
発売日:2019年1月18日
ジャンル:パンク・ロック / ガレージ・ロック / デスロック / ルーツ・ロック / ロサンゼルス・パンク / オルタナティヴ・ロック
概要
I Used to Be Prettyは、ロサンゼルス・パンクの異端的バンド、The Flesh Eatersが2019年に発表したアルバムである。The Flesh Eatersは、詩人・作家・シンガーであるChris D.を中心に、1970年代末から1980年代初頭のL.A.パンク・シーンで活動したバンドで、X、The Blasters、The Gun Club、Los Lobos、The Cramps、The Plugzなどと同じ空気を吸いながら、より文学的で、暗く、映画的なパンクを展開した存在である。
The Flesh Eatersの特徴は、単純な3コード・パンクに収まらないところにある。彼らの音楽には、ガレージ・ロック、ブルース、ロカビリー、フィルム・ノワール、ホラー映画、ハードボイルド文学、メキシコ国境地帯の乾いた空気、初期ロックンロールの荒々しさが混ざっている。Chris D.のヴォーカルは、典型的なメロディック・シンガーではなく、語り、叫び、呪詛、酔った説教師のような口調を行き来する。そのためThe Flesh Eatersの音楽は、パンクでありながら、どこか犯罪小説やB級ホラー映画のサウンドトラックのように響く。
本作が特に重要なのは、1981年の名盤 A Minute to Pray, a Second to Die 期に関わった主要メンバーが再集結している点である。参加しているのは、Chris D.を中心に、Dave Alvin、John Doe、DJ Bonebrake、Steve Berlin、Bill Batemanといった、L.A.パンク/ルーツ・ロック史における重要人物たちである。The Blasters、X、Los Lobosといったバンドに関わるメンバーが並ぶことからも分かるように、本作は単なるThe Flesh Eatersの復活作ではなく、ロサンゼルスのアンダーグラウンド・ロック史の再接続でもある。
アルバム・タイトルのI Used to Be Prettyは、「かつては美しかった」という意味を持つ。これは老い、損傷、記憶、過去の栄光、身体の変化を思わせるタイトルである。しかしThe Flesh Eatersの場合、この言葉は単なる懐古ではない。かつて美しかったものが、時間を経て傷だらけになり、醜く、危険で、より深い魅力を持つようになる。その感覚こそが本作の核心である。
2019年という時代において、1970年代末から80年代初頭のL.A.パンクを再び鳴らすことは、単なるノスタルジーに陥る危険もある。しかし本作は、若さの再現を目指していない。むしろ、老いた身体、積み重ねた経験、失われた友人、過去の亡霊を抱えたまま、かつての暴力的なエネルギーを別の形で鳴らしている。タイトルの「I Used to Be Pretty」は、若さを失った嘆きであると同時に、若さでは得られない不気味な貫禄の宣言でもある。
サウンド面では、サックス、ギター、ベース、ドラムが荒々しく絡み合い、パンクの直線性とルーツ・ロックの泥臭さが融合している。Steve Berlinのサックスは、単なる装飾ではなく、曲にフィルム・ノワール的な妖しさと、R&B/ロックンロール的な肉体性を加える。Dave Alvinのギターは、ブルースやアメリカーナの深みを持ちながら、The Flesh Eatersの暗い世界に鋭い切れ味を与える。John Doe、DJ Bonebrake、Bill Batemanによるリズムの土台も、L.A.パンクとルーツ音楽の交差点として非常に重要である。
本作には新曲、過去曲の再録、カヴァーが混在している。The Gun Clubの「She’s Like Heroin to Me」やFleetwood Macの「The Green Manalishi」などを取り上げている点からも分かるように、The Flesh Eatersは自分たちの音楽的血統を明確に示している。ブルースの悪魔性、ガレージ・ロックの粗さ、パンクの焦燥、ゴシックな闇。そのすべてが、Chris D.の文学的で不吉な歌詞世界へ吸い込まれていく。
