
発売日:1969年2月
ジャンル:プロトパンク、ガレージロック、ハードロック、サイケデリックロック、デトロイト・ロック、ブルースロック
- 概要
- 全曲レビュー
- 1. Ramblin’ Rose
- 2. Kick Out the Jams
- 3. Come Together
- 4. Rocket Reducer No. 62 (Rama Lama Fa Fa Fa)
- 5. Borderline
- 6. Motor City Is Burning
- 7. I Want You Right Now
- 8. Starship
- 総評
- おすすめアルバム
- 1. MC5 – Back in the USA(1970)
- 2. MC5 – High Time(1971)
- 3. The Stooges – Fun House(1970)
- 4. The Ramones – Ramones(1976)
- 5. The Clash – The Clash(1977)
- 関連レビュー
概要
MC5の『Kick Out the Jams』は、1969年に発表されたデビュー・アルバムであり、ロック史における最も過激で重要なライブ・アルバムの一つである。デビュー作でありながらスタジオ録音ではなく、ライブ録音として発表された点からも、このバンドの本質が明確に分かる。MC5は、完成されたスタジオ・サウンドで自分たちを紹介するバンドではなかった。彼らはステージ上で爆発し、観客を巻き込み、音楽を政治集会、宗教的儀式、暴動、ストリートの熱狂へ変えるバンドだった。
MC5は、1960年代後半のアメリカ・デトロイト周辺から現れた。デトロイトは自動車産業の都市であり、Motownの都市であり、労働者階級の都市でもある。工場の騒音、黒人音楽の強い伝統、白人労働者階級の荒々しさ、都市の緊張、政治的急進化が交差する土地であり、MC5の音にはそのすべてが刻まれている。彼らのギターは金属的で、リズムは肉体的で、ヴォーカルは演説のように響く。これは単なるロック・バンドの音ではなく、デトロイトという都市の圧力そのものが鳴っているような音である。
本作は、1968年10月30日と31日にデトロイトのGrande Ballroomで録音されたライブ演奏を中心に構成されている。Grande Ballroomは、当時のデトロイトのロック・シーンにおける重要な会場であり、MC5にとってもホームグラウンドのような場所だった。スタジオ録音ではなく、この場所でのライブをデビュー作として出したことは、MC5が自分たちを「曲を書くバンド」以上に、「現場を変えるバンド」として認識していたことを示している。
アルバム冒頭のJohn Sinclairによる煽動的なイントロから、本作は普通のロック・アルバムではないことを宣言する。SinclairはMC5のマネージャーであり、White Panther Partyの中心人物でもあった。White Panther Partyは、黒人解放運動、反戦運動、カウンターカルチャーと連帯する急進的な白人若者運動であり、MC5はその音楽的な顔として機能していた。つまり『Kick Out the Jams』は、ロックンロールのアルバムであると同時に、政治的な時代のドキュメントでもある。
ただし、本作の政治性は単なるスローガンだけにあるのではない。もちろん「Kick out the jams, motherfuckers!」という有名な叫びは、当時の商業音楽や社会規範に対する強烈な挑発だった。しかしMC5の本当の政治性は、音そのものの暴力的な自由にある。ギターが制御を超えて鳴り、ドラムが観客の身体を突き動かし、ヴォーカルが説教者のように叫ぶ。その瞬間、ロックンロールは娯楽ではなく、秩序を乱す力になる。
音楽的には、本作は1950年代ロックンロール、R&B、ブルース、フリージャズ、サイケデリックロック、ガレージロック、ハードロックが激しく混ざり合っている。MC5は、Chuck BerryやLittle Richardのロックンロールを愛していたが、それを懐古的に再現するのではなく、1960年代末の政治的混乱とサイケデリックな拡張の中で過激化した。Wayne KramerとFred “Sonic” Smithのツイン・ギターは、ブルースの構造を持ちながら、ノイズやフィードバックへ接近する。Dennis Thompsonのドラムは硬く、前のめりで、パンク以前の攻撃性を持つ。Michael Davisのベースは、サイケデリックなうねりとロックンロールの推進力を支える。そしてRob Tynerのヴォーカルは、ソウル・シンガー、革命演説家、ガレージ・ロックの叫び手を一つにしたような存在である。
