作目のスタジオ・アルバムであり、彼らの音楽的野心と多様性が開花した画期的な作品である。
バンドが後に展開するロックオペラの原型となる組曲「A Quick One, While He’s Away」が収録されていることで知られ、コンセプト・アルバム時代の到来を予見するアルバムでもある。

前作『My Generation』では荒削りなガレージロックやモッズ文化を代表する攻撃的サウンドが前面に出ていたが、本作では各メンバーに1曲ずつの作曲を課すという試みもあり、よりバラエティ豊かな内容となっている。
フォークやカントリー、音響実験、バロック調のアレンジなど、従来のロックの枠を超えた試行錯誤が随所に見られる。

また、当時のレコード会社の方針でアルバム全体の収録時間に制限があったことから、「A Quick One」というタイトルには「すばやく、簡単に」という皮肉と挑戦的な意味合いが込められていた。

全曲レビュー

1. Run Run Run

ピート・タウンゼント作の、疾走感あるガレージ風ロックナンバー。
フィードバックノイズと荒々しいギターが前面に押し出され、ライブ感の強いオープニングを飾る。

2. Boris the Spider

ジョン・エントウィッスルが初めて作詞作曲した楽曲。
重低音のボーカルとコミカルな歌詞が印象的なサイケデリック・ロック。のちにライヴでの定番曲となった。

3. I Need You

ロジャー・ダルトリー作のシャッフル・ビートを基調としたナンバー。
The Kinks風のシニカルなコード進行と、緊張感のあるボーカルがユニーク。

4. Whiskey Man

再びエントウィッスルの作品で、酒と幻覚の世界を描いたダークなフォーク調の楽曲。
ホーンアレンジが幻想的な雰囲気を生む。

5. Heat Wave

マーサ＆ザ・ヴァンデラスのヒット曲のカバー。
モータウンへの敬意を示しつつ、The Who流にテンション高くアレンジされたダンスナンバーである。

6. Cobwebs and Strange

エントウィッスルが主導したインストゥルメンタルで、メンバー全員が普段とは異なる楽器を演奏。
サーカスのような奇怪な音世界が展開され、バンドの遊び心と実験性が凝縮されている。

7. Don’t Look Away

タウンゼントによる軽快なフォークポップ・ナンバー。
美しいメロディとハーモニーが印象的で、のちの『Tommy』にも通じる叙情性の萌芽が見られる。

8. See My Way

ダルトリー作のミディアムテンポ曲。
やや不安定ながら誠実なボーカルが印象的で、バンドの“個性の多面性”を強調する一曲。

9. So Sad About Us

タウンゼントによる名バラード。
青春の終わりと別れをテーマに、潔く淡白なアレンジが逆に感傷を引き立てる。
数多くのバンドによってカバーされてきたThe Whoの隠れた名曲。

10. A Quick One, While He’s Away

9分を超える組曲形式のロックオペラ。6つのパートから成り、女性が恋人の不在中に裏切るという物語が展開される。
ヴォードヴィル、フォーク、ロックなど多彩なスタイルを繋ぎ合わせる構成は、『Tommy』への前哨戦であり、ロック音楽の構造的な可能性を大きく広げた。

総評

『A Quick One』は、The Whoというバンドが単なるモッズの象徴にとどまらず、ロックという形式そのものに挑み始めた転機となるアルバムである。
それぞれの楽曲がまったく異なる個性を持ちながらも、バンドとしての一体感を失わない構成には、当時のイギリスのロックバンドの中でも抜きん出た独自性がある。

“全員作曲”というコンセプトは一見実験的だが、むしろThe Whoの4人の強烈なキャラクターが明確に刻まれたことで、アルバム全体に厚みとユーモア、そして柔軟性がもたらされている。

なかでも「A Quick One, While He’s Away」は、後のロックオペラ時代の扉を開いた歴史的作品であり、The Beatlesの『Sgt. Pepper’s〜』やThe Pretty Thingsの『S.F. Sorrow』に先駆けて、ロックに“物語性”と“構造”を与えたことは特筆に値する。

60年代ロックの“過渡期”を象徴する作品として、またThe Whoの創造力の高さを証明するアルバムとして、現在においても再評価され続けている重要作である。