全曲レビュー
1. Black Temptation
「Black Temptation」は、アルバムの幕開けにふさわしい、暗く荒々しい楽曲である。タイトルは「黒い誘惑」を意味し、The Flesh Eatersの音楽に常に存在する欲望、罪、破滅、夜の感覚を象徴している。ここでの誘惑は、単なる恋愛や性的魅力に限定されない。死、暴力、依存、過去への執着、闇へ引き寄せられる心理が重なっている。
サウンドは、ガレージ・ロック的な粗さとL.A.パンクの鋭さを持つ。ギターは乾いており、リズムは前のめりで、サックスが曲に不穏な熱気を加える。The Flesh Eatersの魅力は、ロックンロールの基本的な衝動を持ちながら、それを明るい祝祭ではなく、悪夢のような場面へ変換する点にある。この曲でも、グルーヴはあるが、決して陽気ではない。
Chris D.のヴォーカルは、歌うというより、暗い物語を吐き出すように響く。彼の声は、滑らかなメロディではなく、言葉の重み、ざらつき、毒気によって曲を支配する。歌詞は、誘惑に抗えない人間の弱さと、その誘惑がもたらす破滅を示しているように聞こえる。
アルバム冒頭でこの曲が鳴ることで、The Flesh Eatersが単なる再結成バンドではなく、なおも危険な世界観を持ったバンドであることが示される。若いパンクのスピードとは異なる、年輪を重ねた暗い迫力がある。
2. House Amid the Thickets
「House Amid the Thickets」は、タイトルからして非常に映像的である。「茂みの中の家」というイメージは、ホラー映画、ゴシック小説、辺境の犯罪譚を連想させる。The Flesh Eatersの音楽は、都市のパンクでありながら、荒野や廃屋、夜の道、忘れられた土地といったアメリカ的な闇を強く感じさせる。この曲はその感覚をよく表している。
音楽的には、ギターのリフとサックスの絡みが曲に不吉な奥行きを与える。リズムは単純なパンクの突進ではなく、どこか重く、物語を引きずるように進む。これはThe Flesh Eatersの重要な特徴で、彼らの曲はしばしば短編小説のように展開する。
歌詞のテーマは、隔離された場所、隠された記憶、暴力の痕跡、過去の亡霊を思わせる。茂みに囲まれた家は、外から見えにくい場所であり、そこには何かが隠されている。Chris D.は、そのような場所を単なる舞台設定としてではなく、人間の内面の暗部を映す象徴として使う。
この曲では、The Flesh Eatersの映画的な感性が強く出ている。パンク・ロックでありながら、聴いていると視覚的な場面が浮かぶ。荒れた家、湿った空気、夜の獣、何かを隠す人間。そのようなイメージが音と声によって立ち上がる。
3. My Life to Live
「My Life to Live」は、タイトル通り、自分の人生を生きることをテーマにした楽曲である。ただし、The Flesh Eatersがこの言葉を歌うとき、それは明るい自己実現のスローガンではなく、もっと孤独で、反抗的で、危険な響きを持つ。自分の人生を生きるとは、社会から外れ、失敗し、傷つき、それでも自分の破滅を自分で選ぶことでもある。
音楽的には、パンクの直線的なエネルギーとルーツ・ロック的な泥臭さが結びついている。Dave Alvinのギターは、アメリカの古いロックンロールやブルースの匂いを持ちながら、曲に鋭い緊張感を与える。リズム隊はタイトで、曲を過度に装飾せずに前へ押し出す。
歌詞のテーマは、自己決定とアウトサイダー性である。Chris D.の歌う主人公は、英雄的な自由人というより、社会の端で自分の衝動に従って生きる人物に近い。そこには、後悔も、誇りも、開き直りもある。The Flesh Eatersの世界では、人生は清潔な成功物語ではなく、血と酒と記憶と失敗が混ざったものとして描かれる。