本作は、後のパンク・ロックに与えた影響という点でも極めて重要である。The Stoogesと並び、MC5はしばしば「プロトパンク」と呼ばれるが、『Kick Out the Jams』を聴くと、その意味は明白である。曲は必ずしも短く単純ではないが、態度、音量、反抗、身体性、聴き手への攻撃性は、後のパンクの精神を先取りしている。The Clashの政治性、Ramonesのロックンロールへの回帰、Sex Pistolsの挑発、The DamnedやDead Boysの荒々しさには、MC5の影がある。
しかし、MC5を単に「パンクの前段階」としてだけ見るのは不十分である。彼らは、1960年代ロックの自由さ、ブラック・ミュージックへの敬意、政治的カウンターカルチャー、サイケデリックな拡張性をすべて抱え込んだバンドだった。『Kick Out the Jams』には、パンク的な短絡的怒りだけではなく、長尺のジャム、フリーキーなギター、R&B的な熱、ジャズ的な混沌もある。これは、60年代の理想と70年代の暴力性の間で燃え上がったアルバムである。
発売当時、本作は大きな物議を醸した。特に表題曲の冒頭に含まれる過激な言葉は、レコード販売やラジオ放送の面で問題となった。だが、その論争も含めて『Kick Out the Jams』は時代の空気を体現している。1969年という年は、カウンターカルチャーの夢が頂点に達しつつ、同時に崩壊の予兆も強まっていた時期である。ウッドストックの理想とオルタモントの暴力、反戦運動と国家権力の緊張、ドラッグによる意識拡張と自己破壊が同時に存在した。その中でMC5は、ロックンロールを最も直接的な爆発として鳴らした。
『Kick Out the Jams』は、洗練されたアルバムではない。録音は荒く、演奏は時に過剰で、音のバランスも完璧ではない。しかし、その未整理な部分こそが本作の価値である。これは管理されたスタジオ作品ではなく、観客の熱、アンプの歪み、政治的な煽動、若者の身体、時代の怒りがそのまま記録されたアルバムである。ロックンロールがまだ危険で、制御不能で、社会的な意味を持っていた瞬間を捉えた決定的な一枚である。
全曲レビュー
1. Ramblin’ Rose
アルバムは「Ramblin’ Rose」で幕を開ける。曲の前に置かれたJohn Sinclairのイントロは、本作を単なるライブ録音ではなく、一種の政治的・儀式的な集会として位置づけている。聴き手は、アルバムを再生した瞬間から、ロック・ショーではなく、デトロイトの地下で行われる解放の儀式へ参加させられる。
「Ramblin’ Rose」は、もともとロックンロールのスタンダード的な楽曲だが、MC5はそれを完全に自分たちのものに変えている。Fred “Sonic” Smithのリード・ヴォーカルは、甲高く、奇妙で、過剰であり、通常のロックンロール歌唱とは異なる不安定な魅力を持つ。これは美しく整えられた歌ではない。むしろ、音の中で身体が壊れそうになるような叫びである。
音楽的には、曲は1950年代ロックンロールの形式を持ちながら、音量と歪みによって別物になっている。ギターは荒く、ドラムは前のめりで、バンド全体が観客をいきなり熱狂の中心へ放り込む。ここには、後の『Back in the USA』でより整理される初期ロックンロールへの敬意が、より混沌とした形で表れている。
歌詞の内容以上に重要なのは、曲の態度である。MC5は過去のロックンロールを丁寧に再現するのではなく、破壊的に再点火する。彼らにとって、ロックンロールは懐かしい音楽ではなく、現在の社会を揺さぶる武器である。「Ramblin’ Rose」はその姿勢を最初に示す曲である。
この曲によって、アルバムは開始直後から通常のライブ盤の範囲を超える。MC5は観客に向かって演奏しているだけではない。観客を音の暴動へ参加させている。その意味で「Ramblin’ Rose」は、『Kick Out the Jams』の入口として非常に重要である。
2. Kick Out the Jams
表題曲「Kick Out the Jams」は、MC5の代表曲であり、ロック史に残る最も有名なプロトパンク・アンセムの一つである。冒頭の「Kick out the jams, motherfuckers!」という叫びは、単なる下品な挑発ではない。それは、抑圧されたエネルギーを解放し、音楽を妨げるすべてのものを蹴り飛ばせという宣言である。
