
1. 歌詞の概要
「Every Other Freckle」は、イギリスのインディー・ロック・バンド、alt-Jが2014年に発表した楽曲である。
セカンド・アルバム「This Is All Yours」に収録され、同アルバムからの3枚目のシングルとして2014年8月14日にリリースされた。(en.wikipedia.org)
タイトルを直訳すると、「ひとつおきのそばかす」。
この時点ですでに、普通のラブソングとは少し違う匂いがする。
恋人の目、髪、唇を褒める歌は多い。
だが、alt-Jは「そばかす」に目を向ける。
しかも、全部ではなく「ひとつおき」。
細かすぎる。
偏執的ですらある。
けれど、その細かさが、この曲の愛の温度を決めている。
「Every Other Freckle」は、相手を愛するというより、相手を観察し、味わい、取り込み、自分の一部にしたいという衝動を描いた曲である。
愛情はここで、穏やかな献身としてではなく、ほとんど食欲や本能に近いものとして表れる。
相手の身体の細部まで知りたい。
肌の印まで覚えたい。
口にしたものまで共有したい。
相手と自分の境界をなくしたい。
その感情はロマンティックであると同時に、少し怖い。
alt-Jらしいのは、この生々しい欲望を、直接的なロックの熱量ではなく、奇妙に組み上げられたサウンドと文学的なイメージの中で描くところである。
曲は身体的なのに、どこか頭の中で作られた迷路のようでもある。
欲望の歌なのに、夢の中の暗号のように響く。
歌詞には、動物的な比喩、食べ物のイメージ、身体の反転、童話やポップ・カルチャーの断片が入り混じる。
美しい愛の告白というより、相手を前にしたときに理性が少し壊れてしまう、その壊れ方を音楽にしたような曲なのだ。
サウンドは重く、粘り気があり、変則的である。
低くうねるリズム、Joe Newmanの独特な声、Gus Unger-Hamiltonのコーラス、そして曲の途中で現れる奇妙な展開。
それらが一体となり、恋愛の甘さというより、身体の内側で何かが蠢くような感覚を作っている。
「Every Other Freckle」は、愛をきれいに整えない。
相手を欲しいと思うことの滑稽さ、危うさ、過剰さを、そのまま差し出す。
だからこそ、この曲は耳に残る。
気持ち悪さと美しさの境目で、ずっとこちらを見ている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Every Other Freckle」が収録された「This Is All Yours」は、alt-Jにとって重要な転換点にあたるアルバムである。
デビュー作「An Awesome Wave」は2012年にリリースされ、Mercury Prizeを受賞したことで、彼らは一気に英国インディー・シーンの注目バンドとなった。
その後に発表された「This Is All Yours」は、2014年9月22日にInfectiousからリリースされたセカンド・アルバムである。
アルバムは「Hunger of the Pine」「Left Hand Free」「Every Other Freckle」「Warm Foothills」といったシングルでプロモーションされ、UKアルバム・チャートで1位を記録し、グラミー賞のBest Alternative Music Albumにもノミネートされた。(en.wikipedia.org)
この時期のalt-Jには、大きな変化があった。
ギタリストのGwil Sainsburyが脱退し、バンドは3人体制になった。
その影響もあり、「This Is All Yours」では、デビュー作の緻密なバンド・アンサンブルとは少し違う、より空間的で、より奇妙な方向へ音が広がっている。
「Every Other Freckle」は、その中でもかなりalt-Jらしい曲だ。
一聴してわかるキャッチーさがある一方で、構造はかなりひねくれている。
民謡のような節回し、変則的なビート、低音の重み、唐突なコーラス、そして性的で比喩過多な歌詞。