この曲は、本作におけるバンドの姿勢そのものにも重なる。年齢を重ねたミュージシャンたちが、若い頃の姿をなぞるのではなく、今の身体で自分たちのロックを鳴らす。その意味で、「My Life to Live」はアルバムの自己宣言的な曲といえる。
4. The Green Manalishi
「The Green Manalishi」は、Peter Green時代のFleetwood Macによる名曲のカヴァーである。原曲は、ブルース・ロックの中に悪夢的なサイケデリアと精神的不安を持ち込んだ楽曲であり、The Flesh Eatersの美学と非常に相性がよい。Judas Priestによるハードロック的カヴァーでも知られるが、The Flesh Eatersの解釈は、よりガレージで不気味な方向に寄っている。
タイトルに登場する「Green Manalishi」は、実体のはっきりしない悪魔的存在として響く。原曲では、金銭、欲望、精神の崩壊、悪夢が絡み合うような世界が描かれる。The Flesh Eatersは、その不穏さを自分たちのパンク/ガレージ的な音へ変換している。
サウンドは、重く、荒く、呪術的である。ギターはブルース・ロックの影を残しながら、洗練よりも不吉な推進力を重視している。サックスが加わることで、曲はさらに都市の夜や犯罪映画のような空気を帯びる。Chris D.の声は、原曲の神経質な恐怖を、より荒々しい語りの形に変える。
このカヴァーは、The Flesh Eatersが自分たちのルーツをどのように理解しているかを示している。彼らにとってブルースは、単なる伝統音楽ではなく、悪魔、欲望、狂気、夜の音楽である。「The Green Manalishi」は、本作の闇の系譜を明確に示す重要な曲である。
5. Miss Muerte
「Miss Muerte」は、スペイン語で「死」を意味する“Muerte”を含むタイトルを持ち、The Flesh Eatersの死への執着を象徴する楽曲である。タイトルは「ミス・ムエルテ」、つまり死を女性化したような呼び名であり、死が恐怖であると同時に誘惑の対象でもあることを示している。
The Flesh Eatersの歌詞世界では、死は遠い抽象概念ではない。恋人、娼婦、聖女、幽霊、犯罪の結果、身体の腐敗、砂漠の夜として現れる。この曲でも、死は人格化され、語り手を引き寄せる存在のように感じられる。
音楽的には、ラテン的な響きや国境地帯の空気を思わせる要素があり、ロサンゼルスという土地の文化的混交も感じさせる。L.A.パンクはしばしば、メキシコ系文化、チカーノ・ロック、国境のイメージ、映画的な暴力と結びついてきた。The Flesh Eatersはその中でも特に、死と官能を重ねるセンスに長けている。
Chris D.のヴォーカルは、ここでも物語の語り手として機能する。彼は死を恐れるだけでなく、どこか惹かれている。その危険な引力が、曲全体を支配している。「Miss Muerte」は、本作のゴシックでラテン的な側面を象徴する楽曲である。
6. The Youngest Profession
「The Youngest Profession」は、タイトルが「最も若い職業」を意味し、一般的な慣用句である「最も古い職業」をもじったように響く。そこから、性、労働、身体の売買、社会の偽善といったテーマが連想される。The Flesh Eatersらしい皮肉と暗さを持つタイトルである。
音楽的には、切れ味のあるギターとタイトなリズムが中心となり、そこにサックスが生々しい色を加える。バンドは過度に装飾的ではなく、荒く、乾いた音で曲を押し進める。この乾いた感触が、歌詞のテーマとよく合っている。
歌詞では、若さや身体が商品化される構造、欲望と搾取の関係が暗示される。The Flesh Eatersは、こうしたテーマを道徳的に説教するのではなく、夜の街や犯罪小説の一場面のように提示する。聴き手はその中に、社会の暗部を見せられる。
この曲の重要性は、パンクの社会批評とChris D.の文学的な陰影が結びついている点にある。単純な抗議歌ではないが、欲望がどのように人間を消費するかを描くことで、社会そのものへの不信を浮かび上がらせている。