「jams」とは、音楽的なジャムであり、同時に詰まり、停滞、抑圧を連想させる言葉でもある。つまり「Kick Out the Jams」は、音楽を始めろ、音を爆発させろという意味であると同時に、社会的な詰まりを蹴破れという意味も持つ。MC5の政治性と音楽性が、この一言に凝縮されている。
音楽的には、曲は非常にストレートなロックンロールでありながら、異常な熱量を持つ。ギターは短く鋭いリフを鳴らし、リズム隊は暴走寸前の速度で曲を押し出す。Rob Tynerのヴォーカルは、ソウル・シンガーのような力強さと、革命的な煽動者の声を兼ね備えている。彼は歌っているというより、群衆を動かしている。
この曲の魅力は、単純な構造の中に異様な圧力がある点である。コードやメロディは複雑ではない。しかし、その単純さが巨大な武器になる。後のパンクが証明するように、ロックンロールの力は複雑さにあるのではなく、瞬間的な爆発力にある。「Kick Out the Jams」は、その真理を1969年の時点で鳴らしていた。
歌詞は、若者の衝動、音楽による解放、身体的な熱狂を中心にしている。難解な政治理論ではなく、まず音を鳴らせ、身体を動かせ、抑圧を吹き飛ばせという直接性がある。これこそがMC5の強さである。政治は演説だけではなく、アンプの音量にも宿る。
「Kick Out the Jams」は、MC5というバンドの名刺であると同時に、ロックンロールそのものの過激な可能性を示した曲である。短い時間の中で、音楽、政治、身体、反抗が完全に一体化している。
3. Come Together
「Come Together」は、アルバムの中でも特に共同体的な感覚を持つ楽曲である。The Beatlesの同名曲とは別の曲であり、MC5の「Come Together」は、若者たちが集まり、音楽を通じて一つの力になることを呼びかける曲として機能している。タイトルそのものが、カウンターカルチャーの合言葉のように響く。
音楽的には、重いグルーヴと反復が中心になっている。曲は単純に突っ走るのではなく、リズムを繰り返しながら、集団的な高揚を作っていく。MC5の演奏には、R&Bやゴスペル的な集団性も感じられる。観客との間に壁を作らず、全員を同じ熱の中へ巻き込もうとする音である。
歌詞では、分断された人々に対して、集まること、つながることが呼びかけられる。1960年代末のアメリカは、戦争、差別、世代間対立、政治的暴力によって深く分断されていた。その中で「come together」と歌うことは、単なる平和的なスローガンではなく、実際に現場で集まるための指令でもあった。
ただし、MC5の「団結」は穏やかな理想主義だけではない。彼らの音は攻撃的で、鋭く、時に暴力的である。つまり、ここでの結集は優しい共同体ではなく、闘うための共同体に近い。音楽は、踊るためのものでもあり、立ち上がるためのものでもある。
「Come Together」は、『Kick Out the Jams』の中で、個人の解放から集団のエネルギーへ視点を広げる楽曲である。MC5のライブが単なるパフォーマンスではなく、観客を含む政治的・身体的な場だったことをよく示している。
4. Rocket Reducer No. 62 (Rama Lama Fa Fa Fa)
「Rocket Reducer No. 62 (Rama Lama Fa Fa Fa)」は、MC5の中でも特にサイケデリックで、呪文的なエネルギーを持つ楽曲である。タイトルは意味が明確ではなく、SF的なイメージ、機械的な響き、ナンセンスなロックンロールの掛け声が混ざっている。「Rama Lama Fa Fa Fa」というフレーズは、言語的な意味よりも、音としての力を持つ。
音楽的には、曲は反復的なリフとリズムによって高揚していく。ギターは荒々しく、ベースとドラムは曲の土台を強く支える。ロックンロールの基本構造を持ちながら、曲全体にはサイケデリックな陶酔感がある。これは、単なるポップソングではなく、音の呪術に近い。
歌詞やフレーズは、明確なメッセージを伝えるというより、観客の身体に直接働きかける。MC5の政治性は、時に言葉の意味を超えた音の反復にも現れる。意味が分からなくても、声とリズムが人を動かす。この曲は、その音楽の原始的な力を示している。
「Rocket Reducer」という言葉には、速度、機械、宇宙、爆発のイメージがある。1960年代末のロックは、しばしば宇宙的・サイケデリックなイメージと結びついていたが、MC5の場合、それは幻想的な浮遊ではなく、エンジンのような爆発力として表れる。宇宙へ飛ぶというより、地上でロケットが暴発するような音である。
