Joy Divisionはなぜ今もポストパンクの基準点なのか――『Unknown Pleasures』『Closer』が残した「暗さ」以上のもの

※本記事は生成AIを活用して作成されています。
TUNESIGHT DIALOGUE

※本記事は、TuneSightに登場する架空のライターによる創作対談です。


1976年にマンチェスターで前身バンドが結成され、1978年からjoy divisionを名乗った4人は、活動期間の短さに反して、その後のロックの語彙を驚くほど大きく変えた。1979年の『Unknown Pleasures』、1980年の『Closer』という2枚のオリジナル・アルバム、そして「Transmission」「Love Will Tear Us Apart」などのシングル。残された作品数だけを見れば決して多くない。それでもポストパンク、ゴシックロック、インディーロック、さらには現代のエレクトロニック・ミュージックまで語るとき、Joy Divisionはいまだに比較対象として呼び戻される。

なぜなのか。今回はAlex、Sophie、Naomiの3人が、演奏、プロダクション、マンチェスターという都市、Factory Recordsの美学、Ian Curtisの歌詞、そして「Joy Divisionっぽさ」が後世でどう誤解されてきたかまで掘り下げる。

※本記事は、TuneSightに登場する架空のライターによる創作対談です。

「暗いバンド」だけでは説明できない違和感

Alex

Joy Divisionが今でも基準点なのは、まず「真似できそうで真似できない」からだと思う。黒い服を着て、低い声で歌って、ベースを前に出して、ギターにリヴァーブをかければ、外形はかなり簡単に再現できる。でも実際に「Disorder」を聴くと、いわゆる陰鬱なポストパンクのテンプレートとは全然違うんですよ。

Stephen Morrisのドラムはむしろ前に進み続けるし、Peter Hookのベースは沈むどころか高い音域で旋律を弾いている。Bernard Sumnerのギターも、巨大な壁を作るタイプではなくて、隙間だらけ。Ian Curtisだけが重力を担当しているような変なバランスなんです。

Naomi

その「隙間」は重要ですね。Joy Divisionを暗いと感じる理由の半分くらいは、音が多いからではなく、音と音の間が聞こえるからだと思います。

『Unknown Pleasures』ではMartin Hannettのプロダクションが決定的です。普通のロックなら、ドラム、ベース、ギターをまとめて「バンドの塊」として押し出すところを、Hannettはそれぞれを別々の空間に置く。Stephen Morrisのドラムには、実際の部屋というより、人工的な奥行きを感じる瞬間がある。

「She’s Lost Control」が典型でしょう。ドラムが肉体的な演奏でありながら、機械のシーケンスのようにも聞こえる。ベースは別の場所で反復していて、ギターはさらに離れた位置から切り込んでくる。

Alex

だからパンクから出てきたのに、ライブハウスの暑さがそのままレコードに入っていない。

Naomi

そう。むしろ温度を抜いているんです。

Sophie

でも私は、そこを全部Hannettの功績にすると少し違うと思う。もちろんプロダクションは巨大な要素です。ただ、元のバンド自体にすでに奇妙な空間がある。

Peter Hookが高音域を弾くことになった背景には、初期の機材環境やアンプの聞こえ方も関係していたと語られていますが、結果としてベースが通常のロックにおける低音の土台から解放された。だからBernard Sumnerのギターがコードをびっしり埋めなくても成立する。

Joy Divisionの面白いところは、制約がそのままスタイルになったことですよね。

Alex

そこは本当にそうです。優れたポストパンクって、パンクより演奏が上手くなった音楽ではなくて、「ロックバンドなら普通こうする」という役割分担を疑った音楽なんですよ。

Joy Divisionはそれを極端な理論として提示したわけじゃない。でも結果的に、ギターはギターらしくなくてもいい、ベースは低音にいなくてもいい、ドラムはロックのノリを出さなくてもいい、ということを証明してしまった。