要素だけを並べるとまとまりがなさそうなのに、曲としては独特の中毒性を持っている。
この曲は2014年8月13日にBBC Radio 1のZane Loweの番組で初公開され、その後シングルとしてリリースされた。(en.wikipedia.org)
アルバム発売前に提示されたこの曲は、「Hunger of the Pine」や「Left Hand Free」とはまた違う角度から、alt-Jの新作がどれほど雑多で、奇妙な作品になるかを示していた。
批評的には、この曲の歌詞はしばしば話題になった。
Pitchforkは「This Is All Yours」のレビューで、「Every Other Freckle」における性的な比喩や奇妙な表現を取り上げ、alt-J独特の暗号的で過剰な言葉遣いに触れている。(pitchfork.com)
また、The Needle Dropはこの曲について、重いベースライン、鈍く踏みしめるようなドラム、Joe Newmanの奇妙でソウルフルな声が特徴だと評している。(theneedledrop.com)
この評価は的確である。
「Every Other Freckle」は、歌詞だけでなく、音そのものがかなり肉体的だ。
リズムは滑らかではなく、少しぎこちない。
そのぎこちなさが、欲望の不器用さと合っている。
さらに、alt-Jはこの曲で、自分たちの得意とする「知的な変態性」をかなり前面に出している。
言葉は文学的でありながら露骨。
サウンドは実験的でありながらフックがある。
気持ち悪いのに、気持ちいい。
その矛盾こそが、この曲の魅力なのである。
3. 歌詞の抜粋と和訳
歌詞は著作権で保護されているため、ここでは短い範囲に限定して引用する。
歌詞全体は、公式配信サービスや権利者管理の歌詞掲載サービスで確認できる。
I want every other freckle
和訳
君のひとつおきのそばかすがほしい
このフレーズは、この曲の愛の奇妙さを象徴している。
普通なら「君のすべてがほしい」と言いそうなところで、alt-Jは「ひとつおきのそばかす」と歌う。
全部ではない。
しかし、十分に細かい。
相手の身体を、遠くからぼんやり愛しているのではない。
肌の点のひとつひとつまで見ている。
その視線は親密であると同時に、少し執着的だ。
愛が観察へ変わる瞬間。
欲望が顕微鏡のように細かくなる瞬間。
この一文には、その危うさがある。
I want to share your mouthful
和訳
君の口いっぱいのものを分け合いたい
この言葉は、さらに身体的である。
ここでの愛は、感情だけのものではない。
口、食べること、飲み込むこと、分け合うこと。
そうした非常に生々しいイメージで表現される。
相手と同じものを食べたい、というだけではない。
相手の体験をそのまま共有したい。
相手と自分の境界をなくしたい。
その欲望が、少しグロテスクなほど近い距離で描かれている。
引用元: alt-J「Every Other Freckle」歌詞
作詞作曲: Joe Newman、Thom Green、Gus Unger-Hamilton
歌詞の著作権は各権利者に帰属する。(en.wikipedia.org)
4. 歌詞の考察
「Every Other Freckle」は、愛の歌である。
ただし、一般的な意味でのロマンティックな愛の歌ではない。
この曲で描かれているのは、相手を愛するというより、相手を取り込みたいという衝動である。
見たい。
触れたい。
味わいたい。
食べたい。
自分の中へ入れたい。
自分も相手の一部になりたい。
この欲望は、恋愛の中に確かに存在する。
ただ、普通のラブソングではあまり正面から描かれない。
なぜなら、それは少し怖いからだ。
「好き」という感情が強くなりすぎると、人は相手との境界をなくしたくなることがある。
相手の考えを知りたい。
過去を知りたい。
身体を知りたい。
生活の細部を知りたい。
そして、相手の一部になりたい。
その願いは甘い。
しかし同時に、侵入的でもある。
「Every Other Freckle」は、その甘さと怖さの両方を描いている。
