
発売日:1970年1月15日
ジャンル:プロトパンク、ガレージロック、ロックンロール、ハードロック、デトロイト・ロック、パワーポップ前史
- 概要
- 全曲レビュー
- 1. Tutti Frutti
- 2. Tonight
- 3. Teenage Lust
- 4. Let Me Try
- 5. Looking at You
- 6. High School
- 7. Call Me Animal
- 8. The American Ruse
- 9. Shakin’ Street
- 10. The Human Being Lawnmower
- 11. Back in the USA
- 総評
- おすすめアルバム
- 1. MC5 – Kick Out the Jams(1969)
- 2. MC5 – High Time(1971)
- 3. The Stooges – Raw Power(1973)
- 4. The Ramones – Ramones(1976)
- 5. The Dictators – Go Girl Crazy!(1975)
概要
MC5の『Back in the USA』は、1970年に発表されたセカンド・アルバムであり、1969年の衝撃的なライブ盤『Kick Out the Jams』と、1971年の成熟したスタジオ作『High Time』の間に位置する、非常に重要かつ評価の分かれやすい作品である。デトロイトのロックンロール、急進的な政治意識、ガレージ・ロックの粗暴さ、R&Bへの深い敬意、そして後のパンクへ直結する前のめりなエネルギーを持っていたMC5は、本作でいったんその混沌を削ぎ落とし、より短く、速く、鋭いロックンロールへ向かった。
デビュー作『Kick Out the Jams』は、MC5の伝説を決定づけたアルバムだった。ライブ録音という形で、バンドの爆音、政治的煽動、サイケデリックな長尺演奏、フリージャズ的な混乱、ストリートの暴力性がそのまま刻み込まれていた。そこには、1960年代末のアメリカにおける反戦運動、カウンターカルチャー、ブラック・パワーとの連帯、若者の怒りが凝縮されていた。一方、『Back in the USA』は、その爆発をあえてコンパクトなスタジオ録音へ変換した作品である。
本作のプロデューサーを務めたJon Landauは、後にBruce Springsteenとの仕事で知られる人物だが、当時は批評家としても活動していた。彼はMC5の混沌としたライブ・サウンドを、そのまま拡張するのではなく、初期ロックンロールの形式に近づけ、タイトな楽曲集として録音する方向へ導いた。その結果、『Back in the USA』は、演奏時間の短い曲が並ぶ、非常に引き締まったアルバムになっている。だが、その整理された音像は、同時にMC5本来の荒々しさを抑制してしまったとも言われる。
この評価の複雑さこそが、本作の面白さである。『Back in the USA』は、MC5の中では比較的軽く、薄く、硬い音で録られている。『Kick Out the Jams』のような巨大な音圧や、『High Time』のような重厚なバンド・サウンドを期待すると、物足りなく感じられるかもしれない。しかし、その軽さと鋭さは、後のパンク・ロックやパワーポップの予兆として聴くと非常に重要である。短い曲、速いテンポ、無駄のない構成、攻撃的なギター、若者文化への直接的な呼びかけ。これらは、1970年代後半のパンクの基本形をかなり早い段階で先取りしていた。
タイトルの『Back in the USA』は、Chuck Berryの楽曲から取られており、アルバム冒頭でもその曲がカバーされている。Chuck Berryはロックンロールの基礎を作った重要人物であり、MC5が彼に立ち返ることには大きな意味がある。MC5は、ロックンロールを単なる懐古の対象として扱ったのではない。彼らは、1950年代の黒人ロックンロールが持っていたスピード、反抗、性的エネルギー、若者の身体性を、1970年の政治的緊張の中で再点火しようとした。つまり本作は、ロックンロールの原点回帰であると同時に、その過激な再武装でもある。