Joy Divisionの革新は、新しい音を足したことより、ロックバンドの各楽器を「本来の位置」からずらしたことにある。

パンクの次に何をするのか――マンチェスターから生まれた答え

Sophie

Joy Divisionをポストパンクの基準点と呼ぶなら、「ポスト」が何を意味していたかも考えたい。

彼らの前身であるWarsawが結成されたのは、Sex Pistolsのマンチェスター公演が地域の若者に与えた刺激と切り離せません。これはBuzzcocksを含むマンチェスターのパンク史全体にもつながっている。ただ、Joy Divisionになってからの彼らは、パンクのサウンドそのものを保存しようとはしなかった。

Alex

「Warsaw」みたいな初期曲を聴くと、もっと直接的ですよね。テンポも速いし、ギターも荒い。

Sophie

そう。でも1978年のEP『An Ideal for Living』の段階から、すでに単純なパンクでは収まりきらない硬さがある。そしてFactory Records、Tony Wilson、プロデューサーのMartin Hannett、デザイナーのPeter Savilleと接続することで、音楽だけでなくバンドの存在そのものが別の形になっていく。

ここがロンドンのパンクとは違うところでもあると思います。Joy Divisionはマンチェスターを「地方都市だから不利だった」という物語だけで表現しなかった。むしろ工業都市の風景、空洞化、雨、コンクリート、倉庫のようなイメージが、彼らの音楽を理解するための視覚言語になっていった。

Naomi

ただ、それは実際のマンチェスターをそのまま録音した音ではないですよね。

Sophie

もちろん。そこは大事です。「工場の音がする」と言ってしまうとロマン化しすぎる。

Naomi

私はむしろ人工的だと思うんです。『Unknown Pleasures』を聴いて工業都市を想像するとしても、フィールドレコーディング的な現実の都市ではない。Hannettがスタジオの中に作った架空の都市です。

Alex

それ、すごく分かる。

「Insight」のイントロなんて特にそうで、何か巨大な設備が動いているように聞こえる。でも曲が始まった瞬間、普通のロックバンドのサイズには戻らない。ずっと得体の知れない場所にいる。

Sophie

そしてPeter Savilleのデザインも、その架空の都市を補強するんですよね。

『Unknown Pleasures』のジャケットにはバンド名もアルバム名も表に出ていない。有名なパルサーの電波信号を視覚化した図像だけが置かれている。あれは後年Tシャツとして大量に流通するほどアイコン化したけれど、本来は非常に匿名的なデザインなんです。

スターの顔を売る文化と逆方向を向いている。

Alex

しかもIan Curtisという、ものすごく強烈なフロントマンがいるのに顔を出さない。

Sophie

そう。そこに緊張感があるんです。

『Unknown Pleasures』は本当に「冷たい」アルバムなのか

Naomi

私は『Unknown Pleasures』を「冷たいレコード」と説明することに少し抵抗があります。

音響は冷たい。でも演奏はかなり熱い。

「Disorder」のStephen Morrisなんて、ものすごく身体的です。ハイハットとスネアが絶えず曲を押し続けている。Peter Hookのベースも、無感情な反復というより、ほとんど焦燥感ですよね。

Alex

まさに。ギターを弾く側からすると「New Dawn Fades」も面白い。あの曲はJoy Divisionの中では比較的ロック的な重量感があるんです。ギターが徐々に存在感を増していくし、Ianのヴォーカルも曲の後半ほど切迫していく。

あれを聴いて「無表情」と言うのは難しい。

Sophie

でも表面が抑制されているから、内部の感情が余計に怖くなるんじゃないでしょうか。

たとえば同時代のパンクには怒りを外に放射する表現が多かった。Joy Divisionは方向が逆です。社会に向かって叫んでいるように見えて、だんだん声が自分の内側へ沈んでいく。

Alex

「Day of the Lords」はそれが極端ですね。

Naomi

あの曲はテンポの遅さも効いている。現在の耳で聴くと、後のゴシックロックやインダストリアルとのつながりを感じやすいけれど、リズムの扱いは意外とファンク的な瞬間もあるんです。