7. The Wedding Dice
「The Wedding Dice」は、結婚と賭博のイメージを組み合わせたタイトルを持つ。結婚は通常、誓約、安定、祝福を意味するが、そこに「dice」、つまりサイコロが加わることで、運命、偶然、賭け、破滅の感覚が生まれる。The Flesh Eatersらしい、愛と死、祝祭と危険を重ねる発想である。
音楽的には、どこか不吉な祝祭感がある。まるで結婚式の裏で犯罪が進行しているような、あるいは祝宴がいつの間にか悪夢に変わるような雰囲気を持つ。サックスやギターの絡みは、曲に酔ったような揺れを与え、リズムは荒々しくも粘りがある。
歌詞のテーマは、愛や結婚をロマンティックな安定としてではなく、危険な賭けとして捉えることにある。人間関係は計算通りには進まず、サイコロの目のように予測不能である。祝福されたはずの関係も、欲望、裏切り、暴力、死へ向かう可能性を持つ。
The Flesh Eatersの世界では、愛は決して清潔なものではない。愛は血を呼び、過去を掘り起こし、理性を狂わせる。「The Wedding Dice」は、その感覚をタイトルとサウンドの両面で表現した楽曲である。
8. She’s Like Heroin to Me
「She’s Like Heroin to Me」は、The Gun Clubの代表曲のカヴァーである。The Gun ClubはJeffrey Lee Pierceを中心とするL.A.パンク/ブルース・パンクの重要バンドであり、The Flesh Eatersとは音楽的にも人脈的にも近い関係にあった。したがってこの曲を取り上げることは、単なるカヴァー以上の意味を持つ。これはL.A.パンクの亡霊への献辞でもある。
原曲は、ブルース、パンク、ロカビリー、ゴシックな欲望が混ざった非常に危険な楽曲である。タイトルが示す通り、女性への欲望がヘロイン中毒にたとえられており、愛と依存、快楽と破滅が完全に重なっている。The Flesh Eatersの解釈は、その毒性をさらに乾いたロックンロールとして響かせる。
Chris D.の声は、Jeffrey Lee Pierceの狂気とは異なるが、同じく深い夜の感覚を持つ。The Gun Clubの原曲が、南部ブルースの悪魔性をパンクの身体に移植したものだとすれば、The Flesh Eaters版は、それをロサンゼルスの暗い路地裏へ引き戻しているように聞こえる。
この曲は、本作の中で最も重要なカヴァーの一つである。The Flesh Eaters、The Gun Club、X、The Blastersといったバンドが共有していた、パンクとアメリカ古典音楽の混血性がここに凝縮されている。ロサンゼルス・パンクの歴史を知るうえでも象徴的な一曲である。
9. Ghost Cave Lament
「Ghost Cave Lament」は、タイトルからしてThe Flesh Eatersの文学的・ゴシック的な側面が強い楽曲である。「幽霊の洞窟の嘆き」と訳せるこのタイトルには、死者の声、閉ざされた場所、古い記憶、地下世界への下降といったイメージがある。
音楽的には、激しいパンク・ナンバーというより、より雰囲気重視の楽曲として響く。サウンドには空間があり、暗い余韻が残る。サックスやギターは、派手に爆発するよりも、不気味な影を作る。こうした曲では、The Flesh Eatersの映画音楽的な才能がよく分かる。
歌詞のテーマは、過去に閉じ込められた声、死者の記憶、忘れられた場所から聞こえる嘆きである。Chris D.は、ロック・リリックにホラー小説的なイメージを持ち込むことに長けているが、この曲では特にその力が表れている。洞窟は、意識の奥、歴史の奥、身体の奥にある暗い場所としても読める。
「Ghost Cave Lament」は、本作の中で単なる攻撃性とは異なる深みを担う楽曲である。The Flesh Eatersの闇は、スピードやノイズだけでなく、記憶と亡霊の重さによって形成されている。この曲はその側面をよく示している。