本作の歌詞には、政治的なスローガンは前作ほど直接的には出てこない。しかし、MC5の反抗精神は消えていない。「The American Ruse」ではアメリカ社会の欺瞞が明確に歌われ、「High School」では若者文化と制度への違和感が描かれ、「Call Me Animal」や「The Human Being Lawnmower」では、人間の野性や暴力的な衝動が剥き出しになる。政治演説ではなく、ロックンロールそのものの速度と態度によって、MC5は社会への不満を表現している。
音楽的には、Wayne KramerとFred “Sonic” Smithのツイン・ギターが、ここでは長くうねるサイケデリックなソロよりも、短く鋭いリフとカッティングに集中している。Michael Davisのベースはシンプルながら曲を前へ押し、Dennis Thompsonのドラムは非常にタイトで攻撃的である。Rob Tynerのヴォーカルは、前作のような革命的司会者の大演説というより、コンパクトな曲の中で鋭く叫ぶロックンロール・シンガーとして機能している。
『Back in the USA』は、MC5のディスコグラフィーの中ではしばしば過渡期の作品と見なされる。しかし、その過渡性こそが歴史的に重要である。このアルバムは、1950年代ロックンロールから1970年代パンクへ向かう橋のような作品であり、The Ramones、The Dictators、The Clash、The Damned、さらには後のガレージ・リバイバルやパワーポップにも通じる要素を持っている。MC5が巨大な政治的ロック・バンドであるだけでなく、短く鋭いロックンロール・ソングを書けるバンドであったことを証明する一枚である。
全曲レビュー
1. Tutti Frutti
アルバムはLittle Richardの「Tutti Frutti」のカバーで幕を開ける。これは非常に象徴的な選曲である。Little Richardは、ロックンロールの原初的なエネルギー、性的な曖昧さ、叫び、スピード、黒人音楽の身体性を代表する存在であり、MC5が自分たちのルーツをどこに置いていたかを明確に示している。
MC5版の「Tutti Frutti」は、原曲の爆発的な楽しさを継承しながら、より硬く、速く、ガレージ的な質感へ変換している。演奏はタイトで、無駄がない。『Kick Out the Jams』のような巨大な混沌ではなく、ここではロックンロールの核だけが抽出されている。曲の短さも重要である。MC5は、原始的なフレーズを長く引き伸ばすのではなく、短時間で爆発させる。
Rob Tynerのヴォーカルは、Little Richardの原曲の狂騒をそのまま模倣するのではなく、デトロイトの白人ロック・バンドとしての荒さを加えている。彼の声には、R&Bへの敬意と、パンク的な乱暴さが同居している。ここでのMC5は、ロックンロールの伝統を博物館的に保存するのではなく、再び危険なものとして鳴らしている。
アルバム冒頭にこの曲を置くことで、『Back in the USA』は自分たちが初期ロックンロールへ回帰する作品であることを宣言する。ただし、それは懐古ではない。MC5はLittle Richardのエネルギーを1970年のデトロイトへ持ち込み、より攻撃的な若者の音楽へ変えている。
2. Tonight
「Tonight」は、MC5のオリジナル楽曲であり、本作の方向性を端的に示すロックンロール・ナンバーである。タイトルの「今夜」という言葉は、ロックンロールにおいて非常に重要な意味を持つ。未来の理想や過去の後悔ではなく、今夜、身体を動かし、音を鳴らし、何かを起こす。その即時性がこの曲の中心にある。
音楽的には、非常にタイトでスピーディーである。ギターは鋭く刻まれ、リズム隊は曲を短距離走のように押し出す。MC5の演奏は荒々しいが、ここでは驚くほど整理されている。混沌ではなく、瞬発力が重視されている。