Alex

Hookのベースですね。

Naomi

ええ。Joy Divisionって、「白人の冷たいロック」という一色で整理するとリズムの面白さを失う。

Stephen Morrisは後にNew Orderで電子音楽へ大きく接近するわけですが、Joy Divisionの時点ですでに、ドラマーなのに反復を非常に機械的に扱う感覚を持っている。「She’s Lost Control」なんて、後世から逆算するとポストパンクとクラブミュージックの接点まで見えてしまう。

Sophie

そこでNew Orderにつながるんですね。

Naomi

そう。ただし「Joy Divisionの時点ですでにテクノだった」と言いたいわけではありません。後のNew Orderがドラムマシンやシンセサイザー、シーケンサーを積極的に導入したからこそ、Joy Divisionに潜在していた反復性が見えやすくなった、ということです。

Ian Curtisの歌詞を「悲劇の予告」として読まない

Sophie

ここで一番難しい話をしたい。Ian Curtisの歌詞です。

彼が1980年5月に23歳で亡くなったという事実を知ったうえで「Isolation」や「Twenty Four Hours」を聴くと、どうしてもすべてがそこへ向かっていたように感じてしまう。

でも、それは作品を狭くする読み方でもあります。

Alex

僕もそう思います。「全部遺書だった」みたいにすると、曲がIanの死の説明資料になってしまう。

「Shadowplay」なんてもっと広いですよね。都市の中を移動する感覚、誰かを探している感覚、自分がどこにいるのか分からなくなる感じ。個人的な苦痛としても読めるけど、都市生活そのものの疎外としても読める。

Sophie

Ianの歌詞にはJ. G. Ballardなどの文学から受けた影響も指摘されていますが、重要なのは固有の告白だけではなく、個人が制度や都市や身体から切り離される感覚だと思う。

『Unknown Pleasures』の「Candidate」「Insight」「I Remember Nothing」には、自分の感情を説明しているというより、感情が発生する装置を観察しているような距離がある。

Naomi

声の録り方もその距離を作っています。

Ian Curtisは低い声のイメージが強いですが、ずっと同じ声ではない。「Disorder」はかなり切迫しているし、「Candidate」はもっと幽霊のように離れている。「I Remember Nothing」では、ヴォーカルが空間そのものに吸収されていく感じがする。

Alex

Ianをカリスマ的な悲劇の詩人として神話化すると、バンドの4人の相互作用も見えなくなりますよね。

Sophie

その通り。

そしてJoy Divisionの場合、死後の写真、映画、書籍、Tシャツ、ジャケット・デザインまで含めて神話が巨大になった。だから音楽に戻るには、ある程度その神話を剥がさないといけない。

Alex

変な言い方だけど、「Love Will Tear Us Apart」をIanの人生を知らずに聴けたら、どんな曲に聞こえるんだろうとは思う。

Naomi

たぶん今よりずっとポップに聞こえるでしょうね。

Alex

ですよね。メロディは明確だし、ベースラインは覚えやすいし、シンセサイザーも入っている。

Sophie

タイトルだけでも非常に強い。

でも、あの曲を「Ian Curtisの悲劇を象徴する曲」とだけ説明してしまうと、Joy Divisionがポップソングの構造をどれほど理解していたかが見えなくなる。

『Closer』でJoy Divisionはロックバンドから離れていく

Naomi

私はJoy Divisionの本当の異常さが分かるのは『Closer』だと思っています。

『Unknown Pleasures』にはまだ「ものすごく独特なロックバンド」として理解できる部分がかなりある。でも『Closer』は、バンドサウンドそのものが崩れ始めている。

「Atrocity Exhibition」の時点でそうです。ギター、ベース、ドラムが一緒に演奏しているはずなのに、誰も典型的なロックの役割を果たしていない。

Alex

あのギター、気持ち悪いんですよ。褒め言葉ですけど。

何かを表現するためにコードを鳴らすというより、金属を引っかいているような存在になっている。

Naomi

そして「Isolation」。シンセサイザーの扱いが完全に前面へ出る。

Joy Divisionをギターバンドだと思って『Closer』を聴くと、かなり驚くはずです。「Isolation」は電子音が装飾ではない。曲の性格そのものを決めている。

