
発売日: 2003年10月
ジャンル: サイケデリック・ロック、ドリームポップ、ネオサイケ、シューゲイズ、アートロック
- 概要
- 全曲レビュー
- 1曲目:The Wrong Way
- 2曲目:Introduction by A.J.B.
- 3曲目:Starcleaner
- 4曲目:Here It Comes
- 5曲目:Prozac vs. Heroin
- 6曲目:Maryanne
- 7曲目:You Look Great When I’m Fucked Up
- 8曲目:Listening to the Hypnotic Billy
- 9曲目:Never Going to Be the Same
- 10曲目:From the Ground Up
- 11曲目:Telegram
- 12曲目:Starrfucker
- 13曲目:All the Way Down (Demo)
- 14曲目:Here It Comes (Again)
- 総評
- おすすめアルバム(5枚)
概要
『And This Is Our Music』は、The Brian Jonestown Massacre(以下BJM)が2003年に発表したアルバムであり、
“混沌の90年代を抜け、2000年代の成熟期へ入った転換点” として位置づけられている。
この作品が特に重要視される理由は、
Anton Newcombe がそれまでの
- ガレージロック
- ミニマルな反復
- ローファイ・サイケ
- 破滅的エネルギー
といった“BJMの粗削りな核”を一度整理し、
よりメロディアスで、広がりのあるサイケデリックロックへと大きく舵を切った
点にある。
2000年代に入り、Anton は創作環境と精神状態をある程度整え、
録音方法もミニマルからスタジオ寄りへと変化。
その結果、本作は
“破壊衝動 × ドリームポップ的美しさ”
という絶妙なバランスで成立している。
本作のサウンドは、
The Velvet Underground の退廃、
Spiritualized の宇宙的広がり、
My Bloody Valentine の靄のような質感、
60年代サイケの香りなどが混ざり合い、
BJMのディスコグラフィーの中でも特に完成度の高い“美しいサイケ作品”に仕上がっている。
暴力性が薄れ、
深いメランコリーが前に出た、
“静かな革命”のアルバムである。
全曲レビュー
1曲目:The Wrong Way
軽快なギターと柔らかいメロディが、アルバムの新しい空気感を象徴する。
90年代の混沌とは違う、整理されたサイケポップの入口。
2曲目:Introduction by A.J.B.
語りが挿入される短いトラックで、作品全体のコラージュ感を強調。
3曲目:Starcleaner
ややノイジーなギターと甘いメロディが共存。
BJMらしい“退廃のポップ”が美しくまとまっている。
4曲目:Here It Comes
ドリームポップ風の軽い多幸感が広がる。
アルバムの中でも特にキャッチーで、Anton の新しい方向性がよく出た曲。
5曲目:Prozac vs. Heroin
タイトル通り、精神の揺らぎをそのままサウンドへ落とし込んだ曲。
暗さとユーモアの境界が曖昧で、BJMらしい毒が光る。
6曲目:Maryanne
甘く切ないサイケ・ポップ。
シンプルだがメロディが美しく、静かに心へ残る。
7曲目:You Look Great When I’m Fucked Up
アルバムの中心を担う名曲。
スローなテンポ、霞んだギター、膨らむノイズ、沈むような歌声——
この“壊れた美しさ”こそ本作を象徴する。
8曲目:Listening to the Hypnotic Billy
ミニマルな反復が続くトラックで、Spacemen 3 的な陶酔感を持つ。
中盤のアクセントとして機能。
9曲目:Never Going to Be the Same
爽やかなギターのアルペジオと軽い浮遊感。
アンニュイさが心地よい佳曲。
10曲目:From the Ground Up
柔らかいフォークサイケの流れ。
Anton の声が淡く、懐かしい温度を帯びている。
11曲目:Telegram
やや暗めのトーンで、陰影の深いサイケロック。
気だるさのなかに鋭さが潜む。
12曲目:Starrfucker
タイトル通りの皮肉を含んだ混沌ナンバーだが、音は意外に軽やか。
BJMのユーモアと毒が融合した曲。
13曲目:All the Way Down (Demo)
未完成感のあるデモ音源だが、逆にその生々しさが魅力。
メロディセンスがよく分かる一曲。
14曲目:Here It Comes (Again)
4曲目の別バージョンで、より浮遊感が増したアレンジ。
エンドロールのように優しく収束していく。
総評
『And This Is Our Music』は、
The Brian Jonestown Massacre が2000年代に生まれ変わった瞬間
を記録した重要作である。
90年代のカルト的な破壊性とローファイ感が薄れ、
代わりに
- 美しいメロディ
- 霞むギターレイヤー
- ドリームポップ的な浮遊
- 退廃と優しさの共存
といった“成熟したサイケ”が前へ出るようになった。
BJM はしばしば混沌や破壊性ばかりが語られるが、
本作を聴けば Anton のメロディメイカーとしての実力や、
深い感情の揺れを美しい形に変換できる能力がはっきりと分かる。
「壊れかけの天才」が、少しだけ落ち着きを取り戻し、
その内側から静かに光がこぼれ出す瞬間——
それがこのアルバムの最も大きな魅力である。
おすすめアルバム(5枚)
- Strung Out in Heaven (1998)
静かなサイケへの転換点。本作の“前章”として必聴。 - Give It Back! (1997)
混沌期の決定盤。本作との対比でバンドの変化が明確になる。 - Thank God for Mental Illness (1996)
フォーク/ローファイ的側面の源流。本作の静けさと通じる。 - Spiritualized / Ladies and Gentlemen We Are Floating in Space (1997)
宇宙的サイケデリア × 退廃の美学という点で相性の良い作品。 - The Velvet Underground / Loaded (1970)
メロディアスなサイケロックの源流。Anton の影響源のひとつ。



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