歌詞では、夜の興奮、若者の衝動、今この瞬間に何かを起こしたいという感覚が歌われる。MC5の政治性は、必ずしも演説的な言葉だけにあるのではない。若者が管理された日常から抜け出し、夜に集まり、音楽を通じて身体を解放すること自体が、彼らにとって反抗だった。
「Tonight」は、後のパンク・ロックに非常に近い感覚を持つ。短く、速く、直接的で、余計な装飾がない。The Ramonesが1970年代半ばに完成させるスタイルの前段階として聴くこともできる。MC5はここで、サイケデリックな長尺演奏ではなく、ロックンロールの最小単位に反抗の力を込めている。
3. Teenage Lust
「Teenage Lust」は、タイトル通り、10代の欲望を正面から扱った楽曲である。ロックンロールの歴史において、若者の性的衝動は常に重要なテーマだった。MC5はそれを隠すことなく、荒々しく、直接的に鳴らしている。
音楽的には、ギターのリフとリズムの勢いが強く、曲は前へ前へと突き進む。演奏は短く、鋭く、衝動的である。ここには、後のパンクが持つ「考える前に鳴らす」感覚がある。複雑な構成よりも、身体的な衝動が優先されている。
歌詞では、若者の欲望が道徳的に裁かれるのではなく、そのままエネルギーとして提示される。MC5にとって、欲望は単なる個人的な問題ではない。それは社会が管理しようとする身体の反乱でもある。学校、家庭、国家、宗教が若者を抑えようとするとき、ロックンロールはその欲望を解放する音楽になる。
この曲には、MC5の粗野さと正直さがよく表れている。洗練された恋愛歌ではなく、もっと原始的で不器用な欲望の歌である。その単純さは、時代背景を考えると非常に重要である。1960年代末の理想主義が崩れつつある中で、MC5はまず身体の衝動へ戻っていく。
「Teenage Lust」は、MC5のロックンロール理解を示す曲である。若者の欲望は、彼らにとって恥じるものではなく、音楽の燃料だった。
4. Let Me Try
「Let Me Try」は、本作の中で比較的メロディアスで、感情的な側面が強く出た楽曲である。MC5はしばしば爆音や政治性で語られるが、この曲は彼らがソウルやR&Bに根ざした歌心を持っていたことを示している。タイトルの「試させてくれ」という言葉には、愛や関係への切実な願いが込められている。
音楽的には、テンポを少し落とし、ヴォーカルとメロディを前面に出している。ギターは攻撃的に暴れるというより、曲の情感を支える。Rob Tynerの歌唱も、ここでは叫びだけでなく、ソウルフルな表情を見せる。彼の声には、力強さと同時に、相手へ訴えかける柔らかさがある。
歌詞では、相手に自分を受け入れてほしい、もう一度機会を与えてほしいという感情が歌われる。これはロックンロールの定型的なラブソングにも見えるが、MC5が演奏すると、単なる甘いバラードにはならない。そこには、不器用な男の切実さ、街の荒さ、感情をうまく言葉にできない若者の姿がある。
「Let Me Try」は、『Back in the USA』の中で重要な緩急を作っている。短く速い曲が続く中で、この曲はMC5の音楽的幅を示す。彼らは激しいだけのバンドではなく、R&B由来の感情表現も自分たちの中に持っていた。
この曲を聴くと、MC5が単なるパンクの先駆者ではなく、1950年代から60年代の黒人音楽とロックンロールの伝統を深く吸収したバンドだったことがよく分かる。
5. Looking at You
「Looking at You」は、MC5の代表的な楽曲の一つであり、本作でも特に強いエネルギーを持つナンバーである。もともとシングルとしても知られる曲で、バンドのガレージロック的な魅力、攻撃性、ロックンロールの推進力が凝縮されている。
音楽的には、ギターのリフが非常に鋭く、曲全体を引っ張る。リズムは前のめりで、演奏はタイトだが、同時に荒々しさを失っていない。Wayne KramerとFred “Sonic” Smithのギターは、装飾的なソロよりも、曲そのものを切り裂くような役割を果たしている。
歌詞では、相手を見つめること、視線の緊張、欲望、対決が描かれる。「Looking at You」という単純なフレーズには、恋愛的な視線だけでなく、挑発や監視、相手との力関係も含まれている。MC5の歌において、視線はしばしば穏やかな愛情ではなく、衝突の始まりである。