Sophie

「Heart and Soul」もそうですよね。

Naomi

ええ。反復されるリズムが中心にあって、各楽器がそこへ層として重なっていく。後のポストパンク、ニューウェイヴ、さらにはダンスロックを知っている耳には自然に聞こえるけれど、1980年という時点を考えると大胆です。

Alex

ただ僕は『Unknown Pleasures』のほうが好きです。

Naomi

でしょうね(笑)。

Alex

いや、理由はちゃんとありますよ。『Closer』は完成度が高すぎるというか、曲がスタジオの中で別の生命体になっている。僕はもう少しバンドが手で押したり引いたりしている感じが好きなんです。

「Disorder」「New Dawn Fades」「Interzone」には、まだ4人が同じ部屋で殴り合っているような感触がある。

Naomi

私は逆です。『Closer』でメンバーの演奏が抽象化されていくところが好き。

Sophie

私はその二つを選びにくいですね。というのも『Closer』には、音楽だけでなく「Joy Divisionというイメージ」が完成してしまう怖さがあるから。

Peter Savilleによる墓碑を使ったジャケットも含めて、結果的にあまりにも出来すぎた作品に見えてしまう。もちろんデザイン自体はIan Curtisの死を受けて作られたものではありません。だからこそ、後から見ると偶然が神話の一部になってしまう。

Peter Hookのベースが、その後のインディーロックを変えた

Alex

僕がJoy Divisionから一つだけ演奏上の発明を選ぶなら、Peter Hookのベースです。

これ、本当に巨大な影響ですよ。

ベースがギターより記憶に残るロックバンドって、それ以前にももちろんある。でもHookの場合、ベースラインが低音の補強ではなく、曲の主要メロディとして機能する。

「She’s Lost Control」「Twenty Four Hours」「Love Will Tear Us Apart」あたりは特に分かりやすい。

Sophie

だからギターが自由になる。

Alex

そう。Bernard Sumnerは巨大なコードを鳴らし続けなくていい。

後のインディーロックやポストパンク・リバイバルで、細いギターと高音域のベースという組み合わせを何度聞いたか分からない。

InterpolなんかはJoy Divisionとの比較を避けられなかったし、Editorsもそう。でももっと広く考えると、ベースを前景化するという発想自体がインディーの語彙になっている。

Naomi

ただ、Peter Hookのコピーはすぐ分かりますよね。

Alex

分かる(笑)。

Naomi

高いポジションで旋律を弾いてコーラスをかければ、一瞬でそれらしくなる。

でも本当のポイントは音域ではなく、各パートの空間的な関係です。Hookだけコピーしても、Stephen Morrisの直線的なリズムとBernard Sumnerの「弾かなさ」がなければJoy Divisionにはならない。

Alex

そこは同意します。

Joy Division以降のバンドが間違えやすいのは、全員がJoy Divisionっぽいことをやってしまうことなんです。ギターも暗い、ベースも暗い、ドラムも暗い、歌も暗い。

Joy Division本人たちはそうじゃない。

Sophie

面白い表現ですね。

Alex

Ian Curtisが深刻だからといって、Stephen Morrisまで深刻そうに叩いてはいない。「Disorder」のドラムなんて、ほとんど躁的なくらい前へ行く。

だから緊張が生まれる。

Joy Divisionの「暗さ」は、全パートが暗い音を出しているからではない。互いに違う方向へ進む音が、一つの曲の中に閉じ込められているからだ。

Martin HannettはJoy Divisionを「作り変えた」のか

Naomi

ここではMartin Hannettについてもう少し踏み込みたい。

彼のプロダクションはJoy Division史ではあまりにも有名で、時々「HannettがいなければJoy Divisionではなかった」という言い方までされる。

私は半分正しいと思います。

Alex

半分?