この曲は、後のパンクよりも、むしろサイケデリック・ガレージやノイズロックに近い側面も持つ。MC5の音楽が単純な3コード・パンクの先駆だけではなく、60年代のサイケデリックな拡張を含んでいたことが分かる重要曲である。
5. Borderline
「Borderline」は、アルバムの中でややブルースロック的な色合いが強い楽曲である。タイトルは「境界線」を意味し、心理的な限界、社会的な境界、危険な状態の手前にいる感覚を連想させる。MC5の音楽は常に境界を越えようとするものだが、この曲ではその「境界」の存在がより明確に感じられる。
音楽的には、ギターのリフが重く、ブルースを基盤にしたハードなロックンロールとして展開される。テンポは極端に速いわけではないが、演奏には緊張感がある。Wayne KramerとFred “Sonic” Smithのギターは、ブルース的な感触を残しながらも、鋭く歪んでいる。
Rob Tynerのヴォーカルは、ここでも強い存在感を持つ。彼は歌詞を感情的に押し出し、曲に危うさを与える。MC5のヴォーカルは、単に旋律をなぞるものではない。彼の声は、バンドの音の中でさらに火をつける役割を持っている。
歌詞は、何かの限界に立つ感覚を描いているように響く。個人の精神的な限界、社会が引いた線、あるいは暴動と日常の境界。そのどれとも読める曖昧さがある。MC5の世界では、境界線は守るものではなく、突破するために存在する。
「Borderline」は、アルバム中盤にブルースロック的な重さを加える楽曲である。表題曲のような瞬間的な爆発とは異なり、じわじわと圧力をかけるタイプの曲であり、バンドの音楽的な基盤をよく示している。
6. Motor City Is Burning
「Motor City Is Burning」は、John Lee Hookerの楽曲をもとにしたカバーであり、MC5のデトロイト性と政治性を最も直接的に示す楽曲の一つである。「Motor City」とはデトロイトのことであり、自動車産業の都市としての象徴的な呼び名である。タイトルは「デトロイトが燃えている」という意味を持ち、1967年のデトロイト暴動の記憶とも強く結びつく。
音楽的には、ブルースを基盤にしているが、MC5はそれをハードで暴力的なロックへ変えている。John Lee Hookerのブルースが持つ語りの力を受け継ぎつつ、ギターの歪みとライブの熱によって、曲は都市の炎そのもののように響く。ブルースが都市暴動のロックへ変化している。
歌詞では、デトロイトの街が燃え、警察や兵士、社会の緊張が描かれる。これは抽象的な革命の歌ではなく、具体的な都市の記憶に根ざした曲である。MC5は、アメリカの都市が抱えていた人種問題、貧困、国家暴力、労働者階級の怒りを、ブルースの形式を通じて鳴らしている。
この曲の重要性は、MC5が黒人ブルースの伝統と白人カウンターカルチャーの反抗を接続しようとしている点にある。ただし、その接続には緊張もある。白人ロック・バンドが黒人暴動の記憶を歌うことには、文化的な複雑さが伴う。しかしMC5は、少なくとも当時の多くの白人ロック・バンドよりも、黒人音楽と黒人解放運動への連帯を明確に打ち出していた。
「Motor City Is Burning」は、本作の政治的核心の一つである。ここでMC5は、自分たちの都市が燃えている現実を、ロックンロールの熱として鳴らしている。デトロイトという土地なしに、この曲も、このバンドも成立しない。
7. I Want You Right Now
「I Want You Right Now」は、アルバムの中でも特に性的な欲望が前面に出た楽曲である。タイトルは非常に直接的で、「今すぐ君が欲しい」という意味を持つ。MC5にとって、ロックンロールは政治だけでなく、身体的な欲望の音楽でもあった。この曲はその側面を露骨に示している。
音楽的には、重く、粘りのあるグルーヴが中心である。表題曲のように一気に爆発するのではなく、じわじわと欲望を高めていくような演奏になっている。ギターは官能的でありながら荒く、リズム隊は曲に肉体的な重さを与える。演奏にはブルースロックの影響が強い。
Rob Tynerのヴォーカルは、ここでは非常に直接的で、相手への欲望を隠さない。歌詞には洗練された比喩よりも、身体の即時性がある。MC5は欲望を美しく包むのではなく、そのままステージ上に投げ出す。これは下品にも聴こえるが、同時にロックンロールの根源的な力でもある。
この曲の重要な点は、性的な欲望が反抗と結びついていることである。1960年代末のカウンターカルチャーにおいて、身体の解放、性の解放は政治的な意味を持っていた。MC5の音楽では、踊ること、叫ぶこと、欲望することが、管理社会への拒否として響く。