この曲は、後のパンクに大きく近い。短く、鋭く、リフが中心で、余計な展開を持たない。だが、MC5特有のR&B的なグルーヴも残っている。つまり「Looking at You」は、ガレージロック、ハードロック、プロトパンクの交差点にある曲である。
『Back in the USA』の中でも、この曲はバンドの強みが最も自然に出た楽曲の一つである。スタジオ録音のタイトさと、MC5の本来持つ爆発力がうまく噛み合っている。
6. High School
「High School」は、アルバムの中でも特に若者文化を直接扱った楽曲である。タイトルの通り、高校という制度的な空間がテーマになっている。ロックンロールにおいて学校はしばしば抑圧の象徴であり、若者の自由や欲望を管理する場所として描かれてきた。MC5もその伝統を引き継ぎながら、より攻撃的に表現している。
音楽的には、速く、軽快で、非常にコンパクトである。まるで後のパンク・ソングのように、曲は短時間で言いたいことを言い切る。ギターは鋭く、ドラムは前のめりで、曲全体が若者の苛立ちそのもののように鳴る。
歌詞では、高校生活の退屈さ、制度への違和感、若者の反抗心が描かれる。ここでの高校は単なる場所ではなく、社会が若者を型にはめる仕組みの象徴である。MC5は、その仕組みに従順に適応するのではなく、音楽を通じて飛び出そうとする。
この曲は、The Ramonesや初期パンクの学校嫌悪、若者の退屈、郊外的な閉塞感を先取りしている。MC5の政治性はしばしば大きな社会運動との関係で語られるが、「High School」ではもっと日常的な制度への反発として表れる。つまり、革命は街頭だけでなく、教室への不満からも始まる。
「High School」は、『Back in the USA』の中で最もパンク的な曲の一つである。短く、速く、若者の苛立ちをそのまま曲にしている。その直接性が魅力である。
7. Call Me Animal
「Call Me Animal」は、人間の中にある野性、暴力性、性的衝動を前面に出した楽曲である。タイトルは「俺を動物と呼べ」という意味を持ち、文明化された人間像への拒否が込められている。MC5のロックは、しばしば理性的な言語よりも身体の衝動を重視するが、この曲はその姿勢を明確に示している。
音楽的には、荒々しいギターと重いリズムが中心である。曲は短いながらも非常に攻撃的で、Rob Tynerのヴォーカルも野性的な力を持つ。彼は自分を動物として提示することで、社会が求める従順な市民像を拒絶している。
歌詞では、人間を理性的で秩序ある存在として扱う社会に対して、身体的な本能や衝動を肯定する姿勢が示される。これは単なる自己卑下ではない。むしろ、動物と呼ばれることを逆に引き受けることで、抑圧的な文明の側を批判している。管理されるくらいなら、野性でいた方がいいという態度である。
この曲は、後のパンクやハードコアにおける自己の動物化、反文明的な叫びを先取りしている。Iggy PopやThe Stoogesにも通じる身体性があり、デトロイト・ロック全体の荒々しい特徴がよく表れている。
「Call Me Animal」は、MC5の思想の中でも身体的な反抗を象徴する楽曲である。人間を高尚な存在として飾るのではなく、欲望と怒りを持った動物として鳴らす。それがこの曲の力である。
8. The American Ruse
「The American Ruse」は、『Back in the USA』の中でも最も明確に政治的な楽曲であり、MC5の反体制的な姿勢が歌詞に強く表れている。タイトルは「アメリカの欺瞞」「アメリカの策略」といった意味を持ち、国家が掲げる自由や民主主義のイメージと、実際の抑圧や戦争、管理社会との矛盾を告発している。
音楽的には、アップテンポで鋭いロックンロールであり、政治的なメッセージを演説ではなく、非常にキャッチーな曲に乗せている。ここがMC5の重要な点である。彼らは政治的でありながら、音楽を重苦しい声明文にはしない。むしろ、踊れるほどの勢いを持つロックンロールの中に怒りを注ぎ込む。