Naomi

レコードとしてのJoy Divisionには決定的です。

空間系の処理、エフェクト、ドラムの分離、普通なら消してしまいそうな異物的な音。そうした操作によって、楽曲がライブ演奏の記録ではなく、スタジオで構築された環境になる。

でも、だからといってバンドの作曲までHannettが発明したわけではない。

Alex

そこは大事ですよね。

ライブ音源を聴くとかなり荒いバンドです。特に「Transmission」なんて、スタジオ版では緊張感が整理されているけど、演奏そのものにはパンク的な爆発力がある。

Sophie

メンバーとHannettの間には、録音された音をめぐる認識の違いもあったとされていますね。バンド側がより強烈で直接的なサウンドを想定していた一方、Hannettは別の空間へ持っていった。

それが結果として歴史的な作品になった。

Alex

ギタリストからすると複雑ですよ(笑)。自分がアンプの前で「これだ」と思って鳴らした音が、ミックスで小さくされて、知らないエフェクトを足されて、それが40年以上後に名盤扱いされたら。

Naomi

でも、その摩擦がいいんです。

バンドが最初から「冷たくミニマルなポストパンクを作りましょう」とコンセプトを共有していたら、こんな音にはならなかったかもしれない。

Sophie

Joy Divisionという作品は、メンバー4人だけではなく、Hannett、Factory、Peter Saville、Tony Wilsonらを含む環境全体から生まれた、と考えたほうが正確なんでしょうね。

そしてFactory Records自体も、単なるレコード会社ではなく、音楽、グラフィック、クラブ、都市文化を一つの美学として提示した。

後のインディーレーベル文化にとって、ここはかなり大きい。

Alex

「曲だけ良ければいい」じゃない。

Sophie

でも逆に「見た目だけでも駄目」。その両方を同じ強度で扱ったということです。

なぜポストパンク・リバイバルのたびにJoy Divisionへ戻るのか

Alex

2000年代にInterpol、Editors、The Killers、Franz Ferdinandあたりが出てきた時期、何でもかんでも「ポストパンク・リバイバル」と呼ばれたでしょう。

そのときJoy Divisionの名前が本当によく出た。

ただ、僕はInterpolを単純なJoy Divisionのコピーと呼ぶのは雑だと思います。

Sophie

同意です。Paul Banksの低いヴォーカルと暗い都市的な雰囲気だけで比較されすぎた面がある。

Alex

ギターの作り方はかなり違うし、InterpolにはTelevisionやニューヨークのポストパンク/インディーの系譜もある。

でもJoy Divisionが比較対象になる理由は理解できるんです。「少ない音数で巨大な雰囲気を作る」という方法論が、その後のバンドを測る物差しになったから。

Naomi

そして現在では、影響がロックだけに限定されなくなっていると思います。

Joy Divisionの反復、空間、電子音への接近は、ダンスミュージック側からも読み直せる。もちろんNew Orderがその橋を実際に渡ったことが大きい。

1980年にIan Curtisが亡くなった後、Bernard Sumner、Peter Hook、Stephen MorrisがGill​​ian Gilbertを加えてNew Orderとして活動し、「Blue Monday」のような作品へ進んだ。その歴史を知っていると、Joy Divisionの中にあった電子的な感覚が途中で消えず、別の形で発展したことが分かる。

Sophie

ここが他の「伝説的に短命なバンド」と少し違うんですよね。

Joy Divisionで断絶しただけではない。メンバー自身がNew Orderとして80年代以降の音楽を更新してしまった。

Alex

それは大きい。

普通なら「もし解散しなかったらどうなっていたか」を想像するしかない。でもJoy Divisionの場合、ある意味ではその先の可能性の一部をNew Orderで見ることができる。

Naomi

ただし、Joy DivisionがそのままNew Orderになったわけではありません。

Ian Curtisの声と言葉が抜けたことで、音楽の重心が根本的に変わった。だからこそ、両者の連続性と断絶を同時に考えられる。

「Joy Divisionっぽい音」がJoy Divisionから遠ざかっていく

Sophie

私はJoy Divisionの影響力が大きすぎたせいで、逆にJoy Divisionそのものが見えにくくなったと思っています。

今では「ポストパンク的」というだけで、モノクロ写真、コンクリート、無表情、黒い服、細いサンセリフ書体みたいな視覚言語までセットになっている。

Alex

ありますね(笑)。

Sophie

でもJoy Divisionが活動していた時点では、それはテンプレートではなかった。Peter Savilleのデザインも、後から「ポストパンクらしい」と分類されたのであって、既存のポストパンク様式を引用したわけではない。