「I Want You Right Now」は、『Kick Out the Jams』の中で最も肉体的な曲の一つである。長めの演奏時間を使って、バンドは欲望を音のうねりとして拡大していく。ロックンロールが頭ではなく身体に訴える音楽であることを強く示す楽曲である。
8. Starship
アルバムを締めくくる「Starship」は、Sun Raの影響を受けた楽曲であり、MC5のサイケデリックでフリージャズ的な側面を最も大胆に示す終曲である。Sun Raは、ジャズ、宇宙神話、アフロフューチャリズムを結びつけた重要な音楽家であり、MC5は彼の思想と音楽から大きな刺激を受けていた。この曲は、ロックンロールが宇宙的な混沌へ拡張される瞬間である。
音楽的には、曲は通常のロック・ソングの構造を大きく逸脱する。ギター、ベース、ドラム、ヴォーカルが自由に暴れ、ノイズ、叫び、即興的な展開が混ざり合う。これは整った曲というより、音響的なトリップである。MC5が単なるガレージ・ロック・バンドではなく、フリージャズやサイケデリアの影響を吸収していたことがはっきり分かる。
歌詞や声の使い方も、通常のロックの枠を超えている。宇宙船というイメージは、地上の抑圧からの脱出、現実を超えた意識状態、別の世界への移動を象徴する。1960年代末のサイケデリック文化において、宇宙はしばしば精神的解放の比喩だった。MC5はその宇宙的イメージを、荒々しいロックの音量で表現している。
「Starship」は、アルバムの終曲として非常に大胆である。表題曲のような明快なアンセムで終えるのではなく、MC5は最後に混沌へ突入する。聴き手は、ロックンロールの祝祭から出発し、最後には宇宙的なノイズと即興の中へ投げ込まれる。これは、バンドが音楽の限界を押し広げようとしていた証拠である。
この曲は、後のノイズロック、スペースロック、フリーキーなパンクにも通じる要素を持つ。MC5の本質は、単に短く激しい曲を演奏することだけではなかった。彼らはロックンロールを、社会的解放だけでなく、意識の解放へもつなげようとしていた。「Starship」は、その野心を示す壮絶な終曲である。
総評
『Kick Out the Jams』は、MC5のデビュー作でありながら、ロックンロールの危険な可能性を最大限に示した歴史的なライブ・アルバムである。ここには、整ったスタジオ録音の完成度ではなく、現場の熱、観客の反応、アンプの歪み、政治的な煽動、若者の身体的な衝動がそのまま封じ込められている。デビュー作としてこれほど強烈な自己紹介は、ロック史の中でも稀である。
本作の最大の魅力は、音楽と政治と身体が分離していない点にある。MC5にとってロックンロールは、単なる娯楽ではなかった。それは、社会の秩序を揺さぶり、抑圧された欲望を解放し、観客を一つの集団的な力へ変える手段だった。「Kick Out the Jams」はその最も明快な宣言であり、「Come Together」は共同体への呼びかけであり、「Motor City Is Burning」は都市暴動の記憶であり、「Starship」は地上からの脱出である。
音楽的には、本作は非常に多面的である。しばしばプロトパンクの名盤として語られるが、実際にはそれだけではない。1950年代ロックンロール、R&B、ブルース、サイケデリックロック、フリージャズ、ハードロックが渦巻いている。後の『Back in the USA』では初期ロックンロールへの回帰がよりタイトに表れ、『High Time』ではスタジオ・バンドとしての成熟が示されるが、『Kick Out the Jams』ではそれらの要素が未整理のまま爆発している。その未整理さこそが本作の本質である。
MC5の演奏は、技術的な精密さよりも、集団的な圧力によって成立している。Wayne KramerとFred “Sonic” Smithのギターは、ブルースの伝統を持ちながらも、しばしばノイズとフィードバックへ接近する。Michael Davisのベースはうねりながら音の底を支え、Dennis Thompsonのドラムは暴走するエンジンのように鳴る。Rob Tynerのヴォーカルは、ロック・シンガーであると同時に、演説者、説教者、煽動者でもある。各メンバーの力が一体となることで、MC5は単なるバンドを超えた音響的な運動体になっている。
本作の政治性は、1960年代末のアメリカの空気なしには理解できない。ベトナム戦争、公民権運動、黒人解放運動、学生運動、カウンターカルチャー、国家権力との対立。MC5は、その渦中にいたバンドである。彼らの政治的姿勢には時代特有の単純さや過激さもあるが、その音楽が持つ切迫感は現在でも強く響く。社会が若者の身体と声を管理しようとするとき、ロックンロールは抵抗の音になる。本作はそのことを強烈に証明している。