歌詞では、アメリカ社会の建前と現実のズレが描かれる。自由の国としてのアメリカが、実際には若者を戦争へ送り、反抗を抑え込み、権力を維持するための仕組みを持っている。その矛盾をMC5は「ruse」という言葉で切り取る。これは、1960年代末から70年代初頭の反戦世代の不信感を端的に表している。
この曲は、The Clashなど後の政治的パンクへ直結する重要な先例である。政治的メッセージを、短く、鋭く、ギター中心のロックンロールで表現する方法が、すでにここにある。MC5は、長い演説よりも、2分半の曲の方が強い衝撃を持つことを理解していた。
「The American Ruse」は、本作の政治的核心である。『Kick Out the Jams』のような直接的な革命スローガンとは違い、ここではアメリカ社会そのものへの皮肉と怒りが、タイトなロックンロールとして凝縮されている。
9. Shakin’ Street
「Shakin’ Street」は、Fred “Sonic” Smithが中心となって書いた楽曲であり、本作の中でも特にメロディアスで、後のパワーポップにも通じる魅力を持つ一曲である。タイトルは「揺れる通り」を意味し、街、若者、音楽、身体の動きが一体となったイメージを持つ。
音楽的には、他の攻撃的な曲に比べると、やや明るく、メロディが前面に出ている。ギターは力強いが、曲全体にはポップな親しみやすさもある。このバランスが非常に重要である。MC5は激しいだけでなく、優れたポップセンスも持っていたことがこの曲から分かる。
歌詞では、通りが揺れるほどの音楽と若者のエネルギーが描かれる。街は単なる背景ではなく、音楽によって変化する空間である。MC5にとって、ストリートは政治の場であり、欲望の場であり、ロックンロールが現実に鳴る場所だった。「Shakin’ Street」は、そのストリートの生命力を歌っている。
この曲は、後にThe Flamin’ GrooviesやThe Dictators、さらにはパワーポップ系のバンドと接続して聴くことができる。荒々しい演奏の中に、非常に明快なメロディと青春の高揚がある。MC5の別の可能性を示す楽曲である。
「Shakin’ Street」は、『Back in the USA』の中で最も親しみやすい曲の一つであり、バンドのソングライティングの幅を示している。暴動だけでなく、街を揺らすポップなロックンロールもMC5の重要な側面だった。
10. The Human Being Lawnmower
「The Human Being Lawnmower」は、アルバム後半に置かれた非常に過激なタイトルの楽曲である。「人間芝刈り機」という奇妙で暴力的なイメージは、人間を機械化し、破壊し、刈り取る近代社会の比喩として読める。MC5の中でも、特に不気味で攻撃的な感覚を持つ曲である。
音楽的には、ギターとリズムが鋭く押し寄せ、曲は非常に緊迫している。短い楽曲ながら、強い圧力がある。MC5の演奏はここでもタイトだが、サウンドには暴力的なざらつきが残っている。タイトルの機械的なイメージと、バンドの硬い演奏がよく合っている。
歌詞では、人間が社会や機械、戦争によって破壊される感覚が暗示される。ベトナム戦争の時代背景を考えると、この曲の暴力的なイメージは、戦争機械としての国家や、人間を消耗品として扱う社会への批判とも読める。芝刈り機が草を刈るように、人間が刈り取られる。その冷酷なイメージは非常に強い。
この曲は、MC5の政治性が単なるスローガンだけでなく、音とイメージの暴力として表現されていることを示している。言葉はシュールで奇妙だが、その背後には現実の暴力がある。機械化された社会、人間の消耗、戦争の大量処理。それらが「人間芝刈り機」というイメージに凝縮されている。
「The Human Being Lawnmower」は、アルバムの中でも特にダークな楽曲であり、『High Time』の「Poison」や「Skunk」に通じる不穏さを先取りしている。