Naomi

音も同じですね。

ゲートっぽいドラム、コーラスのかかったベース、深いリヴァーブ、低い声。その記号を集めると現代ではすぐ「80年代風」になる。

でも『Unknown Pleasures』を丁寧に聴くと、そんなに均一ではない。「Interzone」はかなり荒々しいし、「Disorder」は速い。「New Dawn Fades」は重いロックでもある。

Alex

そうなんですよ。僕が「Interzone」を好きなのもそこ。

Joy Divisionを神殿から引きずり下ろして、パンクバンドだったことを思い出させてくれる。

Sophie

私は逆に「Atmosphere」がJoy Divisionの核心に近いと思っています。

Alex

おお、かなり違う。

Sophie

あの曲にはパンク的な痕跡がほとんど見えない。非常にゆっくりしていて、ドラムも儀式的で、Ianの声が巨大な空間の中に置かれている。

後世の「Joy Division像」に近いと言えば近い。でも、それが安っぽく感じないのは、まだ様式化される前に彼ら自身がそこへ到達しているからです。

Naomi

私は「Atmosphere」では低音の扱いが好きですね。音数が少ないから、一つ鳴るだけで空間全体の寸法が変わる。

Alex

でも「Atmosphere」だけ聴いてJoy Divisionを理解したと思われると困る(笑)。

Sophie

それは私も困ります。

最高傑作は『Unknown Pleasures』か、『Closer』か

Alex

僕は『Unknown Pleasures』です。

歴史的な意味では両方重要だけど、個人的に一枚選べと言われたら迷わない。

理由はさっき話した通り、まだバンドがプロダクションに完全に溶けていないから。「Disorder」から「I Remember Nothing」まで、4人が同じ方向へ進んでいるというより、違う方向へ引っ張り合っている。

特に「New Dawn Fades」。Joy Divisionのギターを語るなら僕はこれを挙げたい。

Sophie

私は『Closer』ですね。

音楽史的にどちらが上かというより、一つの作品としての不可解さで選びます。「Atrocity Exhibition」で始まって、「Decades」で終わる。ロックアルバムなのに、終盤へ進むほどロックという形式から離れていく。

「The Eternal」から「Decades」への流れには、今聴いても分類しにくいものがある。

Naomi

私も『Closer』。

特に「Decades」は重要です。シンセサイザーとリズムと声の配置を聴くと、80年代のニューウェイヴやシンセポップとの接続が見えるのに、そのどれとも違う。

ただ、初心者に最初から『Closer』を薦めるかというと、そうではない。

Alex

そこは『Unknown Pleasures』?

Naomi

いえ、「Transmission」と「Love Will Tear Us Apart」を先に聴いてほしい。

Alex

アルバムじゃない(笑)。

Naomi

でも入口としてはそのほうがいいと思う。

「Transmission」ならバンドの推進力が分かる。「Love Will Tear Us Apart」ならメロディの強さと電子音への接近が分かる。その二曲を知ってからアルバムへ行くと、Joy Divisionが単なる暗い実験音楽ではないことが理解しやすい。

Sophie

私は初心者向けなら『Unknown Pleasures』かな。冒頭が「Disorder」というのが強すぎる。

最初の数秒でStephen Morrisのドラムが走り出して、Peter Hookのベースが入り、Ianが歌い始める。その時点で、このバンドの役割分担がほぼ全部見える。