10. Pony Dress
「Pony Dress」は、タイトルの時点で奇妙なイメージを持つ楽曲である。馬、衣服、身体、装飾、変身といった要素が不自然に結びつき、The Flesh Eatersらしいシュールで官能的な感覚を生む。Chris D.の歌詞には、具体的でありながら意味が完全には固定されないイメージが多く、この曲もその一つである。
音楽的には、荒々しいロックの質感と、どこか歪んだグルーヴがある。ギターは乾き、リズムは粘り、サックスが曲に不穏な装飾を加える。The Flesh Eatersの音楽では、こうしたサックスの存在が非常に重要である。ロックの直線性に、ジャズやR&Bの酔ったような曲線を加えるからである。
歌詞のテーマは、身体の変装、欲望、奇妙な魅力、見世物的な感覚を思わせる。The Flesh Eatersは美しさをそのまま美として描かない。美しいものは傷つき、汚れ、変形し、不気味になる。その変形した美こそが、彼らの世界における魅力である。
「Pony Dress」は、本作のタイトルI Used to Be Prettyとも響き合う。かつての美しさが、時間や欲望によって奇妙な姿へ変わる。その変化を否定するのではなく、むしろそこに新しい魅力を見出す。The Flesh Eatersの美学がよく表れた曲である。
11. The Way You Do
「The Way You Do」は、アルバム終盤に置かれた楽曲として、比較的ストレートなロックンロール感を持つ。タイトルは「君のやり方」「君がそうする仕方」を意味し、相手の振る舞い、魅力、癖、欲望への反応を示している。
音楽的には、The Flesh Eatersの持つガレージ・ロックとルーツ・ロックの結合が前面に出る。派手な実験性よりも、バンドとしてのグルーヴ、ギターの切れ、リズムの推進力が重要である。ここでは、再結集したメンバーたちの演奏の強さが自然に伝わる。
歌詞のテーマは、相手の存在に引き寄せられる感覚である。ただし、それは健全な恋愛感情というより、The Flesh Eatersらしく、欲望、執着、危険な魅力を含んでいる。相手の「やり方」に惹かれるという表現には、理性では説明できない身体的な反応がある。
この曲は、アルバムの中で比較的開かれたロックンロールとして機能する。闇や死、亡霊といったテーマが多い本作において、より直接的なバンドの快感を伝える役割を担っている。ただし、その快感もまた、どこか汚れた夜の空気をまとっている。
総評
I Used to Be Prettyは、The Flesh Eatersの復活作であると同時に、ロサンゼルス・パンクの歴史を現在へ引き戻す作品である。単なる懐古的再結成ではなく、1980年前後のL.A.アンダーグラウンドが持っていた、パンク、ブルース、ガレージ、ロカビリー、ホラー、犯罪小説的な感覚を、年齢を重ねた身体で鳴らし直したアルバムである。
本作の最大の魅力は、メンバーの顔ぶれが単なる豪華さにとどまらず、音楽の血肉になっている点である。Dave Alvin、John Doe、DJ Bonebrake、Steve Berlin、Bill Batemanという演奏者たちは、それぞれThe Blasters、X、Los Lobos周辺の歴史を背負っている。そのため、本作にはL.A.パンクだけでなく、アメリカン・ルーツ・ミュージック、R&B、ブルース、ロックンロールの深い記憶が流れている。
Chris D.の存在も決定的である。彼は典型的なロック・フロントマンというより、詩人、映画批評家、ホラー作家、犯罪小説の語り手のような人物である。彼の歌詞には、死、欲望、廃屋、亡霊、性、暴力、依存、老い、記憶が頻繁に現れる。I Used to Be Prettyというタイトルは、そのすべてをまとめる言葉として非常に優れている。美しさは過去のものかもしれない。しかし、傷つき、歪み、時間を浴びたものには、若さとは違う暗い美が宿る。
