発売日: 1988年
ジャンル: パワーポップ、オルタナティヴ・ロック
アルバム全体の印象
The Posiesのデビューアルバム『Failure』は、1988年に自主制作でリリースされた作品だ。ジョン・オーエル(Jon Auer)とケン・ストリングフェロー(Ken Stringfellow)によるパワーポップ・デュオは、シアトル出身という背景もあり、当時グランジの先駆けとして注目されるシーンの中で、異彩を放つ音楽性を示した。
『Failure』は、自宅の4トラックレコーダーで制作されたDIYな作品でありながら、驚くほど洗練されたメロディとハーモニーが詰め込まれている。彼らは、ビートルズやビッグ・スターの影響を色濃く受け継ぎつつ、オリジナリティあふれる楽曲を披露している。パワーポップらしいキャッチーなメロディと、瑞々しく若々しいサウンドがアルバム全体を彩り、当時の音楽シーンに新風を吹き込んだ。
『Failure』はタイトルこそ控えめだが、内容は充実しており、現在でもパワーポップの名盤として語り継がれている。若き才能が溢れ出るような、エネルギッシュで情熱的な作品だ。
各曲解説
1. Blind Eyes Open
アルバムのオープニングを飾る軽快なトラック。明るいギターのアルペジオと二人の美しいハーモニーが印象的だ。オーエルとストリングフェローのヴォーカルが絡み合い、バンドの強みであるメロディのセンスを早速発揮している。
2. The Longest Line
柔らかいアコースティックギターが中心となった、叙情的な楽曲。切ないメロディと歌詞が心に染みる。「The longest line I’ll ever know」というフレーズが、恋愛や人生の苦悩を描いているようで、深い余韻を残す。
3. Under Easy
アップテンポで爽やかなギターポップの代表的な一曲。力強いギターリフと明るいコーラスが特徴で、ビートルズ風のポップセンスが炸裂している。若々しさと勢いが詰まった楽曲だ。
4. Like Me Too
少し陰りのあるメロディが印象的なミディアムテンポのナンバー。メロディと歌詞に漂う切なさが、リスナーの感情に訴えかける。サウンドはシンプルだが、その分、二人のヴォーカルが際立っている。
5. I May Hate You Sometimes
アルバムの中でも特に人気の高い楽曲。タイトルの皮肉さとは裏腹に、ポップで親しみやすいサウンドが心地よい。リフレインのコーラス部分は思わず口ずさんでしまうほどキャッチーだ。
6. Ironing Tuesdays
軽快なテンポとストレートなギターサウンドが特徴的。若さゆえのストレートな感情を描いた歌詞が、共感を呼ぶ。「火曜日」という日常的な単語が、曲に親しみやすさを与えている。
7. Paint Me
落ち着いたアコースティックサウンドが心地よい、アルバムの中でも静かな楽曲。歌詞には愛や希望が込められており、まるで日記を読んでいるかのような、パーソナルな感覚が漂う。
8. Believe in Something Other (Than Yourself)
少しひねりの効いたメロディラインが特徴の楽曲。歌詞には自己肯定と他者への信頼についてのメッセージが感じられ、アルバムの中でも異彩を放つ曲だ。
9. Compliment?
ギターとヴォーカルのバランスが絶妙なシンプルなポップナンバー。短くも印象的な曲で、アルバム全体におけるアクセントとなっている。
10. At Least for Now
アルバムのラストを飾る穏やかな楽曲。少し切なさを感じるメロディと歌詞が、過ぎゆく時間や若さへの感傷を描き出す。温かみのあるサウンドが、アルバムを優しく締めくくる。
アルバム総評
『Failure』は、DIY精神に溢れたデビュー作でありながら、その完成度は驚くほど高い。ジョン・オーエルとケン・ストリングフェローの二人が奏でる美しいハーモニーとギターポップサウンドは、パワーポップの金字塔とも言えるだろう。
全曲を通して、若々しさと真摯さが溢れており、彼らの音楽に対する情熱がダイレクトに伝わってくる。シンプルでキャッチーな楽曲の数々は、聴くたびに新鮮な発見があり、時を経ても色褪せない魅力を持っている。パワーポップファンはもちろん、ビートルズやビッグ・スターが好きなリスナーにも強くおすすめしたい名盤だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
1. Frosting on the Beater by The Posies
The Posiesの代表作とも言える3rdアルバム。より厚みのあるギターサウンドと洗練されたメロディが特徴で、『Failure』を気に入った人にはぜひ聴いてほしい。
2. #1 Record by Big Star
パワーポップの先駆者として知られるビッグ・スターの名盤。美しいハーモニーとシンプルなメロディがThe Posiesに強く影響を与えた作品だ。
3. Girlfriend by Matthew Sweet
90年代パワーポップの金字塔。力強いギターサウンドと甘美なメロディが魅力で、The Posiesのファンにもぴったりの一枚。
4. Skylarking by XTC
パワーポップとサイケデリックなサウンドが融合した名盤。洗練されたアレンジと深いメロディが、The Posiesの音楽にも通じる。
5. Bandwagonesque by Teenage Fanclub
ギターポップの名盤中の名盤。甘酸っぱいメロディとハーモニーが印象的で、The Posiesのようなパワーポップを好む人には必聴だ。
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