1曲だけなら何を選ぶか――そして過小評価されている曲

Alex

1曲だけなら「Transmission」。

最高傑作かと言われたら別の曲も考えるけれど、Joy Divisionとは何かを一曲で見せるならこれです。

Hookのベース、Morrisのドラム、Sumnerのギター、Ian Curtisの声が全部独立しているのに、最後はものすごい推進力になる。

しかもタイトル通り、音楽が「伝送」されていく感じがある。反復がだんだん集団的な高揚に変わる。

Sophie

私は「Atmosphere」です。

Alexがさっき反対した方向(笑)。

Alex

反対じゃないですよ。代表曲としてそれだけになると困るだけ。

Sophie

分かっています。

私は、Joy Divisionが後世に残したものを考えたとき、「Atmosphere」に凝縮されていると思う。空間、反復、低い声、ほとんど宗教的な荘厳さ。それに、演奏が少ないほど感情が増えていくという逆説。

「Love Will Tear Us Apart」のほうがポップソングとしては完璧に近いけれど、Joy Divisionという存在そのものなら「Atmosphere」。

Naomi

私は「Twenty Four Hours」。

二人とも選ばなさそうなので(笑)。

Alex

いい選択。

Naomi

あの曲には『Closer』の魅力が凝縮されています。高速ではないのにリズムが前へ進み、ベースが旋律を作り、途中で強度が変わっていく。静と動の切り替えも非常に美しい。

何より、スタジオ処理と生身のバンド感がちょうど中間にある。

Alex

過小評価された曲なら僕は「Interzone」。

Joy Divisionの影響を受けたと言うバンドの多くが、あの荒さを継承していないんですよ。みんな「Atmosphere」側へ行く(笑)。

でも「Interzone」を聴けば、彼らがBuzzcocksやSex Pistols以降のパンクの地面から出てきたことが分かる。

Sophie

私は「The Eternal」。

『Closer』後半だからどうしても「Decades」の前段階のように扱われるけれど、単独でも非常に異様な曲です。

ピアノ、ベース、ヴォーカルがほとんど時間を停止させるように配置されている。ロックバンドがここまで「動かない」ことで緊張を作れるのは面白い。

Naomi

私は『Unknown Pleasures』の「Candidate」。

目立たないですよね。

Alex

かなり地味です。

Naomi

でも、あの曲をヘッドフォンで聴くとHannettの空間設計がよく分かる。

中心に強いリフを置いて引っ張る曲ではなく、音の位置関係で不安を作っている。「Joy Divisionのプロダクションはなぜ特別なのか」を研究するなら、とてもいい曲です。

Sophie

こうして選ぶと、誰も「Love Will Tear Us Apart」を1曲に選ばなかった。

Alex

曲として嫌いな人はいないでしょう。

Naomi

むしろ完成度が高すぎる。

Sophie

そう。Joy Divisionの最大のヒット曲であり、最も広く知られた曲でありながら、バンド全体を説明するには少し美しすぎるのかもしれない。

Alex

それはある。Joy Divisionって本来もっと不格好なんですよ。

機材も、演奏も、曲の構造も、メンバーの役割も、「普通ならこうする」を少しずつ外している。

そしてその外し方が偶然の寄せ集めではなく、最終的に一つの音楽として成立した。

だから基準点なんだと思います。

対談を終えて

Joy Division以降、「暗いギター」「高音域を動くベース」「低いヴォーカル」「無機質なドラム」「余白の大きいプロダクション」は、ポストパンクを示す記号として何度となく再利用されてきた。だが3人の議論から見えてくるのは、Joy Divisionの核心がその記号そのものにはないということだった。

Peter Hookのベースは旋律へ向かい、Stephen Morrisのドラムは機械のように前進し、Bernard Sumnerのギターは空間を埋めることを拒み、Ian Curtisの声はその間に異なる重力を持ち込む。さらにMartin Hannettがスタジオを使って各要素を分離し、Factory RecordsとPeter Savilleが音の外側にまで同じ緊張感を広げた。

後続が模倣したのはしばしばJoy Divisionの「暗さ」だった。しかし彼ら自身が残した最も重要な方法論は、既存のロックの正解を一つずつ疑うことだったのかもしれない。だから40年以上を経ても、ポストパンクが新しく生まれ変わろうとするたび、基準点としてJoy Divisionの場所を確認する必要が生まれる。

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