タイトルの「freckle」は、そばかすである。
そばかすは肌にある小さな印だ。
目立たないこともある。
だが、親密な相手なら気づく。
近づかなければ見えないものだ。
だから、この言葉には距離の近さがある。
恋人の顔や肩や腕を近くで見て、その小さな点を覚えるような距離。
それは愛おしい。
けれど、その視線が強すぎると、相手を所有物のように見てしまう危険もある。
「Every Other Freckle」は、そのギリギリの場所に立っている。
歌詞には、しばしば食べることや舐めることに近いイメージが現れる。
これは愛を精神的なものとしてではなく、身体的なものとして扱っている証拠だ。
相手を理解したいのではなく、味わいたい。
相手を知りたいのではなく、摂取したい。
この感覚は、少し動物的である。
しかし、alt-Jはそれを単純なロックの野性として鳴らさない。
むしろ、かなり知的で、暗号的で、どこか笑える言葉の中に置く。
たとえば、猫や食べ物のような奇妙な比喩、童話的な参照、ポップ・カルチャーの断片が、性的な欲望と同じ場所に並ぶ。
その結果、歌詞はいやらしいだけではなく、奇妙なコラージュになる。
恋をしたときの頭の中は、実際こんなものかもしれない。
高尚な言葉だけではない。
妙な記憶、変な比喩、突然思い出した本や映画や食べ物、相手の身体の細部。
それらが全部ごちゃ混ぜになって、ひとつの欲望になる。
「Every Other Freckle」は、その混乱をよく捉えている。
また、この曲の面白さは、欲望を描きながらも、どこかユーモアを失わないところにある。
歌詞の比喩は、真顔で読むとかなり奇妙だ。
ロマンティックというより、少し滑稽である。
しかし、恋愛とはそもそも滑稽なものだ。
人は好きな相手の前で、妙なことを考え、変なことを言い、過剰に反応する。
自分でもなぜそこまで惹かれるのかわからない。
その不合理さを、alt-Jは恥ずかしがらずに歌にしている。
だからこの曲は、セクシーであり、変であり、少し笑える。
その三つが同時にあるところが、alt-Jらしい。
5. この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
- Tessellate by alt-J
デビュー作「An Awesome Wave」に収録された楽曲で、alt-Jの幾何学的なリズム感と官能的な言葉遣いがよく表れている。
「Every Other Freckle」のように、身体性と知的な比喩が絡み合うタイプの曲である。
音はより抑制されているが、独特の緊張感がある。
- Breezeblocks by alt-J
alt-Jの代表曲のひとつで、愛と暴力が奇妙に混ざり合った楽曲である。
「Every Other Freckle」の欲望が「取り込みたい」という形で表れるのに対し、「Breezeblocks」はもっと執着と破壊の方向へ向かう。
どちらも、愛がきれいなものだけではないことを示している。
- Hunger of the Pine by alt-J
「This Is All Yours」の先行シングルで、Miley Cyrusの声をサンプルとして使用したことでも話題になった楽曲である。
「Every Other Freckle」よりも冷たく、孤独な質感が強い。
同じアルバムの中で、alt-Jがどれほど異なる感情の形を扱っているかがわかる。
- Matilda by alt-J
映画「Léon」からの影響を感じさせる楽曲で、デビュー期alt-Jの繊細で物語的な一面がよく表れている。
「Every Other Freckle」のような露骨な身体性は少ないが、断片的なイメージを積み重ねて感情を作る手法は共通している。
同時代の英国インディー・ロックの中で、リズムの複雑さとポップなフックを両立させた楽曲である。
alt-Jほど言葉は奇妙ではないが、ギター・ロックを数学的に組み替える感覚には近いものがある。
「Every Other Freckle」の変則的なグルーヴが好きなら、Foalsの身体性にもつながっていく。
6. サウンドの特徴と音像
