発売日: 1994年5月24日
ジャンル: パワーポップ、ロックンロール、オルタナティブ・ロック
『A Date with The Smithereens』は、The Smithereensが1994年に発表した5作目のスタジオ・アルバムであり、
前作『Blow Up』(1991年)で示したメジャー指向のポップ志向を一度リセットし、“原点回帰”と“再起”を志向した作品である。
タイトルは1959年のエルヴィス・プレスリーのアルバム『A Date with Elvis』のオマージュであり、
その名の通り、本作は「ロックンロールとの再会」を掲げたような、タイトで骨太なギターロックが展開される。
リリース当時、The Smithereensはメジャーから離れ、新たにRCA Victorと契約。
グランジやオルタナ全盛の時代において、自分たちのサウンドを失わずに時代に立ち向かおうとする意志が明確に刻まれている。
そのためサウンドはどこか開き直ったような潔さがあり、前作までの洗練よりも**“直球のロックンロール”としての強度**を意識したアレンジが際立つ。
全曲レビュー
1. War for My Mind
開幕からパワフルなギターとストレートなビートが響く、バンドの決意表明のようなロック・ナンバー。
“心のなかで戦争が起きている”というリリックが、90年代的な内面の混沌を象徴している。
2. Everything I Have Is Blue
本作のリードシングルで、Smithereensらしい甘さと切なさの同居するミッドテンポの佳曲。
恋愛の喪失を“青”というイメージでまとめあげる、ソングライティングの巧みさが光る。
3. Miles from Nowhere
アメリカーナ的な広がりを感じさせるロックナンバー。
孤独、移動、自己探求というテーマを、カントリーフレーバーのギターと共に描き出す。
4. Get a Hold of My Heart
前作『Blow Up』にも登場した曲の再録。
こちらのバージョンでは、よりラフでライヴ感のある演奏に仕上がっており、曲そのものの感情がダイレクトに伝わる。
5. Stop Bringing Me Down
タイトル通りのロックンロール的反抗心に満ちたアップテンポ・ナンバー。
70sのパブロックを思わせる無骨なギターサウンドが印象的。
6. It’s Alright
安心感のあるメロディと、希望を感じさせるリリックがアルバム中盤のアクセントとなる。
暗さよりも、前を向こうとする意志がにじむ。
7. Life Is So Beautiful
アルバム内で異色とも言える希望に満ちたラブソング。
アコースティックなタッチと甘いメロディが、ソングライターとしての懐の深さを感じさせる。
8. Love Is Gone
硬派なリフが印象的なロック・チューン。
恋愛の終わりを“潔く認める”ような態度が、Smithereensらしい男気を感じさせる。
9. Long Way Back Again
ややカントリー/フォーク調のバラード。
タイトル通り“再生”と“帰還”をテーマにしており、バンド自身の再起を重ね合わせることもできる。
10. Sick of Seattle
“グランジ全盛時代”への不満と皮肉が込められた、タイトルからして挑戦的な楽曲。
もちろんカートやサウンドガーデンを名指ししているわけではないが、
「時代に合わせない」というバンドのスタンスが明確。
11. Goin’ Down Again
本作中でも最も荒々しく、70年代ハードロックの香りが濃いトラック。
泥臭さすら感じさせるヴォーカルとギターが、逆境を乗り越えるリアルな闘志を伝える。
12. I Believe
アルバムのラストに置かれた、静かな祈りのようなナンバー。
信じることの意味、バンドとして生き続けることの意味を問いかける、余韻ある締めくくり。
総評
『A Date with The Smithereens』は、商業的な成功からやや遠ざかりながらも、バンド本来の姿勢とサウンドに立ち返った一作である。
90年代初頭という音楽的地殻変動の真っただ中で、彼らはシーンの流行に迎合せず、
あくまでも自らの“メロディとギターのあるロックンロール”にこだわり抜いた。
その結果、本作には職人的ロックバンドとしての矜持と、再出発への意志が詰まっている。
この時期のSmithereensは、“MTV的ではない”という理由で取り残されたようにも見えるが、
むしろこの作品は、**90年代以降のギターロックが忘れかけていた“バンドとしての一貫性”**を体現していたとも言える。
売れ線ではないかもしれない。だが、まっすぐで、等身大で、今なお色あせない“誠実なロック”がここにはある。
おすすめアルバム
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Soul Asylum / Grave Dancers Union
90年代初頭における誠実なアメリカン・ロックの代表作。 -
The Replacements / All Shook Down
退廃と再起が交差する、ソングライティング中心のロック作。 -
Tom Petty & The Heartbreakers / Into the Great Wide Open
時代に合わせつつ本質を見失わなかったバンドの好例。 -
Matthew Sweet / 100% Fun
ギターポップとオルタナの橋渡し的作品として共鳴。 -
Cracker / Kerosene Hat
90年代的“ロック回帰”と土臭さの融合。Smithereensと同様に飾らない。
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