11. Back in the USA
アルバムを締めくくる表題曲「Back in the USA」は、Chuck Berryのカバーであり、本作全体のコンセプトを締めるにふさわしい楽曲である。Chuck Berryの原曲は、アメリカに戻ってきた喜び、アメリカ的な生活やポップカルチャーへの愛を歌った曲である。しかしMC5がこの曲を演奏すると、その明るさには別の意味が重なる。
音楽的には、非常に速く、鋭いロックンロールとして演奏されている。原曲の軽快さを保ちながらも、MC5はそれをより攻撃的にしている。ギターは硬く、ドラムは前のめりで、曲は短時間で駆け抜ける。アルバムの最後に、再びロックンロールの原点へ戻る構成になっている。
歌詞は、アメリカへの帰還を祝う内容である。しかし、アルバムの中で「The American Ruse」が歌われた後にこの曲が置かれることで、単純な愛国的賛歌には聴こえない。MC5にとって、アメリカは愛すべきロックンロールの故郷であると同時に、欺瞞、戦争、抑圧の国でもある。この二重性が、曲に強い皮肉を与えている。
このカバーは、MC5の複雑なアメリカ観を示している。彼らはアメリカの音楽、とりわけ黒人ロックンロール、R&B、ソウルを深く愛していた。しかし同時に、アメリカの国家権力や社会制度には激しく反抗していた。「Back in the USA」というタイトルは、その愛と怒りの両方を含む。
アルバムの終曲として、この曲は非常に効果的である。最初にLittle Richardで始まり、最後にChuck Berryで終わる。MC5は、ロックンロールの原点を通じて、自分たちの時代のアメリカを批評した。本作の構造は、まさにそのことを示している。
総評
『Back in the USA』は、MC5の作品の中で最もタイトで、最もロックンロールの原型に近いアルバムである。『Kick Out the Jams』の混沌としたライブの熱狂や、『High Time』の重厚で成熟したサウンドと比べると、本作は音が薄く、整理されすぎていると感じられることもある。しかし、その整理された鋭さこそが、本作を特別なものにしている。ここには、後のパンク・ロックを予言するような短さ、速さ、直接性がある。
本作の最大の特徴は、MC5がロックンロールの原点に立ち返りながら、それを1970年の政治的・社会的な不満の中で再解釈している点である。Little Richardの「Tutti Frutti」で始まり、Chuck Berryの「Back in the USA」で終わる構成は、ロックンロールへの敬意を明確に示している。しかし、その間に配置されたオリジナル曲は、単なる懐古ではなく、若者の欲望、制度への反抗、アメリカへの不信、人間の野性を歌うものだ。MC5はロックンロールの歴史を使って、現在のアメリカを攻撃している。
プロデュース面では、Jon Landauの意図が強く感じられる。彼はMC5の過剰なサイケデリック性やライブの混乱を抑え、短く明快な曲として録音させた。その結果、バンドの巨大な爆発力はやや削がれたが、楽曲の輪郭は非常にはっきりした。この音作りは当時賛否を呼んだが、後のパンクやパワーポップの文脈から見ると、先駆的な意味を持つ。音が大きく重いことだけがロックの攻撃性ではない。短く、速く、切り込むような音にもまた、強烈な反抗がある。
歌詞の面では、「The American Ruse」が特に重要である。この曲は、MC5の政治的な視点を本作の中で最も明確に示している。アメリカの自由や民主主義のイメージを、欺瞞として暴くこの曲は、後の政治的パンクの原型ともいえる。一方で、「High School」「Teenage Lust」「Call Me Animal」のような曲では、政治はもっと身体的で日常的なものとして表れる。若者の欲望、学校への反発、文明への拒否。それらもまたMC5にとって政治だった。