「Every Other Freckle」のサウンドは、かなり肉感的である。
しかし、それはストレートなロックの肉感ではない。
もっと屈折している。
まず印象的なのは、低音の存在だ。
ベースは重く、ゆっくりうねる。
その上にドラムが鈍く乗り、曲全体が大きな獣のように進む。
この重さが、歌詞の身体性とよく合っている。
相手を食べたいほど欲する感覚。
肌の近くまで近づきたい感覚。
その粘度が、低音に宿っている。
一方で、Joe Newmanの声は独特だ。
鼻にかかったような、少し歪んだ響き。
甘いとは言いにくい。
だが、妙に耳に残る。
この声が、曲の奇妙な欲望をさらに濃くしている。
彼の歌い方は、感情を大きく爆発させるものではない。
むしろ、言葉をねじるように歌う。
そのため、歌詞の比喩がさらに不思議な形で聴こえる。
Gus Unger-Hamiltonのコーラスも重要である。
曲の中には、バーバーショップ的とも言えるようなハーモニーや、突然開けるような声の重なりが現れる。
それが曲に奇妙な明るさを与えている。
この明るさがあるから、曲は完全に暗い欲望の歌にはならない。
気味悪さとユーモアが同時に立ち上がる。
また、リズムの組み立てもalt-Jらしい。
直線的に進むのではなく、ところどころで引っかかる。
拍の感じ方が少しずれる。
しかし、そのずれが曲の中毒性を生んでいる。
欲望は、いつも滑らかではない。
近づきたいのに、ぎこちない。
言いたいことがあるのに、変な比喩になってしまう。
その不器用さが、曲のリズムにも表れている。
「Every Other Freckle」の音像は、暗い森の中で奇妙な祭りが行われているような感じだ。
火が焚かれている。
人々が歌っている。
でも、そこにある儀式の意味はよくわからない。
楽しいのか、不気味なのかもわからない。
そのわからなさが、魅力なのだ。
7. alt-Jらしい言葉のコラージュ
alt-Jの歌詞は、しばしばわかりにくい。
文学、映画、ポップ・カルチャー、性的な比喩、日常の断片が、ひとつの曲の中に並ぶ。
「Every Other Freckle」は、その特徴がかなり濃く出た曲である。
この曲の歌詞は、普通のラブソングのように一直線には進まない。
好きだ。
会いたい。
愛している。
そうした言葉で感情を説明するのではなく、イメージの連打で相手への欲望を描く。
そばかす。
口。
猫。
食べ物。
身体を裏返すような比喩。
童話的なニュアンス。
そして、どこかナンセンスな言葉遊び。
それらが、まるでコラージュのように貼り合わされている。
この手法には、聴き手を選ぶ部分もある。
わかりやすい感情表現を求める人には、遠回りに感じられるかもしれない。
また、性的な比喩の奇妙さに戸惑う人もいるだろう。
しかし、alt-Jの魅力はまさにそこにある。
彼らは感情をそのまま言わない。
感情が頭の中で変形していく過程を、そのまま歌詞にする。
恋をしているとき、人の思考はきれいに整っていない。
相手の顔を思い出しながら、急に昔読んだ本の一節を思い出す。
身体の感覚と記憶と妄想が、ぐちゃぐちゃに混ざる。
それを整理せずに差し出すと、「Every Other Freckle」のような歌詞になる。
この曲の言葉は、意味を追うだけでなく、質感として聴くべきものでもある。
発音のリズム、単語の硬さ、母音の開き方。
それらが音楽の一部になっている。
alt-Jの歌詞は、意味と音の境界にある。
「Every Other Freckle」は、その代表例のひとつである。
8. 愛と所有欲の境界
「Every Other Freckle」が面白いのは、愛と所有欲の境界をかなり危うい形で描いている点である。
恋愛において、相手を「欲しい」と思うことは自然だ。
だが、その「欲しい」がどこまでいくと所有になるのか。
どこからが愛で、どこからが侵食なのか。
この曲は、その境界をあえて曖昧にする。
相手のそばかすが欲しい。
相手の口にあるものを分け合いたい。
相手の身体を知りたい。
相手の中へ入りたい。
相手を自分のものにしたい。
これらは、甘い言葉にも聴こえる。