音楽的には、パンクの即効性とルーツ・ロックの深みが結びついている。The Flesh Eatersは、速さやノイズだけで勝負するバンドではない。むしろ、ブルースやロックンロールの古い形式を、死と欲望にまみれた文学的な世界へ変換する。サックスの存在は特に重要で、曲に不穏な官能と都市の夜の匂いを加えている。
カヴァー曲の選択も、本作の意義を強めている。「The Green Manalishi」はブルース・ロックの悪夢的側面を、「She’s Like Heroin to Me」はThe Gun Clubとの深い血縁関係を示す。これらの曲は、The Flesh Eatersがどのような音楽的暗流に属しているかを明確にする。彼らはパンクのバンドでありながら、その根には古いブルース、ガレージ、R&B、ホラー的なアメリカ文化がある。
歌詞の面では、本作は若い反抗の歌ではなく、過去と死を抱えた大人のパンクとして響く。老いを否定するのではなく、むしろ老いた身体だからこそ出せる迫力がある。若い頃の美しさやスピードは失われたかもしれないが、その代わりに、記憶の重み、失われた仲間への影、夜の深さが加わっている。
日本のリスナーにとって本作は、L.A.パンクをThe GermsやBlack Flagのようなハードコア的文脈だけで捉えている場合、別の側面を知る入口になる。The Flesh Eatersは、より文学的で、ルーツ音楽との接点が強く、映画的なバンドである。X、The Gun Club、The Blasters、Los Lobos、The Crampsなどに関心があるリスナーには、非常に重要な作品として響くはずである。
総合的に見て、I Used to Be Prettyは、復活作として非常に説得力のあるアルバムである。若さを再現するのではなく、老い、傷、記憶、死を音楽の中に取り込み、The Flesh Eatersらしい暗いロックンロールとして鳴らしている。過去のバンドが現在に戻ってきた作品ではなく、過去の亡霊を引き連れて現在を歩く作品である。そこに本作の不気味な美しさがある。
おすすめアルバム
1. The Flesh Eaters — A Minute to Pray, a Second to Die
The Flesh Eatersの代表作であり、本作の直接的な原点にあたるアルバム。Dave Alvin、John Doe、DJ Bonebrake、Steve Berlin、Bill Batemanらが参加し、L.A.パンク、ブルース、ガレージ、ホラー的な詩情が結びついた名盤である。
2. The Gun Club — Fire of Love
「She’s Like Heroin to Me」を収録したThe Gun Clubのデビュー作。ブルース、パンク、ロカビリー、ゴシックな欲望を融合させた作品で、The Flesh Eatersと同じL.A.アンダーグラウンドの暗い血脈を理解するうえで欠かせない。
3. X — Los Angeles
L.A.パンクを代表する名盤。John DoeとDJ Bonebrakeが参加するXの初期作品であり、パンクの鋭さとロカビリー/ルーツ音楽の影響が結びついている。The Flesh Eaters周辺のシーンを理解するために重要である。
4. The Blasters — The Blasters
Dave AlvinとBill Batemanが関わるThe Blastersの代表作。ロックンロール、ブルース、カントリー、ロカビリーを現代的な勢いで鳴らした作品で、The Flesh Eatersのルーツ・ロック的側面を理解するうえで関連性が高い。
5. The Cramps — Songs the Lord Taught Us
ガレージ・ロック、ロカビリー、ホラー、B級映画的な美学を融合させたThe Crampsの代表作。The Flesh Eatersとは音楽性に違いもあるが、パンク以後のロックにホラーや退廃的なイメージを持ち込んだ点で強い関連性がある。

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