『Back in the USA』は、バンドの演奏力を別の角度から示している。『Kick Out the Jams』では長い演奏と爆音の中でバンドの力が見えたが、本作では短い曲の中でいかに鋭く鳴らすかが問われている。Wayne KramerとFred “Sonic” Smithのギターは、長尺の即興ではなく、リフとカッティングの集中力で勝負している。Dennis Thompsonのドラムは非常にタイトで、Michael Davisのベースは曲を無駄なく支える。Rob Tynerの声も、演説的な大きさより、曲ごとの瞬発力を重視している。
本作の歴史的意義は、1950年代ロックンロールと1970年代パンクの接続点にある。The Ramonesが初期ロックンロールを高速化し、短く単純な曲へ再構成する前に、MC5はすでにその方法を試みていた。もちろんMC5はRamonesよりも演奏が重く、政治的背景も強く、ブルースやR&Bの影響も濃い。しかし、短く鋭い反抗の形式という点では、本作は明確にパンクの前触れである。
また、本作にはパワーポップ前史としての側面もある。「Shakin’ Street」や「Tonight」には、荒々しさの中に強いメロディと青春の高揚がある。MC5はしばしば暴力的なバンドとして語られるが、実際にはポップな感覚も持っていた。この点は、後年のThe Dictators、Cheap Trick、The Flamin’ Groovies、さらにはガレージ・リバイバル系のバンドにも通じる。
日本のリスナーにとって『Back in the USA』は、MC5入門としては『Kick Out the Jams』ほど分かりやすい衝撃を持たないかもしれない。しかし、バンドのロックンロールへの理解、パンクへの接続、短い曲の中に込めた反抗を知るには非常に重要な作品である。特に、パンク、ガレージロック、初期ロックンロール、パワーポップの歴史に関心があるリスナーには、本作は多くの発見をもたらす。
総じて『Back in the USA』は、MC5がロックンロールの原点へ戻りながら、その原点をより速く、より鋭く、より政治的に鳴らしたアルバムである。Little RichardとChuck Berryへの敬意、若者の欲望、学校への反抗、アメリカ社会への怒り、人間の野性。それらが短い楽曲の中に圧縮されている。巨大な爆発ではなく、連続する火花のような作品である。そしてその火花は、後のパンク・ロックの導火線になった。
おすすめアルバム
1. MC5 – Kick Out the Jams(1969)
MC5のデビュー作であり、ライブ・バンドとしての爆発力を記録した歴史的作品である。『Back in the USA』のタイトなロックンロールとは対照的に、こちらはサイケデリックで混沌とした政治的ロックの熱狂が前面に出ている。MC5の原初の衝撃を知るために欠かせない。
2. MC5 – High Time(1971)
MC5の3作目であり、スタジオ・アルバムとしては最も成熟した作品である。『Back in the USA』で整理されたロックンロールの形式に、より重厚な演奏、サイケデリックな展開、音楽的な深みが加わっている。バンドの完成形を知るうえで重要である。
3. The Stooges – Raw Power(1973)
MC5と同じくデトロイト周辺の荒々しいロックの系譜にあるThe Stoogesの代表作である。より破壊的で、より原始的なプロトパンクとして、『Back in the USA』の鋭さと比較しながら聴くと、デトロイト・ロックの危険な魅力がよく分かる。
4. The Ramones – Ramones(1976)
短く速いロックンロールをパンクの形式として完成させた歴史的デビュー作である。『Back in the USA』にあった初期ロックンロールの高速化と簡潔化が、ここでさらに徹底されている。MC5からパンクへの流れを理解するうえで必聴である。
5. The Dictators – Go Girl Crazy!(1975)
パンク、ハードロック、ガレージロック、ポップなユーモアを結びつけたニューヨークの重要作である。MC5の荒々しいロックンロールと若者文化への視線を、より皮肉でコミカルな形に展開した作品として聴くことができる。

コメント