だが、少し視点を変えると怖い。
相手をひとりの人間として見るのではなく、欲望の対象として細かく分解しているようにも感じられる。
顔、肌、口、身体。
それらのパーツを、自分の欲望の地図として見ている。
ただし、この曲はその怖さを自覚しているようにも聴こえる。
歌詞の比喩があまりに奇妙で、時に滑稽だからだ。
あまりにも過剰な表現によって、欲望そのものが少し笑えるものになっている。
そこが重要である。
「Every Other Freckle」は、所有欲を美化しきらない。
同時に、完全に否定もしない。
人間の恋愛の中にある、どうしようもない過剰さとして鳴らしている。
好きな人のすべてを知りたいという願い。
自分の中に相手を閉じ込めたいような感覚。
それが危険だとわかっていても、完全には消せないこと。
この曲は、その人間くさい部分を、奇妙な比喩と重いグルーヴで描く。
愛は美しい。
でも、愛はときどきかなり変だ。
「Every Other Freckle」は、その「変さ」を隠さない曲である。
9. 「This Is All Yours」の中での位置づけ
「Every Other Freckle」は、「This Is All Yours」の中でも特に強い個性を持つ曲である。
アルバム全体は、前作「An Awesome Wave」よりも広がりがあり、同時に散漫さもある作品だ。
「Hunger of the Pine」のように冷たく壮大な曲もあれば、「Left Hand Free」のようにアメリカン・ロックを戯画化したような曲もある。
「Warm Foothills」のように繊細で断片的な曲もある。
その中で「Every Other Freckle」は、alt-Jの核に近い曲だと言える。
変則的なリズム、性的で奇妙な歌詞、民謡的なムード、電子音とバンド・サウンドの混合。
彼らの特徴が濃縮されている。
「This Is All Yours」は、ギタリストGwil Sainsbury脱退後の作品でもあり、バンドが自分たちの形を再調整していた時期のアルバムだ。
その中で「Every Other Freckle」は、3人体制でもalt-Jらしい変態的なポップ感覚が健在であることを示した曲だった。
一方で、この曲には「An Awesome Wave」期の延長線上にある感触もある。
デビュー作にあった、数学的な構成と性的な比喩の組み合わせ。
その要素が、この曲ではさらに濃く、少し露骨に出ている。
つまり「Every Other Freckle」は、変化するalt-Jと、変わらないalt-Jの両方が聴こえる曲である。
アルバム全体の中では、濃い味の一曲だ。
少し胃もたれするくらいの比喩。
重い低音。
クセの強い声。
だが、それこそがこの曲の魅力である。
10. ミュージックビデオと視覚的イメージ
「Every Other Freckle」には、性別違いの2種類のミュージックビデオが存在する。
「Boy」版と「Girl」版という形で発表され、曲の欲望や身体性を視覚的にも二重化している。
このアプローチは、曲のテーマとよく合っている。
「Every Other Freckle」は、相手を見つめ、欲し、取り込もうとする歌である。
その視線が男性へ向かうのか、女性へ向かうのかによって、イメージの受け取り方は変わる。
身体が映る。
動物的なイメージが出る。
自然や肌や衝動が絡む。
そこには、曲の持つ官能性と野性が視覚化されている。
興味深いのは、映像がただセクシーに見せるだけではないことだ。
どこか不穏で、どこか奇妙で、少し寓話的である。
これはalt-Jの音楽性と一致している。
彼らの欲望表現は、直線的なエロティシズムではない。
必ずどこかに変な角度がある。
美しさの中に違和感があり、官能の中にユーモアや不気味さがある。
「Every Other Freckle」のビデオも、その感覚を補強している。
恋愛や性的魅力を、ただ魅力的なものとしてではなく、何か原始的で説明しづらい力として描いている。
それは曲のサウンドにも通じる。
都会的で知的なバンドのように見えて、音の奥にはかなり獣っぽい衝動がある。
