1. 歌詞の概要
“Rapture“は、アメリカのニューウェーブバンド**Blondie(ブロンディ)**が1980年にリリースしたアルバム『Autoamerican』に収録された楽曲であり、史上初めて全米チャート(Billboard Hot 100)で1位を獲得したラップを含む楽曲として知られています。ニューウェーブ、ディスコ、そしてヒップホップの要素を融合させたこの曲は、音楽史において重要な意味を持つ作品となりました。
歌詞の前半は、恋愛や官能的な歓喜(Rapture=恍惚・歓喜)をテーマにしたものであり、軽快なメロディーとデボラ・ハリー(Debbie Harry)の官能的な歌声が特徴的です。しかし、楽曲の後半では、デボラ・ハリーが英語の楽曲としては初めてラップを披露し、その内容はSF的でシュールなものとなっています。ラップのパートでは、「マン・フロム・マーズ(火星から来た男)」が人々を次々と食べていくというユニークなストーリーが展開され、当時のヒップホップの即興的なリリックスタイルを踏襲しながらも、ニューウェーブらしい奇抜な世界観を生み出しています。
2. 歌詞のバックグラウンド
“Rapture“は、Blondieがヒップホップ文化を取り入れた最初のメインストリーム・アーティストのひとつとしての地位を確立するきっかけとなった楽曲です。1970年代後半、ニューヨークでは**グランドマスター・フラッシュ(Grandmaster Flash)やファビュラス・ファイブ(Fabulous Five)といったヒップホップアーティストが地下シーンで活躍していました。Blondieのメンバーは、こうしたヒップホップ文化に触れ、特にDJクール・ハーク(DJ Kool Herc)やファブ・ファイブ・フレディ(Fab 5 Freddy)**と交流を深めました。
この影響を受けて、”Rapture”の制作がスタートし、デボラ・ハリーは曲の中でファブ・ファイブ・フレディの名前をラップで言及しています。これは、ヒップホップがまだメインストリームではなかった時代に、ロックバンドがヒップホップのアーティストを称えた先駆的な例となりました。
また、”Rapture”のミュージックビデオには、ファブ・ファイブ・フレディやグランドマスター・フラッシュが登場し、ヒップホップとニューウェーブの融合を視覚的にも表現しています。これによって、ヒップホップがより広い層に知られるきっかけとなり、後のヒップホップシーンの発展にも大きな影響を与えました。
3. 歌詞の考察
“Rapture”の歌詞は、大きく2つのパートに分かれています。
前半は、”Rapture”(恍惚・歓喜)というタイトルの通り、恋愛の高揚感や魅惑的な官能性を歌っており、デボラ・ハリーのセクシーなボーカルがそれを引き立てています。この部分は、当時のディスコミュージックの流れを感じさせる内容になっています。
一方で、後半のラップパートでは、突如としてSF的な世界観が展開されます。ここでは、「火星から来た男」が登場し、道を歩いている人々を次々と食べていくというシュールなストーリーが語られます。このユニークな歌詞は、当時のヒップホップの即興的なラップの影響を受けつつも、Blondieらしいニューウェーブ的なひねりが加えられています。
このように、”Rapture”は単なるヒップホップの取り入れではなく、ディスコ、ニューウェーブ、ラップを融合させた独自の楽曲として成立しています。その結果、ロックファン、ディスコファン、そしてヒップホップファンの間で幅広い人気を獲得することに成功しました。
4. この曲が好きな人におすすめの曲
“Rapture“が好きな方には、以下の楽曲もおすすめです。
- “Good Times” by Chic
ディスコファンクの名曲で、ヒップホップの誕生にも影響を与えた一曲。”Rapture”のベースラインもこの曲から影響を受けていると言われている。 - “The Message” by Grandmaster Flash & The Furious Five
“Rapture”と同じく、初期ヒップホップを代表する楽曲で、社会的なメッセージが込められている。 - “White Lines (Don’t Don’t Do It)” by Grandmaster Flash
1980年代のヒップホップシーンを代表する楽曲で、”Rapture”のラップスタイルに通じるものがある。 - “Funky Town” by Lipps Inc.
“Rapture”と同様にディスコとニューウェーブの要素を持つダンサブルな楽曲。 - “Planet Rock” by Afrika Bambaataa & The Soulsonic Force
“Rapture”のSF的な世界観に通じるエレクトロ・ヒップホップの名曲。
5. この曲がもたらした影響
“Rapture“は、ヒップホップがメインストリームの音楽シーンに進出するきっかけを作った重要な楽曲とされています。この曲の成功によって、ヒップホップがより広い層に認知され、80年代以降の音楽シーンに大きな影響を与えたのは間違いありません。
特に、白人アーティストによる初の本格的なラップパフォーマンスという点で、”Rapture”は歴史的な意味を持ちます。これは、後に**ビースティ・ボーイズ(Beastie Boys)やエミネム(Eminem)**といった白人ラッパーが登場する土壌を作る役割を果たしました。
また、ミュージックビデオにヒップホップアーティストを出演させたことは、MTVがまだヒップホップに注目していなかった時代に、先駆的な試みとして評価されており、MTVの音楽文化におけるヒップホップの浸透を後押しする要因となりました。
さらに、”Rapture”のベースラインやグルーヴ感は、多くのアーティストによってサンプリングされ、現在でもクラブシーンやDJセットで頻繁にプレイされています。
6. まとめ
“Rapture“は、ニューウェーブとヒップホップの融合という革新的な試みを成功させた歴史的な楽曲であり、Blondieの音楽的な実験精神を象徴する作品です。ディスコのリズムとニューウェーブの感性にヒップホップのラップを加えたこの楽曲は、1980年代以降の音楽シーンに大きな影響を与え、現在でもその重要性が語り継がれています。
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