ただし、『Kick Out the Jams』は理想主義のアルバムであると同時に、混乱のアルバムでもある。ここにある自由は、整ったユートピアではない。音はしばしば過剰で、演奏は制御を失いかけ、政治的な言葉は粗く、欲望は露骨である。しかし、まさにその危うさが本作を生々しくしている。これは安全な反抗ではない。現実に火がつきかけていた時代の音である。
後のパンク・ロックへの影響は計り知れない。The ClashはMC5の政治性とロックンロールの結合から多くを受け取り、Ramonesは初期ロックンロールの短縮と高速化を別の形で完成させた。Sex PistolsやDead Boysの挑発性にもMC5の影がある。さらに、ガレージ・リバイバル、ハードコア、ノイズロック、オルタナティブロックの多くが、本作の荒々しさを参照している。『Kick Out the Jams』は、単に1969年の記録ではなく、以後のロックの反抗的な系譜に繰り返し点火する火種である。
日本のリスナーにとって本作は、録音の荒さや時代特有の政治的テンションゆえに、最初は少し取っつきにくく感じられるかもしれない。しかし、音量を上げて聴くと、このアルバムが単なる古典ではなく、今でも身体を動かす力を持つ作品であることが分かる。曲の細部を分析するよりも、まずライブ会場の中心に放り込まれる感覚を受け止めることが重要である。その後で、ブルース、R&B、サイケデリア、政治性、パンクへの影響を読み解くと、本作の奥行きが見えてくる。
『Kick Out the Jams』は、完成された芸術作品というより、爆発の記録である。だが、ロックンロールにおいて爆発の記録は、しばしば最も重要な作品になる。MC5はここで、ロックがまだ危険であり得た時代の音を残した。叫び、歪み、汗、怒り、欲望、連帯、混沌。すべてがこのアルバムにはある。
総じて『Kick Out the Jams』は、プロトパンク、デトロイト・ロック、政治的ロック、ライブ・アルバムの歴史における決定的な一枚である。これは、ロックンロールをきれいに磨くのではなく、社会に投げつけたアルバムである。MC5はこの作品で、音楽が単なる音楽以上のものになり得ることを示した。ロックンロールが暴動であり、祈りであり、快楽であり、武器であり、宇宙船であることを証明したのである。
おすすめアルバム
1. MC5 – Back in the USA(1970)
MC5のセカンド・アルバムであり、『Kick Out the Jams』の混沌を削ぎ落とし、短く鋭いロックンロールへ集中した作品である。初期ロックンロールへの回帰と、後のパンクを先取りするスピード感が特徴である。本作のライブの爆発力と比較することで、MC5の別の側面が見える。
2. MC5 – High Time(1971)
MC5の3作目であり、スタジオ・アルバムとして最も完成度が高い作品である。『Kick Out the Jams』のエネルギーに、より成熟した楽曲構成、ハードロック的な重さ、サイケデリックな展開が加わっている。MC5の音楽的到達点を知るために必聴である。
3. The Stooges – Fun House(1970)
MC5と同じくデトロイト周辺から生まれたThe Stoogesの代表作である。ガレージロック、フリージャズ的混沌、身体的な暴力性が融合しており、『Kick Out the Jams』と並んでプロトパンクの重要作とされる。デトロイト・ロックの危険な美学を理解するうえで欠かせない。
4. The Ramones – Ramones(1976)
MC5が持っていたロックンロールの反抗性とスピードを、より短く、単純で、極端な形式へ結晶化したパンクの古典である。『Kick Out the Jams』の暴動的なエネルギーが、1970年代半ばにどのようにパンクの形式へ変化したかを知るために重要な作品である。
5. The Clash – The Clash(1977)
政治的怒り、ロックンロールの直接性、若者の反抗を結びつけたパンクの重要作である。MC5の政治的ロックの精神は、The Clashにおいてより英国的で都市的な形に受け継がれている。『Kick Out the Jams』の反体制的な熱が、後のパンクでどう展開されたかを理解するうえで有効である。

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