その二面性が、映像によってさらに強調されている。
11. 聴きどころと印象的なポイント
「Every Other Freckle」の聴きどころは、まず冒頭から漂う異様な空気である。
曲が始まった瞬間、普通のインディー・ロックとは違う場所へ連れていかれる。
低音は重い。
声は独特。
リズムは少し鈍い。
しかし、その鈍さが妙に気持ちいい。
この曲は、軽快に走る曲ではない。
這うように進む。
獲物に近づく動物のように、ゆっくり、しかし確実に進む。
この動きが、歌詞の欲望と結びついている。
次に注目したいのは、コーラスやハーモニーの扱いである。
alt-Jの楽曲には、しばしば男性声の重なりが奇妙な祝祭感を生む瞬間がある。
「Every Other Freckle」でも、そのハーモニーが曲に不思議な明るさを与える。
欲望の歌なのに、どこか民謡のようにも聴こえる。
セクシャルなのに、子どもの遊び歌のような奇妙さもある。
このねじれが面白い。
また、歌詞の細部も聴きどころだ。
一度聴いただけでは、すべての意味は入ってこない。
むしろ、意味より先に言葉の形が耳に残る。
「freckle」という単語の響き、「mouthful」の湿った感触、奇妙な比喩の連続。
それらが、曲の中で音としても機能している。
そして、何よりもこの曲は気持ち悪いほどキャッチーである。
ここが重要だ。
ただ変なだけなら、何度も聴きたい曲にはならない。
ただセクシーなだけでも、ここまで記憶には残らない。
「Every Other Freckle」は、変で、少し気持ち悪くて、それでいて耳に残るフックがある。
このバランスが、alt-Jのポップセンスである。
12. 特筆すべき事項:気持ち悪さと愛おしさが同居するラブソング
「Every Other Freckle」は、気持ち悪さと愛おしさが同居するラブソングである。
これは、かなり稀なバランスだ。
多くのラブソングは、愛を美しく描く。
あるいは、痛みや別れとして描く。
しかし、この曲は愛を少し変なものとして描く。
好きな人のそばかすが欲しい。
相手の口の中のものを分け合いたい。
身体の内側まで知りたい。
相手を食べるように愛したい。
こう書くと、かなり異様である。
だが、恋愛にはそういう異様さが確かにある。
誰かを好きになると、人は細部に執着する。
相手の手の形、首の角度、声のかすれ、笑ったときの癖、肌の小さな印。
ほかの人にはどうでもいいようなものが、自分にとっては世界の中心になる。
「Every Other Freckle」は、その状態をかなり極端に描いている。
だから気持ち悪い。
でも、だから本当にも近い。
alt-Jは、この曲で恋愛を清潔にしない。
むしろ、恋愛の中にある過剰な観察、所有欲、食欲、動物性を引き出す。
そして、それを奇妙な比喩と変則的なサウンドで包む。
その結果、曲は単なるエロティックな歌ではなく、欲望の滑稽さを描くアート・ロックになる。
「Every Other Freckle」は、愛がどれだけ変なものになり得るかを教えてくれる。
そして、その変さの中にも、確かに愛おしさがあることを示している。
きれいな愛だけが愛ではない。
スマートな言葉だけが告白ではない。
時には、相手のそばかすのひとつおきまで欲しくなるような、どうしようもない感情がある。
この曲は、そのどうしようもなさを鳴らしている。
alt-Jの音楽は、知的で、変則的で、時に難解だと言われる。
しかし「Every Other Freckle」を聴くと、その中心にはかなり原始的な感情があることがわかる。
欲しい。
近づきたい。
触れたい。
一体になりたい。
その単純な衝動を、彼らは最も遠回りで、最も奇妙な形にしている。
そこが面白い。
そして、そこが美しい。
「Every Other Freckle」は、恋愛の美しさだけでなく、恋愛の変さ、気まずさ、過剰さ、少し笑ってしまうような本能まで含めて鳴らした楽曲である。
聴き終わったあと、胸に残るのは甘い余韻だけではない。
肌に何かが触れたような、少しぞわっとする感覚が残る。
その感覚こそ、この曲の正体なのだ。



コメント