
発売日: 1996年3月4日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、ブリットポップ、ギターロック
概要
『Tarantula』は、英国のギターバンド Ride が1996年に発表した4作目のアルバムであり、
バンド解散前の“第一次最終作” として知られる作品である。
前作『Carnival of Light』(1994)でシューゲイズの轟音路線から60年代サイケ/フォークロックへと大きく舵を切った Ride は、
本作ではさらに“ブリットポップ”の潮流に近づく方向へ変化した。
制作時期、バンド内部はすでに緊張と摩擦が強まり、
アンディ・ベルとマーク・ガードナーの関係悪化、
音楽的方向性のズレ、そしてシューゲイズ後のバンドの立ち位置への迷いが重なっていた。
その複雑な背景が、本作の音にも強く反映されている。
音楽的には、
- ブリットポップ的な軽快さ
- 60年代ポップ/ロックへの強い志向
- シューゲイズの残り香
- 分裂したアイデンティティ
- “これで最後かもしれない”という温度
が混在し、Ride の中でももっとも“揺らぎと葛藤”が刻まれたアルバムとなった。
初期作の完璧な轟音美学を求めるリスナーには違和感が残るが、
バンドの内的崩壊を写し取った作品としては極めてリアリティがある。
時代のうねりと個人的な揺らぎが交差した、Ride の中でも特異で興味深い一枚である。
全曲レビュー
1曲目:Black Nite Crash
疾走感あるブリットポップ寄りのロックナンバー。
渦巻くギターとキャッチーなメロディがアルバムの勢いを作る。
Ride の作品の中では最も“ストレートなロック”の部類。
2曲目:Sunshine / Nowhere to Run
バンドのルーツ愛が出たポップな楽曲。
明るさと切なさが同居し、前作から続く“60’sテイスト”が色濃い。
3曲目:Dead Man
退廃したムードが漂うミドルテンポのロック。
ブリットポップに寄りすぎず、陰影ある Ride の本来の魅力も感じられる。
4曲目:Walk on Water
翳りある歌メロが印象的。
耳馴染みの良さの中に、どこかふわりとした違和感が漂う。
5曲目:Deep Inside My Pocket
柔らかなギターが導く、ノスタルジックで優しい一曲。
Ride の“メロディ職人”としての側面が美しく現れる。
6曲目:Mary Anne
ビートルズ直系のメロディ感が強いポップチューン。
親しみやすく、アルバムの中では最も軽やかでポップな瞬間。
7曲目:Castle on the Hill
ドラマティックな展開を持つ楽曲。
この時期の不安定なバンド状況が、どこかにじむように感じられる。
8曲目:Gonna Be Alright
明るいポップセンスがありつつ、メロディに哀愁が混じる。
後期Rideの“揺らぐ明るさ”を象徴する曲。
9曲目:The Dawn Patrol
少し実験的で、独特の軽さとサイケ感を併せ持つ1曲。
この時期の方向性の揺れが顕著に表れたようにも感じられる。
10曲目:Ride the Silver Train
軽快なギターポップ。
ブリットポップの枠に最も近い楽曲で、明るさが前面に出ている。
11曲目:Burnin’
分厚い音像と情緒を帯びた歌のバランスが良い。
アルバム後半で静かに光る佳曲。
12曲目:Starlite Motel
優しいメロディで閉じるエンディング曲。
閉じゆく物語のような、淡く切ない気配が残る。
総評
『Tarantula』は、
Ride の内部に生じた摩擦と時代の変化がそのまま刻まれたアルバム
である。
その特徴は、
- ブリットポップの潮流を強く意識した作風
- 60年代ポップ/サイケのルーツをさらに深堀り
- シューゲイズ要素はほぼ後退
- “揺れるアイデンティティ”が音に表れる構造
- バンド終焉の気配が漂う情緒
にある。
Ride が最初の解散に至る寸前の“精神状態”が音からにじみ出るように、
このアルバムは明るいのにどこか切ない、ポップなのに拭えぬ影がある。
初期の信者には受け入れがたい瞬間もあるが、
キャリア全体を俯瞰すると“必要だった過渡期” であることが分かる。
音楽が変化し、立場が揺らぎ、バンドが崩壊へ進む――
その複雑なドラマをそのまま封じ込めた、Ride の歴史上極めて重要な作品である。
おすすめアルバム(5枚)
- Ride / Going Blank Again
Ride の最良のバランスを知るための必聴盤。 - Ride / Nowhere
初期の轟音シューゲイズの原点。 - Oasis / (What’s the Story) Morning Glory?
当時のUKギターロック潮流を理解する比較対象として最適。 - The Verve / A Northern Soul
90年代UKロックの影と輝きが共通する。 - The Byrds / Mr. Tambourine Man
本作の60’sルーツ理解に最適なクラシック。
歌詞の深読みと文化的背景
本作の歌詞は、
- 離別
- 時間の流れ
- 人間関係の摩耗
- 内省
- 郊外の記憶
など Ride らしいテーマを継承しつつ、
より“直線的で明るい語彙”が増えている。
しかしその明るさは、
“表向きの光”と“内なる影” がぶつかり合うような危うさを帯びている。
この時期のバンド状況を考えると、その微妙な温度差も必然に思える。
1996年の英国はブリットポップの絶頂期で、
Ride のような初期シューゲイズ勢は新時代への適応を求められた。
その波に乗り切れず揺らぐ姿こそ、このアルバムの独特な魅力となっている。
引用
- アルバム基本情報(1996年発表)
- 公開されているトラックリスト
- 1990年代UKロック(ブリットポップ)の一般的潮流



コメント