発売日: 1969年2月
ジャンル: ガレージロック、プロトパンク、ハードロック
1969年、デトロイト発のロックバンドMC5(Motor City Five)がリリースしたデビューアルバムKick Out the Jamsは、当時の音楽シーンに衝撃を与えた生々しくエネルギッシュなライブアルバムだ。この作品は、ガレージロックからプロトパンクへの進化を象徴し、その後のパンクロックやハードロックに大きな影響を与えた。
Kick Out the Jamsは、バンドのホームグラウンドであるデトロイトのGrande Ballroomで録音されており、観客の熱狂とバンドの爆発的なパフォーマンスが記録されている。このアルバムは、社会的メッセージを含んだアジテーションと、過激なサウンドで知られるMC5のエッセンスを余すことなく捉えている。また、リリース当時はその過激さゆえに論争を巻き起こしつつも、現在ではロック史における重要な作品として位置付けられている。
トラックごとの解説
1. Ramblin’ Rose
アルバムの幕開けを飾る一曲で、ベーシストのRob Tynerがファルセットを駆使したボーカルで観客を煽る。ブルース的な要素とロックンロールの原型を感じさせるサウンドが特徴。
2. Kick Out the Jams
アルバムのタイトル曲であり、MC5の代名詞ともいえる一曲。冒頭の「Kick out the jams, motherf***ers!」という叫び声から始まるこの曲は、ロック史上でも最も象徴的な瞬間の一つ。ギターリフの破壊力とエネルギッシュなボーカルが圧巻だ。
3. Come Together
ブルースの影響が色濃い楽曲で、スローながらも厚みのあるサウンドが特徴。ギターの即興的なプレイとバンドの一体感が際立つ。
4. Rocket Reducer No. 62 (Rama Lama Fa Fa Fa)
攻撃的なギターとリズムセクションが目立つトラック。タイトルのユーモラスさとは対照的に、演奏は熱量に満ちており、バンドのライブパフォーマンスの本質を捉えている。
5. Borderline
アップテンポでグルーヴィーなナンバー。Rob Tynerの力強いボーカルと、Wayne KramerとFred “Sonic” Smithのツインギターの掛け合いが印象的。
6. Motor City Is Burning
デトロイトの都市暴動をテーマにした政治的な楽曲。John Lee Hookerのブルースナンバーを大胆にアレンジし、MC5らしいアジテーションを加えている。
7. I Want You Right Now
サイケデリックな雰囲気を漂わせた楽曲。反復的なリフと情熱的なボーカルが、楽曲全体にエネルギーを与えている。
8. Starship
アルバムのラストを飾る9分超の大作。詩的でサイケデリックな展開が続き、ジャムセッションのような即興性が魅力。SF作家のSun Raにインスパイアされた歌詞がユニークだ。
ガレージロックからプロトパンクへの進化
Kick Out the Jamsは、単なるライブアルバムにとどまらず、MC5が当時の社会状況やカウンターカルチャーとどのように向き合っていたかを示す作品だ。政治的メッセージ、過激な表現、そして圧倒的な演奏力を融合させた本作は、1960年代末期の社会的混乱と反抗の象徴といえる。
アルバムの音楽的特徴は、ブルースとロックンロールのルーツを持ちながら、ハードロックやプロトパンク的なエッジを加えた点にある。後のThe StoogesやRamones、さらにはNirvanaなどのバンドに影響を与えたことは明白だ。
アルバム総評
Kick Out the Jamsは、単なるライブアルバムではなく、MC5のエネルギーと革新性、そして時代の精神を凝縮した記録だ。その荒々しさと反骨精神、そして観客との一体感は、他に類を見ない特異な魅力を放っている。
当時はその過激な内容から批判も多かったが、現在ではロック史における重要な作品として評価されている。このアルバムは、単なる音楽の枠を超えて、カウンターカルチャーの象徴として後世に語り継がれるべき存在だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Raw Power by The Stooges
攻撃的なギターとボーカルが特徴のプロトパンクの名作。MC5の持つ荒々しさを引き継いだ一枚。
Funhouse by The Stooges
ジャムセッションのような展開と爆発的なエネルギーが、MC5のライブ感と共通する。
Back in the USA by MC5
MC5の2ndアルバムで、よりコンパクトかつポップなアプローチを試みた作品。
The Velvet Underground & Nico by The Velvet Underground
前衛的で実験的なロックアルバム。MC5の社会的メッセージに通じる知的な一面が感じられる。
Never Mind the Bollocks, Here’s the Sex Pistols by Sex Pistols
パンクロックの象徴的なアルバム。MC5の持つ反体制的なスピリットが現代に引き継がれた作品。
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